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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2019年11月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その161 あおり運転は防げるか
交通リスクコンサルタント 小林 實

あおりの心理

 このところ、マスコミでも大きく取り上げている、いわゆる「あおり運転」に代表される「嫌がらせ行為」が全国的規模で蔓延しているのは、一つの社会現象とみてよいのかもしれません。こうした車による暴力、威嚇的運転というものはかなり以前からもあったでしょうが、最近、悪質化の方向にあるように思います。高速道路上で、しかも追い越し車線に停止することで相手の進路を妨害するといった過激な危険行為は、かつては見られなかったように思うのですが…。
 あおり運転といった行為の動機は様々ですが、例えば、鳴らした側にとっては通常のレベルのクラクションに対する過度の反応であるとか、追い越した側としては普通に追い越したつもりが、これを割り込みだと思われてしまうケースなどです。高速道路のような自動車専用道路は、信号機がなく見通しもよいことから、自分の意思のままに走れる環境だといえます。そのため、これを阻害する要因があった場合、一部の人にとっては「何をもたもた走っているのだ!」などとキレる、いらだつという心理状態を発生させることになるわけです。一般道路以上に他の車の挙動がとかく気になりやすく、ことに自分が急いでいる状態であるとか、何かイライラ感があるときなどはさらに感情が高まります。
 また、車間距離を極端に詰めて走るドライバーが増えていることも事実です。自分では適当な車間距離だ、別にせっついているわけではないと思っていても、前の車が「随分くっついている、詰めすぎだ」と思う心理が、「あおっている」「けしからん」という心理に変わることも十分考えられます。また、自分よりも車格の低いクルマに追い越されたりすると、かっとなってあおる人も見かけます。最近の軽自動車の高速走行性能には目を見張るものがありますが、中には「軽なぞに追い越されては」と強い対抗意識をもつ人もいるわけです。

匿名性のもたらすもの

 運転中は、車という「よろい」で囲まれていて、他とは隔絶された空間であり、そこで自身の自由な行動が阻害された場合、イライラ感というものが起きておかしくない場面だとも言えるでしょう。同乗者がいるような場合には、自身の権威を誇張するような意識が高まったとしてもおかしくありません。また、他人の異常行動に対してはストレスが増すため、この解消に「あおる」といった攻撃的な態度に出るという心理も考えられます。俺様をなんだと思っているのか、俺が通るのを邪魔するのかという「上から目線」で感情が高まってしまうわけです。
 ナンバープレートいう識別番号はあったとしても、それからすぐに、どこの誰それと個人を特定できる情報がない、いわば「匿名性」の高さというものが、互いに感情の自制を損なうのでありましょう。また、一般道路に比べて他の交通参加者、例えば歩行者などの目撃者も限定される高速道路や自動車専用道路では、イライラ感の解消のために攻撃的になる心理は容易に想像できます。

欧米ではどうなのか?

 自動車大国であるアメリカでは、こうした「あおり行為」はほとんど見られないということがネットの記事に書いてありましたが、それはどうでしょうか。少なくとも、こうした路上での暴力行為はアメリカにおいて年間1,200件ほど報告されているそうです。
 ただ、この数が多いか少ないかは別にして、歩行中にも300万もの人が拳銃を携行しているというお国柄からして、車の中に銃などを入れているドライバーが結構多いことは容易に想像されます。彼らが銃を携行する理由というのは、人里離れた高速道路で強盗に襲われるとか、山道を走行中に大型動物に出会ったりするリスクもあるからです。こうしたことから、道路、ことにフリーウェイでは相手をあおるような行為は自粛する傾向があるのかもしれませんし、道路上で何かトラブルが発生してもあまり深入りしないのが賢明という発想が彼らにはあるのかもしれません。
 その一方で、一昔前の英語の辞書にはなかった「road rage(ロードレイジ)」という言葉が、最近よく使われているようです。昔から「rage(レイジ)」という単語は「暴力」という意味で使われており、これが「road(道路)」と結びついたものです。要するに「路上での暴力」を指す言葉であり、「あおり運転」から発生する暴力行為も含まれます。今から30年ほど前の1987年にロスで発生したフリーウェイでの銃の乱射事件がきっかけでできた新語といわれていますが、英語圏でも、この種の「車による暴力行為」が社会現象として出てきている証拠だといえるでしょう。ですから、アメリカでの1,200件という数字は氷山の一角かもしれません。
 同じく自動車大国のドイツでは、アウトバーン、ことに制限速度の設けられていない区間を走行する場合、仮に130キロ程度のスピードで追い越し車線を走っていますと、それ以上の超高速の車が接近したときには極めて危険な状況になります。そのため、接近する高速車両は遠くからパッシングライトで警告してきますが、これは決して威嚇するといった行為ではありません。追突の危険があるので追い越し車線を開けるように…と警告しているだけで、「あおり運転」とは違うものです。

あおられない工夫も必要

 高速道路では、特に後続車両のとらえ方が重要なポイントです。異常なスピードで接近してくる車両であるとか、やたら車線変更を繰り返している車両には要注意です。高速道路では解放感もあってか、後方の情報収集がおろそかになるケースがあります。同乗者との会話に夢中になっていて、気が付けば大きなトラックが背後にぴったりついていた…といったこともあるでしょう。したがって、今まで以上にルームミラーやサイドミラーで後方の状況を確認する頻度を高め、警戒を怠らないことが肝心です。
 また、後車が急接近したことに気づいても、牽制する感じでブレーキを踏むとか、急激な車線変更をしないことです。こうした極端な行動変更は、「アオラー」(あおり運転常習者)には一種の挑発行為に取られかねません。こうしたやり取りの継続は、反復による相手の感情の増幅につながることもあります。あとは状況に応じて冷静な行動で対応することです。
 テレビ番組で、ある評論家が、この種の事件は自動運転になれば自然となくなるようなことを言っていましたが、仮に、自動運転が可能な車に乗っていたとしても、ドライバーは自分の意思でいつでも手動に切り替えることができますし、こうした「アオラー」に多く見られる自己中心性の強い人は、基本的にこうした自動運転の車を嫌うのではないでしょうか。ということは、自動運転が普及するにつれ、一定速度で走る自動運転の車に対してイライラ感を高めるドライバーが逆に増える可能性があることも考えなくてはならないでしょう。

(2019年10月)

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

 

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