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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2019年7月22

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交通安全時評

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クルマは今日も走っている ノンフィクション作家 矢貫 隆 第158回 深夜のトラックの無秩序を解決するため、トラック業界が本気で乗り出すべきだ

120km/h区間を走ってみた

 最高級クラスのショーファーカー(お抱え運転手付きの車)を用意してもらい、東京から京都まで往復1000キロのドライブをしたのは半年前のことだった。自動車雑誌の仕事で、昔馴染みのコーヒーショップでマンデリンを飲むためだけに京都を訪れるという、何とも贅沢なドライブ。その帰り道、深夜の新東名高速道路で、東京方面に向かう長距離トラック群に紛れ込んでしまったボクは、にっちもさっちも身動きがとれない状態に置かれて往生し、本項第151 回で「深夜のトラックの無秩序を見て、さすがに、これはないよな、とボクは思った」を書いたのだった。と、深夜の高速道路の様子を報告したばかりなのに、もういちど同じ話をするのには、もちろんわけがある。
 新東名道の一部区間(新静岡?森掛川間の約50km)で、制限速度110km/h試行が始まったのは2017年11月。大型トラックの制限速度は80km/hのままだから「速度差が大きくなって危険」だとかの意見が百出したけれど、試行期間の1年間に何事(=重大事故の発生や事故多発)も起こらず、その結果、当初の予定どおり、同区間での120km/h試行が始まった(2019年3月1日)。そこで、ボクも、遅ればせながら120km/h区間を走りに行ってみようとなった。
 事前の予想では「この区間を行くクルマの圧倒的多くが120km/h走行」だったが、実際はぜんぜん違った。ボクを含め、120km/h で走るクルマはもちろんたくさんいたけれど、意外にも100 ―110km/hほどで走り続けるクルマもたくさんいた。もっとも楽と感じる速度を、ドライバーが選択しているということなのだろう。110km/h 制限の時期、多くのクルマが制限速度いっぱいの110km/hで走っていたのとずいぶん様子が違うのが印象的だった。
 そして、日を改めて走ってみた深夜の新東名道。昼とはまるで異なる状況は予想どおりで、案の定、大型トラックの集団に呑み込まれたボクのクルマは、120km/h で走るどころか、半年前のあの日と同じく身動きもままならず、120km/h制限の道でもお構いなしのトラックの振る舞いに閉口したのだった。

トラックを何とかしてくれ

 東京から向かって新東名道に現れる最初のサービスエリア、駿河湾沼津での休憩を済ませ120km/hで走りだした。けれど、いい調子は長く続かず、10分も走らないうちに先行のトラック集団に追いついてしまい、アクセルペダルから足を離す。
 集団のなかで、多くのトラックが、ほぼ90km/hを保ったまま第1車線を走り続けている。新東名道ができるずっと以前、ボクが長距離トラック運転手だったころから、この“ほぼ90km/h”は変わっていない。“ほぼ”だから、90km/h で走るトラックだけでなく、88km/hがいても92km/hがいても不思議ではないわけで、するとどうなるか、知ってのとおりの事態が本線車道上で発生するのである。
 左端の車線を、3台の大型トラックがほぼ90km/h で連なって走っていた。その3台を追い越すために第2車線にでた大型トラックが、ほぼ90km/h だが、左端の3台よりちょっとだけ速いほぼ90km/h で走っている。追い越しをかけているくせに、しかし、頑として速度を上げずに一定を保ったままだから、なかなか追い越しが完了しない。さらに第3車線では、そのまどろっこしい追い越し車両を追い越さんとする大型トラックが、ほぼ90km/h だが、さらにもうちょっとだけ速いほぼ90km/h で走り続ける。こっちのトラックも頑固者が運転しているようで、決して速度を上げようとはしない。ボクが運転するクルマはそこに追従する格好になり、すると、やがて後ろにも大型車が続き、ついさっきまで120km/hの快適ドライブをしていたボクは、大型トラックの集団のなかで、少しばかり怖い時間を耐えなければならなくなった。
 集団を抜け、再び120km/h で走りだしても、また次の集団に行く手を遮られる。その繰り返しが続く。
 120km/hとほぼ90km/h 。よく耳にする「速度差が危険」という指摘は感情的には理解できるけれど、実際には、前方を行く集団を発見した時点でこっちも速度を落としだしているから、追いついたときには速度差はなくなっている。それより問題なのは、せっかくの120km/h試行も、追い越しのために第2、第3車線に居すわる大型トラック(4tトラックも含む)の振る舞いで台無しになってしまっているという事実である。トラック運転手出身のボクとしては、ま、しょうがないか、と見過ごしたい気持ちはあるのだけれど、多くの一般のドライバーが「トラックを何とかしてくれ」と訴えるのは当然なのだ。

