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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月25日

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交通安全時評

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前回の「雑記」では、去る5月20日に施行された「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」、略称「自動車運転死傷行為処罰法」(以下すべて略称で記す)について、その詳細を紹介しつつ、その問題点などについて考えてきましたが、同法に規定されている6つの「危険運転(行為)」のうち、第1の「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」と第2の「危険運転(行為)」である「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」まで紹介し、検証してきたところで字数等の関係で中断し、残りは今回の「雑記」に回すこととしましたので、その予告通り、今回は第3以下の「危険運転(行為)」等について紹介・検証していくこととします。

「自動車運転死傷行為処罰法」に規定されている第3の「危険運転(行為)」は、「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」ですが、「その進行を制御する(運転)技能を有しない」というのは具体的にどのような場合を指すのか、この条文を一読しただけではその具体像をイメージすることができません。常識的には「無免許運転」がそれに該当するのではないかと思われますが、2012年4月に京都府亀岡市で無免許の少年(当時18歳)が集団登校中の児童の列に突っ込み、児童ら10人を死傷させる事故が発生しましたが、被害者遺族らは加害者少年を「危険運転致死傷罪」で起訴するよう求めました。しかし、京都地検は、加害者少年が、無免許運転のいわゆる常習者であったことなどから、無免許と運転技能は無関係で、加害者少年には「運転技能があった」と判断し、また、事故は「居眠り運転が原因」として「危険運転致死傷罪」での起訴を見送りましたが、この事例からすると、「無免許運転」は、無条件に「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」に該当するものではないと解されます。それだけに、益々「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」とはどのような行為なのか、その具体像をイメージすることが困難になります。

ちなみに、前回の「雑記」でも述べましたが、「自動車運転死傷行為処罰法」に規定されている6つの「危険運転(行為)」のうちの5つは、従前の「危険運転致死傷罪」に規定されていたものをそのまま引き継いだものですが、この第3の「危険運転(行為)」もそのうちの一つで、この「危険運転致死傷罪」が新設・施行(2001年12月)されるに際し、法務大臣から法制審議会にこの「危険運転致死傷罪」に関しての諮問がなされ、3回にわたって法制審議会刑事法(自動車運転による死傷事犯関係)部会会議が開催されていますが、その第3回会議の議事録をみても、「その進行を制御する技能を有しない」というのは、「ハンドルやブレーキなどの運転装置を操作する技量が極めて未熟である者に限られる」という問答で終わっており、結局のところ、具体的にはどのような場合に適用されるのか、うかがい知ることができませんでした。また、交通実務研究会編著の『危険運転致死傷罪の捜査要領』(立花書房・2003年6月1刷)では、「その進行を制御する技能を有しない」の定義として、「無免許と同義ではなく、自車を進路に沿って走行させるための基本的な操作を行う技量を欠くことを意味し、自動車の運転に必要なハンドルやブレーキ等の運転装置を操作する初歩的な技能すら有しないことをいう。なお、その程度は、事故態様、運転状況、運転経験の有無や程度等を総合的に判断することとなる」
(文章中のアンダーラインは「雑記子」による)とだけあり、「雑記子」には、やはり、具体的にはどのような場合に適用されるのか、イメージすることができません。ちなみに、2012年11月に開催された法制審議会刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会会議に添付された「危険運転致死傷の事例」をみてみると、この、いわゆる「無技能」で立件された事例は4例しか見当たらず、その半分が無免許と酒気帯びの併合による事故事例であり、他は、当人が無免許であり、基本的な運転技能を有していないことを承知している友人からの教唆により運転し事故に至ったケースと、脳梗塞等により四肢の自由が利かないのに運転し事故に至ったケースでした。いずれもレアーなケースですが、「雑記子」は、これらの事例から、いわゆる「無技能」の具体的イメージを結ぶことが可能となりましたが、読者諸兄はいかがですか・・・。いずれにしろ、この件はこれにとどめ、第4の「危険運転(行為)」に筆を進めることにします。

第4の「危険運転(行為)」は、「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」と規定されており、やはり、従前の「危険運転致死傷罪」の規定をそのまま引き継いだものですが、この条文を一読しただけではその具体像をイメージすることが困難だと思います。「走行中の自動車の直前に進入」というのは、いわゆる「割り込み」行為のことか・・・、あるいは、「その他通行中の人又は車に著しく接近し」というのは、いわゆる「追立て」行為のことか・・・、とも思われますが、単なる「割り込み」行為や「追立て」行為だけではなく、「重大な交通の危険を生じさせる速度」でその行為を行い、しかも、「人又は車の通行を妨害する目的」でその行為を行うことが必須条件となっています。果たして、「人又は車の通行を妨害する目的」でそのような行為を敢行するドライバーなんて、現実に存在するものなのか・・・、大きな疑義を持たざるを得ません。もちろん、何かの事情により殺人や脅迫等の意図をもって、その手段として、そうした「危険運転(行為)」を用いるというケースが皆無とはいえませんが、果たして、そうしたことを想定してのことなのか、残念ながら「雑記子」には理解不能です。

ちなみに、先にも紹介した2012年11月開催の法制審議会刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会会議に添付された「危険運転致死傷の事例(集)」をみてみると、この第4の「危険運転(行為)」、いわゆる「通行妨害」で起訴された事例は数件紹介されており、その判決結果のいずれもが「通行を妨害する目的で著しく接近した」ことを認めていますが、何のために「通行妨害」したのか、本来の意図・目的を明らかにするまで踏み込んだ判決は、「警察車両の追跡を逃れるため」「通行を妨害し、危険を生じさせてもやむを得ない」として「通行妨害」を敢行したという事例が1件あるだけで、他は、本来の意図・目的の解明まで踏み込まず、結果的に「通行を妨害する目的で著しく接近した」と認定したものばかりでしたから、「雑記子」には、やはり、いわゆる「目的的通行妨害」の具体的イメージを結ぶことはできませんでした。そこで、この件は、これでとどめ、次の第5の「危険運転(行為)」に筆を進めましょう。

