★前回の「雑記」では、去る3月22日付で警察庁(交通局)が公表した「児童・生徒の交通事故」と題する交通事故統計分析レポートを基に、新聞各紙やTV等のメディアが、「小1 歩行中事故に注意・警察庁分析 過去5年 死亡32人」、「歩行中の交通事故 小1死傷者 小6の3倍」などと、あたかも初めて明らかになった子どもの交通事故発生状況か・・・と読み取られかねない内容で報じたニュースに接し、「雑記子」は、何をいまさら・・・と、奇異を感じたことを述べ、その奇異感の根拠と、警察庁(交通局)が、なぜ、この時期にこうした交通事故統計分析を行い公表したのか、その意図等を推察してみました。
★つまり、小学生の「歩行中」の事故死傷者では、小学1年生が最も多く、学年が高くなるにつれ事故死傷者数が減少していくという状況は、近年に特有のものではなく、少なくとも、全国の交通事故が減少傾向をたどり始めた1996年(平成8年)以前の何年も前からずっと続いていることであり、そうした状況は、警察庁(交通局)や都道府県警察(交通部)においても、相当以前から掌握していたはずであり、市町村レベルの小学生の交通事故防止活動の最前線・現場にもそうした情報は相応に流されていたはずにもかかわらず、なぜ、この時期に、あたかも初めて明らかになった新情報とも思えるような形で公表したのか・・・、それは、少子高齢化が急速に進行している現在、「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ること」の必要性・重要性が一層高まっているにもかかわらず、その事故防止活動の最前線・現場である市町村レベルでは、この十数年来の交通事故発生件数の毎年減少傾向が定着化し、なかでも、事故死者数の劇的減少化、そして何よりも、子ども(小学生)の交通事故死傷者数が少子化と相まってか大幅な減少化をたどり、とりわけ、子ども(小学生)の交通事故死者数が激減しているといった状況を受けて、かつまた、市町村レベルでの人口減少・過疎化と財政悪化等と相まってか、「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ること」の必要性・重要性は認識していても、市町村行政上の他の優先課題が山積みで、子どもの交通事故防止は二の次三の次にならざるを得ないという状況が続いており、市町村レベルでの子どもの交通事故防止活動に対する取り組み意識・意欲は以前に比べ相当に薄れており、政府・警察庁等が促進するよう打ち出している対策そのものがほとんど進捗していない、そうした事態を憂いた警察庁(交通局)が、事態打開策の一助として、改めて「児童・生徒の交通事故」の発生実態を分析・公表し、市町村等関係者の奮起を促したかったのではないか、と推察したわけです。
★もちろん、「雑記子」のこうした推察は深読みすぎることなのかもしれませんが、いずれにしても、少子高齢化が急速に進行している現在、「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ること」の必要性・重要性が一層高まっていること、そして、それにもかかわらず、子どもの交通事故防止対策・活動は、かつてに比べても低迷しており、政府・警察庁等が意図している諸対策が進捗していないことは間違いのない確かなことだと思います。さらにまた、こうした事態を打開するためのスタートライン・出発点になるのが、子どもの交通事故の発生実態をきちんと把握することだ、ということも間違いのない確かなことだと思います。そこで本稿では、去る3月22日付で警察庁(交通局)が公表し、新聞・TV等のメディアでもその一部分が報じられた「児童・生徒の交通事故」と題する交通事故統計分析を改めて取り上げ、その概要を紹介しながら、子どもの交通事故防止上の問題点・課題等を考えてみたいと思います。
★前回の「雑記」でも紹介しましたが、22日に公表した警察庁(交通局)の「児童・生徒の交通事故」と題する交通事故統計分析レポートは、まず、「小学生 歩行中の交通事故」と「中学生・高校生 自転車乗用中の交通事故」の2編で構成されており、いずれも、2013年(平成25年)〜2017年(平成29年)の5年間に全国で発生した小学生の交通事故死傷者(99,040人、内死者168人)と中学・高校生の交通事故死傷者(55,473人、内死者261人)について、その「状態別」や「時間帯別」等の死傷状況を検証分析した結果をグラフにして表示し、「分析結果の要点」と「事故防止対策の要点」を付加したものがレポート全体の構成となっています。