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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年11月8日

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交通安全時評

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12月8日、札幌高等裁判所(以下、札幌高裁と略す)で「小樽飲酒ひき逃げ事件」の控訴審が開催されましたが即日結審し、懲役22年を言い渡した一審札幌地方裁判所(以下、札幌地裁と略す)の裁判員裁判の判決を支持し、被告側の控訴を棄却する判決を出しました。「小樽飲酒ひき逃げ事件」とは、昨年2014年7月に小樽市銭函の海水浴場(おたるドリームビーチ)に出入りする歩車道の区別がない幅員5メートルほどの狭い市道で、酒気を帯びて時速50キロから60キロの速度で運転中、15秒から20秒間スマートフォンを見ていて、進路前方を通行中の海水浴帰りの若い4人の女性を見落として衝突し、3人を死亡させ、1人に重傷を負わせたにもかかわらず、救護義務を果たさず、現場から逃走したという事件(事故)で、当初、札幌地検では、被告(32歳男)が酒気を帯びて運転していたことは明らかだが、飲酒の影響で「正常な運転が困難な状態」であることを自覚しながら運転した―という「危険運転致死傷罪」の要件には該当せず、運転中にスマートフォンを見るため15秒から20秒間も進路前方から目をそらしていたこと(脇見運転)が直接の事故原因とみて「過失運転致死傷罪」と道路交通法違反(ひき逃げ、酒気帯び運転)で起訴しました。しかし、被害者遺族らはこれに納得せず、「危険運転致死傷罪」の適用を求める要請書を地検に提出し、また、署名活動もしてその署名簿を地検に提出し、最高検察庁にも上申書を提出したりして活発な活動を行いました。その結果、被害者遺族らが6回にわたり地検に提出した署名数は累計7万人を超えるものとなり、こうした被害者遺族らの活動を受けての結果なのか、地検は補充捜査を経て同年10月に至り、「危険運転致死傷罪」に切り替える異例の訴因変更を札幌地裁に請求しました。さらに、地検は2015年6月に至って「予備的訴因」として当初の「過失運転致死傷罪」と道路交通法違反(ひき逃げ、酒気帯び運転)の罪状を追加するよう札幌地裁に請求し、札幌地裁はこの「予備的訴因」の追加を許可するという異例の経緯をたどり、2015年6月29日、裁判員裁判の初公判が開かれ、7月9日、裁判長は、検察の求刑通り、2006年に福岡市職員が起こした幼児3人を死亡させた飲酒ひき逃げ事故の確定判決(懲役20年)を上回る懲役22年の実刑判決を言い渡しました。

この判決の根拠等について、裁判長は、「被告は当日の午前4時30分から正午すぎまでの7時間半近く、・・・略・・・、分かっているだけで生ビール中ジョッキ4杯、缶酎ハイ4、5缶、焼酎のお茶割り1杯を断続的に飲み続け、完全に酔い潰れた。2時間程度寝込んだ後も、・・・略・・・、第三者から見ても、まだ酒が残っているとうかがわれる行動をとっており、運転開始直前も、『まだ二日酔いのような状態で体がだるく、目もしょぼしょぼしていた』というのだから、飲酒の影響による体調の変化を自覚するほどの酔いが残っていたと認められる。・・・略・・・、そもそも、時速50キロから60キロで車を運転しながら、15秒から20秒も下を向き続ける運転態様自体が、『よそ見』というレベルをはるかに超える危険極まりない行動だ」と断じています。そして、被害者遺族らはこの判決後、記者会見で「親としての責任を果たそうとしてここまで来た。良い結果になり、非常にうれしい。被告は真摯に受け止め、控訴しないでほしい」との所感を述べました
(北海道新聞2015・7・10朝刊所載)

