★飲酒運転をして人身事故を起こすと、懲役や罰金などの刑事罰が適用されるほか、免許の処分を受けることになりますが、その刑事罰や免許の処分の重さは、飲酒の程度や事故の態様によって変わります。
★今回のコラムでは、飲酒運転による人身事故に対する処罰(刑事罰)と免許の処分について解説します。
★飲酒運転による人身事故(以下、飲酒運転事故)を起こした場合は、通常、飲酒運転については道路交通法の罰則が適用され、自動車の運転によって人を死傷した行為については、自動車運転死傷行為処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)の罰則が適用されます。
★ちなみに、自動車の運転による死傷行為は、かつては刑法の規定により処罰されていましたが、その厳罰化を図ることなどを目的に、新法の自動車運転死傷行為処罰法が2013年11月に制定され、その施行後(2014年5月以降)は同法の規定に基づいて処罰されています。
★まず、道路交通法の罰則は、周知の通り、「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」の2つに分かれています。「酒酔い運転」とは、酒気帯び(呼気1リットル中のアルコール濃度)の程度にかかわらず、酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態)で運転したものをいい、その他の飲酒運転は「酒気帯び運転」となりますが、酒気帯びの程度が0.15mg未満であった場合には「酒気帯び運転」の罰則は適用されません。
★「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」の罰則はそれぞれ以下の通りです。
◆酒酔い運転……5年以下の懲役または100万円以下の罰金
◆酒気帯び運転…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
★一方、自動車運転死傷行為処罰法違反については、飲酒運転事故のほとんどが「自動車の運転上必要な注意を怠った」(過失)とみなされ、以下の「過失運転致死傷罪」の罰則が適用されます。
◆過失運転致死傷罪…7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金
★裁判においては、基本的に、上記の道路交通法違反(酒酔い運転または酒気帯び運転)の罰則と自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷罪)の罰則の最高刑(上限)を合計したものが最高刑となりますが、懲役刑や禁固刑に関しては、刑法の「併合罪」に関する規定により、最高刑(刑期の上限)が長いほうの罪(この場合は過失運転致死傷罪)の最高刑の1.5倍を超えてはならない―とされているため、裁判で言い渡される飲酒運転事故の最高刑は以下の通りとなります。
◆「酒酔い運転」による人身事故の最高刑……10年6月の懲役
◆「酒気帯び運転」による人身事故の最高刑…10年の懲役
★また、前述した通り、自動運転死傷行為処罰法違反については、「過失運転致死傷罪」の適用がほとんどですが、次のいずれかの行為や状態で人を死傷させた場合は極めて悪質な犯罪とみなされ、「危険運転致死傷罪」が適用されます。
(1) アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させた。
(2) アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれが
ある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコールの影響により
正常な運転が困難な状態に陥った。
★「危険運転致死傷罪」の罰則は以下の通りです。
<上記 (1) の場合>
◆死亡事故…1年以上20年以下の懲役
◆負傷事故…15年以下の懲役
<上記 (2) の場合>
◆死亡事故…15年以下の懲役
◆負傷事故…12年以下の懲役
★なお、「危険運転致死傷罪」は、「過失運転致死傷罪」とは違って、その罪の要件に飲酒運転が含まれているため、「危険運転致死傷罪」が適用されると道路交通法上の「酒酔い運転」や「酒気帯び運転」の罰則が適用されません。したがって、「危険運転致死傷罪」が適用された場合の飲酒運転事故の最高刑は以下の通りとなります。
<上記 (1) の場合の最高刑>
◆死亡事故…20年の懲役
◆負傷事故…15年の懲役
<上記 (2) の場合の最高刑>
◆死亡事故…15年の懲役
◆負傷事故…12年の懲役
