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お知らせ
2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月25日

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交通安全時評

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アメリカ・トランプ政権の発足と独善的迷走、中国・習近平一強体制と巨大国家構想、北朝鮮の核武装化への独善的動き、ドイツ・メルケル政権とヨーロッパにおけるEU体制の弱体化、そして日本の「安倍一強体制」等々、世界的な政治の混迷・混乱期として特徴づけられるであろう2017年もまもなく年末を迎えようとしていますが、この12月1日、東北自動車道の岩手県の花巻南IC―盛岡南IC間の上下線約30キロの区間で最高速度が時速110キロに引き上げられました。これは、先月(11月1日)から実施された新東名高速道路の静岡県の新静岡IC―森掛川IC間の上下線約50キロの区間に続くものですが、1963年(昭和38年)に国内初の高速道路(名神高速道路)が開通して以降初めての引き上げとなるものです。ただし、この最高速度の引き上げは、あくまでも、この先、1年間ほどに限る「試行」であり、また、大型貨物自動車の事故は重大事故になりやすいことを理由に規制速度は80キロのままです。

こうした「試行」が実施されるようになったのは、4年前の2013年、国家公安委員長が有識者を集めた懇談会が、新たに開通した新東名高速道路など、車線幅や路肩が広く、カーブや勾配も少なく、120キロで安全に走行できる構造の高速道路が多くなってきたことに加え、大半の車が規制最高速度を超えて走行している現状に鑑み、現状の高速道路の規制最高速度の見直しを検討するよう求めたのを機に、警察庁が2015年6月に専門家や国土交通省職員をメンバーとする委員会を立ち上げ、全国各地の高速道路の状態や事故の特徴、車両の走行速度、海外の規制速度の状況等を調べてきた結果、昨年2016年3月、道幅が広い、事故が少ない、実際の走行速度が100キロを超えている、渋滞が少ない、120キロで安全に走行できる道路構造であることなど、一定の条件を満たせば規制最高速度を引き上げられると判断、まずは、岩手県の東北自動車道と静岡県の新東名高速道路で規制最高速度110キロでの試行を行い、安全が確認できれば対象を広げ、最高速度も120キロに引き上げていく方針を固めた結果に基づくものです。

なお、こうした規制最高速度の見直し、引き上げは高速道路に限ったものではなく、一般道でもすでに実施されています。一般道での規制最高速度は事故の危険性や道路構造等を踏まえて都道府県公安委員会が定めていますが、実際の走行速度(実勢速度)と大きく乖離しているところも少なくないため、警察庁は2009年度から交通の円滑化を図るため、一般道の規制最高速度の見直しを実施し、2014年度からは特に40キロ、50キロ規制の路線のうち、実際の速度(実勢速度)がおおむね20キロ超上回っている区間などを対象に規制最高速度の見直しを進めてきましたが、今年2017年8月3日、警察庁は、2014年度―2016年度の規制最高速度の点検・見直しの実施状況等の分析結果を公表しました。それによると、2014年度―2016年度の検討対象は8,006区間の1万9,337キロで、このうち、2,610区間5,000キロでは、時速40キロから50キロまたは60キロに、50キロから60キロへの緩和を決めましたが、これは、40キロ、50キロ規制路線の総延長の3.2%に当たることが判明しました。また、この緩和区間の10%で実際の走行速度(実勢速度)が5キロ以上上昇する一方、5キロ以上低下したところも15%あり、緩和区間の68%では実勢速度が規制最高速度以下となったことも判明したほか、規制最高速度を引き上げた区間の半数弱の1,244区間について規制最高速度引き上げ前後1年間の事故発生件数を調べたところ7.1%減少しており、この期間、全国の事故発生件数は年平均6.9%減少していますので、規制最高速度引き上げ区間での減少ぶりがわずかながら上回っているという結果になっていることも分かりました。つまり、規制最高速度引き上げは事故の増加要因になるのではないか・・・いう懸念がまったくの杞憂であったことが実証されたわけです。

