★平成最後の正月も明けた2019年、この5月には平成時代が終わり、新たな元号の時代に入ることになっていますが、先行きが不透明で、前途多難な状況にあることには変わりない、と思っています。果たして、こうした危惧・懸念が、「雑記子」一人のみの杞憂で済めばよいのですが、平成最後の年の瀬も押し迫った昨年2018年12月25日に、またまた、新たな危惧・懸念のタネが生じました。警察庁のホームページで公表された「道路交通法の改正試案」がそれです。最近の道路交通をめぐる情勢、すなわち、2020年に実用化が計画されている「自動運転(車)」の一部実用化を見据えた関連法の整備、あるいはまた、運転中の携帯電話使用等に起因する交通事故の増加傾向などに鑑みて道路交通法の一部改正を検討していた警察庁が2018年12月25日付で、そのホームページ上で道交法の一部改正試案を公表し、新年2019年1月23日までの約1か月間開示し、試案に対する意見を募集する、いわゆる「パブリックコメント」を実施し、まもなく開催される通常国会に改正案を提出し、2020年前半の施行を目指していますが、まずは、改正案開示と同時にパブリックコメントを約1か月間実施し、公募された意見の集約、あるいはそれに基づく改正試案の見直しや補正のための時間が見当たらないと思われるほどの性急さで通常国会に上程し、審議承認されて公布後1年足らずの先に施行するという、あまりにも性急すぎるそのスケジュールに大きな危惧・懸念を感じるのです。
★もちろん、改正試案の一部である「運転中の携帯電話使用等に関する罰則強化」や「運転免許証の再交付申請に関する規定の見直し」等は、過去の類似の一部改正でも、公布後、半年から1年ほどの間に施行された例がいくつもありました。しかし、それにしても、パブリックコメント実施から国会上程までの時間があまりにも無さすぎて、果たして、せっかくのパブリックコメントはいったい何のために実施しているのか、その目的等が不明で、本当に民意を反映させる意思があるのか極めて疑わしい、と言う問題点はありますが、その点はさておくとして、やはり、1番の問題点は一部改正施行に至るスケジュールの性急さです。とりわけ、「自動運転(車)」の実用化に対応するための一部改正(案)は、これまでとは異次元の「自動運転(車)」が参入するという、「クルマ社会」の革命的事態に国の施策として踏み出すものなのですから、その異次元の「新たなクルマ社会」の担い手となり、共存することとなる多くのユーザー・市民が「自動運転(車)」に関し、相応の理解・認識と共感をもって参加する、つまり、「社会受容性」をしっかり確保しつつ促進する―、それを「クルマ社会」の革命的事態に対処するための必須要件にしなければならないという観点からすると、この道交法の一部改正は、あまりにも性急・拙速すぎると強く危惧するのですが、ともあれ、この「改正試案」の概要を紹介しておきましょう。
★「改正試案」は、「1.自動車の自動運転の技術の実用化に対応するための規定の整備」、「2.携帯電話使用等対策の推進を図るための規定の整備」、「3.その他」、以上の3部になっていますが、まずは、「2.携帯電話使用等対策の推進を図るための規定の整備」、「3.その他」の概要を紹介しましょう。「2.携帯電話使用等対策の推進を図るための規定の整備」というのは、運転中に携帯電話等を使用したり、携帯電話やカーナビゲーション装置の画面を注視したりしていたことに起因する交通事故の増加傾向に対処するため、「携帯電話使用等」違反の罰則を強化し、反則金の引き上げを行うものです。ちなみに、「携帯電話使用等」違反(交通の危険)の罰則は、現行「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」を「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」に改正強化し、「携帯電話使用等」違反(交通の危険)の反則金の限度額は現行「大型等2万円」、「普通等1万5千円」、「小特等1万円」となっていますが、これを改正して「非反則行為」にするとなっています。また、「携帯電話使用等」違反(保持)の罰則は、現行「5万円以下の罰金」を「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」に改正強化し、反則金の限度額は現行「大型等1万円」を5万円に、「普通等8千円」を4万円に、「小特等6千円」を3万円に引き上げるとしています。また、「携帯電話使用等」違反(交通の危険)をし、「よって交通事故を起こして人を死亡させ、又は傷つけた場合については免許の効力の仮停止の対象とする」という改正も盛り込まれています。また、「3.その他」では、(1)小児用の車及び軽車両のうち原動機を用いるものを自動車から除外する改正、(2)離婚等で名字が変わった場合などでも免許証の再交付を申請することができるようにする改正(現行では免許証の亡失・滅失・汚損等の場合にのみ再交付申請が可能)、(3)運転免許を自主返納したときに身分証代わりとして申請できる「運転経歴証明書」の申請先を、現行の自主返納した都道府県公安委員会から申請者の住所地を管轄する都道府県公安委員会に変更する改正を行うとしています。
