★去る3月22日の読売新聞の夕刊では、「小1 歩行中事故に注意・警察庁分析 過去5年 死亡32人」、また、同日の北海道新聞の夕刊では、「歩行中の交通事故 小1死傷者 小6の3倍」、さらに翌日23日の朝日新聞朝刊では、「歩行中の交通事故 小1の死傷者 6年生の3倍」、毎日新聞朝刊では、「歩行中事故、小1死傷者は小6の3倍」という見出しでの記事が掲載されました。また、「雑記子」が知る限り、3月22日のNHK・TVの夕方のニュース番組でもこの件が報じられましたが、正直に言って、「雑記子」は、これらのニュースを見聞きして、何をいまさら・・・、今頃「ドヤ顔」で・・・と、いささか奇異な感じを持ちました。ちなみに、これらの新聞記事やテレビのニュースは、3月22日付で警察庁交通局が公表した「児童・生徒の交通事故」と題する交通事故統計分析が基になったものですが、この報道関係者は、多分、4月6日(金)から15日(日)までの10日間にわたって実施される予定になっていた毎年恒例の「春の全国交通安全運動」に備えて、新入学児童の保護者をはじめとする関係者らの新入学児童の事故防止に対する意識の高揚を図り、事故防止の取り組みを促進するために警察庁(交通局)が発した事前情報と読み取ってニュース化したのでしょう。
★事実、4月6日(金)から実施された「平成30年 春の全国交通安全運動」の「運動重点」の一つに「子供の安全な通行の確保」が掲げられており、その「趣旨」には「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ることが重要であるにもかかわらず、依然として道路において子供が危険にさらされていること、特に、新年度になり、入学や進級を迎える4月以降に小学生の歩行中・自転車乗用中の交通事故が増加する傾向にある」と記され、新入学児童の交通事故防止の重要性が訴えられていますので、新聞・TV等メディアでは、警察庁(交通局)が、事前に、つまり、「春の全国交通安全運動」を目前にした3月22日の時点で、「児童・生徒の交通事故」と題する交通事故統計分析を敢えて公表し、新入学児童の保護者をはじめとする関係者らの新入学児童の事故防止に対する意識の高揚を図り、事故防止の取り組みを促進しようとしたと読み取り、ニュース化したのもそれなりに妥当だと言えるのかもしれません。しかし、「雑記子」が、何をいまさら・・・、唐突に、と思ったのは、3月22日付で警察庁(交通局)が公表した「児童・生徒の交通事故」レポートで明らかにされた児童・生徒の交通事故の実態は、新聞・TV等の報道で取り上げられた小学生の「学齢別の交通事故発生状況」だけではありませんし、その「学齢別の交通事故発生状況」も、この度の統計分析によって初めて明らかになったことではありません。少なくとも、弊社編集部では、全国の交通事故が減少傾向をたどり始める1996年(平成8年)以前の何年も前から小学生の「学齢別の交通事故発生状況」については、既に何度も統計分析し、小学生の「歩行中」の交通事故死傷者では小学1年生が最も多く、学年が高くなるにつれ死傷者数が減っていくこと、特に死者数ではその傾向が顕著であることなどを明らかにし、小学生やその指導者等に向けた啓発資料等の編集に活用していたからです。
★もちろん、警察庁(交通局)や都道府県警察(交通部)においても、こうした実態は、相当以前から掌握していたはずと思われますが、今日に至って改めて近年の交通事故統計を基に分析・公表したのは、先にも記したように「春の全国交通安全運動」に資する事前情報という意図もあった、とも思いますが、それにしても、「子供の安全な通行の確保」という「運動重点」は、何も今年の「春の全国交通安全運動」に初めて取り上げられたことではなく、昨年や一昨年の「春の全国交通安全運動」のほか、それ以前も、新入学期に当たるこの時期の「春の全国交通安全運動」では、毎年のように、運動の重点としてほぼ同様のことが取り上げられていました。ですから、今年、改めて「春の全国交通安全運動」の重点=「子供の安全な通行の確保」に資する「歩行中の子供の交通事故発生状況」、なかでも、小学生の「学齢別の交通事故発生状況」という事故統計分析結果を敢えて事前に発信したのは何故なのか・・・という疑問が生じたのです。「雑記子」が考えるに、一つには、近年、毎年のように、通学路を集団登校・下校中の子供たちの隊列に車が突っ込み、複数の子供たち等が死傷するという悲惨な事故が相次いで発生するなか、通学路の安全確保対策の必要性が言われながらも、財源上の制約のためなのか、はたまた、効果的な対策が見いだせないためなのか、定かではありませんが、特に市町村等、対策の最前線に当たる現場での取り組みが、あまり進捗していないことに対する警察庁(交通局)のいら立ちがあり、改めて警鐘を鳴らす、という意図があったのではと思っています。
