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お知らせ
2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月25日

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交通安全時評

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前回の「雑記」でも取り上げた7月13日に北海道小樽市内のビーチに出入りする道路で発生した事故、飲酒運転の車がビーチ帰りの4人の女性をはね、3人を死亡させ、1人に重傷を負わせた事故の加害者運転者(31歳男)について、札幌地検は8月4日、5月新施行の「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」、略称「自動車運転死傷行為処罰法」(以下すべて略称で記す)の「危険運転致死傷罪」ではなく、「過失運転致死傷罪」と道路交通法違反(ひき逃げ、酒気帯び運転)で起訴した―ということが8月5日の新聞等で報道されました。酒気帯び運転であったことは明らかだが、現場の制限速度(時速60キロ)以内の走行速度(時速50キロほど)であったことや、スマートフォンを操作しながらのわき見運転が事故の直接原因であった可能性が高く、事故当時、「危険運転致死傷罪」の適用要件である「正常な運転が困難な状態」であるとはいえなかった―というのが「危険運転致死傷罪」適用の見送り理由だそうです。

これに対し、「飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会」の関係者は「とうてい納得できない。せっかくの新法も絵に描いた餅だ」と強く反発し、8月20日、被害者遺族らが札幌地検に対し「危険運転致死傷罪」を適用するよう要請したとの報道もありました。また、「危険運転(行為)」の定義等にはあいまいな部分があり、検察官により判断が分かれかねない。今回のように相当の飲酒量があり、重大な結果を招いた場合は積極的に起訴し司法の判断を仰ぐべきだ」という刑法学者の提言もありました
(北海道新聞・2014.8.5朝刊)。しかし、「自動車運転死傷行為処罰法」の制定にかかわった山下幸夫弁護士(東京)は、「(被害者遺族らの)疑問があるのは理解できるが、(いわば)『故意犯』扱いの危険運転致死傷罪はもともと限定的に運用されるべきで、やみくもにその適用を広げるべきではない」(北海道新聞・2014.8.5朝刊、アンダーラインは「雑記子」による)として、札幌地検の対処に理解を示しており、「雑記子」はこれに同感です。つまり、警察・検察現場で判断が分かれる場合は積極的に「危険運転致死傷罪」で起訴し、司法の判断を仰ぐべきだ―というのは、「自動車運転死傷行為処罰法」の根源的問題点にメスを入れず、何でも司法判断にゆだねる―ということであり、それは法曹関係者の無責任・怠慢以外の何物でもないと思うのです。

前回まで3回にわたり、この「雑記」で「自動車運転死傷行為処罰法」の詳細を紹介・検証してきた通り、「正常な運転が困難な状態」であることが「危険運転致死傷罪」の適用要件である限り、今度の札幌地検の判断は明らかに適法であると思うからです。もちろん、この「雑記」で詳細に検証してきたように、「自動車運転死傷行為処罰法」の「危険運転(行為)」の定義等に多くのあいまいさがあることが当面的な問題点ではありますが、根源的には、近代刑法が、それ以前の「結果責任」の原理を否定し、「意思責任」の原理を採用し、故意か過失かの違いによって、罪の軽重に差異が生じるようにしてきたのに対し、「危険運転致死傷罪」や「自動車運転死傷行為処罰法」は、たとえ過失の結果であろうとも、結果の重大性を注視し、「暴行致死傷」や殺人罪等と同様の重い処罰をもって臨むべきだという観点、つまり、「結果責任」の原理を復活させたことにあるのです。しかも、「意思責任」の原理に基づく「業務上過失致死傷罪」にはまったく手をつけず、自動車運転による死傷行為だけを特別視し、「結果責任」の原理を重視した「危険運転致死傷罪」や「自動車運転死傷行為処罰法」を設けたことこそが真の問題点なのです。

