★去る4月4日の朝日新聞・夕刊に、「交通死 最も遅い1000人超え―65歳以上が過半数」と題する記事が掲載されていました。今年1月からの交通事故による全国の死者数の累計が、この4月3日で1,000人を超えたが、日付別の統計が残る1970年以降で最も遅いペースだが、(65歳以上の)お年寄りが占める割合が依然として高い―という警察庁の発表を基にした記事ですが、他紙では同様の記事が見られない、というのは何とも残念、かつ不可解と思うのは「雑記子」だけでしょうか・・・。ちなみに、残念、不可解というのは、近年、センセーショナルな交通事故ニュースは全国・地方新聞各紙やテレビニュース等でもよく見かけられますが、交通事故の発生状況に関する記事は以前に比べて少なくなっているように感じられ、これも、交通事故の減少傾向、特に交通事故死者数の劇的な減少によって、交通事故の発生状況は、マスコミにとって、かつてほどのニュース価値を持たなくなっている結果ではないかと危惧するからですが、今回のこの「交通安全雑記」のテーマに選んだのは「高齢者の交通事故死」ですから、これ以上の脱線を避け、話を本筋に戻しましょう。
★冒頭の新聞記事によりますと、今年4月3日に1,000人を超えた全国の交通事故死者数のうち、65歳以上の高齢者(以下、65歳以上の者を高齢者とし、65歳以上の記述を省く)は527人で、昨年同期よりは43人少なくなっているものの、死者全体に占める割合は、過去の記録として最悪だった昨年の52.7%とほぼ並んだ―とのことで、警察庁の担当者は「団塊の世代が高齢者になり、死者数が目立つようになった。引き続き対策を進める」とコメントしているとのことですが、以下では、改めて、近年の高齢者の交通事故死傷状況を検証し、紹介してみようと思います。まず、過去10年間(2004年から2013年)の全国の高齢者の人口の推移をみると、確かに高齢者の人口は10年前に比べ、およそ700万人増加し、1.3倍ほどの3,100万人台となり、全人口に占める高齢者の割合も遂に4分の1を超え、「少子高齢化」が確実に進行しています。したがって、交通事故死傷者に占める高齢者の割合が高くなるのも必然的傾向で、事実、過去10年間の交通事故死傷者に占める高齢者の割合の推移をみると、2004年には高齢者の死傷者は死傷者全体の11.1%でしたが、その割合は年々高くなり、昨年2013年には14.5%にまで上昇しています。しかし、高齢者の人口の増加傾向に比べれば、交通事故死傷者に占める高齢者の死傷者の割合の上昇傾向はさほどのものではないといえます。つまり、高齢者の人口が急増しているほどには高齢者の交通事故死傷者が増加しているわけではない―というのが実態です。ただし、交通事故死者(24時間死者、以下同じ)に占める高齢者の死者の割合に限ってみれば、2004年にはすでに40%を超えていましたが(41.4%)、以降もほぼ毎年その割合は上昇し続け、2012年には50%を超え、昨年2013年には52.7%にまで上昇しています。
★しかし、高齢者の交通事故死者や死傷者が実数で年々増加しているわけではありません。高齢者の交通事故死傷者数こそ2004年から2007年までの4年間、ほぼ「横ばい」の13万2,000人台で推移しましたが、それ以降は減少傾向をたどり、昨年2013年には11万3,000人台まで減少しています。また、問題の高齢者の交通事故「死者数」は、2004年には3,000人を超えていましたが、以降は減少傾向をたどり、昨年2013年には2,300人台まで減少しています。こうした傾向は、もちろん、高齢者に限ったものではなく、交通事故全体の発生件数、死傷者数全体が減少傾向をたどり、特に「死者数」全体は激減傾向をたどっていますので、高齢者の交通事故死傷者並びに「死者数」の減少傾向は特別注目されるものではありませんが、交通事故死傷者数全体が2004年を指数100とした場合、2013年には指数66.0にまで低減しているのに対し、高齢者の死傷者数は85.8までしか低減していませんし、また、2004年の「死者数」全体の指数を100とした場合、2013年には59.4にまで低減しているのに対し、高齢者の「死者数」は75.6までしか低減していません。つまり、交通事故死傷者数全体や「死者数」全体の減少ぶりに比べれば、高齢者の交通事故死傷者数や「死者数」の減少ぶりは鈍い―という状況にあり、これが、高齢者の交通事故死傷者や「死者」が実数で減少しているのに、死傷者・「死者」全体に占める割合が年々上昇していることの要因だといえます。
