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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年10月15日

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交通安全時評

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いわゆるゴールデンウイーク、春の大型連休も終わりましたが、この4月にマスメディアでも注目された重大(交通)事故が相次いで発生し、5月中旬に至った現在でも、その関連報道が散見されています。まず、「春の全国交通安全運動」実施中の4月12日、京都市の四条通大和大路(市道)の交差点近辺で「てんかん」の持病を持つ会社員(男)30歳が運転する軽ワゴン車がタクシーに追突した後、停止せずに逃走し赤信号の交差点に進入、横断中の歩行者を次々にはね、さらに逃走し交差点から約200メートル先の道路右側の電柱に激突、横断中の男女7人が死亡、11人が重軽傷を負ったほか、軽ワゴン車の運転者も死亡するという悲惨な事故が発生しました。また、4月23日には京都府亀岡市の府道で、集団登校中の小学生の列に、無免許の18歳の少年が運転する軽乗用車が突っ込み、小学校2年生と3年生の女子、それにこの春入学したばかりの長女を引率していた母親26歳とその胎児の4名が死亡、ほか7人の児童が重体・重軽傷を負うという痛ましい事故が発生しました。

さらに、4月27日には、愛知県岡崎市の県道交差点を集団登校で横断中の小学生の列に、24歳の男性運転者の軽ワゴン車が突っ込み、2人の児童が重傷を負う事故が発生したほか、千葉県館山市の県道でも、集団登校のためバス停で路線バスを待っていた児童・保護者の列に、20歳の男性運転者が運転する軽乗用車が突っ込み、小学校1年生の男子が死亡、その母親も軽傷を負うという事故も発生しました。そのうえ、4月29日早朝には、石川県JR金沢駅から千葉・浦安のディズニーリゾートに向かっていた夜行高速ツアーバスが関越自動車道藤岡ジャンクション付近で防音壁に激突し大破、7人が死亡、39人が重軽傷を負う事故も発生しました。

「てんかん」の持病を持った運転者による事故は本人が死亡したこともあり、「てんかん」の病症が事故と関係があったか、目下、詳細調査中で不明ですが、その他の事故はいずれも、ぼんやり運転や居眠り運転が原因とみられ、「危険運転致死傷罪」を適用すべきという論議がマスコミを賑わしています。しかし、真に論議すべきは、事故を引き起こしたドライバーに対する処罰の強化や規制の強化ではありません。道路交通の場にはもちろん、建築土木等の工事現場など、あらゆるところで「安全第一」と記された看板、旗、幟の類を見かけますが、実際は、経済性や効率性、生産性など、安全以外の何かが優先され、「安全第一」というスローガンは内実が伴わない空虚な「免罪符」として掲げられているにすぎず、安全は、決して第一に優先されていない―というこの社会の現実こそを問題視するべきなのです。

ちなみに、「安全第一」というスローガン・標語は、今を去ること百年以上も前の1906年、アメリカのUSスチール社の会長E.H.ゲーリーが会社経営の基本方針として「安全第一、品質第二、生産第三」とし、安全を最優先させて会社経営にあたったところ、製品の品質も生産性も向上した―ということから世界中に広まったものですが、製品の品質や生産性の向上を図るためにこそ、安全が最優先されなければならないという、「安全第一」というスローガンの根源を支えるこの思想は、ほとんど定着していないというのが現実です。電力不足による経済活動低迷への懸念や生活混乱を理由に、安全の担保がまったくあやふやのまま、原発の再稼働に踏み切ろう―という論議などは、この「安全第一」の思想が欠如している典型的事例といえますが、冒頭に掲げた4月に相次いで発生した重大交通事故の根源にも、「安全第一」思想の欠如が厳然と横たわっています。ただし、「安全第一」思想の欠如が問題なのは、事故を引き起こしたドライバーや夜行高速バスの運行会社のことではありません。もちろん、彼らにも「安全第一」思想の欠如があることはいうまでもありませんが、最大の問題点は、道路交通の安全やバス等の安全運行を管理監督する関係行政諸官庁に「安全第一」思想が欠如していることです。