しかし、この札幌地裁の判決をめぐっては、刑法学者など専門家においても、「市民の飲酒運転に対する厳しい感覚が反映された判決で、危険運転致死傷罪の適用は妥当だ」とする見解がある一方で「問題のある判決だ。スマートフォンの操作で前方を見ていなかったことがアルコールの影響と言える根拠が弱い。被告はいつもどんな運転をして、飲酒で運転にどう影響があったのか、行動に着目すべきだ。スマートフォンを操作しながら直線道路を走行していたことは逆に、運転ができていた(運転能力があった)とも言える。そうした点への言及が少なく、感情的な判決だと感じる。福岡の裁判では運転行動に対して危険運転致死傷罪が成立したのに対し、今回の判決は悪い意味で適用の幅を広げた。根拠が曖昧という悪い先例になりかねない」
(北海道新聞2015・7・10朝刊所載、高山俊吉弁護士)、また、「危険運転致死傷罪の成立を導くために相当無理を重ねている。福岡事件の最高裁決定の論拠に依拠し、『正常な運転が困難な状態』だったことを裏づける客観的事実に乏しく、主観的に同罪を認定した」(北海道新聞2015・7・10朝刊所載、福岡事件の被告人主任弁護人・春山九州男弁護士)との批判意見もあり、結局、被告側は、7月23日付で、「酒気を帯びていたことは確かだが『正常な運転が困難な状態』には当たらず、運転中にスマートフォンを操作していたことが原因だ」として札幌高裁に控訴しました。

冒頭に紹介した12月8日に札幌高裁で行われた控訴審判決は、この控訴を受けた結果の判決ですが、争点である「飲酒による危険運転致死傷罪が成立するかどうか」について、札幌高裁判決の要旨は以下の通りです。すなわち、「幅が狭く歩車道の区別がない道路だったことなどを踏まえると、正常な注意力や判断力を保持している運転者であれば、スマートフォンを見ながら運転するだけで、危険だという自覚が伴うはずだ。被告は時速50キロないし60キロ前後という相当な速度で自動車を走行させながら、15秒から20秒にわたり、ほぼ前方を見ることなく下を向き続けていた。交通事故を発生させる危険性への配慮が抜け落ちていたとみるほかない。通常では考えられない運転態様だ。事件当日の午前4時半ごろから正午すぎごろまで生ビール中ジョッキ4杯、350ミリリットルの缶酎ハイ4、5缶等を飲んだこと、事故後の検査で基準値を大きく上回るアルコールが検出されたことなども総合的に考慮し、酒の影響で正常な運転が困難な状態にあったと認定した一審判決の判断過程に不合理な点はない」というもので、「自動車運転死傷行為処罰法は、車を現代社会の『凶器』と捉え、危険で悪質な運転を厳しく罰することを前提につくられた特別法だ。一審の裁判員裁判の判決は立法趣旨を踏まえ、飲酒運転を許さないという強いメッセージを発した。プロの裁判官だけではできない判断だ。この裁判員の『市民感覚』を尊重するのは当然で、高裁判決は高く評価できる」とする意見
(2015・12・9発行の北海道新聞朝刊所載)がある一方、福岡事件の被告人主任弁護士を務めた春山九州男弁護士(福岡在住)は、「判決は前後の運転状況の分析を全く行っていない。正常な運転が困難な状態だったかどうかを判断する上で、こうした分析は欠かせない。これを怠ったのは最大の欠陥だ」とするコメントを発しているほか、交通事故の裁判に詳しい高山俊吉弁護士(東京在住)も「処罰感情の高まりという市民感覚に迎合した印象を受ける。被告の運転状況を詳細に検討しておらず、科学的な論拠がない。アルコールの影響だったのか、それとも不注意が原因なのかをもっと追究すべきだ」という批判コメントを発しています。(いずれのコメントも、2015・12・9発行の北海道新聞朝刊所載記事による)

