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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月21日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その145 コーチングについて
交通リスクコンサルタント 小林 實

「指南」の意味

 日大アメフト部が試合で起こした反則行為をテレビで見ましたが、まったく予想できない背後からのタックルで、不意を突かれた相手選手の倒れ方からは、子供のころにやった「ひざかっくん」という遊びのイメージを強く感じました。幸い、大きなけがにならずに済みましたが、本人の意思ではなく「相手をつぶせ」という監督やコーチの指示に従ったこの違法行為は、今や大学全体の問題にまで広がりつつあります。意図的に反則行為を指示するということは、明らかに監督なりコーチの仕事の領域を逸脱しています。
 ところで、中国の故事に「天子南面す」という言葉がありますが、これは、天子は常に北を背にして座ることから南に面する―ということです。それに由来して、中国ではお客を招待した際、客は北側に座ることになりますが、このように中国では古くから方向に大変敏感であったらしく、戦いの際には、車に載せた歯車仕掛けの人形が常に一定方向(主に南)を指す「指南車」を使い、これにより進撃する方角を間違えない工夫をしていたようです。江戸時代には、大名などに武芸などを教える役を「指南番」と呼ぶようになり、それが転じて、指導することを「指南」と言うようになりました。
 この指南という言葉が示すように、コーチというのは、こっちの方向だよとか、こうやるのだよという大枠をつかむ教え方といいましょうか、それをやるのが仕事です。その立場にある人が違法なプレーを強要するようなことは、明らかにコーチの役割から逸脱しています。

コーチの本来の役割とは…

 コーチという言葉は、もともとはハンガリーの「コチ」という町で作られた四輪馬車に由来するものですが、この馬車にはいわゆる「サスペンション」が付いていて大変乗り心地が良かったことから、馬車の代名詞となりました。
 アメリカの鉄道などにも、かつてコーチという完全個室がありましたが、これも「楽な乗り物」という意味でしょう。また、この言葉は1800年代半ばころ、家庭教師の力で難関のオックスフォード大学に合格した学生に対し、比喩的に「楽な乗り物に乗った」というスラングとして使われ、家庭教師のことをコーチと呼ぶようになりました。いずれにしても、コーチという言葉は古くから「大切な人を、その人の望むところまで送り届ける」、つまり人の目標達成をサポートする―という意味で使われていました。
 ちなみに、英語で運河のことを「カナル(canal)」といいますが、この動詞であるcanalizeには「方向づけ」という意味もあります。コーチの役割とは、まさにこの「方向付け」であり、手取り足取りの指導というのはコーチとしての役割とはいえません。女子テニスプレーヤーとして最近めきめきと頭角を現している大坂なおみさんが今年コーチを変えてから好調である理由のひとつに、新しいコーチの寄り添い型のコーチングにより、お互いの信頼感が高まった―ということがあるそうです。
 ところで、卵からヒナがかえろうとするとき、殻の内側から自分でつつくことを「啐(さい)」といいます。一方、母親が外から殻をつつくのが「啄(たく)」であり、この二つが同時に発生することによってヒナは外へ出ることができます。いずれかが早くとも、また遅くとも卵はかえりません。これを「啐啄(そったく)の機の原理」といいます。外から殻をつつく、つまり、機を捉えるのに敏感なのがコーチの役目でもあり、それが指導者の能力ということでしょう。

コーチングとティーチング

 最近、「コーチング」という言葉が方々で使われるようになりましたが、一言でいえば「主体性を引き出す育成法」です。これと対称的なのが「ティーチング」というもので、これは、自分の持っている知識や技能、経験などを相手に伝え、教え込む―という手法です。
 ティーチングは、学校でいう先生と生徒の関係であり、一度に多数の人数の育成が可能で、極めて能率的な手法といえますが、一方通行の教育法であり、教えられる側が受け身になりがちです。成功しても自信につながりにくく、仮に失敗した場合には、教え方が悪い―というような責任の転嫁がされやすいといえましょう。
 これに対し、コーチングというのは、基本的に「教える」ことをせずに「問いかけていく」というスタンスをとります。つまり、対話を通じて相手から様々な行動の選択肢を引き出すわけです。これは、指導者と指導される者との「双方向のコミュニケーション」を通じて、指導される者の自発的な行動を促す手法といえるでしょう。
 もちろん、教育の初期段階では、基本的な知識を共有する必要がありますから、ティーチングの手法により進めることになります。しかし、学習がある程度進行し、それなりの知識であるとか経験が積まれた場合には、できればコーチングの手法を組み合わせることが望ましいといえます。これにより、本人が自分の側から答えを引き出そうというスタンスができてくるわけです。

(次回に続く)

 

 小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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バックナンバー

第146回
運転教育とコーチング
第145回
コーチングについて
第144回
かくれんぼができない子供たち
第143回
これからの安全管理
第142回
「駐車場」というワナ
第141回
脅かされる歩行者空間
第140回
台車事故を考える
第139回
「注意」の落とし穴
第138回
デイサービスと安全管理
第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
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自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
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