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お知らせ
2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月25日

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交通安全時評

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前回の「雑記」は、内閣総理大臣を会長とし、内閣官房長官や指定行政機関の長らを委員として構成される「中央交通安全対策会議」が今年平成28年3月11日付で策定した第10次の「交通安全基本計画」について、その概要等について記述しました。しかし、冒頭で、4月14日に発生した熊本地震に触れた関係上、第10次の「交通安全基本計画」については、その概要と、一、二の基本的問題点の指摘のみにとどまりましたので、今回の「雑記」でも、前回に引き続き第10次の「交通安全基本計画」をテーマとすることにします。

前回でも紹介しましたが、「交通安全基本計画」は、今から40数年前の昭和45年(1970年)6月に施行された「交通安全対策基本法」の規定に従って「中央交通安全対策会議」が5年ごとに策定する「交通の安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱」で、道路交通のみならず、鉄道交通、海上交通、航空交通の安全の施策も網羅された文字通りの「大綱」で、今年、平成28年3月11日付で策定された「基本計画」は、平成28年度から平成32年度までの5年間に実施しようとする施策の大綱となる第10次の「交通安全基本計画」となりますが、本稿では、前回同様、道路交通のみに限って、その概要や問題点等を検証していくこととします。

前回には紹介しきれませんでしたが、第10次の「交通安全基本計画」の「第1部 陸上交通の安全」の第1章が「道路交通の安全」となっており、その第1章は、「第1節 道路交通事故のない社会を目指して」、「第2節 道路交通の安全についての目標」、「第3節 道路交通の安全についての対策」、以上の3節で構成されており、こうした構成は、「第9次基本計画」でもまったく同様ですので、以下では、「第9次基本計画」と比較しながら、問題点等を検証していくこととしますが、「道路交通の安全」の3節についての比較検証に入る前に、前回と多少重複する部分がありますが、まず、「基本計画」の冒頭に掲げられている「計画の基本理念」について紹介、比較検証しておきましょう。

「計画の基本理念」について、第9次と第10次を比較すると、まず、端的な違いが認められる部分があります。それは、第9次では、いわゆる前書なしに、「交通事故のない社会を目指して」という「小見出し」の下、「…略…。交通安全の確保は、安全で安心な社会の実現を図っていくための重要な要素である。・・・略・・・。(が、しかし、)交通事故のない社会は一朝一夕に実現できるものではないが、交通事故被害者の存在に思いをいたし、交通事故を起こさないという意識の下、悲惨な交通事故の根絶に向けて、今再び、新たな一歩を踏み出さなければならない。
(※アンダーラインおよびアンダーライン上の( )内部分は「雑記子」記入)との記述がありますが、第10次では、まず、前文があり、その後に「交通事故のない社会を目指して」という「小見出し」以下の文が続いている点がその端的な違いです。ちなみに、その前文は以下の通りです。

すなわち、「交通安全基本計画は、人優先の交通安全思想の下、これまでの9次にわたる取組において、道路交通事故死者数を過去最悪であった時と比べて4分の1以下にまで減少させるなどの成果を上げてきたところである。一方、依然として道路交通事故件数が高い水準で推移していることなどからも、より高い目標を掲げ、今後、なお一層の交通事故の抑止を図っていく必要がある。そのためには、これまで実施してきた各種施策の深化はもちろんのこと、交通安全の確保に資する先端技術を積極的に取り入れた新たな時代おける対策に取り組むことが必要であり、これにより交通事故のない社会の実現への大きな飛躍と世界をリードする交通安全社会を目指す。」というもので、敢えて注釈を入れるとすれば、9次以前の成果を明文化し、「世界をリードする」という、かつてない目標をも明文化したところに斬新さがあるといえるでしょう。しかし、この前文に続く「交通事故のない社会を目指して」という「小見出し」がある部分では、前回でも指摘したように、「交通事故のない社会は一朝一夕に実現できるものではないが、交通事故被害者の存在に思いを致し、交通事故を起こさないという誓いの下、悲惨な交通事故の根絶に向けて、今再び、新たな一歩を踏み出さなければならない。
(※アンダーラインは「雑記子」記入)という結びで終わっており、斬新さはまったく見られないばかりか、第9次とほとんど同様のものになっています。特に、「今再び、新たな一歩・・・」という表現は、5年前の第9次にもまったく同様に記述されており、5年間という時間経過を考慮すると、どの時点から「今再び」なのか、「新たな一歩・・・」というのは5年前に比べ何が新たなのか、まったく理解し難く、結局、「基本計画」の策定作業というのは、単なる机上の「作文作業」に終わっているのではないか、という疑念を禁じ得ません。それだけに、本文ともいえる第1節以下の詳細な比較検証が必要だと思うのです。