★飲酒運転事故を起こした者に対する免許の処分は道路交通法上の点数制度に基づいて行われますが、危険運転致死傷罪に該当する事故以外はすべて、「酒酔い運転」または「酒気帯び運転」の「基礎点」と事故を起こした場合に付加される「交通事故点」の合計により決められます。
★まず、「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」の「基礎点」は以下の通りです。
◆酒酔い運転…35点
◆酒気帯び運転(0.25mg以上)…25点
◆酒気帯び運転(0.15mg以上0.25mg未満)…13点
★人身事故を起こした場合の「交通事故点」は以下の通りです。
◆死亡事故(一方的不注意によるとき)…20点
◆死亡事故(一方的不注意によらないとき)…13点
◆被害者に後遺障害がある事故(一方的不注意によるとき)…13点
◆被害者に後遺障害がある事故(一方的不注意によらないとき)…9点
◆負傷者の治療期間が3カ月以上の事故(一方不注意によるとき)…13点
◆負傷者の治療期間が3カ月以上の事故(一方的不注意によらないとき)…9点
◆負傷者の治療期間が30日以上3カ月未満の事故(一方的不注意によるとき)…9点
◆負傷者の治療期間が30日以上3カ月未満の事故(一方的不注意によらないとき)…6点
◆負傷者の治療期間が15日以上30日未満の事故(一方的不注意によるとき)…6点
◆負傷者の治療期間が15日以上30日未満の事故(一方的不注意によらないとき)…4点
◆負傷者の治療期間が15日未満の事故(一方的不注意によるとき)…3点
◆負傷者の治療期間が15日未満の事故(一方的不注意によらないとき)…2点
★飲酒運転事故における基礎点と交通事故点を組み合わせた合計点数で最も低いのは、上記の通り、酒気帯び運転(0.15mg以上0.25mg未満)をして、治療期間が15日未満の事故(一方的不注意によらないとき)を起こしたときの15点ですが、免許取消しの基準は15点以上ですので、飲酒運転事故を起こした者はすべて免許取消し処分を受けることになります。
★ただし、免許取消し処分では、免許を取得することができない期間(欠格期間)が指定され、その期間の長さは基礎点と交通事故点の合計点数によって変わってきます。
★飲酒運転事故による免許取り消し処分の欠格期間の基準は以下の通りです。
◆欠格期間10年…70点以上
◆欠格期間9年…65点―69点
◆欠格期間8年…60点―64点
◆欠格期間7年…55点―59点
◆欠格期間6年…50点―54点
◆欠格期間5年…45点―49点
◆欠格期間4年…40点―44点
◆欠格期間3年…35点―39点
◆欠格期間2年…25点―34点
◆欠格期間1年…15点―24点
★飲酒運転事故を起こした場合の基礎点と交通事故点の合計点数が最も高いのは酒酔い運転をして死亡事故(一方的不注意)を起こした場合の55点ですので、上記の基準に基づき、その場合は免許取消し後7年間は免許の取得ができません。合計点数が最も低い場合(15点)に免許を取得できない期間は1年間です。
★また、危険運転致死傷罪に該当する飲酒運転事故を起こした場合については、交通事故点は付加されず、「危険運転致死等」または「危険運転致傷等」の基礎点のみによって免許取消し処分が行われ、その点数によって欠格期間が決まります。
★「危険運転致死等」または「危険運転致傷等」の基礎点とそれに基づく欠格期間は以下の通りです。
◆危険運転致死等…62点(欠格期間8年)
◆危険運転致傷等(治療期間3カ月以上または後遺障害)…55点(欠格期間7年)
◆危険運転致傷等(治療期間30日以上3カ月未満)…51点(欠格期間6年)
◆危険運転致傷等(治療期間15日以上30日未満)…48点(欠格期間5年)
◆危険運転致傷等(治療期間15日未満)…45点(欠格期間5年)
★なお、飲酒運転事故を起こす前に違反等をして累積点が残っている場合は、その点数が加算されるほか、事故を起こした者に免許取消しなどの処分歴がある場合は欠格期間の基準がより厳しいものになりますので、それらの場合には、免許を取得できない期間が9年以上に及ぶことがあります。
(2019年12月26日)
A4判 40ページ カラー ●平成21年6月施行分から最新施行分までの道路交通法一部改正の要点について、わかりやすく丁寧にまとめた冊子です。イラストや写真等を豊富に使用し、詳細な説明が必要な部分には注釈を添えるなど、誰もがしっかり理解できるよう工夫しました。 ●また、参考資料として、「近年の主な道交法施行令等一部改正の要点」、特別企画として、「人身交通事故の処罰規定の変遷」と「飲酒運転の罰則等の変遷」を掲載しました。 |