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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年11月8日

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交通安全時評

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弊社のホームページの「交通安全時評」に、月1回のペースで寄稿をお願いしている東京在住のノンフィクション作家・矢貫隆氏の最新稿が去る5月31日に立ち上げられ、掲載中ですので、すでにお読みになってご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、矢貫隆氏は、この2年半ほど、体験取材のため、東京都内の某タクシー会社の乗務員として勤務し、その乗務体験を基としたレポートを「交通安全時評」にも何度か寄稿されていましたが、この5月半ばに、その体験取材のためのタクシー乗務員生活を終了しました。その矢貫氏が5月31日に立ち上げた「交通安全時評」のテーマは、2年半ほど乗務員として所属していた某タクシー会社の「安全運転対策」の無意味さとその根本的欠陥を指摘するもので、その全容は、このホームページで掲載中の「交通安全時評」をぜひお読みいただきたいと思いますが、この「雑記」で取り上げたいのは、同氏の「時評」のなかの次の一文にかかわることです。

(某タクシー会社の運転手控室に張り出された)タクシー協会の『緊急事故警報』は、事業所の運行管理者に「乗務員への安全運転教育のお願い」として、(1)交差点における二輪車との右直事故に注意、(2)漫然運転をしない、(3)深夜帯も安全速度を遵守、を挙げたうえで、最後にこう結んでいる。「これら情報をご活用いただき、乗務員への周知ならびに交通事故防止対策に万全を期され、さらなる指導教育の徹底を図られますようお願い申し上げます」。そして、(この某タクシー会社では)事故防止に向けて、こんな張り紙がでた。「最近、事故が多発しています。最大の要因はスピードのだし過ぎです。いかなるときもスピード(制限速度)を守って営業するようにしてください」。・・・・・・中略・・・・・・、これらは、まるで「安全対策」になっていない。交差点と交差点周辺が事故多発地点であるのは確かな事実だけれど、そこで示すべきは「だから注意してください」ではなく具体的な安全行動でなければならず、あるいは、事故に至る要因は「スピード」ではなく、圧倒的な多くの事故は時速40キロ以下で発生しているという事実を踏まえたうえで、どのような事故がどのようにして起こったかを正しく伝えることなのである。その程度の指導すらできていないタクシー業界の「安全対策」の現実。

以上が、目下、弊社のホームページの「交通安全時評」に掲載されているノンフィクション作家・矢貫隆氏の論稿の一部で、矢貫氏は「呆れたものだ」と嘆いていますが、この程度の「安全対策」や安全運転指導が行われているのは、矢貫氏が取り上げたタクシー業界だけではなく、我が国のほとんどの安全運転教育・指導の場がこの程度の「しろもの」であることを、「雑記子」は、常々、いらだたしく、腹立たしく思い続けていましたので、前振りが少々長くなりましたが、今回の「雑記」では、「安全対策になっていない安全運転教育・指導」にかかわる根源的問題点について述べてみようと思います。

まず、安全運転指導・啓発・キャンペーン等では、「スピード出しすぎ注意」、「車間距離に注意」などという文言が「金科玉条」のごとく繰り返されていますが、「雑記子」には、まったくの「空念仏」で、かつ、効きめも全然ない「おまじない」のようにしか伝わりません。そればかりか、こうした「空念仏」を「したり顔」で繰り返す伝え手にも、言い知れぬ腹立たしさを感じてきました。というのも、このような、まったく安全対策になっていない「安全運転に関する空念仏、おまじない的」文言を平然と伝えられるのは、端的にいえば、交通事故の発生実態を何も学ぼうとしない輩、何も学んでいない輩ならではのことと思われるからです。交通事故の発生実態を少しでも学んで知り、その実態を真摯に受け止めれば、「スピード出しすぎ注意」などと軽々しく言えるはずがないと思います。