第5の「危険運転(行為)」は、「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」で、やはり、従前の「危険運転致死傷罪」の規定をそのまま引き継いだものですが、このうち、「赤色信号に相当する信号」とは、警察官の「手信号」又は「灯火による信号」のことをいい、また問題の、「赤色信号を殊更に無視し」というのは、「赤色信号に従わない行為のうち、およそ赤色信号に従う意思のないものをいう。すなわち、赤色であることについての確定的な認識があり、停止位置で停止することが十分可能であるにも関わらず、これを無視して進行する行為や、信号の規定自体を無視し、およそ赤色信号であるか否かについては一切意に介することなく、赤色信号の規制に違反して進行する行為などがこれに当たる」(前掲『危険運転致死傷罪の捜査要領』)と解されています。つまり、いわば、「確信的赤信号無視行為」といえるものですが、ただ単に赤信号を無視して進行するだけでなく、「重大な交通の危険を生じさせる速度」で進行するという要件が伴う行為でなければなりませんので、いわゆる「漫然運転」等による結果的な「赤信号無視」ではなく、パトカーの追跡から逃れるためとか、いわゆる集団暴走行為中など、いくつかの具体的イメージを思い浮かべることは比較的容易だと思いますが、いずれにしても、レアーなケースという印象を持っていましたが、(公財)交通事故総合分析センターの集計資料「自動車運転過失致死傷等事件送致状況(平成24年)」によると、「アルコールの影響による危険運転」、「薬物の影響による危険運転」、「著しい高速度による危険運転」、「無技能による危険運転」、「妨害目的の危険運転」、そして、「赤信号殊更無視の危険運転」による年間の送致件数(全国)をみると、「赤信号殊更無視の危険運転」による送致件数が圧倒的に多い―という意外な結果になっています。

以上は、度々述べてきましたが、今年5月施行の「自動車運転死傷行為処罰法」以前にあった「危険運転致死傷罪」に規定されていた「危険運転(行為)」ですが、「自動車運転死傷行為処罰法」には、新たな第6の「危険運転(行為)」として、要約的にいえば「通行禁止道路進行危険運転」が加えられました。「自動車運転死傷行為処罰法」の(危険運転致死傷)第2条第6号で「通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」と規定されているものです。このうち、「政令で定める通行禁止道路」については、平成26年(2014年)4月23日に公布された政令第166号「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令」の第2条に第1号から4号に分けられて規定されていますが、たとえば、その第1号は次の通りです。「道路交通法第8条第1号の道路標識等により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分(当該道路標識等により一定の条件(通行の日又は時間のみに係るものを除く。次号において同じ。)に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているもの及び次号に掲げるものを除く。)」という規定ですが、法文特有の難解な文章で、一読しただけでその具体例等を理解することはまず不可能です。そこで、この条文に記されている関連法等の条文を丁寧に根気よくたどって簡潔・具体的にまとめると、(1)車両通行止めの道路(2)いわゆる「歩行者天国」などを含む歩行者・自転車専用道路(3)一方通行の道路(の逆走)(4)高速国道・自動車専用道路の中央から右側部分(5)安全地帯・車両立ち入り禁止部分、以上、5つの道路または道路部分が「通行禁止道路」ということになります。そして、その「通行禁止道路」への進行が「危険運転(行為)」と認定されるためには、ただ単にその道路・部分を進行するだけではなく、「重大な危険を生じさせる速度」で進行したことと相まって、はじめて「危険運転(行為)」となります。そこで問題となるのは、「重大な危険を生じさせる速度」とはどのような速度のことか・・・、という点ですが、この規定は、先に紹介した第4の「通行妨害(行為)」と第5の「赤信号の殊更無視進行(行為)」にもまったく同様にある規定でもありますので、ここで改めて検証しておくこととします。

まず、2001年6月に開催された法制審議会刑事法(自動車運転による死傷事犯関係)部会会議でのこの部分、つまり、「重大な危険を生じさせる速度」についての質疑議事録をみると、「重大な危険を生じさせる速度」とは、「自車が相手方と衝突すれば、物損を含めて大きな事故を生じさせることになると一般的に認められる速度を意味し、(道路状況等に基づいて)社会通念に従って判断されるもの」とされております。また、交通実務研究会編著『危険運転致死傷罪の捜査要領』(立花書房・2003年6月1刷)をみても、「自車が相手方と衝突すれば、物損を含めて大きな事故を生じさせることになると一般的に認められる速度」とする法制審議会議事録と同様の解説に続き、「あるいは、そのような大きな事故になるような衝突を回避することが困難であると一般的に認められる速度である」と解説されており、また、「一律に何キロとは言えないが、徐行に近い速度は本罪から除外されると解される」とあります。しかし、いずれの解説をみても、その具体像が誰にでも容易に理解できるというものでは決してなく、あいまい感が強く残ることは否めません。

さて、前回の「雑記」に続き、5月施行の「自動車運転死傷行為処罰法」について、改めて紹介し、検証を進めてきましたが、今回も、すでにかなりの長文になってしまいました。運転免許保有者が8千万人を超え、「国民皆免許」の状況にあって、国民のほとんどの誰もに共通の身近な日常生活といえる自動車の運転に係る「自動車運転死傷行為処罰法」が、検証すればするほど、あいまいな法律であることに改めて驚き、こんなことで良いのだろうか―という疑念を大きくしたという所感を述べてこの稿を閉じ、次回に続けることとします。
(2014年7月11日)

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