まず、第1節は、第9次、第10次ともに、「道路交通事故のない社会を目指して」という同じ標題になっていますが、第10次では「基本的考え方」という( )書きの副題がついている点に違いが認められます。また、第9次では、平成21年度(2009年度)に実施された「交通安全に関する国民の意識調査(交通安全意識等に関するアンケート調査)」の結果、すなわち、国民の9割近くの人が、道路交通事故をゼロにすべき、あるいは、大幅に減少させるべきであると考えていることを踏まえ、「今後とも、死者数の一層の減少に取り組むことはもちろんのこと、事故そのものの減少についても積極的に取り組む必要がある。」として、特に「歩行者の安全確保」、「地域の実情を踏まえた効果的な施策の推進」、「地域行政、学校、企業・団体等の役割分担と協働」、「交通事故被害者等の参加と協働」などの諸施策(方針)を羅列した一文になっていますが、第10次では、「1、道路交通事故のない社会を目指して」、「2、歩行者の安全確保」、「3、地域の実情を踏まえた施策の推進」、「4、役割分担と連携強化」、「5、交通事故被害者等の参加と協働」の5項目に分け、「道路交通事故のない社会を目指す基本的考え方」が整理されて記述されているという改善も認められるほか、特に「1、道路交通事故のない社会を目指して」の項では、「安全不確認、脇見運転といった安全運転義務違反に起因する死亡事故が依然として多く、相対的にその割合は高くなっている」という交通事故発生の新たな実態が記述されている点にも第9次との違いが認められます。しかし、問題は、ここに掲げられている「道路交通事故のない社会を目指す基本的考え方」が第3節の「道路交通の安全についての対策」、なかでも、第3節の2「講じようとする施策」に掲げられている諸施策に反映され、具体化されているか、ですが、その検証の前に第2節の「道路交通の安全についての目標」の概要を紹介し、第9次との違いや問題点などを検証しておきましょう。

第10次交通安全基本計画の第1部「陸上交通の安全」の第1章「道路交通の安全」の第2節「道路交通の安全についての目標」は、「1・道路交通事故の現状と今後の見通し」と「2・交通安全基本計画における目標」の2つのパートで構成され、1の第1項である「道路交通事故の現状」では、「交通事故発生件数及び負傷者数は11年連続で減少した。交通事故の死者数については、減少幅が縮小しながらも平成26年(2014年)まで14年連続で減少していたが、平成27年(2015年)には15年ぶりの増加となった。平成27年(2015年)中の死者数は4,117人となり、平成27年までに24時間死者数を3,000人以下とするという第9次交通安全基本計画の目標は遺憾ながら達成するに至らなかった。」とし、「死者数が減りにくい状況となっている背景としては、(1)高齢者人口の増加、(2)シートベルト着用率等の頭打ち、(3)飲酒運転による交通事故件数の下げ止まり、を挙げることができる。特に、高齢化社会が進展していく中、今後も一層の高齢者対策が必要な状況となっている。」との現状認識を示していますが、なぜ、第9次交通安全基本計画の「平成27年までに24時間死者数を3,000人以下とする」という目標が達成できなかったのか、については確たる検証が為されておりません。

