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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2020年1月24日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その163 負のスパイラル
交通リスクコンサルタント 小林 實

利益重視か、人間重視か…

 「負のスパイラル」という言葉がありますが、これは、マイナスと認識されるような事態が連鎖的に起きることを指しています。デフレスパイラルというのもその例で、連鎖的に経済的な悪循環が生じることを指しています。よく言われる「PDCA()を回す」という安全管理のやり方にしても、好ましいのは上昇傾向にもっていくことであり、つまり、スパイラルが改善に向けて上向きになることが期待されるわけです。しかしながら、計画通りに行動を展開した場合でも、チェックが甘いことなどが原因でそれが停滞すると、スパイラルが下向きになる、つまり負のスパイラルに陥ることもあります。
PDCA=Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する手法のこと。
 どの企業にとってもそうですが、ことに運送業においては、気づかないうちに事態が悪化し、スパイラルが上向きにならないまま、事業全体が活力を失う状態を呈してしまう…という負のスパイラルを最大限食い止める必要がありましょう。利益重視に特化した経営スタンスであると、特にこうした問題が発生しがちです。
 図1は、利益重視の企業が負のスパイラルに陥る流れを示しています。厳しい業界の情勢から、何が何でも稼がなくてはならない…と、従業員に対しては「働け!働け!」となり、ことに現場のドライバーにとって、その負担は重圧となります。結果、違反や事故が続発し、場合によっては経営を左右するような大きな事故が発生するわけです。

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  こうした企業では、マイナスの要因が続発しても、それはドライバー自身が悪いのだという、いわば「もぐらたたき」でドライバーに責任を押し付けようとします。そうすると「会社は、我々のことを見てくれてはいないのだ…」となり、当然、ドライバーの仕事に対する意欲は低下し、いい加減な仕事をするようになります。そして、顧客の信頼は失われ、客離れも深刻になり、収益もダウンし、企業として求めるスパイラルの向上は、逆にマイナスへ向かうこととなってしまいます。
 一方、図2のように、企業理念の重点が「人を大事にすること」に置かれている企業、つまり、働く人や顧客を重視する企業ではどうでしょうか? 働いている人々がその気になって情熱をもって業務にあたるわけですから、モラルもアップするでしょうし、安全運転も徹底することでしょう。これが顧客満足にもつながり、仕事量も増え、会社の安定的な存続につながるわけです。
 

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組織全体にかかわる緊急事態

 筆者が毎日のようにお世話になっている横浜市営地下鉄ですが、今年になって立て続けに事故が発生しました。今まで長いこと無事故でやってきた市営地下鉄ですが、いったい何があったのでしょう?
 事故の一つは6月に起きました。終電終了後の保守作業の際に使用した「横取り装置」の一本を本線レール上に固定したままの状態で放置していたため、始発電車がこれに乗り上げ、脱線が発生したものです。始発電車で乗客が少なかったため、被害が最小限に食いとどめられたことは幸いでした。
 もう一つの事故は、8月に発生しました。これは、終点で乗客を降ろしたあとに引き込み線へ移動中、本来の停止位置を越えて線路終端の壁に衝突し、車体を損傷したものです。原因は、運転士の気のゆるみによる居眠りということです。いずれの事故も復旧まで時間がかかり、乗客は大迷惑を被りました。
 この二つの事故に共通する問題点は、何といっても、運転士と作業員ら担当者の漫然とした作業態度にあります。今まで続けてきた無事故の記録が、漫然とした作業態度につながり、安全確認などの基本動作に不具合が生じたのかもしれません。関東運輸局も事の重大さを認識し、臨時の保安検査を実施した結果、「管理体制の不備」という問題点を指摘しています。
 これらの事故が引き金になり、また突発的に事故が起きるのではないか…といった危惧もありましたが、幸いその後は大きなトラブルもないようです。地下鉄当局が、この連続して発生した事故を重く受け止め、これを単に担当者の単純なミスとしてではなく、組織全体にかかわる緊急事態だと認識し、作業手順の見直しであるとか日々の点呼がマンネリ化していなかったか…を直ちに精査したことにより、その後の負の連鎖を防ぐことができたと考えられます。「安全に安住すると危険が見えなくなる」とはよく言いますが、これこそ負のスパイラルに陥る一つの要因なのです。

真の事故原因を追究

 つい先日、マスコミでも報道されたように、都内大手の観光バス会社で、運転士が追突事故を起こして相手のドライバーを死亡させる…という事故が発生しました。事故当時、運転士は高熱で薬を服用しており、頭がボーッとしていたということです。
 どうやら、この会社ではドライバー同士の上下関係が厳しく、欠勤すれば業務に穴が開くため、そうした迷惑はかけられない…と無理をして運転業務に当たったことが、事故の大きな要因だったようです。さらには、社内でのモラル低下、信頼関係の欠如といったことが、事故に至るプロセスに影響していることもわかってきました。今まで事故もなく運行していた陰で、負のスパイラルに陥っていたわけです。
 こうした負のスパイラルに陥らないためにも、運行管理者、安全管理者といった中間管理職の鋭い観察力、そして、それに気づいたうえでの行動力が問われます。トップが上から目線で「事故を起こすな」という一点張りの態度でいては、現場では冷ややかに受け取られ、環境改善にはつながりません。
 また、失敗の掘り起こしを怠ることも負のスパイラルに陥る原因の一つです。「あいつがやったことだから」と担当者を叱責する、いわゆる「もぐらたたき」で終わっては、全員のモラルの向上にはつながりません。「ドライバーは会社の顔である」ということをトップは常に認識し、「顔が見える」という企業理念を世の中に伝えていくことが大切でしょう。これは、ドライバーも会社経営に参画しているのだという、いわゆる全員参加型の経営スタンスです。つまり、「良いドライバーがいる企業こそ良き企業」という理念でスパイラルを回していくことが不可欠であり、負のスパイラルというのは「沈黙の教示」であることを忘れないことです。

(2019年12月)

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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