★また、もう一つには、今、述べたこととも連動しますが、登下校中の小学生らを巻き込む悲惨な交通事故が毎年のように相次いで発生しているとはいえ、いわゆる「第1次交通戦争」のピーク時、1970年(昭和45年)当時に比べれば、小学生の交通事故死傷者数は大幅に減少しており、また、全国の交通事故発生件数が戦後最多を記録した2004年(平成16年)以降に限ってみても、全国の交通事故発生件数は毎年着実に減少傾向をたどり、一昨年2016年にはついに50万件を下回るに至りましたが、これにつれ、小学生の交通事故死傷数も明らかな減少傾向をたどり、一昨年2016年の小学生の交通事故死傷数は2004年(平成16年)のそれに比べ半分以下に減少、特に死者数はおよそ6割も減少しているという状況を受けてか、市町村レベルでの小学生の交通事故防止に対する関心は、かつてに比べかなり希薄化しており、また、小学生の交通事故防止に関する広報・教育活動等も、やはり、かつてに比べ非常に低減している、というのが実情だからではと思っています。そこで、警察庁(交通局)においては、こうした事態を少しでも打開するために、また、小学生の交通事故防止に対する社会的関心を改めて高めるために、今年の「春の全国交通安全運動」の実施が予定されているこの機に、敢えて「児童・生徒の交通事故」と題する交通事故統計分析を公表したのではないかと推察する次第ですが、いずれにしても、「雑記子」の勝手な深読みすぎなのかもしれません。それもこれも、あまりにも唐突的すぎて、かつ、何をいまさら・・・という感が拭えない分析・公表であったからです。それ故にか、新聞・TV等の報道の扱いも、冒頭に紹介した新聞の見出し、「歩行中の交通事故 小1の死傷者 6年生の3倍」のように、4月6日からの10日間に実施される「春の全国交通安全運動」を意識してか、小学生の「歩行中」の事故死傷者では新入学の小学1年生が最も多く要注意、という内容で終始してしまったのでしょう。
【参考】
(1)1970年(昭和45年)の小学生の交通事故死傷者数(全国)・・・死傷者44,205人、うち死者549人
(2)2004年(平成16年)の小学生の交通事故死傷者数(全国)・・・死傷者40,939人、うち死者79人
(3)2016年(平成28年)の小学生の交通事故死傷者数(全国)・・・死傷者17,962人、うち死者32人
★しかし、3月22日に警察庁交通局が公表した交通事故統計分析資料は、先にもちょっと述べたように、「児童・生徒の交通事故」と題されるもので、「小学生 歩行中の交通事故」と「中学生・高校生 自転車乗用中の交通事故」の2編で構成されており、新聞・TV等で報じられたように、小学生の歩行中の交通事故だけを取り上げたものではないのです。それだけに、「雑記子」は、何をいまさら、唐突的に・・・と思ったわけですが、ともかく、まずは「児童・生徒の交通事故」と題された警察庁交通局の交通事故統計分析資料の全体概要を改めて紹介してみます。まず、「小学生 歩行中の交通事故」の編では、2013年(平成25年)から2017年(平成29年)の5年間に全国で発生した小学生の「歩行中」の交通事故死傷者計27,264人について、その学年別や月別・時間帯別、通行目的別等の事故発生状況を分析し、その分析結果の要点として、以下の事項をまとめています。すなわち、〔1〕小学1年生の歩行中の死者数(32人)は小学6年生(4人)の8倍、〔2〕歩行中の死傷者は、(1)月別では、4月―7月と10月・11月が多い。時間帯別では、15時台から17時台と4時台が多い。(2)通行目的別では、下校中(20.8%)・登校中(14.5%)が多い。(3)衝突地点別では、交差点内(43.5%)が多い。(4)事故類型別では、横断中が最も多く、そのうち「横断歩道」が約39.1%にも上る(※アンダーライン部分は「雑記子」による)。また、統計分析結果の末尾には「小学生歩行中の交通事故防止対策の要点」として以下の事項がまとめられています。すなわち、その1点目として、●大人が「交通ルール遵守の手本を示すこと」「思いやりの気持ちを持つこと」として、(1)子供に対し、交通事故防止を教えるためには、まず、大人が普段から「交通ルール遵守の手本を示す」こと。(2)子供が道路を横断しようとしているときは、車両の運転者やそばにいる人は、安全に横断できるようにすること。(3)運転者も歩行者も、特に子供に対する「思いやりの気持ちを持つ」こと。以上、3つの説明文が付けられています。また、「小学生歩行中の交通事故防止対策の要点」の2点目として、●子供への「横断の仕方」の教育、3点目として、●通学路等の合同点検の実施―が掲げられ、「横断の仕方」の教育の項では、「特に、小学1・2年生に対し、以下のことを教える」として(1)横断歩道や信号機がある交差点が近くにあるときは、そこまで行って横断すること。(2)横断する前に、青信号や横断歩道でも「立ち止まる」「右左をよく見る」「車が止まっているのを確認すること」。(3)「横断中は右左をよく見る」こと、以上、3つの詳細事項が記され、「通学路等の合同点検の実施」の項には、「通学路、スクールゾーン、ゾーン30などの生活道路等において、関係機関・保護者等で合同点検を実施する」という記述が付加されています。しかし、これらの「・・・事故防止対策の要点」は、新たなものは何もなく、かねてから言い古されていた事柄で、それを敢えて改めて発信しなければならなかったところに、「小学生の歩行中の交通事故防止対策」が思惑通りには進捗していないばかりか、むしろ停滞している現状に対する警察庁(交通局)のいら立ちを感じ取るのは、やはり、「雑記子」の深読みすぎでしょうか・・・。
