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お知らせ
2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月25日

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交通安全時評

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新聞・TV等のマスメディアでも報道済みですが、去る9月23日から25日までの3日間にわたり、長野県軽井沢町で、先進7ヵ国(G7)の「交通大臣会合」が開催され、自動運転・ITS技術は「交通事故の削減や交通渋滞の減少、物流の効率性の改善、運転者の負担軽減に資する」という認識を共有し、その早期実用化に向け「相互に協力し、リーダーシップを発揮」し、「統一された安全基準等、国際的に調和したルール作りに努める」ことなどを盛り込んだ共同宣言を採択して閉幕しました。これにより、自動運転車の開発・普及に向けた取り組みが一層加速されていくと思いますが、ただ、「統一された安全基準等、国際的に調和したルール作り」はその緒についたばかりで、現実には、日米欧の主導権争いも激しく、その実現にはまだまだ多くの時間と労力を要することと思われますが、少なくとも、自動運転車そのものの開発技術は、ほぼ実用段階に迫っているという状況にあること等について、前3回の「雑記」で詳細にわたり紹介しましたが、今回の「雑記」では、その自動運転車、道路交通手段の最先端のテクノロジーとは正反対の対極に位置するローテクの道路交通手段であり、かつ、今後の道路交通安全上の重要課題の一つである「自転車」に関する話題をテーマにしてみようと思います。道路交通安全上の重要課題になっている自転車にかかわる問題点等については、この「雑記」でも過去何度も取り上げてきましたが、一般財団法人「日本交通安全教育普及協会」が発行している月刊誌『交通安全教育』の2016年8月号に、少なくとも、「雑記子」の知見では、これまでには見聞きしたことがなかった視点での自転車の交通安全にかかわる論稿、岩手県立大学名誉教授・元田良孝著の「日本の自転車交通の混迷 ―時代遅れの道路交通法、歩道通行の大罪―」が掲載されていましたので、その概要を紹介しつつ、自転車の交通安全問題を改めて考えてみたいと思った次第です。

元田・岩手県立大学名誉教授は、論稿の冒頭で、「日本は世界でも有数の自転車大国。その保有台数の推計は自動車のそれにほぼ等しい約7千万台。交通機関利用分担率も13%と高く、保有と利用の両面でトップグループにあるが、自転車交通は道路交通法という法律はあるものの、実質コントロールされているとはいいがたく、交通違反は日常的で無法状態と言ってもいい状況にあり、交通事故死傷者数も多いが、その主な原因は時代遅れの道路交通法
(アンダーラインまたはアンダーライン部分の(  )書きは「雑記子」による。以下同じ)と、歩道通行の横行にあり、この両者の問題を解決することなく日本の自転車交通の将来はない」と断じています。そして、筆者の元田・岩手県立大学名誉教授は、大学に転職する前の20年余間、建設省(現在の国土交通省)で道路管理者として勤務していたとのことですが、その当時、自転車は歩道を走るものと思い込んでいて自転車専用の道路空間の整備など不要と考えていたそうで、それは筆者のみならず当時の大多数の道路管理者の考えであり、現在でも同じ考えの人も少なくないと反省の弁を述べ、そうした経歴を有する故に、自転車交通の正常化が自らの生涯の課題と思っていると述べ、「なぜ自転車に関して道路交通法は時代遅れの法律なのか」、「なぜ歩道通行がいけないのか」を解説し、「自転車交通システムの改革について世論に訴えたい」としていますが、先にも記したように、道路交通法にかかわる根源的な問題点等を論拠にした自転車の安全通行問題をテーマにした論稿は、少なくとも「雑記子」の知る限り初見と思えるだけに、多くの関係者の必読を願っている次第です。ちなみに、元田氏のこの論稿は、この手の月刊誌(『交通安全教育』)では比較的珍しい14ページをも割いた長文ですが、7節に分かれ、それぞれの節にテーマ(要旨)が記されていますので、それを順にたどって見ていくだけでも、論稿の全体像がおぼろげに把握できるのではないかと思いますが、以下にその概要を紹介しておきましょう。