ぜんぜん難しい話ではない

 トラックによる深夜の無秩序を報告した半年前の本項で、「無秩序のあげくの規制や取締りを待つのではなく、トラック業界や高速道路会社がいっしょになって、新たな良き暗黙のルールを作り上げられるといいのだけれど」と期待を込めて書いた。車線変更をしようとしているクルマに道を譲ると、譲られたクルマはハザードランプで礼を表す。その種の暗黙の良きルールの多くは、ボクが知る限り、高速道路を走るトラックが創りだしてきたものだ。同様の調子で無秩序を正していってもらいたい。半年前、そんな思いで書いた記事だった。けれど、なのである。前述の無秩序ぶりはボクがトラック乗りだったころからずっと続いてきて、少しも改善された形跡はない。ということは、“そう遠くない将来の新たな暗黙のルール作り”には期待できそうもないと考えたほうがいい、となる。
 たとえば新東名道は、サービスエリアの質の高さを含め「世界一」と断言していいほど走りやすい高規格道路である。そこを走るトラックの性能も進歩を続けている。取り巻く環境は劇的に向上したというのに、けれど、深夜のトラック群の無秩序ぶりだけが昔のそれとちっとも変わっていないのだ。110km/h試行が開始されるのを前にして、多くの自動車ジャーナリストが声高に「トラックのマナーを何とかしろ」と訴えていたのを思いだす。深夜のトラックの振る舞いが重大な危険をもたらしているか否かは別として、少なくとも“危険なイメージ”を周囲のクルマに与えているのは間違いない。トラックの集団に巻き込まれたら、トラック経験のあるボクでさえ怖いと思うほどだ。自動車ジャーナリストたちの言葉は、多くの一般のドライバーの声を代表していると言っていいだろう。
 新たな良き暗黙のルール作りと、その浸透に期待するのが理想だけれど、しかし、そんな悠長なことは言っていられないのは、事態が少しも改善される気配がないうちに120km/h の時代がきてしまったからである。120km/h 制限の道の3車線を、ほぼ90km/hのトラック群が占領してしまっている。どう考えたって尋常な事態ではない。
 何十年間も改善できずにいた深夜の無秩序を、そう簡単に変えられるものではないという意見があるのなら、それはもっともだ、とボクも思う。けれど同時に、これは、“ほぼ90km/h”を“ジャスト90km/h”なり95km/hなりにするだけで解決する、難しくもない問題でもあるのだ。追い越し車線にでたら加速して、短時間で追い越しを完了させるというだけの、ぜんぜん難しい話ではないのである。言ってみれば、ただアクセルペダルの踏み加減の問題でしかないのである。
 トラック協会を筆頭にしたトラック業界が、本気で問題の解決に乗りだすときがきている、と思う。

(2019年6月)

 

 

 

筆者プロフィール

矢貫隆(やぬき・たかし)
1951年栃木県生まれ。龍谷大学経営学部卒。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど多数の職業を経て、ノンフィクション作家に。国際救命救急協会理事。交通問題、救急医療問題を中心にジャーナリスト活動を展開。『自殺─生き残りの証言』(文藝春秋)、『交通殺人』(文藝春秋)、『クイールを育てた訓練士』(文藝春秋)、『通信簿はオール1』(洋泉社)、『救えたはずの命─救命救急センターの10000時間』(平凡社)など、著書多数。

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第60回
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第56回
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第52回
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第51回
高速道路での走行には、いろいろな落とし穴が潜んでいる
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第43回
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第42回
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第41回
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第39回
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第38回
いっこうに減らないバス・タクシーの事故、その背景にはドライバーの過酷な労働実態がある
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第36回
自治体の負担金軽減により、ドクターヘリの普及にはずみがつくことを期待する
第35回
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第34回
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第33回
高速道路でのトラック事故、その背景に異変が起きるかもしれない
第32回
飲酒運転をする不埒なやからには疑似「怖い体験」をさせるのが一番だ
第31回
路上で倒れ込んだボクの脳裏には救急患者に関するあるデータが浮かんでいた
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第29回
客探しに目が向かう空車タクシー、その速度は高すぎる
第28回
無謀運転のスポーツサイクル乗りが今、街で増え始めている
第27回
登録制度と再規制、安心・安全なタクシーは復活するか!?
第26回
高齢者講習には「免許更新のついでの徹底検診」を
第25回
絶大な効果があるAEDも、活用しなければ宝の持ち腐れだ
第24回
「安全な自転車」の開発は自転車の多様化に拍車をかけるだけ!?
第23回
迷走する自転車の安全対策、本当に重要な問題を見極めるときだ
第22回
救急車の安易な利用が増え続ければ「有料化」が現実になるかもしれない
第21回
事故死者をさらに減らしていくために死者激減の「わけ」を早急に解明すべきだ
第20回
街路灯の整備は絶対に必要だけど、現実を考えて自衛しよう
第19回
運賃値上げのない地域にタクシー戦争あり、事故増加につながる危険性
第18回
事故が減るとか増えるとか、昼間点灯だけで交通安全をかたるのは間違いだ
第17回
AEDは救命率向上に大きな効果があるが、使えば必ず命が助かるわけではない
第16回
ツーリング中の中高年ライダーはこまめに休憩をとるべきだ
第15回
いつ発生するかわからない巨大地震にドライバーはどう対処すべきか
第14回
骨抜きにされた「運転者登録制度」では、規制緩和後の「タクシー問題」を解決できない
第13回
多くのドライバーは自転車の特性を理解していない、そのことを頭にたたきこんでおくのは重要だ
第12回
死者激減の原因を合理的に説明できない限り、根本的な安全対策を講じることはできない
第11回
規制緩和それ自体が悪いとは思わないが、そのしわ寄せを運転手に押し付けてはならない
第10回
「ここにAEDがあるぞ」と大勢の人に知ってもらう方策を考えるべきだ
第09回
事故死者数を減らすことは重要だが、それと個人の意思は別問題だ
第08回
自転車の走行環境とルールの整備という問題は、大きなテーマになっていくような気がする
第07回
タクシー運転手を体験した半年間で「稼げない構造」という問題が見えてきた
第06回
理念に沿わない駐車違反取締りは「取締りのための取り締まり」に進みかねない
第05回
飲酒が運転に与える悪影響をドライバーに体験させる必要がある
第04回
高度な機械の導入など、莫大な金をかけて高齢者講習の充実を図るべきだ
第03回
危険で迷惑な違法駐車車両だけに絞って場所も時間も関係なく取締りを徹底すべきだ
第02回
タクシーの現状を改善しようとするなら、運転手の低賃金問題は避けて通れない
第01回
近ごろの無法・無謀自転車問題の本質は、自転車に限らない安全教育の問題なのでは?

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