★ともあれ、3月22日の新聞各紙の夕刊等で報じられた記事のほとんどは、警察庁交通局が発表した「児童・生徒の交通事故」レポート中の、この2つの要点、つまり、「小学生 歩行中の交通事故」の「分析結果の要点」と「・・・事故防止対策の要点」に記されていた事項を概要的に報じたもので、「児童・生徒の交通事故」の発生実態の全体像を読み取れるものではありませんでした。ただ、「雑記子」が確認できた限りでは、読売新聞の夕刊(3.22)では、中学・高校生の自転車事故にも若干触れ、ヘルメット着用が普及していない状況等の記事も見られはしましたが、それでも、「小1 歩行中事故に注意・警察庁分析 過去5年 死亡32人」という見出しにもみられるように、小学1年生の歩行中の事故死者が最多であること、学年が高くなるにつれ、それが少なくなっている、という程度の内容で、「児童・生徒の交通事故」の発生実態の全体像はもちろん、「小学生 歩行中の交通事故」の発生状況の全体像も十分に読み取れる記事にはなっていません。つまり、新聞・TV等の報道機関も、警察庁(交通局)が、この時期、唐突的に、かねてから、少なくとも関係者らには周知のことであったはずの「児童・生徒の交通事故」の発生状況を敢えて改めて分析・公表した、その真意を読み切れず、「小1 歩行中事故に注意」というような新入学期に合わせた「春の全国交通安全運動」に向けての事前情報としてのみの報道に終始したのではないかと理解しています。
★しかし、「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ることが重要であるにもかかわらず、依然として道路において子供が危険にさらされている」と「春の全国交通安全運動」の重点の趣旨にも謳われているように、少子高齢化が急速に進行している今日、子供の安全、特に最も身近で日常的な危険である道路交通事故の危険から子供を守ることの社会的重要性が一層高まっていることこそが警鐘すべき課題だったのだと考えます。にもかかわらず、新聞・TV等のメディアは、小学新入生の交通事故防止あるいは新入学期の交通事故防止だけを問題視するような報道に終始してしまいましたが、それ以上に懸念すべき問題点は、子供の交通事故防止に関する対策の停滞状況だと思います。つまり、特に子供の交通事故防止の取り組みの現場となる市町村レベルにおいて、この十数年来の交通事故発生件数の毎年減少傾向の定着化、なかでも、事故死者数の劇的減少化、そして、子供(小学生)の交通事故死傷者数の減少化、とりわけ、死者数の激減化といった状況を受けてか、かつまた、市町村レベルでの人口減少・過疎化と財政悪化等と相まってか、子供の交通事故防止に対する取り組み意識・意欲は以前に比べ相当に薄れており、対策そのものも進捗していないことに対する危惧だと思います。もちろん、国の「交通安全基本計画」の「講じようとする施策」のなかでも、また、毎年恒例の春・秋の全国交通安全運動の推進要綱のなかでも、子供の交通事故防止に資する「通学路等での安全確保策」や「安全教育の推進」等が重点事項として謳われてはいますが、国や都道府県レベルからの具体的な支援がほとんどない状況の下で、財政的にも厳しい状況におかれ、人口減少・過疎化等による人手不足に悩んでいる市町村においては、なおさら「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ること」の必要性・重要性を痛いほど認識していても、他の優先課題が山積みで、子供の交通事故防止は二の次三の次にならざるを得ないというのが実情だと思いますが、警察庁(交通局)は、何よりもそうした事態を憂い、その打開策の一助として、改めて「児童・生徒の交通事故」の発生実態を分析・公表し、市町村等関係者の奮起を促したかったのではないか、と深読みする次第です。
★ともあれ、何度もの繰り返しになりますが、少子高齢化、人口減少が確実に進行している日本社会にあって、「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ること」の重要性・必要性は、今後、さらに一層高まることは必定です。それ故に、その交通事故防止の諸対策を効果的・効率的に促進していくためには、まずは、「児童・生徒の交通事故」の発生実態をしっかり把握し、その発生実態の周知を図ることが必要不可欠だと思いますので、次回の「雑記」では、今回に引き続き、警察庁(交通局)が分析・公表した「児童・生徒の交通事故」レポートの詳細を紹介し、そこから読み取るべき問題点・課題等を探っていくこととし、今回の稿を閉じることにします。(2018年4月19日)