★総務省が「こどもの日」に合わせて(5月)4日発表した4月1日現在の15歳未満の子どもの推計人口は、前年より16万人少ない1,633万人だった。1982年から33年連続の減少で、比較可能な1950年以降の統計で過去最少を更新した。総人口に占める割合も前年より0.1ポイント低い12.8%で、40年連続して低下した(日本経済新聞2014.5.5)、また、この総人口に占める子ども人口の割合は「人口4,000万人以上の世界30カ国のなかでも最低水準で、一向に歯止めがかかっていない(少子化)実態が浮き彫りになった(北海道新聞2014.5.5)」というような報道が去る5月5日の「こどもの日」のテレビや新聞等のマスメディアのニュースで一斉に流され、論評を求められた識者のなかには、「このままの調子で少子化が進行すれば、近い将来、日本は亡国の危機に直面する・・・」という深刻な警鐘を鳴らす人もいました。
★もちろん、国会や政府・地方自治体でも、これまで何度となく「少子化対策」が論議され、その対策と称する政策が打ち出されてきましたが、それら諸対策が一向に役立っていないこと、事態が一層深刻化していることが証明されたわけですが、安倍政権は、「憲法解釈の変更」と「集団的自衛権の行使容認」こそが「亡国の危機」を脱する緊急課題ととらえて、その実現に猪突猛進しているように思えますが、「雑記子」は、足元の「少子化の深刻な進行」こそが真の「亡国の危機」ではないか・・・と懸念しています。また、これまでの「少子化対策」の論議のなかには、子どもを多く産んだ者(家庭)に、税金を優遇したり報奨金を支給したりといった対策が検討されたこともあるようですが、それは大戦前や戦時中の「産めよ増やせよ」の戦争を遂行するための国策とダブり、嫌悪感を抱かざるを得ません。肝心なことは、女性たちが将来の生活・暮らしに安心感を持ち、子どもを産むことに喜びを感じ、安心して育児に励むことができるような社会環境を早急に作り出すことだと考えますが、まずは、今いる子どもたちが、さまざまな災害や犯罪、事故に巻き込まれ命を落としたり、回復至難な障害を負ったりしないようにすること、それが緊急課題だと思います。
★つまり、端的に言えば、「子どもの安全を守る」ということですが、そんな折、次に紹介する新聞記事のスクラップが目に止まりました。今年4月21日の読売新聞の「学校慣れたら事故注意」と題する記事で、「小学1、2年生が歩行中に交通事故に遭って死傷する人数は、入学や進級直後の4月と比べ、5月から7月に増える傾向にあることが警察庁のまとめでわかった。新しい友人ができて行動範囲が広がる一方、交通ルールが十分に身に付いていないことが一因とみられ、警察庁は、子どもたちだけでなく、保護者や学校にも注意を呼びかけている」「2009年から2013年の5年間のデータを月別に集計すると、1年生の死傷者は4月には693人だったが、5月は1,031人と急増。6、7月も1,000人を超えていた。2年生は、4月が848人だが、5、6月は共に1,000人前後に増えていた。5月から7月に死傷した1、2年生は計6,044人で、うち3,903人(65%)は放課後の午後2時から6時に事故に遭っていた」「警察庁は、この調査結果を文部科学省に伝えたほか、全国の都道府県警に対し、小学校側と連携し、5月以降も、1、2年生に交通ルールを教えたり、下校時間の見守り活動を増やしたりするなどの対策を取るよう求めた」というものです。
★果たして、警察庁の求めに応じて、都道府県警が小学校側とどれだけ緊密に連携し、具体的な対策をどれだけ実施する対応が図られるのか・・・、近年の交通安全対策推進の実情、たとえば、「少子化」による子ども人口の減少に伴い、子どもの交通事故死傷者が急速な減少傾向をたどっていることにより、「子どもの交通事故防止・安全対策」への社会的な関心が以前に比べ相当に薄れている―といった実情などを鑑みると、警察庁が一片の通達を出したぐらいで、都道府県警等の関係機関・団体が警察庁の望み通りに動き出すことには、大いなる疑念を持たざるを得ません。また、いわゆる「交通ルール」を教えることが本当に事故防止のポイントなのか、その点にも疑念を持つものですが、何はともあれ、「少子化」が深刻的に進行しているさなか、子どもたち、特に小学1、2年生を交通事故の危険から守ることは、単に交通安全対策の一課題にとどまらず、まさに将来の「国の存亡」にかかわる重大事であるという認識の共有を図ることがまず必要不可欠であることを強調しておきたいと思います。
★次に、参考のため、問題の小学生の交通事故死傷者の発生状況を検証しておきましょう。まず、小学生の交通事故死傷者数の年別推移を過去10年間(手元にあるデータの都合上、2003年から2012年)についてみてみると、2003年の小学生の交通事故死傷者は全国で4万625人でしたが、以降ほぼ毎年減少し続け、2012年には2万5,350人にとどまり、2003年の死傷者数を指数100とすると、2012年の指数は62.4となり大幅に減少しています。また、この間の死者数の推移をみても、2003年は91人の死者が記録されていますが、2012年は33人にとどまり、死傷者数よりも大幅な減少で、ほぼ3分の1にまで減少しています。もちろん、この間の小学生の人口も減少傾向をたどり、2003年に比べ46万人余も減少していますが、小学生の交通事故死傷者数の減少率はそれをはるかに上回っています。つまり、小学生の人口が減少している以上に小学生の交通事故死傷者数が減少しているということで、結果、人口当たりの死傷率も低減しているという好ましい状況になっています。しかし、それでも、小学校に入学した新1年生が小学校を卒業するまでの6年間に交通事故によって死傷する率を算出してみると、実に38分の1、つまり、小学生である6年間のうちに、38人に一人という極めて高い率で交通事故に遭い死傷しているという実態にあります。確かに、10数年前に比べれば、その率も低減してはいますが、少子化が急速に進行しているさなか、小学生の交通事故死傷者数が年々減少しているという表面的な好ましい状況に目をとられるあまり、子どもたちの安全がこのような高い率で脅かされている実態は決して見逃してはならないことです。
