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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2019年7月22

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その155 平成の総括 その3
交通リスクコンサルタント 小林 實

 事業用自動車の事故も減っているが…

 車両を営業に利用している運輸業を中心とした事業用自動車の交通事故は、平成の30年間でどう推移したでしょうか。
 マイカードライバーの場合ですと、せいぜい政府主導による全国交通安全運動であるとか、「安全運転をしましょう」的なキャンペーンに接する程度であり、安全運転へのインセンティブというものはそれほど高いとはいえません。しかし、トラックやバス、タクシーなどの事業用車両を扱う企業では、1件の事故が命取りになる事態を生み出しかねないため、事故の防止には極めて神経を使っています。
 事業用車両が第一当事者になった人身事故の発生件数は、平成19年には61,883件報告されていますが、平成28年には、これが33,336件にまで減少しています。つまり、この10年間でほぼ半減に近い数字となっています(図1の赤線)。平成元年の数字は44,067件でしたから、いったん増えはしたものの、その後は順調に減少していることがわかります。「事業用自動車総合安全プラン2009」では、平成30年の削減目標値を30,000件としているので、この数値は目標値にかなり近いものだと考えられます(図1)。また、各モード別にみますと、トラックとタクシーが圧倒的に多いことがわかります(図2)。
  

図1-155.jpg

 

図2-155.jpg

 

  一方、死亡事故だけについてみますと、平成19年に事業用自動車による事故で610人の方が亡くなっていますが、平成28年には363人にまで減少しており、この数字は平成19年以降、着実に減少してきていることがわかります(図3)。このうち、トラックによるものが全体の80%ほどを占めていることが注目されます(図4)。トラックという大型車両による事故は被害が大きくなりやすいためだと考えられます。
 タクシーの場合、数は一ケタ少ないですが、死者の数は横ばいに推移しているのが特徴です。この10年の年間の死者数は40-50人ほどで推移しており、その多くは対人事故で、道路横断中などの歩行者との接触による死亡が多いことが特徴です。
  

図3-155.jpg

 

図4-155.jpg

 

バス事故の特殊性

 次に注目したいのは、「貸切バス」の数字です。図4に見られるように、平成28年の死者の数字が前年の3人から一挙に17人に増加しています。これは、軽井沢でのスキーツアーバスの転落事故によるもので、わずか1件の事故の結果ですが、ドライバーの管理が依然として問題であることを浮き彫りにした事故でした。
 「乗合バス」に関してみますと、平成28年に発生した単独事故のうち、車内事故(これは単独事故として計上されます)が75%(394件)も占めていることが注目されます。つい最近では、横浜市内で、乗合バスの運転手の体調異常によりバスが側壁に激突した結果、数人の乗客が死傷した―という重大事故が発生しました。
 乗合バスは定時運行の励行が厳しいこともあり、これに神経を集中するため、車内状況の把握が十分でない面があるのでしょうか。高齢社会を反映して、我が国の路線バスの利用者の多くは高齢者になっており、発進時や停車時に転倒事故が起きる可能性も高くなってきています。定時性よりも安全性を重視しようとする「車内事故の防止」は、今後もますます重視されるテーマであり、その推進を期待したいところです。

管理システムの導入

 平成15年からは、貨物自動車運送事業者の安全性を評価する「Gマーク制度」という制度ができました。また、平成18年からは国交省が「運輸安全マネージメント(通称、安マネ)」を、保有台数200台以上の事業者にまで拡大して実施しており、その効果が徐々に事故抑止とリンクし始めているようです。この安マネは、事業者が社内一丸となって安全管理体制を構築し、改善を目指し、その実施状況を国が評価する―というものであり、今までになかった対話手法により安全体制を整えるシステムです。
 ただ、このシステムは、事業規模の小さいところにまでは、まだなかなか浸透しきれていないのが現状です。これからの企業が、将来に向けた「持続性」というものを高く維持していくためには、ボトムアップというか、組織全員が企業に持続的に参画するという意識が大切ですが、そのためには意見の吸い上げが効果的で、安全管理はそうした意見を具現化するために有効な手法です。
 厳しい経営状況でも、何か一つでも小さな事を真面目にやっていくことは、安全管理の上で大きな力になるはずです。うちの会社はどうせ規模が小さいのだから…と、初めから安全対策をたてることをあきらめてはいないでしょうか。経営陣や安全管理者のムードは当然ドライバーにも影響しますし、安全はまあ適当にやっておこう―というムードが定着しますと、ドライバーの責任感は希薄となり、トラブルが発生したような場合に、どうしても他責にしたがる傾向も出てきます。
 「安全を確保する」ということは、企業サイドと従業員サイドのお互いの利害が一致する最大のテーマです。安全というのは、まさに従業員と会社との信頼関係の原点であり、自分のため、家族のため、みんなのために無事故に徹するという考えであって、会社側が一方的に働け、働け、事故を起こすな、起こすなとけしかけると、お互いの利害というものは対立してしまいます。