そして、「道路交通事故の見通し」の項では、内閣府の「道路交通安全に関する基本政策等に係る調査」(平成27年3月)によれば、として、平成32年(2020年)における交通事故予測値として、3つの予測手法による予測値を紹介しています。その3つの予測手法による予測値の(1)、タイムトレンドによる分析予測値は、平成32年(2020年)における死者数(明記がないが、多分24時間死者数)は約2,900人から3,000人、死傷者数は約58万人から61万人、(2)の年齢階級別人口の大きさに着目した分析予測値での死者数は約2,500人から3,000人、死傷者数は約51万人から57万人、(3)の世代毎の事故率に着目する方法による予測値での死者数は約3,400人から3,600人、死傷者数は約60万人から61万人となっており、いずれの予測値でも死者数は2,500人を下回ってはいませんし、死傷者数も50万人以下の予測値はありません。にもかかわらず、第10次交通安全基本計画の第1部「陸上交通の安全」の第1章「道路交通の安全」の第2節「道路交通の安全についての目標」の「2・交通安全基本計画における目標」においては、(1)平成32年(2020年)までに24時間死者数を2,500人以下とし、世界一安全な道路交通を実現する、(2)平成32年までに死傷者数を50万人以下にする、という目標を掲げています。果たして、この目標は達成可能なのかは、ひとえに今後5年間で「講じようとする施策」の実施状況如何によると思いますので、以下では、第10次交通安全基本計画の第1部「陸上交通の安全」の第1章「道路交通の安全」の第3節「道路交通の安全についての対策」にはどのような施策が掲げられ、それらの施策をどのようにして、どれだけ実施しようとしているのかを検証していくこととします。

第10次交通安全基本計画の第1部「陸上交通の安全」の第1章「道路交通の安全」の第3節「道路交通の安全についての対策」は、「講じようとする施策」を具体的に掲げているパートであることからして、「交通の安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱」である「基本計画」の中枢をなす部分であるといえますが、まず、第9次と第10次のその部分を一瞥して比較すると、「見出し」の立て方に違いがあることに気づきます。第9次の第3節「道路交通の安全についての対策」の構成は、1(今後の道路交通安全対策を考える視点)と2(講じようとする施策)の2つのパートに分かれており、この点では第10次も同様ですが、第9次では、1の「今後の道路交通安全対策を考える視点」の記述は、前文に続いて、1・高齢者及び子どもの安全確保、2・歩行者及び自転車の安全確保、3・生活道路及び幹線道路における安全確保、という「重視して対策の推進を図る」3つの項目に分かれた記述になっていますが、第10次では1の「今後の道路交通安全対策を考える視点」は、第9次とほぼ同様の前文の後、「1、交通事故による被害を減らすために重点的に対応すべき対象」と、「2、交通事故が起きにくい環境をつくるために重視すべき事項」という新たな項目が立てられ、「1、交通事故による被害を減らすために重点的に対応すべき対象」は、(1)高齢者及び子供の安全確保、(2)歩行者及び自転車の安全確保、(3)生活道路における安全確保、以上の3つの項目に分けられ、また、第9次にはなかった「2、交通事故が起きにくい環境をつくるために重視すべき事項」では、(1)先端技術の活用推進、(2)交通実態等を踏まえたきめ細かな対策の推進、(3)地域ぐるみの交通安全対策の推進という3つの「小見出し」が立てられ、それぞれに詳述が付けられています。

以上、第10次交通安全基本計画の第1部「陸上交通の安全」の第1章「道路交通の安全」の第3節「道路交通の安全についての対策」について、一瞥して解る第9次との違いを紹介しましたが、概括すると、確かに、記述方法は判読しやすく改善されたといえますが、その中身は、第9次とあまり代わり映えがしないというのが率直な感想です。まず、「1 今後の道路交通安全対策を考える視点」では、前提となる交通事故の情勢認識は、5年の時間経過があることからして当然ではありますが、第9次のそれと確かに異なっていますが、肝心の今後の対応の「視点」に関しては、第9次と第10次のその部分に一字一句の違いも認められません。すなわち、「従来の交通安全対策を基本としつつ、経済社会情勢、交通情勢の変化等に対応し、また、実際に発生した交通事故に関する情報の収集、分析を充実し、より効果的な対策への改善を図るとともに、有効性が見込まれる新たな対策を推進する。対策の実施に当たっては、可能な限り、対策ごとの目標を設定するとともに、その実施後において効果評価を行い、必要に応じて改善していくことも必要である。」というもので、繰り返しになりますが、第9次と第10次のその部分には一字一句の違いも認められません。普遍的なことだから・・・、といえばそれまでですが、5年という時間経過があり、交通情勢等の変化もあるはずです。ちなみに、「視点」の前提として記述されている交通事故等の情勢認識を記述した冒頭部を紹介し、比較検討してみます。

