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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年10月15日

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交通安全時評

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はやいもので、2012年も半年をすぎてしまいました。警察庁交通局のまとめによると今年6月末現在、速報値ですが、全国で発生した交通事故(人身事故、以下同じ)件数は313,802件で前年同期比14,478件、4.4%減少し、死者数は1,934人で前年比178人、8.4%の減少という状況になっています。このおよそ10年来の減少傾向が依然として続いている―という好ましい状況で推移しています。ただし、都道府県別にみると、前年に比べ増加に転じているところもありますが、その大半は微増というレベルであったり、交通事故は減少しているが死者数だけが若干増加していたり、またその逆であったりという状況にあります。しかし、北海道では、交通事故件数こそ前年に引き続き減少の傾向をたどっていますが、死者数は、前年比で22人、36.7%もの増となっていることが注目されます。しかし、北海道の場合、死者数の20人ぐらいの増減は、過去にもよくあったことで、「フロックの内」とみるのが最も妥当・適正な見方だと思います。したがって、問題はむしろ、交通事故死が急増している―と広報する当局のアピールも散発的・不徹底で、今一つ真剣味に欠けるほか、死亡事故抑止の緊急的対策もほとんど為されていないことだと考えます。

また、今年上半期の都道府県別の交通事故発生状況で、北海道以上に気がかりなのは、昨年の3.11の震災被災地3県の発生状況です。まず、福島県では、交通事故件数が前年同期比4.1%の増、死者数は33.3%も増加、岩手県では交通事故は減少しているものの、死者数は32.1%も増加しており、宮城県では死者数こそ減少しているものの、交通事故件数は前年同期比12%も増加しているという状況にあります。これら震災被災地3県では、震災と福島原発事故の復旧復興が遅々として進まず、いわゆる交通安全対策が、二の次、三の次になっている―というのが残念ながらの実情で、それが交通事故(死)増加の背景要因になっているのではないか・・・と懸念されるわけです。震災・原発事故の復旧復興こそが最優先されるべき課題であることはいうまでもないことですが、交通事故(死)増加が復旧復興の足を引っ張らないことを願うばかりです。

ところで、前回のこの「雑記」では、昨今、「危険運転致死傷罪」の適用の適否が論議される死亡交通事故が目立っていることに関して、従前まで、「故意」ではなく、「過失」による事犯として「業務上過失致死傷罪」で裁かれていた交通事故に関して、その一部の悪質違反によるとみられる交通事故を「故意」によるものと解して、いわゆる殺人事件と同じようにみなし、それとほぼ同等のレベルの刑罰をもって裁く「危険運転致死傷罪」が新設された、その経緯等を紹介しながら、被害者遺族・家族らの心情を重視して「危険運転致死傷罪」の適用条件を緩和することが妥当かどうかを考え、「雑記子」としては、いずれにしても、時代・社会情勢が大きく様変わりしつつある現状の刑法には、さまざまな不整合性や不備・矛盾が生じていることは確かで、「危険運転致死傷罪」や「自動車運転過失致死傷罪」、「業務上過失致死傷罪」の不整合性もその一つにすぎないと思うので、関係当局者・法曹関係者は、被害者遺族・家族らの心情を真摯に受け止めて、かつ、世論やマスコミの論調に流されず、根幹からの論議を重ね、それを国民に公開し、現行の刑法の不整合性や不備・矛盾の抜本的改善を図ることに着手しなければ怠慢のそしりは免れない―と結びました。

そして、この「雑記」の改稿期を迎え、さて、今度はどんな題材で改稿しようか・・・と思案していたさなか、7月13日の北海道新聞朝刊の第7面学芸欄に「近代刑法貫く『意思責任』、結果軽視の弊害 修正を」と題する論評が掲載されました。執筆者は九州工業大学大学院教授の佐藤直樹氏で、正しく「危険運転致死傷罪」の適用問題の根幹をつく傾聴すべき論評と思いますので、まずは以下に、少々長くなりますが、その論評要旨を抜粋し、紹介してみます。

