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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年10月15日

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交通安全時評

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去る4月23日朝、京都府亀岡市で無免許の無職少年(18歳)が運転する軽乗用車が登校中の小学生らの列に突っ込み、3人を死亡させ、7人に重軽傷を負わせる事故が発生しました。京都地検や京都府警は、事故直後に逮捕した少年に対し、被害者の多さや無免許運転の悪質性、被害者側の処罰感情等を踏まえ、「危険運転致死傷罪」(懲役最長20年、少年懲役5年から10年の不定期刑)の適用を検討しました。しかし、「危険運転致死傷罪」の適用には、(1)アルコールや薬物の影響下での運転(2)制御困難な高速度での運転(3)運転技能なしでの運転(4)他車等の進行を妨害する目的で危険な速度での運転(5)赤信号を無視し危険な速度での運転―という5つの要件のいずれかを満たす必要が定められていますが、アルコールや薬物の摂取は確認されておらず、事故直前速度50キロ前後では「制御不能な速度」といえない、以前から無免許運転を繰り返し、事故前も長時間にわたって運転していたことなどから「運転技能なし」にも該当しない、さらに、「無免許」や「居眠り運転」は「危険運転致死傷罪」の要件にないことなどから「危険運転致死傷罪」の適用は困難と判断し、5月14日午後に京都家裁に「自動車運転過失致死傷」などの非行内容で送致しました。

なお、京都地検は家裁に送致する際、事故の重大性などから「刑事処分相当」の意見書をつけ、成人と同様の刑事裁判を受けさせるための検察官送致(逆送)を求めた―とみられています。また、京都地検は家裁送致に先だって、同日午前、被害者遺族・家族らへの説明会を開催、家裁送致に至った状況・理由を伝えましたが、被害者遺族・家族らは説明会後、記者会見を開き「説明では納得できない」と落胆し、「現行法の不備について早急な改正を求めたい」と強く訴えました。そして、同日午後、加害者少年は京都・亀岡警察署から京都少年鑑別所に移送され、京都家裁は14日間の観護措置を決定し、その後、2回の少年審判を開き、6月8日の第2回目の審判で谷口真紀裁判長は「結果の重大性や悪質性、年齢などに照らすと、保護処分ではなく、刑事責任を問い、責任を厳しく自覚させることが相当」と判断し、検察官送致(逆送)とする決定を下しました。この間、被害者遺族・家族らは「危険運転致死傷罪」での起訴を求める署名活動を行い、6月12日、21万1,831人分の署名と意見書を京都地検に提出しました。京都地検は、これらを踏まえ、「危険運転致死傷罪」の適用可否を再検討していましたが、昨日6月18日の新聞報道によると、京都地検は一昨日6月17日、「居眠り運転が原因、危険運転の要件を満たす証拠はなかった」として、当該少年を「自動車運転過失致死傷」と道路交通法違反(無免許運転)の罪で起訴したとのことです。京都地検は同日、この結果を被害者遺族・家族らに説明会を開き報告しましたが、被害者遺族・家族らは「望む形にならず悔しい。法律と我々の考えの違いを感じる」とし、今後は「危険運転致死傷罪」の適用範囲を拡大する法改正を求める署名活動等を行う方針だとのことです。

ちなみに、問題の「危険運転致死傷罪」について、その立法成立経緯等を改めて確認しておきましょう。まず、従前、交通事故の加害者は「故意」ではなく、「過失」によるものとして、刑法第211条の「業務上過失致死傷罪」によって処罰されていました。しかし、「業務上過失致死傷罪」の最高刑が「禁固3年」では、悪質な交通違反による交通事故には刑が軽すぎる―との世論等の風潮を受け、1968年(昭和43年)に最高刑を「懲役5年」に引き上げる法改正が行われ、以降30年余の間、これによる処罰が行われてきましたが、1999年11月、東京・世田谷区の東名高速道路で飲酒運転の大型トラックが乗用車に追突、乗用車が炎上して3歳と1歳の女児が焼死するという事故が発生しましたが、この大型トラックの運転者は最終的に「業務上過失致死傷」と道路交通法違反(飲酒運転)の罪で懲役4年の刑が確定しました。また、2000年4月、神奈川県座間市で警察の検問から猛スピードで逃走していた無免許・飲酒運転の建設作業員30歳が運転する無車検の乗用車が歩道に突っ込み、歩道を歩いていた大学生2人を死亡させるという事故が発生しましたが、この無免許・飲酒運転の運転者には「業務上過失致死傷」と道路交通法違反(無免許・飲酒運転)等の併合罪で懲役5年6月の刑が言い渡されました。