まず、論稿の冒頭、1には「日本の自転車はクレージー」というテーマが記され、以下、2は「日本の自転車の状況」というテーマのもと、明治以来の日本における自転車利用概史、保有台数の推移や人口当たりの保有台数および自転車の交通事故死者数の国際比較等が紹介され、3の「自転車の治外法権化」では、自転車(利用者)の交通違反が日常化し、多発している。しかし、それを取り締まる法律はあるが実効性がなく、実質、「処罰無し」という状況で「治外法権化」している―という実態が詳細に紹介されています。ちなみに、「治外法権化」=「取り締まる法律はあるが実効性がない」ことの根源について、「自転車は『交通反則通告制度(行政処分)』の対象となっておらず、1968年(昭和43年)以前と同様全て赤切符で処分しなければならない。自転車には50年以上前の法律しか用意されていない。・・・略・・・(このため)自動車に比べて危険性が低い自転車の違反の全てに刑罰を科するのはバランスが悪いこと、また自動車と同様な保有台数で違反も膨大であることから起訴して裁判をするのは検察にとっても裁判所にとっても処理能力をはるかに超えてしまう。・・・略・・・。警察もその事情を知っているからあまり赤切符も切れない。・・・略・・・。自転車の赤切符は年々増えているとはいえ2015年は約1万2千件で、起訴されているのはこのうちの1%にも満たない。(だから)実質処罰無しと言ってもよく自転車は治外法権化しているのである」と論じています。また、この「3.自転車の治外法権化」に続く第4節では「車に衝突・・・歩道通行の大罪」という節題のもと、「1970年(昭和45年)に道路交通法が改正され区間を指定して自転車の歩道通行を許した。・・・略・・・。さらに1973年(昭和48年)には道路交通法が改正され、歩道を通行できる自転車の要件が定められた。以降自転車の主な通行空間は歩道となり、歩道は事実上の自転車道になった。ところが自転車の歩道通行は多くの矛盾を抱えており合理的な通行方法とはとても考えられない」として、1)安全効果がない、2)歩行者の保護ができない、3)非現実的で実施も取締りも困難な法律、という3つの基本的根拠要件に分け、自転車の歩道通行の不合理性を論じていますが、この中で「雑記子」が特に注目したのは、一定の条件を課しながらも、自転車の歩道通行を取り入れたその最大理由は、車道上での自転車と自動車の交通事故の危険を削減することにあったと思いますが、自転車の歩道通行によって、道路外施設に出入りするため歩道を横断する自動車との事故が増加し、また、T字路等の交差点で歩道から一時停止もせずに飛び出してくる自転車との事故が増加したりなどして、自転車の歩道通行による自転車と自動車の交通事故の危険の削減性が認められない―としている点です。

自転車の歩道通行可の道路交通法一部改正が施行された以後の1989年(平成元年)には、冬期間、降雪などにより自転車利用が極端に減少する北海道でも、通年でみると、「自転車事故」の発生件数が、いわゆる「歩行者事故」のそれを上回りましたが、「歩行者事故」に比べ、死者数が少ない故か、関係機関・団体、マスコミ等でもほとんど注目されず、また、その発生実態もほとんど不明でした。そこで、弊社の交通安全キャンペーン誌・月刊『シグナル』の1990年(平成2年)の4月号(通巻No.207号)で「自転車事故の実態を探る」という特集を組み、北海道警察交通部交通企画課の協力も得て、1989年(平成元年)に北海道内で発生した3千件余の自転車事故の「衝突形態」別の発生状況を詳細に調査分析し、多発パターン等の結果を掲載し、事故直前まで歩道通行していた自転車による事故が60%以上を占めていること、また、歩道上での自動車との衝突事故も多発していること等を明らかにしました。また、1995年(平成7年)4月発行の『シグナル』(通巻No.267号)では、宮城県警交通部の協力を得て、1993年(平成5年)に宮城県内で発生した自転車事故の「衝突パターン」を明らかにした分析調査結果を特集掲載しましたが、それでも、事故直前まで歩道通行していた自転車による事故や歩道上での自動車との衝突事故が多発していることが明らかに示されています。

また、第4節の3)非現実的で実施も取締りも困難な法律、という項においては、自転車が歩道を通行する上で道路交通法に定められている3つのルール、すなわち、(1)車道寄り通行、(2)徐行通行、(3)歩行者優先というルールの遵守は、車道寄りの歩道上には植栽や電柱などが多く、徐行の定義も曖昧で、事実上、実行も取締りも困難で制度的に完全に破たんしている―という点も注目に値すると思います。

