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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年11月8日

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交通安全時評

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つい先ごろ(8月16日午後9時35分頃)、東京都内のJR池袋駅東口の地下駐車場から出てきた乗用車が駐車場出口で一時停止した後、急発進し、数十メートル先の歩道に突っ込み、歩道上の歩行者5人をはね、そのうちの1人(41歳女性)を死亡させ、4人に重軽傷を負わせた後、衣料品店のショーウィンドーに衝突して大破、停止する―という痛ましい事故が発生しました。新聞等の報道によると、乗用車を運転していたのは53歳の医師で、「墓参りなどで一日中運転し、疲れ、駐車場を出る時から眠気を感じていた。気づいたらビルにぶつかっていた。居眠りをしていたのだと思う」と供述しており、呼気からはアルコールは検出されず、違法薬物を使った形跡も確認されなかったが、一時停止した直後に暴走するなど不審な点もあるため、警察は容疑者の自宅を捜索し、詳しく事情を聴取するなどした結果、持病の「てんかん」治療のために処方されている薬をきちんと飲まずに運転し、一時停止した直後に「てんかん」による発作で意識を失調して暴走した可能性が高いことが判明、警察は、その因果関係などを慎重に捜査しているとのことです。

持病の「てんかん」発作によるとみられる暴走事故としては、2012年に京都・祇園の交差点に軽ワゴン車が突っ込み、交差点を通行中の7人が死亡し、12人が負傷したという事故が全国的な注目を集めたほか、今年3月には東大阪市内の交差点で、「てんかん」発作を起こして赤信号で交差点に進入したワゴン車に通行中の男性2人がはねられて死亡するという事故も発生しており、「てんかん」患者団体等は、これらの事故を機に「てんかん」患者に対する不当な差別意識が高まったり、必要以上の規制強化が為されたりすることを懸念しています。そうした懸念が杞憂に終わるためにも、いわゆる「暴走事故」の発生実態を正確に把握・分析検証しておくことが大切だと考えるものですが、事実、いわゆる「暴走事故」は、「てんかん」発作の持病によるものとは限らず、アルコールや違法薬物の影響による悲惨な暴走事故も相次いで発生しており、特に近年は違法薬物の影響による悲惨な暴走事故が目立っていますし、また、アルコールや違法薬物、あるいは「てんかん」等の持病の影響とは全く無縁なドライバーによる「暴走事故」も意外に多く発生しています。すなわち、ブレーキとアクセルのペダル踏み間違いにより、車が暴走し、歩道や商店等に突っ込んで死傷事故を引き起こすというケースです。そこで、今回の「雑記」では、ブレーキとアクセルのペダル踏み間違い等、いわゆる「操作不適」による事故の発生状況等を紹介しつつ、この種の事故の問題点について考えてみることにします。

交通事故統計上の「操作不適」は、まず、「違反種別」の「安全運転義務違反」の中に「ハンドル操作不適」および「ブレーキ操作不適」という項目がありますが、本稿で取り上げる「操作不適」は、「違反種別」上の「ハンドル操作不適」および「ブレーキ操作不適」ではなく、運転を、「認知」→「判断」→「操作」という3つの作業の循環として捉え、事故はこの3つの作業のいずれかでミスが生じた結果、発生するとの観点から事故に至った経緯を調べ、事故要因を「発見の遅れ(認知ミス)」、「判断の誤り等(判断ミス)」、「操作上の誤り(操作ミス・操作不適)」のいずれかに区分して集計しているのが「人的要因」といわれているものですが、本稿では、この「人的要因」上の「操作不適」、つまり、「操作上の誤り(操作ミス)」による事故の発生状況等を取り上げて紹介しながら、その問題点などについて考えてみることにします。

まず、警察の交通事故統計上、「操作不適」による事故というのは、「危険又は危険のおそれがある事象(状態)を認識し、それに対する措置を講じたが操作を誤ったり、驚がくして操作をちゅうちょしたことによって事故を発生させた場合をいう」と定義づけられています。つまり、「認知」→「判断」までは適正であったが、危険回避のための操作を誤ったために発生した事故ということですが、「操作不適」の具体的内容としては、(1)ブレーキとアクセルの踏み違い(2)ブレーキの踏みが弱い、踏み遅れ(3)急ブレーキをかけた(4)エンジン・ブレーキを使用しなかった(5)ハンドルの操作不適(6)ギヤの入れ違い(7)ブレーキをかけながらハンドル操作(8)オートスピードコントロール装置等の操作不適(9)その他の操作不適、という9項目を掲げていますが、公益財団法人・交通事故総合分析センターが年に数回発行している「交通事故分析レポート(イタルダ・インフォメーション)」のNo.107(平成26年8月発行)では、この「操作不適」による事故を取り上げてその発生状況等を分析していますが、それによると、「操作不適」の形態を「ハンドル操作不適」、「ペダル踏み間違い」、「ブレーキ操作不適」、「その他の操作不適」の4つに分類して分析していますので、以下ではこの「レポート」に従って「操作不適」による事故の発生状況等を紹介していくことにします。