そもそも、いわゆる「スピードの出しすぎ」による事故が多い、という「神話」を信じている人が非常に多いように思います。しかし、事故の発生実態を事故統計等で検証してみると、「スピードの出しすぎ」による事故が多い、走行速度が高くなるほど事故発生の危険が高まるというのは、まぎれもない「安全神話」、つまり、間違った思い込みであることが確認できるはずなのにもかかわらず、です。そこで、以下に、多分、一般にはあまり見聞きされていないと思われる「危険認知速度(事故直前速度)」別の事故発生状況を紹介してみます。周知のことと思いますが、警察は、発生した(人身)交通事故について、発生日時・場所をはじめ、事故当事者の状況や事故に至る経緯、違反項目等々を捜査(調査)し、およそ100項目にわたる事故関連情報をまとめた「交通事故統計原票」を作成していますが、その捜査(調査)項目の一つに「危険認知速度」という項目がありますが、この「危険認知速度」というのは、端的に言えば、事故に至った時の走行速度のことで「事故直前速度」とも言います。つまり、交通事故の第一当事者となった自動車または原動機付自転車のドライバーが、相手車両や人、路上・路側工作物などの危険を認知し、ブレーキやハンドル操作などの危険回避措置を取る直前までの走行速度のことで、事故車のブレーキ痕や車体等の損壊の程度、または事故当事者や目撃者の証言などから推計されるものですから、多少の誤差があることは否定できません。しかし、過去に積み重ねられた膨大な調査経験やデータなどに基づいて、「最低でもこのくらいの速度だった」として推計されますので、事故直前の走行速度の実態を相当に高い精度でうかがい知ることができる極めて重要な安全情報です。特に近年はドライブレコーダー搭載車の普及により「危険認知速度」の判定精度は一層高まっていますが、警察の「交通事故統計原票」上の「危険認知速度(事故直前速度)」は、時速「10キロ以下」から「100キロ以下」までは10キロ刻みで、「120キロ以下」から「160キロ以下」までは20キロ刻みで区分されているほか、「停止中」、「調査不能」も含め16に細分されていますが、公益財団法人交通事故総合分析センターの基礎データにより、最近年3年間(2014―2016年)に全国で発生した年平均およそ50万件におよぶ人身事故の「事故直前速度」の発生状況を検証してみると、「20キロ以下」での事故がおよそ60%を占めて最も多く、これを含め、年平均およそ50万件におよぶ人身交通事故の90%弱もが時速40キロ以下の走行速度で発生している、という驚くべき実態が明らかになります。驚くべき、というのは、多分、多くの人々が思い描いている走行速度と事故との関連認識とはあまりにも大きく食い違っているだろうと思うからにほかなりません。

ちなみに、死亡事故に限ってその「事故直前速度」別の発生状況を検証してみても、「40キロ以下」が40%余りを占めて最も多く、これを含め、死亡事故の80%以上が「60キロ以下」で発生しており、時速80キロを超えた速度での死亡事故は10%に満たない、という実態にあります。また、「市街地」と「非市街地」、それぞれの事故についてその「事故直前速度」別の発生状況を検証してみると、「市街地」では、時速40キロ以下での事故が90%以上を占め、死亡事故に限ってみても、その半数以上が時速40キロ以下で発生しているのに対し、「非市街地」での事故の「直前速度」は当然ながら「市街地」での事故の「直前速度」よりも総じて高い傾向にありますが、それでも時速40キロ以下での事故が80%近くを占めており、死亡事故に限ってみても、時速40キロ超―時速60キロ以下での死亡事故が40%余りを占めて最も多く、時速80キロを超えた速度での死亡事故は10%に満たないという状況にあります。念のため、これらの事故の中には高速道路(指定自動車専用道路を含む、以下同じ)での死亡事故も含まれていますが、ちなみに、高速道路での死亡事故に限ってその「事故直前速度」別の発生状況を検証してみると、「80キロ超―100キロ以下」が36%ほどを占め、また、「80キロ以下」での死亡事故も45%余りを占めておりますが、時速100キロを超える速度での死亡事故は20%に満たないという実態にあります。つまり、「市街地」での事故はもとより、「非市街地」での事故、高速道路での事故に限ってみても、いわゆる「スピードの出しすぎ」によるとみられる事故は、予想外に少なく、「実勢速度」(大多数の車が実際に走行している速度)以下での事故が圧倒的に多い、というのが「事故直前速度」別の発生状況の実態です。

こうした「事故直前速度」別の発生状況を踏まえれば、規制最高速度引き上げは事故の増加要因になるのではないか・・・という懸念は、何ら根拠のない間違った思い込みによるものであることが明らかですから、規制最高速度の引き上げはできるだけ早急に実施し、実勢速度との乖離を解消することこそが、いわゆる「順法意識」を高めることにも資すると考えます。しかし、そもそも、「規制最高速度の見直し・引き上げ」では問題の根本的解決には至らない、というのが「雑記子」本来の立ち位置です。というのも、規制最高速度の基準にもなっている現行の「法定」最高速度は、半世紀以上も前の1960年(昭和35年)に制定・施行された現行の道路交通法の規定によるもので、この当時の国内には高速道路も存在していませんでしたし、都道府県道や市町村道はもちろん、国道の多くですら未舗装のジャリ道が多く、歩車道の分離もまだ少なく、信号機のない交差点も圧倒的に多かった上に、自動車のエンジン性能やタイヤ性能等も今日に比べれば格段に劣っていたその時代に、「道路標識等による指定がない場合の最高速度は時速60キロ」と定めたものです。それから、半世紀以上の歳月を経て、国道はもちろん、都道府県道や市町村道に至るまで、その大半が舗装路となり、歩車道の分離や信号機の整備等の道路交通環境も当時に比べ格段に促進され、自動車のエンジン性能やタイヤ性能等もすこぶる良質なものに進歩を遂げ、実勢速度との乖離も大きくなっている今日、いまだに半世紀以上も前の未舗装・ジャリ道でも妥当だった化石的規定を何の違和感も持たず、そのまま踏襲し、金科玉条のごとく守り続けてていることこそが、関係当局者の怠慢と言わざるを得ない大問題なのです。