★以上がパブリックコメント実施に伴って開示された道交法一部改正「試案」の「2.携帯電話使用等対策の推進を図るための規定の整備」および「3.その他」の概要ですが、本稿の主題として取り上げたいのは、その「改正試案」の目玉とも言うべき「1.自動車の自動運転の技術の実用化に対応するための規定の整備」に関することですから、まずは、以下に改めてその概要を紹介しましょう。まず、今回の一部改正で対応しようとしている「自動運転の技術」は、道路や天候等の環境が一定の条件を満たす場合に自動運転システムが全ての運転操作をし、その条件を満たさなくなったときには運転者が運転操作を引き継ぐ必要がある「SAEレベル3」の「自動運転の技術(車)」に限っていますので、現行法上、運転者に課せられている安全運転の義務(法第70条)をはじめとするほぼすべての諸規定は引き続き適用するとしています。したがって、「自動車の自動運転の技術の実用化に対応するための規定の整備」と言いながらも、微細な改正にとどまり、「自動車の自動運転の技術の実用化に対応するための規定の整備」という重大名目は名ばかりのものになっていると言っても過言ではありません。しかし、「SAEレベル3」の「自動運転の技術」の実用化に引き続き、「SAEレベル4」以上の、いわゆる「完全自動運転車」の実用化段階も切迫していることが明白なこの時期に、なぜ、「SAEレベル3」の実用化に限った微細な一部改正のみで済まそうとするのか、大いに疑念を感じます。少なくとも、まずは、「完全自動運転車」の実用化段階に対応するための関連法の整備の大綱(試案)を示し、その上で、とりあえず、目前に迫っている「SAEレベル3」実用化に対処するための暫定策としての一部改正とすべきではないか、と思うのです。と言うのも、政府(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議)は、「官民ITS構想・ロードマップ2018」において「完全自動運転車」の実用化実現に至るまでのスケジュールを明確に示しており、その実現は既に時間の問題となっているはずで、とりあえずは、「SAEレベル3」の実用化に備えて・・・と悠長に構えるだけの時間的余裕は残されていない、と思うからですが、ともあれ、「SAEレベル3」の実用化のみに対処するための道交法の一部改正(試案)は、どのようなものか、その概要を紹介してみます。
★まず、改正試案の1、「自動車の自動運転の技術の実用化に対応するための規定の整備」の(1)として、「自動運行装置(仮称)の定義等に関する規定の整備」として、自動車を運行する者の運行に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する自動運転システムを、「自動運行装置」として新たに定義づけるとともに、同装置を使用して自動車を用いる行為は法上の「運転」に含まれる旨を規定する、としています。また、(2)の「自動運行装置を使用して自動車を運転する場合の運転者の義務に関する規定の整備」では、〈1〉「自動運行装置」が一定の条件を満たさない場合には、その装置を用いた運転を禁止する、〈2〉「自動運行装置」を使用して自動車を運転する者は、(装置等が)一定の条件を満たさなくなった場合に直ちに適切に対処することができる態勢でいる場合に限り、携帯電話等を保持して使用することの禁止規定および画像表示装置の画像を注視することの禁止規定の適用は受けないこととする、としています。さらにまた、(3)の「作動状態記録装置(仮称)による記録等に関する規定の整備」では、〈1〉「自動運行装置」を備えた自動車の使用者等に対して、同装置の作動状態を確認するために必要な情報を記録する装置(「作動状態記録装置」)を備えていない状態等での運転を禁止することと、〈2〉「作動状態記録装置」により記録された情報を保存することを義務付ける、としています。また、〈3〉警察官は、整備不良車両に該当すると認められる(「自動運行装置」)自動車が運転されているときは、運転者に対し、「作動状態記録装置」により記録された情報の開示を求めるとともに、当該自動車を製作した者等に対し、当該情報を判読するために必要な措置を求めることができることを規定するとしています。