確かに、親子等の肉親・身内の命を唐突に奪われた被害者遺族らの立場からすれば、故意であれ、過失であれ、「結果責任」を重視し、加害当事者には厳罰をもって臨んでほしいと願うその心情は十分に納得できるもので、近代刑法が否定した「結果責任」の原理を復活させることも検討して然るべきだと思います。しかし、なればこそ、少なくとも「業務上過失致死傷罪」全体を対象にして「結果責任」の原理復活の賛否を問う識者ら専門家による論議とその経緯の公開、パブリックコメントの聴取等といった手順が必要不可欠だと思いますが、「危険運転致死傷罪」の成立に当たっては、パブリックコメントの聴取こそ行われたものの、「結果責任」の原理を復活させるという重大事に関する論議・検討がなされないままに、自動車運転にともなう「悪質・危険運転行為」による死傷事故だけを、「暴行犯」に準じる故意的犯罪とみなし、厳罰化を実現してしまったというのが実態です。つまり、「意思責任」の原理から「結果責任」の原理への転換を図ることの重大性や必要性という根源的問題に関し、真摯な論議がないままに、あるいは、そうした問題意識すら欠いたままに、かなり拙速的に「危険運転致死傷罪」を成立させてしまった、それ故に、「暴行」に準じる故意的犯行とみなす肝心の「危険運転(行為)」の定義づけの厳密化を規すこともできず、あいまいさが残るものとなったのではないかとも思えるのです。

念のため、「意思責任」の原理から「結果責任」の原理への転換を図ることの重大性や必要性という根源的問題について、改めて述べておきたいと思います。過去の「雑記」、といっても、もう2年も前になりますが、2012年の7月20日付の「雑記」でも紹介しましたが、「近代刑法貫く『意思責任』、結果軽視の弊害、修正を」と題した新聞掲載の論評を、まず改めて紹介しておきましょう。2012年7月13日の北海道新聞朝刊の第7面に掲載された九州工業大学大学院教授(当時)の佐藤直樹氏の論評ですが、以下がその論評(一部抜粋)です。

コトの本質は、危険運転致死傷罪の適用の是非にあるのではない。じつは問題の核心は、「人の死」という結果の重大性は同じなのに、「わざと」という故意の罪にくらべて、「うっかり」の過失の罪はなぜこんなにも軽いのか、という点にある。近代以前のヨーロッパでは「結果責任」といって、故意だろうが過失だろうが、「人の死」という結果があれば刑罰は同じだった。そもそも「内面」、つまり意思のあり方は問題にならなかった。ところが18世紀末から19世紀半ばに成立した近代刑法は、以前の「結果責任」の原理を否定し、新たに「意思責任」の原理を採用した。そこでは、過失によるものはあくまでも例外的なものと考えた結果、過失の罪は故意の罪にくらべてきわめて軽いものとなったが、問題はその理由である。刑法学者の澤登佳人さんによれば、その理由は、近代に至って資本主義が全面展開し、当時のブルジョアジーにとって、鉱山、鉄道、自動車運輸、重工業などの創設・経営の結果生じる災害や事故の法的責任追及をさせないことが必要であったからだという。つまり、「結果責任」の原理がつらぬかれれば、ドライバーが人をはね殺すたびに重罪では、恐れて自動車に乗るもの
(運転する者※雑記子注入)はいなくなり、自動車産業が成り立たず、産業全体の発展が阻害されることになるからだ。「世間」は厳罰化をもとめている。危険運転致死傷罪の適用のみならず、いま必要なことは、こうした結果の重大性を軽視する近代刑法の「意思責任」の原理を、「結果責任」の観点から修正してゆくことであろう。