まず、第9次では、「近年、道路交通事故の発生件数並びに道路交通事故による死者数及び死傷者数が減少していることにかんがみると、これまでの交通安全基本計画に基づき実施されてきた対策には一定の効果があったものと考えられる。」として、割に簡単な情勢認識を記述後、「このため、従来の交通安全対策を基本としつつ、経済社会情勢」うんぬん・・・以下の、先に紹介した「今後の対応の視点」にかかわる記述に入っています。これに対し、第10次では、第9次と同様「近年、道路交通事故の発生件数並びに道路交通事故による死者数及び死傷者数が減少していることに鑑みると、これまでの交通安全基本計画に基づき実施されてきた対策には一定の効果があったものと考えられる。」と記述した後、「一方で、高齢者の人口の増加等により、交通事故死者数の減少幅は縮小傾向にある中、平成27年中の交通事故死者数は15年ぶりの増加となった。また、近年、安全不確認、脇見運転、動静不注視等の安全運転義務違反に起因する死亡事故が依然として多く、相対的にその割合は高くなっている。また、スマートフォン等の普及に伴い、運転中や歩行中、自転車乗車中の操作による危険性も指摘されている。」という、第9次にはなかった情勢認識を記述した後に、「このため、」として、第9次と一字一句の違いもない「従来の交通安全対策を基本としつつ、経済社会情勢」うんぬん・・・以下の記述に入っています。つまり、「今後の道路交通安全対策を考える視点」の前提となる交通事故の情勢認識には、第9次と第10次とで明らかな違いが認められるわけですから、「今後の対応」にも、少なくとも何らかの進展をうかがわせる記述の変化があって然るべきだと思いますが、それがまったく認められないのです。

ただ、先にも紹介したように、第10次の「基本計画」の第1部「陸上交通の安全」の第1章「道路交通の安全」の第3節「道路交通の安全についての対策」の「1、今後の道路交通安全対策を考える視点」は、第9次のそれといささか異なって「1、交通事故による被害を減らすために重点的に対応すべき対象」と、「2、交通事故が起きにくい環境をつくるために重視すべき事項」という新たな2項目の「見出し」が立てられ、少なくとも、「視点」が端的に理解できる記述方法に改善がみられることは評価できると思いますが、その「1、交通事故による被害を減らすために重点的に対応すべき対象」をみると、(1)高齢者及び子供の安全確保、(2)歩行者及び自転車の安全確保、(3)生活道路における安全確保、の3点が掲げられており、第9次では「生活道路及び幹線道路における安全確保」とあったものが、第10次では、なぜか「幹線道路」の字句が削除されている点を除けば、第9次とほぼ同様といえますし、それらの具体的記述内容も「高齢者の事故が居住地の近くで発生することが多いことから、生活に密着した交通安全活動を充実させることが重要である」、「通学路等において歩道等の歩行区間の整備を積極的に推進する必要がある」、「生活道路や市街地の幹線道路において、自動車や歩行者と自転車利用者の共存を図ることができるよう、自転車の走行空間の確保を積極的に進める必要がある」、「生活道路における交通の安全を確保するための対策を総合的なまちづくりの中で一層推進する必要がある」など、第9次とほとんど同様の記述で終始しており、交通事故や経済社会情勢の変化等、5年間の時間経過や対策の進捗状況等を踏まえた進展・進化はいささかも認められません。だからこそ、何度も繰り返し紹介してきたように、「基本計画」は、5年ごとに策定される「交通の安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱」ですが、それにもかかわらず、「基本計画」を詳細に検証すればするほど、その策定作業は、結局、「机上の作文作業」に終わっているのではないか・・・、という疑念を持たざるを得ないのです。(次回に続く)
(2016年5月24日)

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