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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2019年8月22日

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交通安全時評

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クルマは今日も走っている ノンフィクション作家 矢貫 隆 第159回 キッズゾーンが実現するだけでは、園児たちの安全は約束されない

 それでもあの事故は起こった

 埼玉県との境に近い、東京の北の外れの風景である。
 片側3車線の道の上には首都高速道路が通っていて、それを境界線のようにして道の左右には都立公園の緑が広がっている。一方のそこには桜並木があり、欅の大木が林立する。高台と、かつて沼地だった住宅街を仕切る崖と言ってもいい急斜面(東京23区内なのに、この地域には崖があるのだ)の真下は湿地で、「東京で唯一の二輪草の自然群生地」として知られている。道を挟んだもう一方には、陸上競技用のランニングトラック、野球場、テニスコートなどもあって、周囲には針葉樹の大木が立ち並ぶ。
 都心からクルマで、あるいは電車で30分も行けば同じ東京とは思えない風景が眺められるここに、ボクの、いまの仕事場はある。日課のジョギング(最近は走れてない)は公園の周回路で、自転車やクルマで通るのは高速下の片側3車線道路だ。
 さて、本題である。
 このあたりで日に何度か見かけるのだけれど、近ごろ、それが気になって仕方がない、という話を聞いていただきたい。保育園児たちの散歩風景にまつわる話だ。
 都立公園の周辺には何か所かの保育園があるようで、公園での散歩は園児たちの日課になっているらしい。よく見かけるから前々から知ってはいたけれど、ただ、近ごろは、彼らの散歩風景を漫然と眺めるのではなく、注視するようになった。滋賀県大津市で5月に発生したあの事故。右直事故のはずみで、交差点で信号待ちしていた散歩中の園児たちの列に一方の当事者のクルマが突っ込み、16人が死傷した事故である。交差点の周辺には歩行者を守るガードフェンスは設置されていなかったとは言え、園児たちの保護者や保育園の関係者にしてみれば「まさか」の事態だったに違いない。園児の散歩といえば、ボクが目撃した限り、園児を中心に前後左右を保育士が守っていて、その人数を割合で見ると園児3人に対し保育士1人くらい。安全には大きな注意を払っているのがはた目にもわかるし、歩くコースも安全第一で選んでいるようでもある。被害にあった大津の保育園もそうしていたに違いないが、それでもあの事故は起こった。

ここで待ったらだめでしょう

 あの日からこっち、園児たちを引率する保育士さんの表情が少し緊張気味に見える。思い過ごしかもしれないけれど、そう見える。保育士さんたちが以前にも増して安全に気を配っているのが伝わってくるからだろうか。けれど、ただ一点、気になって仕方がない安全行動が目につく。その場面を目にするたび、自転車を、あるいはクルマを降りて、ときにはジョギングを中断して、駆け寄りたくなる。保育士さん、この場面では、こうしたほうがいいよ、と教えてあげたくなる
 この都立公園、前述のごとく道を挟んで左右に分かれていて、途中の一カ所には、信号機付きの交差道路も通っている。公園内を歩くぶんには交通事故の心配だけは(ほぼ)無用だけれど、道路の向こう側に移動するにしても保育園に戻るにしても、そのときばかりは、いかに安全性の高い散歩コースといえども交差点を横断することになる。園児の散歩を見かけるたびに気になって仕方がないのは、このときだ。横断歩道のすぐ手前、言い方を換えると、歩道のいちばん端。そこで園児たちはきちんと並び信号が青になるのを待つ。その場面に出くわすと、どうにも駆け寄りたくなるボクなのである。ここで待ったらだめでしょう、と言ってあげたくなる。
 片側3車線の道路、しかも中央には首都高の橋脚が並んでいるから道路の全幅は非常に広く、右折車のための矢印信号もでる。つまり、仮に交差点で右直事故が起こったとしても、大津市での事故とは違って、弾き飛ばされたクルマが青信号を待つ園児たちの列に突っ込んでくる可能性は小さい。この場所で“まさか”の可能性を心配しなければならないのは、右左折しようとしている車両の動きに対してではなく、直進中のクルマの挙動だ。片側3車線の道を走るクルマの速度は平均的に高く、交通事故の多くは交差点や交差点付近で起こる、という事実から浮かぶいちばんの心配は、交差点に近づいてくるクルマのハンドル操作の誤りである。突発的な何かの事情でハンドル操作を誤り、交差点に突っ込んでくるクルマ。その真正面で園児たちが信号待ちをしている。都内の大きな交差点には歩行者保護のガードフェンスが設置してあるけれど、横断歩道のすぐ前で信号待ちをしていたら、せっかくのガードフェンスは存在しないも同然になってしまう。
 だから、ここで待ったらだめなんだよ、ちょっとだけ交差点から離れた大木の後ろがいい。ボクは、この付近の交差点で信号待ちするときは、いつだって電柱の後ろに立つ。そう教えてあげたくなる。