ちなみに、国内に初めて高速道路が造られたのは半世紀ほど前の1963年(昭和38年)、翌年に開催される第18回夏季オリンピックの東京開催に向けてのインフラ整備の一環として首都高速道路網や名神・東名高速道路の建設が急ピッチで推進され、国内初の高速道路や自動車専用道路が出現することになったことを受け、道路交通法の一部改正が行われ、「高速自動車国道等における自動車の交通方法等の特例」条項が新設・施行されました。そして、この特例条項新設に伴う道路交通法「施行令」の一部改正によって「自動車が高速通行路を通行する場合の最高速度は、乗車定員10人以下の普通乗用自動車は時速100キロ、それ以外の自動車は時速80キロ」として高速自動車国道での最高速度が初めて規定されたわけですが、この規定は当時の日本車の性能等を考慮すれば妥当性が極めて高い規定であったと思います。すなわち、当時の日本製の自動車の多くは貨物自動車で、一般的な普通乗用自動車は普及途上の少数派にすぎなく、しかも、当時の貨物自動車はもちろん、普通乗用自動車でも、時速100キロで1時間ほども走ればオーバーヒートしかねない程度の性能の代物でしたから、普通乗用自動車でも、時速100キロという最高速度の規定は極めて妥当なものであったと思います。しかし、その後の日本車の性能向上は目覚ましく、時速100キロで1時間ほども走ればオーバーヒートしかねないという危惧が解消されたばかりではなく、欧米車以上に故障が少ない車として国際的にも評価され、欧米等の海外にも普及していきました。また、全国的な高速道路網の実現に向け次第に伸長されてきた高速自動車国道の多くでは「クロソイド曲線(カーブを無理なく曲がることができる緩和曲線)」を取り入れるなど高規格の設計基準で施工されてきたことや多くのドライバーが高速走行に熟達してきたことなどが相まってか、高速道路での実勢速度は100キロを超え、法定の最高速度との乖離が目立つようになっているのが実情です。
【参考】高速自動車国道での最高速度は、当初、上記にもあるように、「乗車定員10人以下の普通乗用自動車は時速100キロ、それ以外の自動車は時速80キロ」と規定されていましたが、1965年(昭和40年)の道路交通法施行令の一部改正によって「大型乗用自動車(バス)及び普通自動車は時速100キロ、それ以外の自動車は80キロ」と改正され、その後も何度かの改正が行われ、現在では大型貨物自動車、特定中型貨物自動車、トレーラー、大型特殊自動車だけが時速80キロ、それ以外の大型乗用自動車、中型乗用自動車、特定中型貨物自動車を除く中型貨物自動車、準中型自動車、普通自動車、大型自動二輪車、総排気量125ccを超える普通自動二輪車、緊急自動車の最高速度は時速100キロとなっています。

繰り返しになりますが、今、本当に必要なのは、単なる「規制最高速度の見直し・引き上げ」ではなく、「法定」最高速度を規定している現行の道路交通法、すなわち、半世紀以上も前の道路交通環境も、安全施設整備状況も、自動車の性能も、今日のそれとでは質的にも、量的にも、大きな違いがある旧時代に制定され、半世紀以上を経た今では、交通実態との大きな乖離を生じている現行の道路交通法を抜本的に見直し、クルマ社会の「革命的変革」にも対応できる新たな道路交通法の制定・施行を実現するという認識をきちんと共有したうえで取り組む問題なのです。ちなみに、クルマ社会の「革命的変革」とは、急速に促進されている自動車の「脱エンジン化」や「自動走行車の実用化」のことで、道路交通法の抜本的見直しと新たな道路交通法の制定・施行は、この点からしても必須の課題であり、かつ、早急に成し遂げなければならない緊急課題となっているのです。したがって、「規制最高速度の見直し、引き上げ」作業は、それはそれとして独自にというのではなく、「自動走行車の実用化」などクルマ社会の「革命的変革」に対応するため、現行とはまったく異なったベースに立つクルマ社会の「新時代」にふさわしい新たな道路交通法等関連法令を策定、施行するための作業の一環として総合的に取り組むべき問題である、ということを強調し、この稿を閉じることにします。
(2017年12月27日)

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