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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年12月7日

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交通安全時評

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8月7日の北海道内版の新聞各紙(朝刊)は、札幌市が8月6日に中央区の札幌駅前の歩道で、「自転車の押し歩き」の「社会実験」を始めた―というニュースを報じていました。各紙の記事を総合すると、「人通りの多い市中心部で、走行中の自転車と歩行者が接触する事故を防ぎ、歩行者の安全を守る」のが狙いで、「実験」は6日から12日までと、9月1日、2日の計9日間実施し、効果があれば「自転車の押し歩き推奨地区」を導入することも予定しているとのことで、「実験」では、市職員らが「のぼり」や看板を掲げ、「歩道では自転車を押して歩いてください」と呼びかけるほか、通行量調査やアンケートも実施し、(都心部の)歩道は自転車を押して歩く社会ルールを定着させる効果的な啓発方法を研究する狙いもあるとのことです。このような実験は、大阪、川崎両市ですでに行われ、川崎市では「自転車の押し歩きエリア」が設定されているとのことです。

こうした動きは、近年、自転車利用者が急増し、その多くが歩道を通行していることによって、歩行者と自転車の接触・衝突事故が多発し、なかには、重傷死亡事故や「あて逃げ事故」も増加し、自転車利用者の、いわゆる「交通ルール・マナー」の悪化が問題視されていることが背景になっています。一部の関係者以外には、あまり、馴染みがないかもしれませんが、公益財団法人交通事故総合分析センターは、全国の都道府県警察からの交通事故統計を集積し、毎年、『交通統計』や『交通事故統計年報』と題する交通事故統計集を発行しているほか、『ITARDA』と題する交通事故の分析調査報告集を四半期ごとに発行したり、研究者や関係機関の要請により、各種の交通事故統計の基データを提供するなどの活動を行っていますが、先月(7月)付で発行された『平成23年版交通統計』にまとめられている「事故類型別・第一当事者別交通事故件数」のデータで検証してみますと、確かに、自転車が第一当事者になった交通事故は、この数年、年々減少の傾向をたどっており、10年ほど前の平成13年に比べ10%ほども少なくなっていますが、交通事故全体の減少ぶり(27%減少)に比べれば、その減少ぶりは鈍く、しかも、問題の「自転車が歩行者に被害を与えた事故」は、確かに増加の傾向にあり、この10年間で1.5倍にも増加、その死亡事故も毎年、全国で数件ほど発生しているという状況にあります。

歩道を通行していた歩行者が、交通ルールに無知で、かつ、交通マナーに欠ける自転車に接触・衝突され、負傷したり、最悪、命を奪われたりする―という災難に遭うのは何とも痛ましい限りのことであり、こうした事故を防ぐ手立てを早急に講じる必要があることは言うまでもありません。しかし、「自転車の押し歩き推奨地区」の導入という、あまりにも生半可で安直な対策では、さしたる効果は期待できない・・・と断ぜざるを得ません。

そもそも、なぜ、歩道で自転車を押して歩くことを推奨するのか・・・。周知のことと思いますが、改めて確認しておくと、道路交通法上、「車両」の一種である自転車は、歩車道の区分がある道路では車道の左側端に寄って通行することが原則として規定されていますが、自動車等との交通事故の危険性を考慮して、30年ほど前の1978年(昭和53年)12月に「普通自転車」の歩道通行可の特例条項が新設・整備・施行され、「普通自転車」は「通行可」の道路標識等がある歩道を通行することができるようになりました。ただし、そうした歩道を通行する場合は、「歩行者の通行を妨げないこと」や車道寄りの部分など既定のスペース内を通行するなどの制約規定が設けられていますが、「普通自転車の通行可」の道路標識等の設置整備が促進・普及しなかったり、自転車利用者に対する広報・指導対策が不十分であったりなどにより、自転車の歩道通行が無原則に普及・一般化してしまった結果、近年では、歩道通行の自転車が歩行者の安全を脅かす事態が目立つようになり、ために、自転車は「車道通行が原則」を改めてキャンペーンせざるを得なくなった次第です。しかし、四半世紀以上に及んで、自転車の無原則な歩道通行が事実上黙認されてきた現状で、いまさら、自転車は「車道通行が原則」と叫んでみたところで、多くの自転車利用者の行動が変わるはずもなく、自転車の歩道通行による歩行者の迷惑・危険性は一層拡大しつつあります。そこで、苦し紛れ、苦肉の策として登場してきたのが「自転車の押し歩き推奨」対策だ―と、「雑記子」は理解しています。