しかし、本稿では、字数の制約もありますので、「中学生・高校生 自転車乗用中の交通事故」に関しては、またの機会に譲ることとし、「小学生 歩行中の交通事故」の編に限って、その概要等を紹介し、特徴や問題点等を検証していくこととしますが、「小学生 歩行中の交通事故」編は、まずその冒頭に「分析結果の要点」がまとめられています。その「要点」は、2項目に大別され、その一つは「小学1年生の歩行中の死者数は小学6年生の8倍」というものであり、もう一つは、「歩行中の死傷者は、(1)月別では4月〜7月と10月・11月が多い。(2)時間帯別では15時台〜17時台と7時台が多い。(3)通行目的別では下校中・登校中が多い。(4)衝突地点別では交差点内が多い。(5)事故類型別では横断中が最も多く、そのうち「横断歩道」(横断中)が約39.1%にも上る」というものです。しかし、これらの「要点」は、分析結果のほんの一部分にすぎず、必ずしも、小学生の交通事故死傷者の全体像を象徴するまとめになっているとは思えません。そこで、以下に、改めて、せっかくの分析結果をできるだけ詳細に紹介し、押さえるべき特徴等を述べてみようと思います。
★小学生の交通事故死傷者の状況(分析結果)の1として、「小学生の状態別死者数・死傷者数」がグラフで表示されており、「状態」は「歩行中」、「自転車乗用中」、「自動車乗車中」、「二輪車乗車中」、「その他」の五つに区分されていますが、まず、状態別の「死者数」発生状況をみると、確かに、小学1年生の死者では「歩行中」が66.7%を占めて最も多く、その死者数は小学6年生の8倍になっています。しかし、それは、あくまでも「歩行中」の死者数だけを比較した場合のことで、「自転車乗用中」や「自動車乗車中」等の死者数全体でみると、小学1年生の全死者数は小学6年生の5倍弱にとどまっています。ただ、死者数全体でみても、小学1年生の死者数が最も多く、学年が高くなるにつれ、その数が次第に減少していることは確かで、小学生の交通事故死者(168人)の半分余(85人)が小学1・2年生で占められている―、というのは長年にわたって続いている厳然たる実態ですから、まずはこの実態を、子どもの交通事故防止にかかわる人々にあまねく周知し、かつ、その要因を科学的・多角的にしっかり解明し、それに基づく効果的な防止対策を早急に策定し、関係者に周知徹底して効率的に実施することが大切だと思います。とはいえ、小学生の交通事故防止に当たっては、小学1・2年生の交通事故防止のみに目を奪われてはなりません。なぜなら、小学1・2年生の被害者が突出して多いというのは、あくまでも死者に限った場合のことで、死傷者全体の状況に目を向けると、様相はかなり変わって、小学1・2年生とその上の高学年との格差はごくわずかで、小学3〜6年生の交通事故防止対策も必要不可欠だからです。
★「小学生 歩行中の交通事故」の分析結果レポートでは、小学生の状態別の「死者数」のグラフと並んで状態別の「死傷者数」の分析結果のグラフも表示されていますが、死者数同様、2013年(平成25年)〜2017年(平成29年)の5年間に全国で発生した小学生の交通事故死傷者(99,040人)について、学年ごとに状態別の死傷状況の分析結果を表示したそのグラフをみると、小学3年生以下に比べ小学4年生以上の死傷数が少ないことが認められますが、その差はわずかで、死者数ほどの大きな格差はないことが判明します。また、学年別の死傷者数をみても、最も多いのは小学1年生ではなく、小学2年生が最多で17,871人、次いで小学3年生が17,793人、小学1年生は17,538人で3番目、以下、小学4年生(16,325人)、5年生(15,113人)、6年生(14,400人)という順で少なくなっていますが、特筆するほどの差はないといえる状況です。そこで、学年ごとの状態別の死傷状況をみると、小学1年生では「歩行中」の死傷者数(7,461人)が最も多く42.5%を占め、以下、「自動車乗車中」が38.4%、「自転車乗用中」が18.9%という状況になっていますが、2年生以上になると、いずれも「自動車乗車中」の事故死傷者数が「歩行中」や「自転車乗用中」の事故死傷者数よりも多いという状況にあるということもきちんと認識する必要があります。また、「歩行中」の事故死傷者数に限ると、死者数の場合と同様、小学1年生が最も多く、以下、学年が高くなるにつれ、その死傷者数は減少していますが、それと同様に、交通事故死傷者数も学年が高くなるにつれ少なくなると認識するのは、とんでもない思い違いで、死傷者の状態別状況に違いが生じているだけで、高学年になるにつれ、「自動車乗車中」や「自転車乗用中」の事故死傷者数の割合が高くなり、交通事故死傷者数全体の発生状況では学年別で特別視しなければならないほどの格差はない―ということもしっかり認識しておくことが必要です。なお、この小学生の状態別の「死傷者数」の分析結果では、「歩行中」の事故に次いで問題視されるようになってきた「自転車乗用中」の事故死傷者数の学年別発生状況も読み取ることができますが、分析結果レポートの標題自体が「小学生 歩行中の交通事故」となっていますので、本稿では以下に、その概要を【参考】として紹介することでとどめ、「小学生 歩行中の交通事故」の死傷状況の更なる詳細を見ていくこととします。