まず、「操作不適」による事故の発生件数(全国、第一当事者になった四輪の運転者の事故に限る、ただし、特殊車とミニカーは除く)について10年間(平成16年から平成25年)の推移を分析していますが、それによると、年々減少の傾向にあります。しかし、人身事故全体に占める「操作不適」事故の割合は、毎年7%前後で推移していますが、近年は増加の傾向をたどっているという状況にあることが指摘されています。また、「操作不適」の4形態別の年別推移も分析されていますが、それによると、近年は「ペダル踏み間違い」事故が「横ばい」状況にあるほか、「ブレーキ操作不適」事故が増加に転じており、「ブレーキ操作不適」事故はどの年でも最も多く、特に平成25年には、「操作不適」による事故の約半数を「ブレーキ操作不適」が占めているという状況になっています。さらにまた、「操作不適」事故を年齢層別に分析し、比較していますが、それによると、「操作不適」事故全体では24歳以下の若い運転者と75歳以上の高齢運転者が9%を超えており、他の年齢層よりも「操作不適」事故を起こしやすい傾向にあることが示されています。また、「操作不適」の形態別の年齢層別の特徴をみると、「ハンドル操作不適」事故は24歳以下の若い運転者と75歳以上の高齢運転者でその割合が高く、「ペダル踏み間違い」事故は75歳以上の高齢運転者でその割合が高く、他の年齢層の2倍から5倍の割合になっているほか、「ブレーキ操作不適」事故は24歳以下の若い運転者でその割合が高く、加齢とともに減少する傾向にあることが示されています。

次に、同「レポート」では、「操作不適」事故が死亡事故になる割合(致死率)が、「操作不適」の形態別に分析されていますが、それによると、「ハンドル操作不適」事故の死亡事故割合(致死率)が4.3%(23分の1)、つまり、23件の人身事故中の1件が死亡事故になっているという状況にあり、「ペダル踏み間違い」事故(0.5%、200分の1)や「ブレーキ操作不適」事故(0.1%、1,000分の1)の死亡事故割合に比べても異常に高く、また、全人身事故のそれ(0.6%、167分の1)と比較しても約7倍も高い致死率になっており、「ハンドル操作不適」事故は重大事故につながる可能性が高い、という明確な特徴があることが判明します。そこで、本稿の主題である「ペダル踏み間違い」事故の発生状況やその問題点を述べるための導入部の話が長引いていますが、「操作不適」事故のうちで致死率が異常に高い「ハンドル操作不適」事故の発生状況をもう少し紹介しておきます。「レポート」では、先にも紹介したように、「ハンドル操作不適」事故は24歳以下の若い運転者と75歳以上の高齢運転者でその割合が高いことが示されていますが、その年齢層別に、どのような「類型」の事故で「ハンドル操作不適」事故が多いのかを分析していますが、それによると、24歳以下の若い運転者でも75歳以上の高齢運転者でも、「車両単独」事故と「正面衝突」事故でその割合が圧倒的に高いことが示され、特に、24歳以下の若い運転者では、「車両単独」事故での割合が非常に高いという特徴があり、その多くが「カーブ」を時速50キロを超える事故直前速度(危険認知速度)で走行中に発生しているという状況が示されているほか、「通行目的別」と「時間帯別」の分析の結果、「通勤」や「業務」等の目的で日常的に走り慣れている道路での事故よりも、「観光・娯楽」や「ドライブ」の非日常的な通行目的で比較的不慣れな道路で、かつ、深夜から早朝の時間帯に「ハンドル操作不適」事故が発生している割合が高い実態が示されています。なおまた、75歳以上の高齢運転者の「ハンドル操作不適」事故もこれと似たような特徴が認められます。しかし、この「レポート」の分析は、あくまでも統計分析であるため、なぜ、そのような状況の下で「ハンドル操作不適」事故が起きるのか、また、一口に「ハンドル操作不適」といっても、ハンドルを操作するタイミングに問題があったのか、ハンドル操作が急激すぎたり緩慢すぎたりしたことが問題だったのか、あるいはまた、ハンドルを切りすぎたり、逆に、切り足りなかったことが問題だったのか、ハンドルを切る方向を間違えたのかなどといった「ハンドル操作不適」の最も肝心な部分が不明であるほか、なぜ、「ハンドル操作不適」というミスを犯したのかも明らかにされていません。したがって、この統計分析からは、少なくとも、この種の事故を防止するための安全運転教育・指導に実践的に役立つ情報・知識を得ることができない―という問題点があることを、とりあえず指摘しておき、前段・導入部の話が長くなりすぎた感が否めませんので、この辺で、本稿の主題である「ペダル踏み間違い」事故に関する話に転ずることにします。