★そこで次には、小学生の「状態別死傷状況」を過去3年間の平均データで検証してみると、小学生全体では「自転車乗車中」の事故死傷者が最も多く37%、以下、「自動車乗車中(同乗中)」が35%、「歩行中」が28%となっており、「自動車乗車中(同乗中)」の事故死傷者が意外に多くを占めているのが注目されます。しかし、問題の小学1、2年生に限ってみると、「歩行中」が最も多く41%を占め、以下、「自動車乗車中(同乗中)」が33%、「自転車乗車中」が26%となっており、特に死者の70%が「歩行中」の事故死者となっていますので、小学1、2年生に対する安全対策としては、やはり、「歩行中」の事故防止をどのようにして図っていくか・・・が重要課題となります。そして、先にも紹介した読売新聞の「学校慣れたら事故注意」と題する記事でも、そうした小学1、2年生の交通事故の多くは、「放課後の午後2時から6時」に発生しているとの警察庁の調査結果が紹介されていましたが、改めて、小学生の「歩行中」の事故死傷者の「通行目的別発生状況」(過去3年間の平均データ)を検証してみると、「登校時」が13%、「下校時」が20%、それ以外の私的時間での「遊戯中」や「訪問・買物時」等の事故が67%と圧倒的多くを占め、「放課後の午後2時から6時」に多発している―ということがこの点からも裏付けられます。したがって、小学1、2年生に対する交通安全対策に当たっては、いわゆる「登下校時」の安全確保もさることながら、帰宅後の交通事故防止こそが最も重要な課題であることを理解しておくことがまず大切でしょう。
★また、小学生の「歩行中」の交通事故死傷者の「自宅からの距離別発生状況」(過去3年間の平均データ)を検証してみると、「500メートル以内」が63%、「1キロ以内」でくくると80%以上を占めることとなり、小学生の「歩行中」の交通事故死傷者のほとんどは、いわば、自宅近辺の日常の生活圏内の道路で交通事故に遭い、死傷している―という実態が浮かびあがってきます。ちなみに、自宅から500メートル前後の範囲内の道路というのは、いわゆる「幹線道路」が含まれる場合もあるでしょうが、ほとんどの場合は、住宅地域などの「生活道路」で、交通量も少ない―というのがその実態です。ですから、警察庁が都道府県警に通達したように、「小学1、2年生に5月以降も交通ルールを教えたり、下校時間の見守り活動を増やしたりするなどの対策を取る」にしても、「横断歩道を、信号に従って横断しましょう」など定番の交通ルール教育を繰り返したり、いわゆる「下校時間の見守り活動を増やす」というような取組みをするだけでは成果があまり期待できません。なぜなら、小学生の交通事故死傷者が多発している道路の圧倒的多数は、自宅から500メートル前後の範囲内の道路で、なかでも、その大半を占めている住宅地域などの「生活道路」には横断歩道や信号機が敷設されていない部分が圧倒的に多いのが実情ですから、「横断歩道を、信号に従って横断しましょう」など定番の交通ルール教育は実践的ではないからです。また、「下校時間の見守り活動」を増やしたとしても、事故の多くは帰宅後の外出時に発生しているのですから、やはり、その成果は限定的なものになってしまうからです。
★したがって、5月から7月にかけて多くなる小学1、2年生の交通事故の防止を図っていくためには、「横断歩道を、信号に従って横断しましょう」など定番の交通ルール教育ではなく、小学生の「歩行中」や「自転車乗車中」の事故が多発している自宅近辺の道路交通状況に応じたきめ細やかな実践的で具体的な指導教育が推進されなければなりません。そのためには、小学生に対する交通安全教育・指導のあり方を根本的に見直し、単なる「ルール教育」ではなく、その地域の道路交通状況に応じた具体的な危険(所在)や安全行動の理解を図り、子どもたち自身の安全行動能力を高めるための教育・指導を確立し、警察のみならず、小学校や家庭・地域社会の関係者の共通理解を図ったうえで推進していくことが必要だと考えるものです。そしてさらには、先にも述べたように、「少子化」が深刻的に進行しているさなか、子どもたち、特に小学1、2年生を交通事故の危険から守ることは、単に交通安全対策の一課題にとどまらず、まさに将来の「国の存亡」にかかわる重大事であるという観点を確立し、小学校教育のなかに交通安全教育を核とした安全教育、つまり、子どもたちの日常生活に散在しているさまざまな危険を理解し、その危険から身を守る危険対処能力を身につけ、その向上を図るための教育を正課として位置づけることこそ、今、求められる真の教育改革ではないかと思う次第です。(2014年5月19日)