京都市内の暴走事故もしかり、集団登校中の児童の列に突っ込んだ事故のいずれもが、買い物客など人通りが多い道路や、通学路となっている周辺地域の人々の文字通りの「生活道路」で発生した事故です。歩行者が巻き込まれる交通事故の圧倒的多数が、いわゆる「生活道路」で発生していることはかなり以前からよく知られていたことで、「生活道路」の安全性確保対策の必要性も頻繁に指摘されていたことであり、関係当局もその対策に取り組むことを度々打ち上げてきました。しかし、現実にはそれが遅々として実施されていなかったことが、今度の事故では明白に露呈したわけです。もちろん、今度の事故が発生した一部の道路では、歩行者の通行スペースとなる路側部分を広げたり、歩道を設置するなどの措置を講じていたところもあったようですが、車道との段差やガードレールがなかったなど、その整備状況は極めて中途半端なものでした。そして何よりも、片側1車線とはいえ、車が自由に行き来できるようになっており、現に付近の幹線道路の抜け道としても利用されていたことが問題です。買い物客などが行き交い、また、通学路になっている「生活道路」では、少なくとも時間規制などで一般の車の通行を制限したり、また、車道の幅員を思い切って狭め、要所要所の「待機スペース」でしか対向車と行き違いができないようにするとともに、あえて道路を蛇行させ、要所要所に「ハンプ」を設置するなど、否が応でも車が低速進行せざるを得ないようにするなどの安全対策がいくつも考えられます。しかし、こうした安全対策も、関係行政当局に「安全第一」の思想が欠如・不足していれば、財源不足などを理由にいとも簡単に追いやられて実現されないことは自明の理です。なおまた、これら児童の事故は、「集団登校」が事故の被害を拡大させたという側面がありますが、そもそも、「集団登校」は子供たちを誘拐などの犯罪から守るという防犯上の対策として多くの学校で実施されているものですが、「集団登校」は、今度の交通事故のようなリスクを伴うことが明白になった以上、他の防犯対策はないのか、これも早急に検討し、見直すべき課題といえるでしょう。

関越自動車道での夜行高速バスによる事故は、関係行政当局の「安全第一」思想の欠如が一層顕著に露呈しています。「陸援隊」と称するバス運行会社の安全管理のずさんさはいうまでもありませんが、これは「陸援隊」に限ったレアなケースでは決してなく、これに類するずさんな安全管理でツアーバスを運行させているバス会社はあまたあることは以前から多く指摘されていたことです。そうした実情を受けて2年ほど前、総務省は運転者一人による連続運転時間の見直しを国交省に勧告していますが、国交省はまったく手を付けていなかったという始末です。また、国交省運輸局は「陸援隊」のような問題があるバス会社に対し、安全管理の改善勧告等を出すことはあっても、現場に出向き、実地に見聞し改善状況を確認する―というような実効性がある動きは、人員不足等を理由にほとんど行われていませんが、そもそも、こうした問題の根源は、バス、トラック、ハイタク等運送事業の許認可のハードルを下げてしまった「規制緩和」にあります。「規制緩和」実施当初から、多くの識者等が「安全」がなおざりにされる懸念を訴えていましたが、結果は多くの識者等が懸念した通りのものとなっているのが実情です。もっとも、「規制緩和」により許認可のハードルを下げたとはいえ、当局が主張するように必要最小限の安全管理規制等があり、許認可にあたっては、当然、それら規制項目がチェックされ、クリアされているかどうかをチェックしたうえで認可するわけですから、安全管理・安全運行に問題がある業者がはびこっている現状からすると、当局の許認可業務そのものがずさんであるという非難は免れないでしょう。それもこれも、関係当局に「安全第一」の思想が欠如・不足している結果の惨状だといわざるを得ません。

昨年の東日本大震災は、われわれに「想定外を想定」した二重三重のリスク管理・安全対策の必要性・重要性を痛感させてくれたはずです。また、経済性等を優先させた結果の中途半端な安全管理・リスク管理のツケは如何に大きいか、いまだに計り知れない結果になっていることも痛感させられているはずです。その今だからこそ、「安全第一」の思想とは何かを正しく受け止め、国づくりや町づくり、また、私どもの生活上の文字通りのスローガンとして掲げるべきものなのかどうかを真摯に問い直すべきです。いずれにしても、「免罪符」代わりのスローガンだけの「安全第一」は、もうたくさんだ―と切に願うものです。
(2012年5月11日)

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