事故が減ったからこそ予算を付ける

 民主党政権の2009年、行政にメスを入れるという目的で「事業仕分け」という名の行政刷新会議が開かれたことがあります。テレビで毎日のように放映されていましたから、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。これは、国家予算の透明性を確保するため、予算の現場の実態を国民の目にさらす目的で開かれたものですが、蓮舫議員の「2位じゃだめなんでしょうか?」とスーパーコンピュータの膨大な予算に対する発言は流行語にもなりました。
 その際に、交通安全の予算も問題となり、例えば運転教習時間の短縮であるとか、キャンペーンのためのパンフ、副読本の経費といったソフト面での予算が大幅に減らされたと聞いています。その背後には、事故が減ってきたのなら予算も減らしてもいいだろうという短絡的な発想があったのではないでしょうか。
 しかし、安全な状態が維持されていくことは、「ジワリ効果」の産物であることを理解しなくてはなりません。確かに経費を減らしてもしばらくの間は持続効果があり、現状維持は可能でしょうが、いずれその効果が薄れることは今までの交通安全の歴史から明らかです。事故が減ってきたときだからこそ、以前に増して十分な予算を付けるというスタンスがカギだといえましょう。

もう一歩踏み込んだ感覚で

 我が国の交通社会が熟成したとはいえない理由の一つに、横断歩行者の存在を無視する傾向がまだかなりあることです。JAFの調査では、信号のない横断歩道で、9割以上の車が歩行者を通すために停車しないという結果が出ていますし、信号交差点でも、横断中の歩行者の間隙を縫うか、待っていてもずるずると前進してきて歩行者を威嚇するような行動に出るドライバーが後を絶ちません。
 2017年に運転者が第一当事者になった対歩行者事故1,163件の違反種別をみると、歩行者妨害が20%(237件)を占めています。こうした「横断歩行者の軽視」という習慣をぜひ断ち切りたいものです。交差点などで生じる交錯、ことに歩行者とのそれがいかに危険を含んだ事態であるか―ということを安全運転管理者の方は強調して欲しいと思います。
 次の時代には自動運転の実用化が進み、交通事故そのものが減ると期待されます。と同時に、人々の持つ安全意識というものが退化し、リスク感が低下する危険性があります。今ですら、一般の交通参加者にとって交通安全という言葉は「耳にタコ」になっており、関心が希薄といえます。しかし、明日は我が身というと大げさかもしれませんが、人々が安心、快適な生活を送る上での一種のサバイバルであると位置づけてリスク感を高めることが必要でしょう。
 事故統計という数字の上では、日本の交通安全は大いに評価されてよいでしょう。しかし、統計というものはあくまでも「大数の法則」に基づく数字であり、ユダヤ人大量虐殺の張本人であるナチスドイツのアイヒマンが言ったように、そこからは個々の事故に対する悲壮感は生まれにくいといえます。
 平成もあとわずかで終わろうとしているなかで、東京・池袋での高齢者による暴走事故や神戸市バスの事故など、立て続けに大きな事故が起きています。運送事業者におかれても、統計数字としては表れにくい個々の事故の防止に向け、1件の事故も起こしてはならないという強い意識で、次の「令和の時代」に臨まれることを期待したいものです。

(2019年4月)

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

 

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