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お知らせ
2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月25日

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  • 【第103回】

交通安全時評

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今年の3月21日付のこの「雑記」でも紹介しましたが、政府(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)は、昨年2016年5月に「官民ITS構想・ロードマップ2016」を策定し、今年2017年には「遠隔操作による無人運転の公道実験」を実施し、2020年までには「遠隔操作による無人バスやタクシーの実用化を目指す」という計画目標を明示していましたが、今年の2月には、政府の成長戦略をつくる「未来投資会議」の5回目の会合が首相官邸会議室で開催され、運転者が不要な「完全自動運転車」の一部を2020年度に実現するための「実行計画」をまとめました。それを報じた新聞各紙の記事からすると、その「実行計画」等の概要は、まず、「2020年までに運転者が乗車しない自動走行車の導入によって、地域の人手不足や移動弱者を解消する」ことを目途として、(1)過疎地など地方での無人自動走行による移動サービスの実験を2017年度内に行う、(2)2018年1月からは、先頭車と複数の後続車両(有人)のトラックの隊列自動走行の実験を高速道路で行い、(3)2019年1月からは後続車両が無人のトラックの隊列自動走行の実験を高速道路で行い、(4)2020年度には高速道路の隊列走行と地方での無人自動走行による移動サービスを実用化する―というものです。

しかし、現行の道路交通法では、自動車(車両)の運転はあくまでも運転者による運転を前提としているため、公道での遠隔操作による無人運転等の実証実験は違法となる、という大きな障壁があり、「自動運転車」の開発・実用化の激しい国際的競争にさらされている自動車メーカー等からは、この障壁の早期解消を願う意向が高まっていました。警察庁では、こうしたニーズ・意向を受けて、公道での遠隔操作による無人運転等の実証実験を実施可能とするための方策を有識者を交えて検討していましたが、現行の道路交通法第77条の「道路使用」条項の「都道府県公安委員会が定める行為」(都道府県公安委員会規則)を改正し、公道での遠隔操作による無人運転等の実証実験を都道府県公安委員会による「道路使用許可」の対象行為とすることで実証実験の実施を可能とする意向を固め、この6月1日付で、その許可基準(「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」)を公表しました。その許可基準は(1)使用する無線通信システムが原則として途絶えない場所であるなど実験車両を安全に走行させるために必要な通信環境を確保できる場所であること、(2)一般の道路利用者の通行に特段の著しい支障を及ぼす場所や日時でないこと、(3)遠隔監視・操作者が、映像および音により、通常の自動車の運転者と同程度に、実験車両の周囲および走行する方向の状況を把握できること、(4)交通事故等の場合に、警察官が必要に応じて、実験車両の原動機の停止等ができるよう、原動機の停止方法その他実験車両が交通の障害とならないようにするための措置の方法に係る資料を警察に提出していること、(5)遠隔監視・操作者が常に法上の運転者としての義務および責任を負うことを認識させるための措置を講じること、(6)実験車両の正面、背面および側面に遠隔型自動運転システムを用いて走行している旨が表示されていること、さらに(7)実証実験実施以前に、警察官又は運転免許試験の試験官等の警察職員が実験車両に乗車するなどし、順法かつ安全に実験車両を走行させることができることを確認すること(事前審査)などが定められており、今夏(6月中)には各地の警察で許可申請の受け付けを開始するとしていますが、早くも6月3日付の日本経済新聞では、愛知県のアイサンテクノロジー社(3次元地図事業者)が全国初の公道実験に乗り出すことが内定した、ということを報じています。安全面の配慮からアメリカ・IT企業等に比べ、無人運転(車)には比較的慎重な姿勢を取ってきた日本の自動車大手メーカーにおいても、公道実験の基準が明確化されたことによって、「無人運転」の技術開発やその公道での実証実験実施への動きが急速に活発化する状況になってきたことは確かで、この点では「2020年までには遠隔操作による無人バスやタクシーの実用化を目指す」という政府目標も達成可能のように思われます。