12月22日、被告はあくまでも「直接の事故原因はスマートフォンを見ながらの脇見運転で、飲酒による危険運転致死傷罪の成立を認めた判決は不服」とし、被告の弁護人も「どの程度の酔いで危険運転致死傷罪が適用されるのか。その基準が示されず、納得できない」として最高裁に上告することを決定したとの報道がありましたので、決着にはまだまだ時間がかかることになると思いますが、最終的な判断は最高裁の審理、判決にゆだねざるを得ないとしても、私どもドライバー一人一人も単なる傍観者であってはならないと思います。事件・裁判の経緯等をきちんと理解し、問題の所在を正しく認識し、あるべき判決に相応の意見を持ち、ドライバーの一人という立場での意見を発信していくことが必要だと思うのです。というのも、「飲酒運転(事故)根絶」や「自動車運転死傷行為処罰法」という特別法そのものがドライバーをターゲットにしたものに他ならないからで、その肝心なドライバーの意見をこそ、「飲酒運転(事故)根絶」や「自動車運転死傷行為処罰法」の適否に反映されるべきだと思うからです。特に近年、いわゆる「悪質な飲酒運転死亡事故」に対して、警察や検察、裁判所では、被害者遺族等の厳しい弾劾意思を受けてか、刑罰を「より重く、より広く」科そうとする傾向にありますが、果たしてその傾向に問題はないのか、仮にそれを支持するとしても、飲酒運転と事故の因果関係を科学的・多角的にきちんと裏づけることが必須で、心情的、感情的すぎる判断は厳に排除されなければならないと考えますが、そのためにも何よりもまず、より多くのドライバーが事の顛末、経緯等に対しきちんとした認識を持つことが肝心だと思うのです。また、飲酒運転の罰則強化や条例での規制等は、一部の飲酒運転常習者を一層潜在化させる側面もあり、飲酒運転根絶の決定打にはなり得ていないという事実にもきちんと目を向ける必要があると思います。事実、この10数年間、飲酒運転にかかわる罰則は次々に強化され、総体的には飲酒運転とその事故は確かに減少してきましたが、その一方で、少なからぬ飲酒運転常習者がより根深く潜在化していることも確かで、彼らには罰則強化もほとんど功を奏しておらず、結果として、ドライバーの大多数が必要以上の規制を受けて窮屈な思いをしたり、飲酒運転常習者との事故の脅威にさらされたりしているともいえるのです。そもそも、飲酒運転常習者は、飲酒運転の罰則強化を知らないのではなく、飲酒運転の危険性を実感的に理解していないことが問題なのであり、特に「アルコール依存症」のドライバーは、たとえ、飲酒運転の危険性や厳罰化を理解していたとしても、そのこと自体は「依存症」という病症の治療には全く役立たないことは確かでしょう。だからこそ、「飲酒運転(事故)根絶」の真の問題点は、飲酒運転の危険性、なかでも「酔い」の自覚・症状がない酒気帯び運転の危険性を、どのようにして実感的に理解させるか、そのための教育指導の手法を開発し、組織的、計画的な教育指導体制を確立することだと思いますが、その面での取り組みがほとんど見られませんし、今度の「小樽飲酒ひき逃げ事件」の裁判でも、飲酒運転や酒気帯び運転の危険性については、「スマートフォンを15秒から20秒にもわたり見ながら運転した」ことが「通常では考えられない運転態様」だとの観念的指摘はあるものの、その科学的な根拠は何ら示されもせず、また、科学的な検証も行われていません。また、「アルコール依存症」のドライバーに対する医療的取り組みもきわめて不十分、というよりは、ほとんど手つかずの状態にあり、「飲酒運転(事故)根絶」のためには、こうしたことこそが問題視されるべきだと思うのです。飲酒運転根絶のためには、こうした問題こそが本命であり、罰則強化、条例の制定や「飲酒運転根絶の日」制定などだけではあまりにも心情的すぎると思うのです。にもかかわらず、飲酒運転根絶対策は厳罰化や条例での規制強化のみに流れている風潮に危惧を抱かざるを得ないのです。だからこそ、「小樽飲酒ひき逃げ事件」の裁判にももっと多くのドライバーが積極的な関心を向けてほしいと切に思うのですが・・・。
(2015年12月25日)

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