★したがって、冒頭に紹介した新聞記事にもあるように、今年もすでに4月3日現在で交通事故による高齢者の「死者数」が「死者数」全体の過半数を超えていますが、特別に深刻な事態が招来した―ということではなく、むしろ、事前に十分予測されていたことであるにもかかわらず、そうした事態を招来しないための有効な対策がなされなかったためにこうした結果を招来したことこそを問題とみるべきでしょう。そこで次には、高齢者の交通事故死傷状況の問題点を探るため、高齢者の交通事故死傷者の「状態」別発生状況を紹介しましょう。
★「状態」別の死傷状況とは、交通事故の死傷者が道路をどのような状態で通行中に事故に遭い死傷したか・・・を調査し、まとめた交通事故統計で、その「状態」は、(1)自動車乗車中、(2)自動二輪車乗車中、(3)原付乗車中、(4)自転車乗車中、(5)歩行中、(6)その他の6項目に大区分され、(1)から(4)の乗車中は、それぞれ「運転中」と「同乗中」に細区分されますが、(公財)交通事故総合分析センターの基礎データに基づき、高齢者の交通事故死傷者の「状態」別発生状況を過去3年間の平均概数で検証してみると、高齢者の死傷者で最も多いのは(1)の自動車乗車中の事故による死傷者で51%を占めており、このうち「自動車運転中」が33%、「同乗中」が18%となっているほか、「自転車運転中」が21%、「歩行中」が17%、「原付運転中」が9%、「自動二輪車運転中」が2%となっています。一方、「死者」に限って、高齢者の「状態」別発生状況をみると、「歩行中」が50%を占めて最も多く、以下、「自動車運転中」が17%、「自転車運転中」が16%、「原付運転中」が7%などとなっています。したがって、高齢者の交通事故死傷者の減少を図るためには、「自動車運転中」や「自転車運転中」の事故防止策に重点をおいて取り組むことが必要です。特に近年はドライバーの高齢化に伴って高齢者の「自動車運転中」の事故死傷者の割合が高くなる傾向にあるほか、自転車利用者も増加の傾向にありますので、なおさらです。一方、「死者」の減少を図るためには、「歩行中」の事故防止策に重点をおいて取り組むことが必要となります。つまり、高齢者の交通事故死傷者の減少を図るための重点策と「死者」の減少を図るための重点策は同一ではないということです。果たして、対策の現場でこうしたことが十分に踏まえられたうえでの諸対策が実施されているかどうかの検証が必要だと思います。
★冒頭に紹介した新聞記事によると、「都道府県警察は高齢者対策を強化。地域のお年寄りの集まりなどで、シミュレーターを使った交通安全教育や反射材着用の普及を進めている」としていますが、現状は、こうした諸対策・活動が以前にも増して活発化しているといえる状況にはないばかりか、むしろ、逆に、交通事故の減少傾向と都道府県など地方自治体の財政悪化などの影響を受け、交通安全対策・諸活動の規模や頻度等は年々縮小されているというのが実態のように思えます。にもかかわらず、なぜか、高齢者の交通事故(死)をはじめ、交通事故(死)全体が減少傾向をたどっているのは幸いなことですが、交通事故死者に占める高齢者の割合が上昇する傾向にあり、これが問題であり、この解決が今後の課題であるとするならば、以前にも増してよりきめ細やかな対策や活動を持続していくことが必要不可欠だと思います。たとえば、死亡事故になりやすい高齢者の「歩行中」や「自転車運転中」の事故の大半は、高齢者の自宅近辺の道路で発生していますし、また、高齢者の「自動車運転中」の事故の大半も日常の生活圏内の身近な道路で発生しているという状況にありますので、交通安全教育や広報活動なども、高齢者の日常生活圏内の道路交通状況を踏まえた実戦性の高い、よりきめ細やかで具体的な指導・教育、広報などを推進していくことが益々重要かつ必要不可欠になると思いますが、「雑記子」のみる限り、現状の交通安全対策や交通安全活動の流れは、むしろ停滞し、かつ、マンネリ的に淀んで形骸化し、そうした新たな方向には舵が切れていないようにしかみえないのが気掛かりです。(2014年4月18日)