しかし、この特例的な「許可基準」(遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準)にも、運転者の存在を前提とした現行の道路交通法に照らして十分な整合性が取られているとは言い難い重大な問題点が残されています。すなわち、遠隔監視・操作者が常に法上の運転者としての義務および責任を負うことを自覚して遠隔操作に当たっていても、万一、事故が発生した場合には直ちに事故現場に急行できず、現行の道路交通法上に規定されている「危険防止措置」や「救護措置」の義務が果たせないことが少なくない、という点がそれです。こうした問題点を残したままでの見切り発車的な特例的措置としての「許可基準」の導入により、現行の道路交通法下での「遠隔型自動運転システムの公道実証実験」を可能としたのは、ひとえに、「2017年には遠隔操作による無人運転の公道実験を実施し、2020年までには遠隔操作による無人バスやタクシーの実用化を目指す」とした政府目標(「官民ITS構想・ロードマップ2016」)に合わせるための急場しのぎの苦肉の策だとの印象が拭いきれません。仮に、この急場しのぎの苦肉の策としての措置は、公道での遠隔操作等による無人運転走行の実証実験を加速するためにはやむを得ぬ措置だと認めるにしても、2020年までに公道での遠隔操作等による無人運転走行を実用化するためには、たとえ、実証実験等により「無人自動運転(車)」の技術開発が実用化のレベルに達しても、現行の道路交通法をはじめとする関連法令の抜本的改革が為されなければ「無人自動運転(車)」の実用化は「絵に描いた餅」になってしまいます。もちろん、政府等もそのことを十分に承知しているはずで、「完全自動走行の実現に向け、どのような法令を整備する必要があるかをまとめた大綱を今年度中に策定し、安全基準に関する規定や事故があった場合にだれが責任を負うべきかなどを規定する関連法の改正案を2018年にも策定する方針を表明している」(2017.5.7付毎日新聞『クローズアップ2017』)とのことです。しかし、「関連法の改正」というレベルで、しかも、1年足らずの年月で「整備する法令の大綱」を策定し、その後、1年以内に「改正案を策定する」という性急すぎるタイムスケジュールでの関連法の整備で、果たして本当に「無人自動運転(車)」の実用化社会に対処しきれるのか、大きな懸念を抱かざるを得ません。

改めて確認しておきたいのですが、「無人自動運転(車)の実用化」は、これまでの「クルマ社会」の基盤を覆す自動車史上の大革命です。したがって、現行の道路交通法など関連法令の単なる一部改正や一部付加などの小手先的整備で、その革命的事態に対応するというのはあまりにも安直すぎて、はじめから「2020年までに公道での遠隔操作等による無人運転走行を実用化する」という政治的目標を優先させた「帳尻合わせ」の粗雑・杜撰(ずさん)な対応で、それでは必ずや早々に様々な問題が発生し、社会的混乱や思わぬ被害をもたらすことになるだろうと懸念するのです。繰り返して確認しておきますが、「無人自動運転(車)の実用化」は、これまでの「クルマ社会」の基盤を覆す自動車史上の大革命です。それ故にその革命的事態に的確に対応するためには、全く新たな道路交通法など関連法令の体系を策定構築・施行するべく腰を据えての取り組みが必要不可欠だと考えます。さらに付言すれば、その新たな法体系の検討・策定構築に当たっては、関係当局者のみならず有識者を交えた然るべきプロジェクトチームを立ち上げてその作業に当たるべきことはもちろん、そのプロジェクトチームでの議論等を逐次公表し、問題点を明らかに示しつつ、広く国民世論の関心と理解を高め、またその意見等にも謙虚に配慮しながら、大多数の国民が賛同できる法体系を構築していく、というオープンな過程を踏むことも必要不可欠なポイントだと考えます。なぜなら、「無人自動運転(車)の実用化」の実質的担い手になり、その恩恵を受けるのも一般国民であると同時に、予想外の様々な制約や負担・被害を強いられることになる可能性もあるのが多くの一般国民だからです。だからこそ、広く国民世論の意向を確かめつつ、その理解と賛同を得ながら「無人自動運転(車)の実用化」を推進すべきだと考えますが、現状ではそうした広報的活動が為されないままに、政府の意向だけが優先され、一般国民の理解や意向は度外視され、あまりにも性急に事を推し進めているように思えてなりません。

確かに、「無人自動運転車」の導入が実現すれば、交通事故の減少や交通渋滞の解消、また、運送業界の人手不足や過疎地域等の移動弱者の解消にも役立つ可能性はあります。しかし、そのためには、「無人自動運転車の導入の安全性」が十分に担保されたものでなければなりません。もちろん、「無人自動運転車」の導入を促進している政府や自動車メーカー等もそのことは十分に認識しており、その安全性に自信を持つからこそ、早々の実現化を促進しようとしているのでしょう。だが、しかしです。どんな先進技術・ハイテクにも「絶対安全」などはあり得ません。むしろ、未知の先進技術・ハイテクだからこそ、想定外の未知の危険が隠れ潜んでいるものだ、ということを、これまでのあまたの先進技術・ハイテクの産物が証明してきているのは厳然たる事実で、3・11東日本大震災で「原発の安全性」の「神話」が崩壊したのがその典型でしょう。しかし、それにもかわらず、「廃炉」に向けた道筋や日々増加し続けている「核ゴミ」の処理方法も未解決のまま、目先の利益を優先し、「再稼働」を良しとする一握りの存在が実質的決定権を発揮している我が国において、あまりに性急すぎる「無人自動運転車の導入」の安全性がどれほど検証され、担保されるのか、大いなる疑念を抱かざるを得ないのです。

