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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年11月8日

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交通安全時評

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周知のことと思いますが、現在、70歳以上の高齢ドライバーが運転免許を更新する際には「高齢者講習」の受講が義務づけられており、さらに、75歳以上の免許更新者(3年ごと)には「認知機能検査」も義務づけられています。この「認知機能検査」の結果は、(1)「記憶力・判断力の低下の心配はない」〔3分類〕、(2)「記憶力・判断力が少し低下している」〔2分類〕、(3)「記憶力・判断力が低下している」〔1分類〕の3つに区分され、「認知症の疑いがある」とされる1分類と判定された場合でも、過去1年以内に「信号無視」や「一時不停止」、「逆走」など所定の違反歴がない限り、専門医の診断を受けることも必要なく、免許は次の更新時まで有効となります。ただし、免許更新後に、「信号無視」や「一時不停止」、「逆走」など所定の違反で検挙された場合は専門医の診断を受けることが義務づけられ、認知症と診断されたり、診断書を提出しなかったりすれば免許の取消しや停止の処分を受けることとなっています。

しかし、過去10年間(2004年から2013年)に限ってみても、75歳以上の高齢ドライバーが第1当事者または第2当事者になった人身交通事故は、全国の年間の人身事故件数が年々減少の傾向をたどっているのとは反対に、年々増加の傾向をたどり、10年前(2004年)に比べ1.4倍近くにも増加し、人身事故全体に占める割合も10年前の約2倍、7%ほどを占めるに至っています。また、75歳以上の高齢ドライバーが第1当事者となった死亡事故も増加の傾向をたどり、2013年には全死亡事故の10%余となる458件が発生、このうちの30%余りとなる142件が認知機能の衰えが疑われるドライバーによる事故だった―という状況等を憂慮した警察庁は、去る1月15日、免許更新時の「認知機能検査」で「認知症の疑いがある」とされる1分類の「記憶力・判断力が低下している」との判定を受けたドライバーに専門医による診断を義務づける道路交通法の一部改正の試案を公表し、一般からの意見も募って最終案をまとめ、現在開会中の通常国会に提出するとしています。

こうした警察庁の意向に対し、精神科医ら約1万6千人でつくる公益社団法人・日本精神神経学会は、2月3日付で「認知症と危険な運転との因果関係は明らかではなく、この道路交通法改正は拙速だ」とする意見書を警察庁に提出しました。すなわち、学会は、「私たちも交通事故の減少を望む」としたうえで、「欠格とされているのは介護保険法に規定する認知症であり、医学的な意味での認知症全般を指すわけではありません。(警察庁の)改正試案は、その混同をあえてしており、用語の使用法という観点からしても不適切」、「認知症の診断は短期記憶の障害を重視しますが、これは医学的に妥当なことですが、記憶障害それ自体が運転に与える影響は小さい」、また、「医師はその疑いの者も含めて病気と診断する傾向にあり、これも健康維持という観点からすれば妥当なことですが、運転能力が残されているにもかかわらずそれが制限されてしまう者を生じさせる可能性がきわめて大きく、診察場面や検査で適切な方法が現在存在しない以上、安易な診断書作成には協力できない」、さらに、「平成25年中の認知機能検査で認知症のおそれがあると判断された者は34,716人という多数に及ぶことが明らかにされているが、こうした多数の者を診察する医師をどのように確保するのか、その方策が全く示されていない。また、その診察の際の費用負担のあり方が明らかではなく、数万円以上に及ぶと思われる費用を本人が望まない診察において、その負担を強いることが適切か」、「運転を奪うことによる生活障害への補償がない」、「真に重症の認知症の高齢者は、免許がなくなったことすら失念して運転することもあり、その際の事故の損害賠償は家族におよぶことがあり、家族の救済にもならない」、したがって、「道路交通法の改正より前になすべきことがたくさんあり、今回の改正は見送り、当事者(家族)団体、医療関係団体、関係学会、司法関係者、有識者で構成される検討会を開催し、十分な検討を行うことを強く望む」というものです。

確かに、警察庁が憂慮するように、我が国の「少子高齢化」は世界的にみてもトップクラスの勢いで進行しており、それに伴いドライバーの高齢化も急速に進行し、高齢ドライバーによる交通事故が増加する傾向にあることも事実で、今後の交通安全対策上、高齢ドライバーの安全運転確保が重要であることに異存はありません。しかし、75歳以上の高齢ドライバーは、他の年齢層のドライバーに比べ、総じてその心身機能が低下していることは事実だとしても、それ故に高齢ドライバーは他の年齢層のドライバーに比べ交通事故を起こす危険性が高い―と決めつけるのはあまりにも短絡的です。先にも述べたように、過去10年間(2004年から2013年)をみると、全国で発生した人身交通事故の年間発生件数は年々減少傾向をたどり、10年前に比べ2013年には32万件余、33%以上も減少していますが、65歳以上の高齢ドライバーによる事故だけは増加の傾向にあり、特に「認知機能検査」の対象となっている75歳以上の高齢ドライバーが第1当事者または第2当事者になった人身交通事故は、10年前(2004年)に比べ1.4倍近くにも増加し、人身事故全体に占める割合も10年前の約2倍、7%ほどを占めるに至っているのは事実です。しかし、75歳以上の高齢ドライバー人口(運転免許保有者数)も10年前(2004年末)の215万8千人余から424万8千人弱(2013年末)と、2倍近くにも増加していますので、75歳以上の高齢ドライバーによる事故の増加は、75歳以上の高齢ドライバー人口(運転免許保有者数)の増加に見合ったものにすぎず、75歳以上の高齢ドライバーが他の年齢層のドライバーに比べ特別に事故を起こしやすいことの証左にはなりません。