【参考】小学生の事故死傷者の学年別「自転車乗用中」の事故死傷者数
※2013年・平成25年から2017年・平成29年(全国・5年間)
◎小学1年生の死傷者17,538人中の3,291人
◎小学2年生の死傷者17,871人中の4,449人
◎小学3年生の死傷者17,793人中の5,879人
◎小学4年生の死傷者16,325人中の6,353人
◎小学5年生の死傷者15,113人中の6,111人
◎小学6年生の死傷者14,400人中の5,981人
※小学生の全死傷者計99,040人中の32,064人が「自転車乗用中」の事故死傷者
★去る3月22日付で警察庁(交通局)が公表した「児童・生徒の交通事故」と題する交通事故統計分析レポート中の「小学生 歩行中の交通事故」編の分析結果の第2としては、「歩行中」の死傷者数の「月別・時間帯別」発生状況がグラフ表示されていますが、レポート冒頭にある「分析結果の要点」では、先にも紹介したように、「月別では4月〜7月と10月・11月が多い。時間帯別では15時台〜17時台と7時台が多い」とまとめられており、確かに棒グラフで表示された分析結果を見る限り、月別では、4月〜7月と10月・11月にかけて二つの山なりが認められます。しかし、それは1月・2月・3月・8月の死傷者数が4月〜7月と10月・11月に比べ少しばかり少ないこと、中でも8月の死傷者数が他の月に比べ極端に少ない結果として見える山なりで、むしろ、月別発生状況では8月の死傷者数が他の月に比べ極端に少ないことの方が注目に値すると思います。また、時間帯別では、「15時台〜17時台と7時台が多い」と「分析結果の要点」にまとめられていますが、7時台の死傷者数は小学1年生も2年生も共に12%ほどで、棒グラフで見る限り、確かに一つの山をなしていますが、15時台〜17時台の死傷者数は小学1年生も2年生も共に50%以上となっていますので、「15時台〜17時台が多発時間帯」になっていると認識した方がよいと思います。というのも、分析結果の第3として、歩行中の「通行目的別死傷者数」がグラフ表示されており、「登下校中、特に下校中が多い」という要点記述があり、確かに、小学生全体では「登校中」が14.5%、「下校中」が20.8%を占め、他の項目、たとえば、「遊戯中・15.6%」や「訪問(行帰中)・11.3%」などよりも高い割合を占めています。また、特に小学1年生の場合、登下校中、中でも「下校中」の死傷者が22.4%を占め、小学生全体でみるよりも高い割合を示しています。
★しかし、「登下校中」が多いといっても、計35.3%にとどまり、他の「通行目的」、つまり、「登下校中」以外の「通行目的」での事故死傷者数の方が圧倒的に多いことの方を注視すべきだと思うのです。その点からすると、先に見た「時間帯別」の要点、すなわち、「15時台〜17時台と7時台が多い」というのも、そのほとんどが「登校中」とみられる「7時台」(小学生全体で12.3%)はともかくとして、53.5%をも占める「15時台〜17時台」の方をより注視し、「下校中」以外の「通行目的」での事故死傷者数が多いことを重視する必要があると思うのです。もちろん、「15時台〜17時台」の事故死傷者の中には「下校中」の事故死傷者も含まれており、特に問題視されている小学1年生・2年生の場合、学校での授業時間が午後にも及ぶ場合もあり、下校時間が15時台になることがありますので、「時間帯別」で1年生・2年生の場合、15時台の事故死傷者数(22.5%)が最も多くを占めていることとも符合します。しかし、小学生の「歩行中」の事故死傷者の半数以上を占めている1年生・2年生の場合でも、「時間帯別」では15時台に次いで16時台・17時台が多く、双方の計で30%ほどを占めていることを勘案すると、「登下校中」以外の通行目的で歩行中の事故死傷者数のほうが多いという、「要点」とは違った特徴が浮かび上がります。この特徴は死者に限ると、より顕著で、小学生の「歩行中」の死者の64%余りを占める1年生・2年生の死者のうち、「登下校中」の事故死者は4分の1、25%余りにとどまり、圧倒的多数の死者は「登下校中」以外の通行目的時の事故によるものです。そして、「時間帯別」の発生状況を勘案すると、下校・帰宅時直後の外出時に多数の事故死傷者が発生している、という特徴を認めることができます。
