★過去幾度にもわたる道路交通法一部改正による厳罰化を経て、現在、飲酒運転には、格段に厳しい処罰規定や運転免許の処分規定が設けられていますが、その規定について十分に知られているとはいえない―というのが現状です。
★そこで、今回は、道路交通法で定める飲酒運転の規定などについて解説します。
★道路交通法では、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない」(第65条第1項)と定められており、ビールや日本酒などの酒類に限らずアルコールを含むものを摂取し、人間が通常身体に保有するアルコールの量を超えた場合はすべて「飲酒運転」となり、車両等の運転はできません。
★しかしながら、道交法上の禁止行為である「飲酒運転」のうち、懲役や罰金などの処罰(罰則)や、違反点に基づく免許の処分(取消し、停止など)の対象になるのは、道交法で規定された「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」に限られています。
★「酒酔い運転」とは、酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態)で行われた「飲酒運転」のことをいい、具体的には、当事者の飲酒量やアルコール保有量を問わず、ろれつが回らない―、まっすぐ歩けない―など、外見上、いわゆる酔っぱらった状態で運転していたケースを指します。
★「酒気帯び運転」とは、「酒酔い運転」以外の「飲酒運転」のうち、政令で定める程度以上にアルコールを保有した状態で運転する行為をいい、具体的には、呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上(血液1ミリグラムにつき0.3ミリグラム以上)のアルコールを保有した状態で運転した場合をいいます。
★なお、「酒酔い運転」以外の「飲酒運転」のうち、「酒気帯び運転」の基準(呼気1リットル中0.15ミリグラムまたは血液1ミリリットル中0.3ミリグラム)に満たないアルコールを保有した状態で運転する行為は、警察の交通事故統計において「基準以下」(※)と称されています。
※上記の「基準以下」について、小社編集部では、酒気帯び運転の基準内である0.15ミリグラムや0.3ミリグラムが「基準以下」に含まれると誤解されることを避けるため、便宜上「基準値未満」と表記しています。
※交通事故統計上、事故発生時に当事者が酒気を帯びていることは判明しているものの、事故から相応の時間が経過したためにアルコール保有量が測定できないケースは「検知不能」に分類されます。
★「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」は、反則金の支払いによって罰則適用が免除される「交通反則通告制度」の対象外であるため、「酒酔い運転」や「酒気帯び運転」をした者には、必ず、以下の罰則が適用されます。
●酒酔い運転……5年以下の懲役または100万円以下の罰金
●酒気帯び運転…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
★また、「酒酔い運転」や「酒気帯び運転」だけでなく、酒気を帯びている者で、酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがある者に車両等を提供する行為(車両提供罪)や、酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれのある者に酒類を提供する行為(酒類提供罪)、運転者が酒気を帯びていることを知りながら、車両に乗せてくれるよう、運転者に要求や依頼をして車両に同乗する行為(同乗罪)も、以下の通り、罰則の対象になります。
●車両提供罪
<酒酔い運転の場合>5年以下の懲役または100万円以下の罰金
<酒気帯び運転の場合>3年以下の懲役または50万円以下の罰金
●酒類提供罪
<酒酔い運転の場合>3年以下の懲役または50万円以下の罰金
<酒気帯び運転の場合>2年以下の懲役または30万円以下の罰金
●同乗罪
<運転者が酒に酔っていることを知りながら、酒酔い運転の車両に同乗した場合>
3年以下の懲役または50万円以下の罰金
<上記以外の場合>
2年以下の懲役または30万円以下の罰金
★「酒酔い運転」または「酒気帯び運転」をした者の運転免許の処分は、それぞれの所定の違反点に基づいて行われますが、まず、「酒酔い運転」の場合、違反点は35点で、免許取消しの処分を受け、免許の再取得が3年間禁止されます。
★また、「酒気帯び運転」のうち、アルコール保有量が呼気1リットル中0.25ミリグラム以上(血液1ミリリットル中0.5ミリグラム以上)ある場合の違反点は25点で、この場合も免許取消しの処分を受け、免許の再取得が2年間禁止されます。アルコール保有量が上記の基準に満たなければ13点の違反点がつき、90日間の免許停止の処分を受けることになります。
※上記で示した免許の処分などは、過去の違反行為等に基づく「累積点」や過去の免許停止や免許取消し等の「前歴」などがない場合のものです。過去に犯した違反行為等によっては、所定の基準に従い、処分等がさらに厳しくなることがあります。
★なお、警察の交通事故統計によると、自動車・原動機付自転車が第一当事者になった、「飲酒運転」によるとみられる人身事故(以下、飲酒運転事故)は、全国で年間3,000件以上発生し、人身事故全体の1%を占めていますが、死亡事故に限ると6%を占め、人身事故17件につき1件が死亡事故になっており、死亡事故になる確率は、その他の事故(人身事故141件につき1件が死亡事故)の8倍以上も高くなっています。
★また、飲酒運転事故のうち、「酒酔い運転」によるものはわずか5%程度で、ほかのほとんどは、「酒気帯び運転」かそれ以下、死亡事故に限ったデータでも「酒酔い運転」によるものは7%程度に過ぎず、ほろ酔い程度かそれ以下の軽度な飲酒運転でも、事故に結びつく危険性が非常に高い―といえます。
★なお、飲酒運転をして人身事故を起こした者については、道交法上の飲酒運転の罰則に加えて、自動車運転死傷行為処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)の罰則も適用され、より厳しい処罰が下されるほか、免許の処分も、飲酒運転の違反点に交通事故点の点数が付加されるため、さらに厳しいものになります。
※飲酒運転事故を起こした者に対する処罰や処分の詳細は、本項「交通安全コラム」No.25を参照。
(2020年12月25日)
A4判 40ページ カラー ●平成21年6月施行分から最新施行分までの道路交通法一部改正の要点について、わかりやすく丁寧にまとめた冊子です。イラストや写真等を豊富に使用し、詳細な説明が必要な部分には注釈を添えるなど、誰もがしっかり理解できるよう工夫しました。 ●また、参考資料として、「近年の主な道交法施行令等一部改正の要点」、特別企画として、「人身交通事故の処罰規定の変遷」と「飲酒運転の罰則等の変遷」を掲載しました。 |