★以上が昨年2018年12月25日に警察庁から開示され、同日からこの1月23日までの約1か月、「パブリックコメント」を実施している道路交通法一部改正(試案)の全概要ですが、問題点の第1は、冒頭にも記しましたが、「パブリックコメント」実施から国会上程までの時間があまりにも無さすぎて、傾聴・検討に値するコメントが寄せられても、国会に上程する議案に反映することが事実上不可能で、結局、「パブリックコメント」の実施は形式的な手続きにすぎないのではないか、という点です。しかし、こうしたことは、何も今回に限ったことではなく、また、道路交通法の一部改正に限ったことでもなく、他の法の改正案や新法案の国会上程においても、「パブリックコメント」や公聴会が実施されても、それらで発せられた意見(民意)が反映され国会上程議案が修正された―というケースは、少なくとも、「雑記子」の知る限り皆無ではないかと思いますので、せっかくの「パブリックコメント」や公聴会実施が単なる形式的手続きではなく、民意を反映させるための貴重な機会として機能するよう、真摯に検討・改善すべきだ―と指摘するにとどめて第2の問題点に筆を進めます。問題点の第2は、これも先に記しましたが、「自動車の自動運転の技術の実用化に対応するための規定の整備」と謳いながら、実質は「SAEレベル3」の実用化のみに対処するためだけの一部改正案にとどめていることです。先記と重複しますが、まずは、「完全自動運転車」の実用化段階に対応するための関連法の整備の大綱(案)を示し、その上で、とりあえず、目前に迫っている「SAEレベル3」実用化に対処するための暫定策としての一部改正案とすべきではないのか―という思いを強調しておきます。
★また、第3の問題点は、「自動運行装置」の定義等の規定に係る問題で、「SAEレベル3」の「自動運行装置」を使用して自動車を用いる行為を道路交通法上の「運転」に含むとする規定です。周知のことと思いますが、現行・道路交通法第70条の、いわゆる「安全運転の義務」には、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と明記されています。したがって、「自動運行装置」は、運転者の認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替するシステムであるとはいえ、断じて運転者、つまり、人間そのものでは決してありません。確かに、そのシステムはある部分においては人間の能力よりも上回る能力を持ち合わせているとはいえ、あくまでも人間が造りだした機械システムにすぎません。その機械システムを運転者(人間)と見立て、自動車の運行を任せることが、法70条の「安全運転の義務」規定に抵触しない―と解する今回の改正規定は、明らかな詭弁であると思わざるを得ません。2020年に「SAEレベル3」の自動運転を実用化する―という政府のロードマップが動かし難い「大本営方針」になっている結果の苦し紛れの緊急避難的詭弁なのかもしれませんが、そうした異常事態はできるだけ速やかに解消するべきです。
★そのためには、運転者不要の「自動運転車」とドライバー(運転者)が運転する自動車が共存する、これまでとは全く次元が異なる「新クルマ社会」に対応する「新道路交通法」(および関連法)を策定すること、それが急務で必要不可欠なことです。この「雑記」でも度々提言してきましたが、運転者不要の「自動運転車」の実用化という、これまでの「クルマ社会」とは全く次元が異なる「新クルマ社会」の到来が夢物語ではなく、時間の問題としてその実現が目前に迫っている―という問題を抜きにしても、半世紀以上も前の1960年(昭和35年)に制定・施行された現行の道路交通法の規定の中には、その後の急速な「クルマ社会」の進展・変遷により、「クルマ社会」の実態が規定とかい離し、齟齬をきたす部分が次々に出てきたことにより、毎年のように一部改正という「修繕・つぎはぎ繕い」をしてどうにか凌いできましたが、それも、もはや限界にきている上に、運転者不要の「自動運転車」の実用化という「クルマ社会」の大革命期が目前に迫っている今、現行・道路交通法の一部改正ではなく、抜本的改革、つまり、運転者不要の「自動運転車」とドライバー(運転者)が運転する自動車が共存するこれまでとは異次元の「新クルマ社会」に対応するための「新道路交通法」(および関連法)を策定することこそが急務なのです。しかも、その検討・策定作業は、一部の当局者や有識者らのみにて行うのではなく、「自動運転車」を利用し、共存することとなる市民・ユーザーが圏外に置かれることなく、市民・ユーザーらがそのメリット等を事前に理解、認識できるよう十分な情報の開示をしつつ、かつ、市民・ユーザーらの意見・提言の機会等も十分に確保しつつなど、いわゆる「社会受容性」をしっかり確保しながら促進する、その大事も決して置き去りにしないで促進してほしい、と切に願うと共に、運転者不要の「自動運転車」とドライバー(運転者)が運転する自動車が共存するこれまでとは異次元の「新クルマ社会」に対応するための「新道路交通法」(および関連法)を制定するまでの明確なロードマップを策定し、広く市民・ユーザーに開示すべきだ―ということも強調し、本稿の結びとします。(2019年1月23日)