★さらにまた、今回の警察庁(交通局)の「児童・生徒の交通事故」という交通事故統計分析レポートにはありませんでしたが、小学1年生・2年生の「歩行中」の事故死傷者の「自宅からの距離別」発生状況を分析・検証した結果によると、小学1年生・2年生の「歩行中」の事故死傷者の70%以上が自宅から500メートル以内の道路で死傷しているという実態をも勘案すると、「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ること」の必要性・重要性が一層高まっている今日、小学生のうちでも、特に「歩行中」の事故死傷者が多い小学1年生・2年生を交通事故から守るためには、子どもたちの自宅近辺の、いわゆる生活道路での交通事故防止対策を入念かつ効果的に促進することが最も重要な課題だと考えます。もちろん、登下校時に通行する道路、いわゆる「通学路」やスクールゾーンでの交通事故防止対策を綿密かつ着実に実施することも必要不可欠な課題ではありますが、近年、集団登校中の子どもたちの隊列に車が突っ込み、複数の死傷者を出すという痛ましい事故が相次いで発生したことも影響してか、小学生の交通事故防止イコール登下校時の事故防止対策という認識に傾注しすぎているのではないか・・・と、「雑記子」は危惧しているのです。しかし、先に紹介したように、小学生、中でも、小学1年生・2年生の「歩行中」の事故死傷者の多くは「登下校中」よりも帰宅後の遊戯・訪問その他の通行目的の「歩行中」の事故で死傷している実態からすると、登下校時の安全対策以上の重大事という認識の下、子どもたちの自宅周辺(自宅から500〜1,000メートル以内)の道路での交通事故防止対策を早急・入念かつ効果的に促進することこそが最重点課題だと考えるのです。
★その点からすると「小学生 歩行中の交通事故」と題する交通事故統計分析レポートの末尾にある「小学生歩行中の交通事故防止対策の要点」で述べられている「通学路、スクールゾーン、ゾーン30などの生活道路等において、関係機関・保護者等で合同点検を実施する」こともさることながら、それぞれの子どもの自宅周辺(自宅から500〜1000メートル以内)の道路の安全点検と、その道路状況に応じた効果的な「横断の仕方」等の安全教育・指導(方法)を周知徹底することの方が緊急的かつ必要不可欠な対策だと考えます。すなわち、「小学生歩行中の交通事故防止対策の要点」では、「子供への『横断の仕方』の教育」として、「横断歩道や信号機がある交差点が近くにあるときは、そこまで行って横断すること」、「横断する前に、青信号や横断歩道でも、『立ち止まる』『右左をよく見る』『車が止まっているのを確認する』こと」、「横断中は『右左をよく見る』こと」の三つが重点教育(指導)項目として掲げられていますが、これらの教育(指導)は、どれだけ意識的なことなのか、その点が定かではありませんが、横断歩道や信号機がある交差点で横断することを大原則にしたものだと思います。しかし、子どもたちの自宅周辺の道路の大多数は、いわゆる住宅地域内の道路で、横断歩道や信号機がない交差点が圧倒的に多いのが実態であり、子どもたちの歩行中の事故死傷者の大多数も、そうした横断歩道や信号機がない交差点で発生していることを勘案すれば、付近に横断歩道や信号機がない道路での「安全な横断の仕方」の教育(指導)方法をこそ周知徹底しなければならない大原則にすべきだと考えるのです。
★少子高齢化が急速に進行し、「次代を担う子供のかけがえのない命を社会全体で交通事故から守ること」の必要性・重要性が一層高まっている今日、幸いにも、交通事故の発生件数の減少傾向が定着し、事故死者数も激減しています。だからこそ、今後の交通安全対策に当たっては、「次代を担う子供のかけがえのない命を交通事故から守る」ための諸対策をこそ最重点として取り組むべきだと思うあまり、去る3月22日付で警察庁(交通局)が公表した「児童・生徒の交通事故」と題する交通事故統計分析レポートを題材とした本稿ですが、ついつい、いつもより字数が多くなり、それでもなお、言い尽くせぬ部分が残ってしまいましたので、いずれ近いうちに再び「子供の交通事故防止」を取り上げることを約束し、とりあえず、「次代を担う子供のかけがえのない命を交通事故から守る」ための諸対策を有効的かつ効率的に実施するためのスタートライン・出発点は、子どもの交通事故の発生状況をしっかり分析・掌握し、その分析結果を多角的に検証し、対策推進上の課題を的確に把握することだ―ということを確認して本稿の結びとします。(2018年5月21日)