ちなみに、ドライバーの年齢層を24歳以下の「若年層」、25歳から39歳の「青年層」、40歳から64歳の「壮年層」、そして65歳以上の「高齢層」という4つに区分し、その年齢層ごとの免許人口(運転免許保有者数)当たりの事故発生率を算出して比較してみると(2011年から2013年の平均概数)、65歳以上の「高齢層」は、96分の1、つまり、免許保有者96人につき1人が1年以内に人身事故の第1当事者または第2当事者になっているという状況にありますが、これは他の3つの年齢層の事故発生率に比べ最も低い値です。問題の75歳以上の高齢ドライバーに限ってみると、65歳以上の「高齢層」全体よりは事故発生率が幾分高い値になりますが、それでも、他の3つの年齢層の事故発生率よりは低いという結果になっており、「75歳以上の高齢ドライバーは他の年齢層のドライバーに比べ事故を引き起こしやすい」といえる状況にはありません。ただ、これはあくまでも、運転免許保有者数をベースにした単純な事故発生率ですから、より厳密な事故発生率を算出するには、免許保有者のうちどれだけの免許保有者が実際に運転しているのか、また、その運転頻度や年間の走行距離はどのくらいか、といった事項を調査し、少なくとも「走行台キロ当たり」の事故発生率を算出して比較しないことには、年齢層ごとの事故発生率の実相は把握できません。したがって、今後の交通安全対策上、高齢ドライバーの安全運転確保策が重要な課題の1つであることは確かですから、その安全対策を効果的・効率的に推進するためには、安易・拙速に「認知機能検査」の結果による診断の義務化を図ったりする前に、高齢ドライバーの運転実態把握のための基礎的データを収集する調査をしっかり行い、それらのデータを多角的・科学的に分析することが必要不可欠だと思います。また、それ故にこうした調査研究は警察行政の枠を超えて社会的・国家的プロジェクトとして行われるべきです。

また、問題の「認知機能検査」の結果による診断の義務化についても、日本精神神経学会の意見書にもある通り、認知症と危険運転の因果関係を明らかにしていくための研究調査をこそまずしっかり行うことが必要不可欠だと考えます。ちなみに、警察庁が「認知機能検査」の結果による診断の義務化を図る道路交通法の一部改正に踏み切ったのは、近年、増加傾向にある高速道路における「逆走」事案の多くが75歳以上のドライバーによるものであり、そのうちの相当数が認知症が疑われる高齢ドライバーによるとみられることが大きな要因の1つになっていると思われますが、75歳以上のドライバーによる「逆走」事案が多いとはいっても、そのすべてでは決してありません。ちなみに、東日本・中日本・西日本・首都・阪神・本州四国の6つの高速道路株式会社が警察庁の協力も得て最近3年間(2011年から2013年)に発生した「逆走」事案を調査分析した結果をまとめた資料によると、この3年間に発生した「逆走」事案は541件で、そのうちの68%が65歳以上のドライバーによるとなっていますので、高齢ドライバーによる「逆走」事案が多いことは確かです。しかし、残念ながら、問題の75歳以上のドライバーによる事案はどれだけあるか、この資料では不明ですし、認知症が疑われるドライバーによる事案は37%となっていますが、そのすべてが高齢ドライバーなのかどうかも不明です。その一方、「健常者」による「逆走」事案が半分以上、55%を占めています。ですから、「逆走」事案=認知症=高齢ドライバーとみるのはあまりにも早計すぎます。すべての「逆走」事案をさらに綿密に検証分析し、「健常者」による「逆走」事案はどのような経緯・原因で発生したのか、認知症が疑われるドライバーによるとみられた事案については、認知症のどのような疾患が「逆走」を招いたのか、その経緯等も究明して「逆走」事案の発生実態をより明確にしていかなければ「逆走」事案の有効な防止策も出てこないと思いますが、この調査研究も、警察や道路管理者の枠を超え、医学や人間工学、心理学等の専門家を含めた学際的プロジェクトを組んで行われることが必要だと思います。少なくとも、高齢ドライバーによる「逆走」事案が多いことを根拠に「認知機能検査」の結果による診断の義務化を図るというのは、日本精神神経学会の意見書の指摘を待つまでもなく、明らかに拙速すぎると思います。

もちろん、警察庁が憂慮しているように、ドライバーの「高齢化」が急速に進行している現状のもと、今後の交通安全対策上、高齢ドライバーの安全運転確保策が重要な課題の1つであることは確かです。しかし、その解決・対応策は、警察行政単独で、特に道路交通法の一部改正によって成し遂げられるほど安直な課題ではありません。先にも述べたように、まさしく、社会的・国家的プロジェクトとして取り組むべき課題で、警察庁はこのことこそを然るべき関係機関・関係者に強く訴えるべきだと思うものです。
(2015年2月25日)

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