コトの本質は、危険運転致死傷罪の適用の是非にあるのではない。じつは問題の核心は、「人の死」という結果の重大性は同じなのに、「わざと」という故意の罪にくらべて、「うっかり」の過失の罪はなぜこんなにも軽いのか、という点にある。近代以前のヨーロッパでは「結果責任」といって、故意だろうが過失だろうが、「人の死」という結果があれば刑罰は同じだった。そもそも「内面」、つまり意思のあり方は問題にならなかった。ところが18世紀末から19世紀半ばに成立した近代刑法は、以前の「結果責任」の原理を否定し、新たに「意思責任」の原理を採用した。そこでは、過失によるものはあくまでも例外的なものと考えた結果、過失の罪は故意の罪にくらべてきわめて軽いものとなったが、問題はその理由である。刑法学者の澤登佳人さんによれば、その理由は、近代に至って資本主義が全面展開し、当時のブルジョアジーにとって、鉱山、鉄道、自動車運輸、重工業などの創設・経営の結果生じる災害や事故の法的責任追及をさせないことが必要であったからだという。つまり、「結果責任」の原理がつらぬかれれば、ドライバーが人をはね殺すたびに重罪では、恐れて自動車に乗るもの(運転する者※雑記子註入)はいなくなり、自動車産業が成り立たず、産業全体の発展が阻害されることになるからだ。「世間」は厳罰化をもとめている。危険運転致死傷罪の適用のみならず、いま必要なことは、こうした結果の重大性を軽視する近代刑法の「意思責任」の原理を、「結果責任」の観点から修正してゆくことであろう。

以上が佐藤直樹氏の論評の要旨抜粋ですが、「危険運転致死傷罪」の適用を巡ってさまざまな論議が飛び交っている今、論議の根幹の正鵠を射抜く必要不可欠な視点であると考えます。しかし、昨今、問題となっている「危険運転致死傷罪」や「自動車運転過失致死傷罪」は、その適用条件や不整合性等、改善の余地があることは確かだとしても、いわば「結果責任」の観点を重視した結果、新設・施行されたものといえますが、このいずれもが、道路交通法上の交通事故をターゲットにしたもので、他の数々の「業務上過失致死傷罪」に該当する事件・事故に関しては、「結果責任」の原理による厳罰化を求める声がほとんど聞かれません。つまり、交通事故だけが、なぜか、「結果責任」の原理による厳罰化の対象にされているように思えてなりません。交通事故のみならず、他の数々の「業務上過失致死傷罪」に該当する事件・事故にも同様に「結果責任」による厳罰化を求める―というのでなければ、「危険運転致死傷罪」の適用条件の緩和や「自動車運転過失致死傷罪」の重罰化を求める声は、単に、飲酒運転や無免許等の暴走運転による事故で肉親の命を奪われた被害者遺族・家族の心情を優先させたものにとどまり、結果の重大性を軽視する近代刑法の「意思責任」の原理を見直し、「結果責任」の観点から修正していく―という社会的大潮流にはなりきれない―と思うのです。

ちなみに、最近の事故・事件を例にとれば、東電の福島原発事故の被害は、いまだにその全容が計り知れないばかりか、将来的被害拡大の可能性すらまだあり、東電や関係機関の極めて誠意に欠けて木で鼻をくくったような対応ぶりを含めて、その「結果責任」の重大性・深刻さは「業務上過失致死傷罪」に該当する事犯ではないのか、厳しく吟味すべきだと考えますが、いまだにそうした動きはみられません。また、仮に、東電の「業務上過失致死傷罪」を問うたとしても、その刑罰は結果の重大性に比べ、きわめて微々たる軽い刑にならざるを得ません。さらに近日、マスコミをにぎわしている大津市の「いじめ」によるとみられる中学生の自殺事件を例にとれば、「いじめ」の加害者同級生の罪もさることながら、学校や教育委員会には「業務上過失」がなかったといえるのか、仮に「業務上過失」がなかったとしても、「結果責任」の原理からすれば、その罪は「危険運転致死傷罪」適用のドライバーよりも軽いとは決して思えませんが、これもほとんど論議されていない―というのが実情でしょう。結果の重大性を軽視する近代刑法の「意思責任」の原理を見直し、「結果責任」の観点から刑罰のあり方を修正・改善していくことが根本問題である―という論には「雑記子」も大いに同調しますが、それならば、交通事故という、いわば個人的事犯よりも、原発事故や「いじめ自殺」といった企業や行政がかかわる事故・災害にこそ、まず「結果責任」を厳しく問う、それが先行されなければならない―と切に思う次第です。

なおまた、特に災害や事故に関しては、当事者の適正な処罰も重要ですが、再発防止のための原因究明こそが最も大切なことで、「結果責任」の原理による厳罰化は、ときとして災害や事故の再発防止のための原因究明に齟齬をきたす恐れがある―ということも、「結果責任」の原理を導入する論議に忘れてはならない重要な観点であることも付け加えておかなければなりません。
(2012年7月20日)

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第100回
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第99回
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「自動運転」車開発の現状と課題を考える・・・No.2
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第31回
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第16回
民主党圧勝し政権交代、どうなる「高速道路無料化公約」・・・
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