公益財団法人・交通事故総合分析センター発行の「交通事故分析レポート(イタルダ・インフォメーション)」No.107(平成26年8月発行)によると、ブレーキとアクセルの踏み間違いにより、車が暴走し、歩道や商店等に突っ込むという「ペダル踏み間違い」事故は、先にも紹介したように、「操作不適」事故が年々減少の傾向にあるなか、「横ばい」状況にあり、全国で年間6,500件前後発生しており、幸い、致死率はさほど高くはありませんが、それでも、たまたま近くにいた歩行者を死亡させたり、商店などに突っ込み、買い物客などを死傷させたりするという悲惨な事故も少なからず発生しているほか、自走式の駐車場ビルで「ペダル踏み間違い」により暴走し、駐車場ビルから転落して運転者自ら死傷するというような痛ましい事故も発生しています。そして、先の「レポート」にもあるように、「ペダル踏み間違い」事故は75歳以上の高齢運転者でその割合が高く、他の年齢層の2倍から5倍の割合になっており、また、その死亡事故の約4割が75歳以上の高齢運転者という実態からして、今後ますます急速に進行する高齢運転者の増加状況を考えると、「ペダル踏み間違い」事故を如何にして防ぐか、それが交通安全上、特に高齢運転者の安全運転確保上の重要な課題の1つになることは確かでしょう。

そこでまず、先の「レポート」で、75歳以上の高齢運転者の「ペダル踏み間違い」事故がどのような状況の下で発生しているかを、「道路形状別」、「行動類型別」のデータでみると、まず、「道路以外の場所」で「ペダル踏み間違い」事故が発生する割合が非常に高いという特徴が認められます。「道路以外の場所」というのは、自宅や店舗等の駐車場、高速道路のサービスエリアなどをいいますが、コンビニやスーパーマーケットの駐車場やそこに出入りする直近の車道や歩道上で発生している事故が多いのが実態です。また、75歳以上の高齢運転者の「ペダル踏み間違い」事故は「発進時」や「後退時」に発生しやすいという傾向がありますが、「直進時」の事故も少なくありません。このうち、「発進時」や「後退時」については特段の説明は不要だと思いますが、「直進時」の「ペダル踏み間違い」による事故というのは、先行車群や前車に追従して走行中、先行車・前車が何かの事情で減速したり停止したりした際、自車もブレーキを踏んで減速、停止すべきところを間違ってアクセルを踏み込み前車に追突する、というのがその典型的パターンですが、「レポート」では、そうした「ペダル踏み間違い」事故は、運転者のどのような要因によって引き起こされたのか、についても調査分析していますが(全年齢層)、それによると、「乗り慣れない車」(だったから)というものも4分の1を占めていますが、「焦り、急いでいた」や「慌て、パニック」が要因だったとされるものが約半数を占めており、運転者のその時の心理状態が起因になったケースが多いことがうかがわれます。しかし、それにしても、「発進時」や「後退時」には、まず、ブレーキ(ペダル)を踏んでいて、そこからアクセルに踏みかえて発進または後退するはずですから、その際、万一、アクセルを踏み込みすぎて暴走したとしても、「ペダル踏み間違い」事故には該当しないと思いますので、アクセルに踏みかえて発進または後退しようとしたとたん、危険を察知して、アクセルからブレーキに踏みかえようとしたとき、踏みかえしないままにアクセルを踏み込んだ結果、事故に至った―というケースがほとんどだろうと考えられます。また、「直進時」の「ペダル踏み間違い」による事故も、同様に、ブレーキに踏みかえるべきところを、そのまま、アクセルを踏み込んだ結果の事故だと考えられますが、75歳以上の高齢運転者は基本的に運転にかかわる心身機能が衰えている人が多いとはいえ、20年以上、30年以上あるいはそれ以上の運転経験を有する超ベテラン運転者が大多数であることを考えると、「焦り、急いでいた」、「慌て、パニック」状態にあったことを加味しても、アクセルとブレーキを踏み間違えるという、その詳細な心理的メカニズムが今ひとつ理解できない―というのが実感です。

しかし、現実には、確かに「ペダル踏み間違い」事故は、75歳以上の高齢運転者に限らず、他の年齢層においても発生していることは事実ですから、ごく一部の特殊・例外的事故とみなさず、心理学者や人間行動学者、関係医学者等による、いわゆる「学際的」プロジェクトを結成し、「ペダル踏み間違い」事故に至る詳細で科学的なメカニズムをきちんと解明することが必要不可欠であり、それが為されなければ効果的な防止対策を打ち出すことはできないと痛感します。もちろん、このことは、「ペダル踏み間違い」事故に限らず、先に述べた「ハンドル操作不適」事故についても同様です。さて、本稿で取り上げた「操作不適」による事故には、「ペダル踏み間違い」事故や「ハンドル操作不適」事故のほか、「ブレーキ操作不適」事故もあり、それはまだ言及していませんが、予定字数も限られてきましたので、この先は次回に譲ることとし、いずれにしても、「操作不適」事故にはもっと本格的な科学的解明のメスを入れることが必要だということを、とりあえずの結論として稿を閉じることとします。(次回に続く)
(2015年8月26日)

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