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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年11月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その149 異常をどう検出するか
交通リスクコンサルタント 小林 實

繰り返された火災

 今年7月に東京・多摩市で、建設中の大型ビルから発生した火災事故は、作業員5人が死亡、40人のけが人のうち25人が重傷という近年あまり例を見ない大きな被害を出しました。火災が発生したのは地上3階・地下3階という建設中の大型倉庫のような建物で、地下3階で不要になった鉄骨をガスバーナーで切断作業中に、大量の火花が床の隙間を伝って床下(「免震ピット」の天井部分)一面に敷かれたウレタンの断熱材に燃え移り、そこから建物全体に火が広がった―というものです。
 作業現場では、作業員2名のうち1名が切断作業を担当し、1名が火花を消す役割でした。大した火花の出具合ではないということで、バケツの水で対応したようです(当初はコップの水で対応したとの話もあります)。まだ建設中ということで、取り付けられていたスプリンクラーも作動しませんでした。
 火災を起こしたこの建設会社は、1年前の6月にも都内江東区の工事現場で火災を起こした経験があり、また先月には「火災想定避難訓練」なるものを実施したばかりだったようですが、これも有効に機能しませんでした。しかも、その業界団体が、ウレタン材の近くで火気を使用しないように求めていた矢先の出来事でした。

ルーティン作業が招いた悲劇

 作業現場のすぐそばには燃えやすいウレタンが見当たらないことから、ごく普通のルーティン作業の要領で、作業者と火消し役の二人で作業をしていたと思われます(これは、前回書いた「スキルベース」の作業環境に当たります)。つまり、この現場では、作業員が目視できる範囲において安全を確かめながら作業をしていたのでしょうが、心理学的にいえば一種の「視野狭窄」の状態で、床下のウレタンに火花が燃え移ることまでは想定していなかったのでしょう。
 ウレタンは可燃性が高いため、火の回りが速く、瞬く間に大量の黒煙とガスが発生して作業現場は大混乱となり、多くの作業員が被害に遭うという結果を招きました。いわゆる「スキルベース」の作業から、今まであまり経験したことのない状況での対応、すなわち「知識ベース」の作業になった結果、対応が遅れてしまったわけです。
 仮に、現場の監督なり管理者が事前に作業現場を精査して、床下に大量のウレタンが断熱材として敷き詰められていることを確認し、床は隙間だらけであること、そして、万が一の場合でもスプリンクラーは作動しないことなどをチェックしていれば、警戒要員の数なり、朝礼での訓示の仕方や内容なりも変わったのではないかと思えます。普段と変わりない作業環境である―という誤認が招いた火災事故といっても過言ではないでしょう。
 いまから30年以上も前、北海道の夕張炭鉱で起きた爆発事故も多くの犠牲者を出しましたが、当時、会社側は、あそこはコンピュータ化された「工場」であって炭鉱ではない―といった認識が強くあり、たまたま起きたガス漏れの検知が遅れて爆発につながったそうです。それと同様、今回の火災にしても、その原因は些細な不注意だったわけですが、それがあのように拡大するとは予想もしていなかったと思います。

潜在的危険の検知

 車の自動化も加速度的に進行しています。車のギアがマニュアルからオートマチックにほぼ完全に移行するのに要した時間は約30年といわれることから、自動運転が広範囲に普及するまでにも、あとこのくらいかかるのではないか―という楽観説もありますが、最近のAIの革新的な進化を考えると、そのスピードはもっと速くなるはずです。
 以前に述べたことがありますが、自動化が進化すると、人間サイドは退化することが懸念されます。デンマークの心理学者・ラスムッセンが指摘するように、作業が自動化されてくると、人間が本来持っている想像力といったものが次第に衰えてくる可能性がある―というわけです。
 人間にとってあまり得意でない「知識レベル」の作業が必要となる状況、つまり、今まで聞いたことはあるが体験したことのない異常事態において、機械サイドがお手上げになった場合、人間側の対応が果たしてうまくいくかどうか、このあたりはまだ十分に議論されていない―といえましょう。車のトラブルも将来は減ってくるでしょうから、もし何か手に負えない事態がたまたま発生したとすると、人間サイドが果たしてうまく対応できるのかどうか気になるところです。
 アメリカでウーバーとテスラ両社の自動運転車による死亡事故が発生したことを受け、アメリカの専門家は、自動運転車に「潜在的な危険」を検知する能力を設けるべき―と主張しています。両社いずれのシステムでも、自動運転で走行中に異常事態が発生した場合、ドライバーが介入することを期待していますが、この二つの事故とも、人間サイドが危険回避行動をとらなかったことは明らかです。

危険の感知能力

 何かいつもと違う、何かおかしい―というように、普通の観察眼では見落としがちな潜在的な危険を感知する能力というものが、いま求められているように感じます。仮に、火災予防訓練を定期的にやったとしても、しょせんは机上で作られた計画に基づくものであり、極めて定型的な訓練に終わってしまいかねません。上からやれと言われたから、まあ仕方なくやっている―というケースも見受けられます。
 朝礼にしてもマンネリ化してしまい、聴く人もまたあれか…と緊張感も薄くなりがちです。これと同じように、無事故・無違反が長く続くと、リスクへの感度が低下することがあります。うちのドライバーに限っては事故なぞ起こすはずがないと思いがちだからです。
 危険の感知能力をいかに上げていくか―が、これからの安全運転管理のポイントの一つになるのではないでしょうか。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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ラスムッセンのSRK理論
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