キッズゾーンのできる限り早い実現を期待

 保育園や幼稚園の周辺でクルマの通行規制などをする『キッズゾーン』を新設する動きがあるのだという。大津市での事故をきっかけに「政府が新設する方針を固めた」とメディアが報じたのは、16人が死傷したあの事故から1カ月後のこと。キッズゾーンについて、毎日新聞(6月11日付け)は次のように説明している。
「(筆者註・キッズゾーンに)設定されると、道路の状況に応じて、道路交通法に基づく時間指定の車両通行禁止や速度規制、一方通行などが適用できる」
 要は、スクールゾーンみたいなエリアと考えていい。報道で知った多くの人は、政府のこの新設方針を歓迎すると同時に、保育園や幼稚園の周辺が、これまでスクールゾーンに指定されていなかった事実に驚いたり意外に思ったりしたのではあるまいか。キッズゾーン。可能な限り早い実現を期待したい。
 けれど、なのである。ひとつ気になる。都立公園での園児たちの散歩風景が脳裏に浮かぶのだ。
 キッズゾーンが実現したところで、それだけで園児たちの交通安全が約束されるわけでは、もちろんない。道路を利用する限り、交通事故に遭遇してしまう危険因子はいくらでもある。大人たち(保育士さんたち)がそれを事前に見つけ摘み取っていかなければならないわけだけれど、前述のごとくの、横断歩道のすぐ手前での信号待ちを目にすると、いささか心配になる。
 キッズゾーンの実現と同時に、それぞれ状況が異なる道路交通の現場に潜む危険。それを見つける知識を、保育士さんたちが身につける機会があるといいのだけれど。

(2019年7月)


 

 

 

筆者プロフィール

矢貫隆(やぬき・たかし)
1951年栃木県生まれ。龍谷大学経営学部卒。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど多数の職業を経て、ノンフィクション作家に。国際救命救急協会理事。交通問題、救急医療問題を中心にジャーナリスト活動を展開。『自殺─生き残りの証言』(文藝春秋)、『交通殺人』(文藝春秋)、『クイールを育てた訓練士』(文藝春秋)、『通信簿はオール1』(洋泉社)、『救えたはずの命─救命救急センターの10000時間』(平凡社)など、著書多数。

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客探しに目が向かう空車タクシー、その速度は高すぎる
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救急車の安易な利用が増え続ければ「有料化」が現実になるかもしれない
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第20回
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第19回
運賃値上げのない地域にタクシー戦争あり、事故増加につながる危険性
第18回
事故が減るとか増えるとか、昼間点灯だけで交通安全をかたるのは間違いだ
第17回
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第14回
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第13回
多くのドライバーは自転車の特性を理解していない、そのことを頭にたたきこんでおくのは重要だ
第12回
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第11回
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第10回
「ここにAEDがあるぞ」と大勢の人に知ってもらう方策を考えるべきだ
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事故死者数を減らすことは重要だが、それと個人の意思は別問題だ
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第07回
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第05回
飲酒が運転に与える悪影響をドライバーに体験させる必要がある
第04回
高度な機械の導入など、莫大な金をかけて高齢者講習の充実を図るべきだ
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