まず、先に紹介した矢貫氏の論稿のなかでも取り上げられていましたが、交通事故の「事故直前速度(危険認知速度)」別の発生状況、つまり、ドライバーが危険を認知し、ブレーキやハンドル操作等の事故回避行動をとる直前の速度はどうであったか・・・ということですが、その速度は、現場に残されたブレーキ痕や衝突した車両などの損傷程度等からほぼ正確に推定されていますが、その状況別の事故発生状況を、2011年以前過去3年間の平均データでみると、全国で年間70万件ほどに上る人身交通事故の60%ほどは時速20キロ以下の「事故直前速度」で発生している―というのが実態で、「時速40キロ以下」でくくれば実に85%以上の事故がその範囲に入ってしまいます。また、「違反種」別の事故発生状況をみても、「最高速度違反」が「主違反」とされたものはわずか1%未満しかない―というのが実態です。さらに死亡事故に限ってみても、高速道路での事故を含めて時速80キロを超えた「事故直前速度」での死亡事故は数%にとどまり、時速40キロ超から60キロ以下での死亡事故が40%ほどを占めていますが、時速40キロ以下での死亡事故が40%以上を占めているのが実態で、「最高速度違反」が「主違反」とされた死亡事故も7%ほどしかありません。さらにいえば、弊社編集部が(公財)交通事故総合分析センターから入手した基礎データを基に分析検証した結果によれば、人身交通事故の95%、死亡事故の60%は「規制速度以内」の速度で発生している―という実態にもあります。

なおちなみに、平均走行速度が市街地でも非市街地でも他の都府県に比べて10キロほど高いといわれる北海道についてみても、全国状況と大差なく、時速80キロを超えた「事故直前速度」での死亡事故は8%程度、「最高速度違反」が「主違反」とされた死亡事故も10%ほどにとどまっています。

以上がクルマのスピードと発生した事故との関係の紛れもない厳然たる実態です。これを直視する限り、「スピードの出しすぎによる事故が多い」などというのは何ら根拠のない虚言というべきです。にもかかわらず、そうした虚言が横行するのは、事故の再発防止のためには、発生した事故の要因等を科学的・多角的に検証し、それを事故防止に活かすという「鉄則」をも知らないためなのか、事故実態を少しも知ろうとはせず、ただ、目前のクルマの走行実態、つまり、ほとんどのクルマが法定速度や規制速度に違反して走行している実態を目にすることが多いことと相まって、長年にわたる「スピードの出しすぎによる事故が多い」という虚言的キャンペーンを盲信している結果ではないかと考えられますが、それ故に、「スピードの出しすぎに注意」とか「スピードダウン」などの文言をいくら繰り返し伝えても「安全対策」には決してなり得ないと断言できるのです。

もちろん、「スピードの出しすぎ」が決定的原因となる事故がないわけではありません。たとえば、「限界速度」が時速50キロのカーブに時速50キロを超える速度で進入走行すれば、たとえプロのスピードレーサーでも曲がり切れず事故に至るのは必定です。あるいはまた、夏場の乾燥舗装路面の場合であれば、「限界速度」ぎりぎりの速度で曲がり切れたカーブでも、路面が雨でぬれていたり、凍結・積雪路になっていたりした場合には、夏場と同様の速度でも「スピードの出しすぎ」となって事故に至ることとなりますが、こうした場合には、正しく「スピードの出しすぎ」が事故の決定的原因といえます。しかし、実際のカーブ事故のほとんどは、「規制速度」をこそオーバーしていたケースも少なくないものの、他の多くのクルマも同じような速度で事故なく走り抜けているなかで、そのクルマだけが事故に至ったというケースがほとんどというのが実態ですから、「スピードの出しすぎ」が事故に結びつきやすい「カーブ事故」でも、「スピードの出しすぎ」が決定的事故原因になった事故は極めて少ないというのが実情です。あるいはまた、交通事故の60%ほどは交差点およびその付近で発生しているという事実からしても、時速40キロ以下の「直前速度」での事故が圧倒的に多いという現実に符合し、その実態が容易に納得できるはずです。ですから、「スピードの出しすぎによる事故が多い」と思い込んでいる方々、少なくとも、安全運転教育・指導や安全運転情報を発信する立場にある者は、この事故実態をしっかり認識し、真摯に受け止めて、「スピードの出しすぎに注意」などという愚にもつかない「安全情報」は厳に慎んでほしいと切に願うばかりです。

