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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年11月8日

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交通安全時評

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去る1月22日の新聞各紙の報道によると、東京地検は同月21日、「信号無視」を繰り返した自転車利用者(運転者)は原則として罰金刑(刑事罰)を求めて略式起訴する方針を決めたとのことです。これは、昨年2012年一年間に東京都内で発生した交通事故のうち、自転車が絡む事故が約4割1万8千件ほどに上り、事故件数は減少ぎみですが、自転車の信号無視が原因の事故の割合が10%弱を占め、この割合が年々増加傾向にあることから、警視庁が摘発した信号無視の自転車利用者は略式起訴して罰金刑を科すことを地検に求めていた結果だとのことで、全国初の運用になります。なお、同地検が略式起訴の対象として想定しているのは、「交通量の多い場所での信号無視」や「二人乗り」、「携帯電話を操作しながらの信号無視」を2回繰り返した場合など「事故を引き起こす危険が高い悪質運転」で、略式起訴されると、「罰金」は最高5万円となり、「前科」としても記録されることになります。

ちなみに、警察では、これまでも信号無視等、自転車利用者の「悪質違反」を摘発した場合は、いわゆる「赤切符」(交通切符)を切って書類送検をしてはいましたが、自動車のドライバーが同様の違反で摘発された場合、その多くは「反則金および違反点」という「行政処分」で済むのに対し、運転免許制度のない自転車の違反は即「刑事罰」の適用となるため、自動車のドライバーとの均衡がとれないとの配慮から、地検ではこれまで不起訴(起訴猶予)処分としてきました。

以上の動きは、当面、東京地検管轄管内(警視庁管内)に限ってのことですが、悪質な自転車利用者に対する全国的な規制強化の動きも出ています。警察庁は去る2月15日、道路交通法の改正試案を公表し、2月15日から2月28日までパブリックコメント(一般の意見)を求めました。この改正試案には「無免許運転の罰則の引き上げ」や「免許取得時のてんかん等申告義務の虚偽申告の罰則化」等の改正も盛り込まれていますが、「信号無視を繰り返すなどした自転車運転者に講習を義務づけ、受講しなかった者には罰則を適用する」などの自転車対策・自転車の通行方法関連の改正点が「悪質な自転車利用者に対する全国的な規制強化の動き」のそれです。

その改正試案とは、「公安委員会は、交通に危険を及ぼす一定の行為(信号無視、しゃ断踏切立ち入り等)を反復して行った自転車の運転者に対し、その者による危険な運転を防止するため必要があると認めるときは、公安委員会の行う自転車の危険な運転を防止するための講習を受けるべきことを命ずることができる」というものです。つまり、いわゆる「悪質な自転車運転者」に対する安全運転講習の受講義務化ということですが、改正試案では、「信号無視、しゃ断踏切立ち入り等」といった例示があるものの、「交通に危険を及ぼす一定の行為」というのが今のところまだ不明瞭で具体化されていないほか、「その者による危険な運転を防止するため必要があると認めるとき」というのも相当に不明瞭で、具体的なコメントができにくい極めてあいまいな表現にとどまっています。

ただ、新聞報道等の情報によると、「交通に危険を及ぼす一定の行為」には、試案に例示されている「信号無視、しゃ断踏切立ち入り」のほか、「酒酔い運転」、「ブレーキのない自転車の運転」、「携帯電話やイヤホーンを利用しながらの運転」なども検討されており、また、「その者による危険な運転を防止するため必要があると認めるとき」というのは「一定期間に2回以上摘発された場合」が想定されているとのことですが、「詳細はまだ詰め切れておらず、パブリックコメントを参考にしながら施行までに詳細を決めたい(警察庁担当者)」ということになっているそうです。しかし、実質的なパブリックコメントを求めたいのであれば、「政令(施行令)」や「施行規則」のレベルに至るまで具体化した試案を提示すべきで、それら詳細・具体案を伴わない「法」レベルのみの、しかも、はなはだ概括的な試案の提示での「パブリックコメントの求め」は、極めて形式的な手続きを踏んでいるにすぎない―と思えてなりませんが、問題の本質は、この改正試案が目指している「悪質な自転車運転者への講習受講義務化」が果たして本当に自転車の安全利用の促進に寄与できるものなのか・・・という点につきると考えます。

関係者においては周知のことと思いますが、自転車は道路交通法上、「軽車両」として位置づけられ、自動車とほぼ同様の通行規制がなされておりますが、一方で「運転免許」の対象外になっているため、その利用者は年齢を問わず幅広く普及している一方で体系的な教育の機会、運転に関する法律や知識・技能を学ぶ仕組みがありません。このことが自転車利用者総体のいわゆる「順法意識」の低さの根底をなしていることは否めません。したがって、警察庁(交通局)においても、去る2月25日発行の『月刊交通』東京法令出版2013臨時増刊号「良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策」において、「自転車事故による被害者の多くは、小学生、中学生、高校生などの比較的年齢の若い者であること、また、若年時の教育が生涯の行動形成において大きな影響を及ぼすことなどに鑑みると、若い世代に対する教育は極めて重要である」としています。