以上が佐藤教授の論評ですが、「危険運転致死傷罪」や「過失運転致傷罪」だけに「結果責任」の観点を導入してその厳罰化を図ったうえに、自動車運転にかかわる致死傷罪だけを刑法から抜き出し、「自動車運転死傷行為処罰法」という新法が施行された今、「危険運転(行為)」の適用条件が緩和されたとはいえ、その規定にあいまいさが多く残るため、「危険運転致死傷罪」での立件が見送られ、被害者遺族らが新法の不備に不満を申し立てるケースがいまだ少なくない―というのが実情で、つまり、いま必要なことは、こうした結果の重大性を軽視する近代刑法の「意思責任」の原理を、『結果責任』の観点から修正してゆくことという佐藤教授の提言
(アンダーラインは「雑記子による)が貫徹されなかった結果であることは明白で、それ故に、自動車運転による死傷事犯の被害者遺族らは、「結果責任」の観点からする厳罰化の貫徹を望んでいるのだと理解することができます。

しかし、「雑記子」が最大で根源的な問題だと考えるのは、結果の重大性を軽視する近代刑法の「意思責任」の原理を、「結果責任」の観点から修正してゆく、そのことには基本的に同意するにしても、前掲の佐藤教授の論評でも触れられていませんでしたが、なぜ、自動車運転による死傷行為だけがその対象にされるのか・・・という点で、「結果責任」の原理の復活が、自動車運転による死傷行為に限ってのことであるとするならば、大いなる偏重やいびつさを覚え、その潮流に疑義を唱えざるを得ません。先にも述べましたが、近代刑法が「意思責任」の原理を取り入れた結果の典型ともいえる「業務上過失致死傷罪」、かつては、自動車運転による死傷事故の処罰もこれが法的根拠になっていましたが、この「業務上過失致死傷罪」は、何も自動車運転による死傷事故だけに限定されたものではなく、労働災害など、安全管理責任を有する様々な現場での死傷事故にも適用されるものであることをしっかり認識した上で、「結果責任の原理の復活」が論議されなければならないと考えるからです。しかし、たとえば、自動車関連の死傷事故でもありますが、2012年12月に発生した中央自動車道の笹子トンネル天井板崩落事故では9名もの死亡者が出ましたが、山梨県警が「業務上過失致死傷」容疑で捜査しているものの、いまだ立件できずにいます。また、たとえば、2005年4月に発生した尼崎JR脱線事故では100余名もの死亡者が出ました。しかし、「業務上過失致死傷罪」で強制起訴されたJR西日本の歴代3社長には、2013年9月、神戸地裁は無罪判決を言い渡しました。さらにまた、3.11の大震災による東京電力福島第一原発事故では、今年3月の大震災3周年追悼式で安倍晋三総理は「復興をさらに加速させる」と胸を張って得意げに挨拶しましたが、復興はおろか、日々あふれ出る多量の放射性物質による汚染水の処理すらおぼつかず、除染も遅々として進展せず、廃炉のめどはまったく立っていないという状況のもと、泣く泣く故郷への帰還をあきらめる人が増加し、また、避難生活で心身共に疲労困ぱいして死亡した人も少なくないという何とも虚しく悲惨な現状をもたらしているにもかかわらず、法的には、いまだ誰一人、安全管理責任が問われていません。こうした企業や行政機関等の過失によるとみられる死傷事故・災害は、「危険運転(行為)」による死傷事故よりも、はるかにその犯罪性が高く、社会に及ぼす脅威・被害も甚大であり、被害者遺族らの心情も「危険運転(行為)」による死傷事故の被害者遺族らの心情と決して変わるものではないはずです。にもかかわらず、こうした「業務上過失致死傷事犯(事件・事故)」全体を対象にした「意思責任」原理の見直し、「結果責任」原理の復活という根源的論議がなされないままに、「危険運転(行為)」による死傷事故に限って「結果責任」の原理を復活させ、厳罰をもって臨むべきだ―という風潮が加速されつつあるのは、如何に、「危険運転(行為)」による死傷事故の被害者遺族らの心情を斟酌したとしても、大きな社会的な偏重・ゆがみではないかという疑義を禁じ得ません。この点が「自動車運転死傷行為処罰法」施行にかかわる「雑記子」の最大の関心事であることを強調し、この稿を閉じることにします。
(2014年9月12日)

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