ちなみに、これも一般的に周知されていることとは思えませんが、道路交通法上、自転車や自動二輪・原付を押して歩く場合は、「みなし歩行者」とされ、歩行者の通行方法等に従って通行しなければならないことになります。つまり、自転車利用者が、自動車等との危険を考慮して歩道を通行するのはやむを得ないが、歩道は本来「歩行者の通行の用に供するために設置された施設」ですから、自転車利用者が歩道を通行する場合は、自転車を押して歩く「みなし歩行者」として通行してください・・・というのが「自転車の押し歩き推奨」対策なのです。しかし、駅東口周辺地区の一部歩道に「自転車の押し歩きエリア」をすでに設定している川崎市の場合をみても、自転車を押し歩きする歩行者を見かけることは極めて稀有で、自転車に乗ったまま歩道を通行している自転車利用者がほとんどを占めているという実情を見ても、この「自転車の押し歩き推奨」策は典型的な机上論にすぎないと思わざるを得ません。

付け加えれば、「自転車の押し歩き」推奨指導は、今に始まったことではなく、かなり以前から、「自転車の交通安全教室」の現場で繰り返し行われていたことです。ただ、歩道での「押し歩き」ではなく、「横断歩道」での「押し歩き」です。1978年(昭和53年)12月の道路交通法の一部改正により、自転車が道路を横断するための施設として「自転車横断帯」を設置することができるようになりましたが、横断歩道が設置されているすべての場所に「自転車横断帯」も設置されているわけではなく、むしろ、横断歩道はあるが、「自転車横断帯」はないというケースの方が圧倒的に多いのが実情ですが、自転車利用者のほとんどは、横断歩道がある場合、その横断歩道を自転車に乗ったまま通行するというのが実態です。しかし、横断歩道は、「歩行者の横断の用に供する施設」ですから、自転車利用者が自転車に乗ったまま横断歩道を通行するというのは、結果的に違法行為となります。そこで、「自転車の交通安全教室」など指導現場では、「自転車は横断歩道を渡るとき、自転車を押して歩きましょう」という指導を長年にわたり繰り返し行ってきました。また、「交通の方法に関する教則」にも、「横断歩道での自転車の押し歩き」が明記されていました。にもかかわらず、横断歩道を自転車を押して歩く自転車利用者を見かけることはまずなく、制服の警察官が自転車に乗ったまま横断歩道を通行していることを見かけることも珍しくはないのが実情でした。それ故かどうかは定かではありませんが、2008年(平成20年)6月の道路交通法一部改正の際、「交通の方法に関する教則」の「横断歩道での自転車の押し歩き」の部分が「横断中の歩行者がいないなど歩行者の通行を妨げるおそれのない場合を除き、自転車に乗ったまま通行してはいけません」と改正緩和されました。

つまり、道路の横断という、部分的な通行に限られた場面ですら「自転車の押し歩き」は長年の指導にもかかわらず定着できず、結局、法・『教則』の方を改正緩和せざるを得なかったのですから、「自転車が歩道を通行するときは押して歩きましょう」というキャンペーンが成果を挙げることはまず期待できないとみるべきです。確かに、歩道での「自転車の押し歩き」推奨策は歩行者の安全確保に寄与する策であることは否定できませんが、それを強権的に強制すれば、自転車はやむなく車道通行を強いられ、結果、自動車等と自転車の衝突事故が増加する危険性が高まるだけで、「自転車利用者の通行権と安全確保」策はどうなってしまうのでしょうか・・・。

先にも紹介しましたが、確かに、歩道通行の自転車による対歩行者の接触・衝突事故や迷惑行為は増加しています。しかし、自転車対歩行者の交通事故は、自転車が一方の当事者になった交通事故の2%にすぎず、自動車等の対自転車事故が圧倒的に多く、死亡事故に限っても、自転車対歩行者の死亡事故は全国で年間数件程度であるのに対し、自動車等の対自転車の死亡事故は600件近くも発生しています。また、歩行中の事故死者は年間1,700人前後で、自転車利用者の事故死者は600人ほどですから、確かに死者だけをみると、歩行者が依然として、いわゆる「交通弱者」になっていることは確かですが、死傷者全体でみると、歩行者は年間7万人弱であるのに対し、自転車利用者の死傷者はその倍の10数万人にも及び、歩行者以上の「交通弱者」になっていることはほとんど注目されていません。

歩道通行の自転車による対歩行者の接触・衝突事故や迷惑行為の増加は、自転車利用者の交通ルール・マナーの悪化が本質ではありません。自転車の通行権がいまだ市民権を得ず、自転車の通行スペースがほとんど確保されておらず、歩道と車道のはざまを右往左往せざるを得ないことが最大の問題点です。確か、過去に何度も、自転車の通行スペース確保のためのさまざまな「社会実験」も行われてきたはずです。その成果は、いつ、どこに、誰が責任をもって実現するのでしょうか・・・。こうした「自転車問題」の本質を置き去りにした「安全対策」など笑止の至りと思えてなりません。
(2012年8月17日)

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