★自動車・原動機付自転車の運転者(以下、「ドライバー」という)を対象にした道路交通法違反のほとんどには、これを裁くための「罰則」が設けられていますが、今回のコラムでは、この「罰則」をより深く理解するために知っておくべき知識について解説します。
★我が国の法律全般に存在する「刑罰」は、刑法の総則で定められている「死刑」「懲役」「禁錮」「拘留」「罰金」「科料」「没収」の7種類ですが、ドライバーが運転に伴い犯した道路交通法違反(以下、「ドライバーの違反」という)に対する刑罰は「懲役」「禁錮」「罰金」「科料」の4種類に限られています。
★このうち「懲役」と「禁錮」は、受刑者の自由をはく奪する、いわゆる「自由刑」に分類される刑罰で、そのどちらも刑事施設に拘置することによって刑が執行されますが、「懲役」では、刑事施設での拘置のほかに所定の作業(刑務作業)が受刑者に課されるのに対し、「禁錮」では刑務作業が課されない―という違いがあります。
★また、「罰金」と「科料」は、受刑者の財産的利益をはく奪する、いわゆる「財産刑」に分類され、このうち「罰金」は1万円以上の金銭を国に納めさせるもので、「科料」は1,000円以上1万円未満の金銭を国に納めさせるものです。
★各違反の罰則は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」、「5万円以下の罰金」などというように、「懲役」「禁錮」「罰金」「科料」の4つの刑罰のうち、一つ以上の種類の刑罰の上限(範囲)を示す形で定められており、違反が刑事裁判で裁かれる場合、その罰則の範囲内の量刑が違反者に言い渡されることになります。
★ドライバーの違反のうち、酒酔い運転や酒気帯び運転、無免許運転などの悪質・危険な違反を除く比較的軽微な違反(反則行為)については、原則として、「交通反則通告制度」に基づき、行政上の制裁金の一種である「反則金」が適用され、違反をしたドライバーが所定の反則金を納付すれば罰則は適用されません。
★一方、反則金の適用外である悪質・危険な違反(非反則行為)をした場合や、「反則行為」をして反則金を納付しなかった場合には罰則が適用されることになります。
※一般に「即、罰則適用」と称される交通違反は「非反則行為」のことを指しています。
※「交通反則通告制度」の詳細については、本項「交通安全コラム」No.22を参照。
★道路交通法上の「過失規定」は、「罪を犯す意思(故意)がない行為」(=過失犯)は罰しないが、法律に特別の規定(=過失規定)がある場合は、この限りではない―という刑法の規定(第38条第1項)に基づくものです。
★たとえば、「信号無視」の罰則は「3月以下の懲役または5万円以下の罰金」(第119条第1項)ですが、これは、赤信号や黄色信号を認識していながら故意に無視した場合に適用されるもので、不注意により赤信号等を見落としたために結果として「信号無視」をしてしまった場合(過失)には適用されません。このような過失による「信号無視」については、「10万円以下の罰金」という「過失規定」(同条第2項)が別に設けられています。
★こうした「過失規定」は、「信号無視」のほかにも、「速度超過」や「指定場所一時不停止等」、「徐行場所違反」、「通行禁止違反」、「踏切不停止等」、「駐停車禁止場所違反」、「無灯火」など、多くの違反の罰則に設けられています。
★「両罰規定」(法人等両罰)とは、業務主(法人または人=法人等)に対して、特別の注意義務を課し、その業務に関して特定の違反行為があった場合、行為者(ドライバー)のほかに業務主もその義務違反として、行為者の違反行為の罰則にある罰金刑または科料刑を科する―という規定です。
★罰則に「両罰規定」が設けられている主なドライバーの違反とその罰則は以下の通りです。(太文字の部分が「両罰規定」)
(1)積載物重量制限超過…
6月以下の懲役または10万円以下の罰金、法人等両罰10万円以下の罰金
(2)積載物大きさ制限超過、積載方法制限超過…
3月以下の懲役または5万円以下の罰金、法人等両罰5万円以下の罰金
(3)乗車積載方法違反…5万円以下の罰金、法人等両罰5万円以下の罰金
(4)定員外乗車…5万円以下の罰金、法人等両罰5万円以下の罰金
(5)整備不良…
3月以下の懲役または5万円以下の罰金、法人等両罰5万円以下の罰金
(2020年5月29日)
A4判 40ページ カラー ●平成21年6月施行分から最新施行分までの道路交通法一部改正の要点について、わかりやすく丁寧にまとめた冊子です。イラストや写真等を豊富に使用し、詳細な説明が必要な部分には注釈を添えるなど、誰もがしっかり理解できるよう工夫しました。 ●また、参考資料として、「近年の主な道交法施行令等一部改正の要点」、特別企画として、「人身交通事故の処罰規定の変遷」と「飲酒運転の罰則等の変遷」を掲載しました。 |