しかし、その教育振興の方途としては「小学校、中学校及び高等学校等の各種教育機関に対し、自主的な自転車安全教育の実施や警察と連携した自転車教室の授業への組み込みなどを強く促す必要がある」とするにとどまっています。つまり、警察行政としては、当然ながら、学校等の教育機関の現場での自主的な取り組みを促進する―というにとどめざるを得ないわけです。しかも、「学校等の教育機関の現場での交通安全教育の自主的な取り組みの促進」は決して新たな視点ではなく、これまでも何度も繰り返し言われていたことで、一時的、局地的には成果が上がったこともなかったわけではありませんが、総体としては成果がほとんど認められず、むしろ、近年の交通事故の減少傾向、とりわけ「少子化」・子ども人口の減少による子どもの交通事故死傷者数の減少に伴って学校等の教育現場での「交通安全教室」等は目に見えて減少しているのが実態です。このような状況の下で学校等の教育機関の現場で自転車安全教育や自転車教室を「授業に組み込む」には、警察行政施策としてではなく、文部科学省レベルでの施策化が不可欠です。すなわち、「良好な自転車交通秩序の実現」を図るためには、道路交通法の一部改正による「悪質な自転車運転者への講習受講義務化」のみでは到底無理で、少なくともまず「自転車安全教育推進体制の確立」が必要不可欠ですが、その実現のためには「交通安全教育」を警察行政にとどめず、本来的に教育行政を管轄している文部科学省ほか関係省庁全体、政府挙げての取り組みがなされねばならないと切に思うものです。

さらにまた、先に紹介した「良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策」にも明記されているように、「良好な自転車交通秩序の実現」を図るためには、「車道を通行する自転車の安全と、歩道を通行する歩行者の安全の双方を確保し、歩行者、自転車、自動車が適切に共存できる環境を整備することが不可欠」です。そこで警察庁では、2011年平成23年10月から「自転車道や自転車専用通行帯等の自転車専用の走行空間を整備するとともに、普通自転車通行可の交通規制の実施場所の見直し等自転車と歩行者との分離を推進」しているほか、2012年平成24年11月には、国土交通省と連携し、自転車通行環境整備の指針となる「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」を策定し、この「ガイドライン」を踏まえて、道路管理者等関係機関と連携し、自転車利用環境の整備を一層推進していくこととしています。

しかし、自転車道や自転車専用通行帯等の整備促進は、自転車道の規定が道路交通法に盛り込まれた1970年昭和45年以来の課題であるにもかかわらず、40年以上も経過した今、改めてそれを掲げなければならない―というのは、自転車道をはじめとする自転車の通行空間の整備がほとんど進んでいない実情を露呈しているものです。また、新たに掲げた「ガイドライン」による「自転車利用環境の整備」にしても、しょせんは国、都道府県、市町村等の道路管理者等関係機関のその必要性の認識の度合いと「懐」次第ですが、その最も肝心な道路管理者等関係機関の「懐」は、長年にわたる財政悪化で「自転車利用環境の整備」にまでは手が出せない―というのが多くの実態だと思われますから、結局は「絵に描いた餅」にならざるを得ないと大いに懸念するものです

すなわち、「良好な自転車交通秩序の実現」を図るための不可欠な対策となる「学校等の教育機関の現場での自転車安全教育や自転車教室を授業に組み込むなどを強く促進する」という施策並びに「自転車道や自転車専用通行帯等の自転車専用の走行空間を整備する」という施策のいずれもが本来的に文部科学省や国土交通省など政府関係機関が主体になって取り組まない限りその実現はおぼつかないものです。そうした基本的体制ができていない状況の下で、道路交通法の一部改正によって「悪質な自転車運転者への講習受講義務化」を実施したところで、それが自転車の安全利用の促進にどれだけ寄与できるか・・・はなはだ疑問であるといわざるを得ません。

さらにまた、問題となっている「悪質な自転車利用者の横行」に象徴される自転車利用者総体の「順法意識等」の低さの根源には、「自転車の交通ルール等」を学ぶ体系的・組織的機会がないこともさることながら、「自転車の交通ルール」自体の不合理性があります。このことについては、過去の「雑記」で詳細に取り上げたことがありますが、現行の道路交通法では、自転車はあくまでも「車両」の一種として原則的に「車道通行」を強いられていることがその不合理性の根幹です。つまり、現行の道路交通法に基づく限り、警察の取り締まりや安全指導の現場では、「自転車は原則車道通行」を繰り返さざるを得ません。しかし、そのスピード性能やパワーに質的な違いがある自転車と自動車が同じ「車道」という空間を通行しあうには余りにも大きな危険が伴うことは誰が考えても明らかなことで、事実、いわゆる「自転車事故」の実態を見ても、その圧倒的多数は対自動車事故で、対歩行者事故は増加傾向にあるとはいえ、「自転車事故」中のごく少数にとどまっています。だからこそ、一方で「歩行者、自転車、自動車が適切に共存できる環境を整備することが不可欠」と言われ続けてもきましたが、自転車を「車両」の一種と位置づけている現行の道路交通法がある限り、自転車は、歩行者、自動車と並ぶ一般的な道路交通手段としての市民権を得ることはできませんし、それ故にこそ、自転車専用の通行空間の整備が促進されなかった元凶だ―といえるのです。

したがって、今、真に検討・対処すべきなのは、「悪質な自転車運転者への講習受講義務化」などといった枝葉末節的なことではなく、自転車に、歩行者、自動車と並ぶ一般的な道路交通手段としての市民権を明確に付与する道路交通法の抜本的改革、すなわち新たな道路交通法の策定であり、これなくしては、いかなる自転車対策も功を為さず、「良好な自転車交通秩序の実現」を図ることはできないと思うものですが、いかが・・・。
(2013年3月13日)

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第118回
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第116回
クルマ社会の大革命―自動運転(走行)車の実用化が迫っている今、半世紀以上も前に制定された道路交通法の大改革が必要不可欠・・・
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第92回
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第12回
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社会状況が未曾有の暗転をしたなか、交通事故死は激減したが・・・
第10回
交通事故死は激減、交通事故も減少に転じたが・・・
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シグナル・ブックレット・シリーズ刊行・・・
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事故現場からの警告者・故加藤正明氏を偲ぶ
第3回
事故回避の実行力、安全運転を確保するためのテクニック
第2回
雑記 第2回
第1回
雑記 第1回

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