ただ、過去に実際に発生した交通事故の85%以上が時速40キロ以下で発生している・・・、また、ほとんどの交通事故が「規制速度以内」の走行速度で発生している・・・と言われても、「本当?」と疑い、ただちに納得できる人は少ないかもしれませんが、その一つには、「スピードの出しすぎによる事故が多い」という類のキャンペーン・広報が長年にわたって繰り返され、「事故直前速度」にかかわる情報はほとんどといっても過言ではないほどに発信されてこなかったことが、その疑念の大きな要因になっていると考えられますが、交通事故の60%前後が交差点およびその付近で発生している―という実態と交差点・付近での走行実態・走行スピードを関連づけて考えれば、時速40キロ以下での事故が圧倒的に多い―という「事故直前速度」の実態も十分に得心できるのではないか、と思います。しかし、それにしても、時速40キロ以下という比較的低速度で、かつ、「規制速度以内」のスピードで走行していたのに、なぜ、かくも多くの事故がその領域で発生しているのか・・・、そこのところがきちんと理解されなければ、真に役立つ「安全情報」にはなり得ませんが、その答えは意外に簡単なことと考えられます。

まず、「スピードの出しすぎによる事故が多い」、「スピードの出しすぎ注意」などという類のキャンペーン・広報が執拗に繰り返された結果の反動として、「走行速度を落としさえすれば、規制速度以下の速度で運転してさえいればそれが安全・・・」と思い込み、結果、危険(事故)に対する警戒心や安全確認意識の低下・喪失を招いてしまうドライバーが多いことが比較的低速度域での事故が圧倒的に多いことの最大要因だと考えます。換言すれば、「スピードの出しすぎ」に伴う危険は認識していても、「低速走行時の危険」には無知・無警戒すぎる結果だ―ということです。その「低速走行時の危険」とは、先にも述べたとおり、「走行速度を落としさえすれば、規制速度以下の速度でさえあれば安全・・・」と思い込む結果、いわゆる「油断」が生じ、危険(事故)に対する警戒心や安全確認意識の低下・喪失を招きやすい―という危険です。事実、交通事故の「違反種」別発生状況を検証してみると、いわゆる「脇見運転」や「漫然運転」による「前方不注意」、「安全不確認」や「動静不注視」などの「安全運転義務違反」による事故が75%も占め、「最高速度違反」や「一時停止違反」、「信号無視」などの典型的な違反行為が「主違反」となった事故が意外に少なく、死亡事故に限ってみても、その60%は「安全運転義務違反」によるものとなっています。また、「人的要因」別の事故発生状況を検証してみても「認知ミス」、つまり、「危険の発見遅れ・見落とし」が決定的原因となった事故が75%以上を占めている―という実態にあります。

したがって、ドライバーに対する安全運転教育・指導、または、安全運転情報の広報・キャンペーンにあたっては、第一に「スピードの出しすぎによる事故が多い」など根拠のない虚言的情報に基づく「スピードの出しすぎ注意」などの無益な「おまじない的」教育・指導、広報・キャンペーンでは決してなく、「危険の発見遅れ・見落とし」による事故が圧倒的に多く、なぜ、どのような時に、そのような「認知ミス」が生じやすいのか、「認知ミス」を事故に直結させないためにはどのようなノウ・ハウが必要なのか・・・という点こそが周知徹底されなければなりません。そうした真の安全運転教育・指導、または、安全運転情報の広報・キャンペーンが実現されるためには、安全運転教育・指導、または、安全運転情報の広報・キャンペーンに携わる者たちが、まず、交通事故の発生実態をしっかり学ぶことが必要不可欠だと強くアピールしておきます。
(2013年6月12日)

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