また、第5節の「無視され続けた自転車インフラ」の項では、「車優先の道路整備」が行われた結果、自転車の走行空間、自転車道や自転車レーン等の整備が無視され続け欧米に比べても著しく立ち遅れていることを嘆き、第6節の「正常な自転車交通システムを目指すため」の項では、「(自転車の)違反に適切なペナルティーを」、「歩道通行の段階的な廃止とインフラの整備」を提言、また、自転車利用者に対する「車道走行の訓練」の必要性も提言しています。冒頭でも記しましたが、「自転車の安全通行」に関する論稿は、特に近年、少なからず目にすることが多くなっていますが、「雑記子」が知る限り、そのほとんどは、自転車利用者の「自転車の交通ルール遵守」を説く類のもので、「時代遅れの道路交通法」という根源的視点での論稿は極めて貴重で、多くの関係者に必読を推奨したく、今回「雑記」に取り上げ、その概要を紹介した次第ですが、この「雑記」の読者諸兄にはご承知の方も少なくないと存じますが、この「雑記」では、過去に何度も「自転車の安全通行」にかかわる問題を取り上げてまいりました。その「雑記」の観点から、今回紹介した、元田良孝氏の「日本の自転車交通の混迷 ―時代遅れの道路交通法、歩道通行の大罪―」と題する論稿に敢えていくばくかの論評を加え、この「雑記」の結びにしたいと思います。

元田氏が今度の論稿で指摘している通り、現在の「自転車の安全通行」問題にかかわる諸問題とその混迷の根源には「時代遅れの道路交通法」が大きくかかわっていること自体は「雑記子」もかねてから何度も指摘しており、元田氏のこの論稿によって大いに意を強くした次第ですが、元田氏の指摘は、1970年(昭和45年)の道路交通法一部改正により、指定区間での自転車の歩道通行の許可、さらには、1973年(昭和48年)の道路交通法一部改正による「歩道を通行できる自転車の要件」の規定等をもって「時代遅れ」としておりますが、さらに深部の根源として、1960年(昭和35年)に制定・施行された道路交通法において、自転車は、自動車の仲間、「車両」の一部として定義づけられていること、そのことこそが決定的な「時代遅れ」の規定なのだ―というのが「雑記子」の観点です。したがって、元田氏も指摘している「無視され続けた自転車インフラ」整備問題も、元田氏自身がかつて建設省で道路管理者として勤務していた当時、「自転車は歩道を走るものと思い込んでいて自転車専用の道路空間の整備など不要と考えていた」、「現在でも昔と同じ考えの人が少なくない」と告白しており、それが「自転車インフラ整備が無視され続けた」根本的要因になっていることはその通りですが、そもそも、道路管理者の多くが「自転車は歩道を走るものと思い込んでいた」のは、1973年(昭和48年)の道路交通法一部改正による「歩道通行の特例」措置の結果であって、それ以前はもとより、それ以後も、自転車は「車両」であり、「車道通行」が当然の原則なのだから、特別に自転車のみのためのインフラ整備などは二の次、三の次という考えが深底に居座っていた結果というのが真実ではないかと思うのです。また、自転車利用者の遵法意識の低さや無法ぶりも、原則としての「車道通行」と特例としての「歩道通行」がその時々の様々なキャンペーン・広報等で行ったり来たりして揺れ動いて定まらず、また、「無視され続けたインフラ整備」も相まって、自転車利用者の遵法意識それ自体を根本から破壊した結果の事象だ―というのが「雑記子」の視点であり、元田氏の論稿での「時代遅れの道路交通法」の解消では、この点にまでは及んでいない点を残念に思います。それ故に、「自転車の安全通行」問題を根本的に改善・解決していくためには、道路交通法の自転車の通行にかかわる部分のみの抜本的見直し・改善で済ますのではなく、道路交通の利用者を歩行者と「車両」の2者に区分した視点で成り立つ半世紀前に制定・施行された現行の道路交通法それ自体の適否を根本的に問い直し、一部改正という取り繕いではなく、道路交通の利用者を、歩行者、自動車と並列する自転車の3者を基本とする、すなわち、自転車に歩行者、自動車と並ぶ一人前の「市民権」を与えたまったく新しい道路交通法を制定・施行する、その作業に早急に取り掛かることこそが真の課題であると思っていることを改めて強調しておきたいと思います。なお、まったく新しい道路交通法の制定・施行は、「自転車の安全通行問題」の解決のみならず、近年、急速に浮上し、その実現化が迫っている「自動運転車」にかかわる法的インフラ整備にもかかわる根源的課題であることも付記しておきたいと思います。
(2016年10月20日)

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