なお、「雑記子」は、「無人自動運転(車)の実用化」を成し遂げる上で必要不可欠なのは、これまでの「クルマ(自動車)社会」とは全く次元の異なる新次元の「クルマ(自動車)社会」に見合う全く新たな法体系の構築だと考えます。しかし、政府等では、既存の関連法体系の単なる一部改正や一部付加というような短絡的整備で済むべく考え、かつまた、広く一般国民の理解を高め、その意向等を確かめることも不十分なまま、単なる一部改正や一部付加的すぎる法整備を性急・短絡的に進めている、という観点から「無人自動運転(車)の実用化」の安全性に大きな危惧を抱くものですが、奇しくも、去る4月3日の日本経済新聞にイギリスの日刊経済紙「フィナンシャル・タイムズ」(2015年12月から日本経済新聞の傘下となっている)のコラム「アルファビル」の担当記者イザベラ・カミンスカ氏の手になる「自動運転技術の落とし穴」と題するコラムが掲載され、「自動運転技術」そのものの危険性を指摘していますが、これは「無人自動運転(車)の実用化」を「安全第一」で推進していく上で決して見過ごすことができない重要な指摘だと思われますので、以下に、そのコラム記事を抜粋して「自動運転技術の落とし穴」の概要を紹介しておきましょう。

まず、カミンスカ記者はコラム記事の冒頭で「(自動運転車は)安全性を高める技術とされている。だが、開発段階にある現時点でそう考えるのは非常に大胆といえる。何しろ、安全性の向上を確認する科学的根拠がまだないのだ」と、根源的な疑義を表明しています。そして、「(自動運転車の)技術が向上しているのは間違いない。しかし、たとえ、技術的な課題が克服できても、社会に予想しないような大きな悪影響がもたらされる事態(負の外部性)はおそらく防げないだろう。例えば、米ライドシェア最大手ウーバーテクノロジーズの自動運転車が、米アリゾナ州で最近起こした事故だ。試験運転中のウーバーの車両に過失はなく、相手の車の運転手が道を譲らなかったのが原因だ。安全な自動運転の普及に向け、道路上での人間の運転手とのやりとりは大きな課題だ。人間が行動する動機はアルゴリズムの動機と大きく異なる。基本的に、ほとんどの運転手は自身や他人を守ろうとする。アルゴリズムではそれが保証されない。・・・略・・・(また)自動運転車はハッキングされれば、いとも簡単に凶器となる。・・・略・・・(また)プログラマーに信頼を置けるかという問題もある。・・・略・・・、自動運転車はプログラマーが設計し維持管理する。人数が多く説明責任を追及されにくい彼らは、常に適切に動機づけされていると言い切れるだろうか」等々、というように、自動運転車の技術上に潜む根源的な危険性を指摘しています。

「雑記子」による註、アルゴリズムとは、「定式化された手順による問題解決法」というような意味・概念で、コンピュータープログラム等がそれに該当する。

日本はもとより欧米各国の自動車メーカーやIT企業等がその技術開発にしのぎを削り、技術的には実用段階にあるとされる自動運転車も、冷静に考えれば、イザベラ・カミンスカ記者が指摘するように、その技術的「安全性」が科学的に証明されているわけでは決してないことは確かです。その上、「雑記子」も懸念してきたように、「自動運転車の実用化」に伴う関連法の整備等も拙速すぎる状況にあります。にもかかわらず、なぜ、「自動運転車の実用化」を急ぐのでしょうか・・・。繰り返しになりますが、確かに、「無人自動運転車」の導入が実現すれば、交通事故の減少や交通渋滞の解消、また、運送業界の人手不足や過疎地域等の移動弱者の解消にも役立つ可能性はあります。しかし、そのためには、「無人自動運転車の導入の安全性」が十分に担保されたものでなければならない、この最も肝心な点を決して疎かにしないでほしいと、関係当局(者)に強く強く訴えて今回の「雑記」の結びにしようと思った今日6月15日、テレビニュースでは早朝から「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法案が、国会の野党はじめ日弁連や日本ペンクラブ等の有識者らも強く反対の声を上げ、かつ、国民の多くもその詳細等をよく理解できないままに、14日からの夜通しの参院で、同法案の廃案をアピールする市民グループが国会を取り巻く中、委員会での採決を省略して本会議で採決するという異例の手続きにより可決したことを報じていましたが、そのニュースを視聴しながら、なぜか、拙速すぎる「自動運転車の実用化」の動きと、「内心の自由」等という基本的人権が犯される恐れがあると懸念されている「テロ等準備罪」を新設する「改正組織犯罪処罰法」が強引に可決されたことが相まって、何となく「危なっかしい世の中・社会」が近づいているような嫌な予感を抱いたことを付記して稿を閉じます。
(2017年6月16日)

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