この2件の交通事故により子どもを失った被害者遺族・家族らが中心となって、最高刑が懲役5年とする「業務上過失致死傷罪」は、そもそも、モータリゼーションが発達していなかった明治時代後期にできた古い法律で、窃盗罪よりも軽い刑罰は、悪質な違反による死亡交通事故が多発している現状にそぐわない―として法改正を求める署名活動等を全国的に展開、2001年10月に法務大臣へ最後の署名簿を提出した時には合計37万4,339人の署名が集まっていました。こうした動きを受けて、2001年11月の国会で可決され、同年12月25日に施行されたのが「危険運転致死傷罪」です。しかし、先にも述べたように、「危険運転致死傷罪」の適用にはかなり厳しい要件があり、その適用にはおのずと限界があり、この適用外となる交通事故の加害者は従前通り、最高刑でも懲役5年という「業務上過失致死傷罪」で裁かれることになりますので、そのギャップが大きすぎる―という批判が高くなり、自動車の運転による「業務上過失致死傷」に対しては別段の「自動車運転過失致死傷罪」を新設し、適用する―という法改正が2007年5月17日の国会で可決成立し、同年6月12日から施行されました。この結果、「危険運転致死傷罪」の適用外となった交通事故(死傷事故)の加害者には、従前の「業務上過失致死傷罪」(5年以下の懲役・禁固または100万円以下の罰金)ではなく、「自動車運転過失致死傷罪」(7年以下の懲役・禁固または100万円以下の罰金)が適用され、懲役・禁固の上限が引き上げられることになりました。しかし、これでもまだ、交通事故の被害者遺族・家族らの中には「刑が軽すぎる」とし、「危険運転致死傷罪」の適用範囲の拡大とともに、「自動車運転過失致死傷罪」の刑罰の引き上げを要求する声が少なからずあるのが現状です。

確かに、交通事故で突然、肉親の生命を奪われた遺族・家族らの心情からすれば、「危険運転致死傷罪」が適用される悪質な「危険運転」による死亡事故の場合はもちろん、それ以外の交通事故による死亡事故、たとえば、冒頭に紹介した京都府亀岡市での無免許少年による「居眠り」暴走事故のように、多数の死者を出した事故の場合でも、加害者に対する憤りは、たとえば、通り魔による無差別殺傷事件の犯人に対する被害者遺族・家族らの憤りと何ら変わりなく、懲役7年程度の最高刑ではあまりにも軽すぎるとして一層の厳罰化を求めるのもよく理解できます。そしてまた、「危険運転致死傷罪」適用の要件にも不明瞭さがあり、検察は勝訴の確証が持てない限り、「危険運転致死傷罪」での起訴を避ける傾向にあることにも同感しますが、死亡交通事故の加害者の多くを、いわゆる殺人事件の犯人と同じようにみなして、それと同レベルの刑罰をもって裁くのが妥当とする論には疑義を持たざるを得ません。事故の結果は、確かに、いわゆる「殺人事件」と何ら変わりはないかもしれませんが、「故意犯」であるか、「過失犯」であるかは厳格に区分するというのが現代刑法の基本理念のひとつであると考えるからです。

もちろん、近年には、一般の「殺人事件」の犯人に対しても、被害者遺族・家族らの心情に配慮し、「死には死を以って報いるべき」として極刑を求める風潮が高まっていることも承知していますが、それは「仇討」の心情と何ら変わりなく、裁判が報復の場になってしまう危惧があります。被害者遺族・家族らの立場に立てば、その心情も理解できなくはありませんが、果たして、本当に、その方向で進んでよいのか―、「雑記子」には確証が持てません。まして、過失による死傷交通事故の加害者を一般の「殺人事件」の犯人と同等にみなして裁く―というのには大いなる疑義を禁じ得ません。人の命を奪った―という結果には、確かに変わりありませんが、「故意」と「過失」との間には埋めてはならない大きな溝があることは否定できないからです。そして、「過失」による事故・事件の最重要課題は、加害当事者の処罰ではなく、「再発防止」にあり、加害当事者に対する厳罰化は必ずしも「再発防止」に全面的に寄与するとは考えられないからです。現に、殺人を行えば死刑という極刑で処罰されることがあることを誰もが承知しているにもかかわらず残虐な殺人事件が後を絶たないでいるだけでなく、死刑を望んで無差別殺傷事件を引き起こす輩すら出ているのです。

さらにまた、自動車の運転による「業務上過失致死傷」だけを特別視して他の「業務上過失致死傷」よりも処罰を重くした―というのにも大いなる疑義を禁じ得ません。たとえば、極端すぎる例かもしれませんが、昨年の3.11の震災による東京電力の「福島原発事故」には「業務上過失致死傷」の疑いがないのでしょうか。警察・検察が捜査に乗り出しているという話すら聞かれませんし、テレビのワイドショー・ニュース番組でも、そうした指摘がみられませんが、仮に、「福島原発事故」に「業務上過失致死傷」の疑いがあったとしても、その罪は「自動車運転過失致死傷」よりも軽い「業務上過失致死傷」で 裁かれることになりますが、このことを誰が納得できるでしょうか・・・。つまり、「自動車運転過失致死傷」よりも重く裁かれるべき「業務上過失致死傷」事件・事故が多々あるはずだ・・・という疑念が拭えないのです。

いずれにしても、現状の刑法の多くは、基本的に明治時代の原法を引き継いでいるもので、時代が大きく様変わりした今日、さまざまな不備・矛盾が生じてくるのは、いわば当然すぎることです。「危険運転致死傷罪」や「自動車運転過失致死傷罪」、「業務上過失致死傷罪」の不整合性もその一環にすぎません。死亡交通事故の被害者遺族・家族らが、その心情から罰則の不整合性や不備・矛盾を指摘し、法改正を求めていることを機に、関係当局者・法曹関係者は、それを真摯に受け止めて、かつ、世論やマスコミの論調に流されず、根幹からの論議を重ね、それを国民に公開し、現行の刑法の不整合性や不備・矛盾の抜本的改善を図ることに着手しなければ怠慢のそしりは免れない、と切に思う今日この頃です。
(2012年6月19日)

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