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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年11月8日

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交通安全時評

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先般、たまたま、「高齢者の運転が危ないキャンペーンの不都合な真実」と題する『週刊ポスト』10月18日発行号(小学館)の記事を読みました。見開き4ページの記事ですからメイン特集というものではありませんが、この手の週刊誌では、比較的珍しい記事といえるでしょう。しかし、新聞やテレビ等の大メディアではあまり取り上げないこの種の記事を、週刊誌の名にふさわしいセンセーショナルな見出しで取り上げることがままあり、今回も、記事掲載のタイミングやその意図がいささか不明瞭ではありますが、「雑記子」としては、名の知れた週刊誌の『週刊ポスト』がこの種の問題を取り上げてくれたことを大いに歓迎するものです。まずは、この記事の概要を以下に紹介しておきましょう。

「高速道路の逆走」の7割ほどが65歳以上の高齢ドライバーだった等を根拠に「高齢者の運転は危ない」「高齢者は早く免許を返せ」の大合唱が強まっている。行政も「高齢者の免許返納」に積極的で、シニアドライバーの肩身はどんどん狭くなってきている。しかし、平成24年の65歳以上のドライバーの交通事故件数は10年前に比較すれば約1.2倍に増えているが、65歳以上の免許保有者も1.7倍に増えており、高齢者ドライバーの増加率ほど事故件数は増えていない。また、免許保有者のうち65歳以上の高齢者が占める割合は17%だが、全体の事故件数に占める高齢者の割合は16%であり、20代の21%(保有者割合は14%)、30代の19%(保有者割合は20%)に比べても低い。さらに、平成24年の統計によれば、16歳から24歳の事故発生率は1.54%であるのに対し、65歳以上は0.72%。若者よりも高齢者のほうが事故を起こす割合ははるかに低い。この数値は30代、40代、50代と比較しても高くない。また、年齢別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数を見ると、16歳から24歳が最も高く8.52人、65歳以上はそれよりも低く6.31人となっており、実際には高齢者(ドライバー)が事故を引き起こす確率は決して高いわけではない。にもかかわらず、「高齢者の運転は危険」とことさら強調する昨今の風潮は、いささか恣意的な面がありはしないか。

また、大手損保は今年になって任意保険料の値上げを断行しているが、新聞は「高齢者事故で収支が悪化」と書き、値上げの理由は高齢者の事故の増加だとしている。確かに、大手損保会社の社員の打ち明けによれば、高齢者の事故による支払いの負担は大きい。しかし、この「高齢者の事故」の中にはドライバーが高齢者というだけでなく、被害者が高齢者というケースも含まれており、若い世代の被害者よりも治療費・通院費が多い傾向にあるため保険料の支払いが高くなるというのが実態。それよりも、若者の「車離れ」などにより慢性的な保険加入者の減少が続いているため保険料を上げておきたいのが本音。また、「高齢者への運転指導」が巨額のカネを生んでいる現状も無視できない。70歳以上の免許更新者に義務づけられている「高齢者講習」がそれで、通常の免許更新の場合なら更新手数料と講習料は合わせて3,000円から4,000円ほどだが、「高齢者講習」の受講料が5,000円を超え、更新手数料も2,500円必要となる。つまり、行政にとっても「高齢者ドライバーは危ない」と訴え続けることは好都合ということだ。

以上が『週刊ポスト』10月18日発行号に掲載された「高齢者の運転が危ないキャンペーンの不都合な真実」という記事の概要ですが、残念ながら、どう改善・改革すべきか・・・という点にはまったく触れておらず、結局、現状の問題点の指摘に終始しています。そこで、この「雑記」では、改めて、高齢者ドライバーによる事故の発生状況の実態を検証・紹介し、その問題点・改善点等を述べてみようと思います。

まず、全国の65歳以上の高齢運転者(以下、高齢ドライバーという)による交通事故件数は、『週刊ポスト』の記事でも紹介されているように、10年前に比べ約1.2倍に増えています。ただ、『週刊ポスト』の記事で紹介されているのは、高齢ドライバーが第一当事者(一般的には、いわゆる加害者、正確には過失割合が大きい者)になった事故に限ったデータによるものですが、高齢ドライバーが第二当事者(一般的には、いわゆる被害者、正確には過失割合が少ない者)になった事故も少なくありませんので、第一当事者であれ第二当事者であれ、ともかく高齢ドライバーが一方の当事者になった事故の当事者数の年別推移をみると、この10年間、年により若干の増減がありますが、総じて増加の傾向をたどっていることは確かで、10年前の2003年(平成15年)には、高齢ドライバーの事故当事者は第一・第二当事者合わせて13万人余でしたが、2012年(平成24年)には14万8千人ほど(1.13倍)に増加しています。そして、全国の交通事故件数が10年前に比べ30%も減少していることを考え合わせると、確かに高齢ドライバーによる交通事故が増加している―と思われるのもやむを得ないのかもしれません。

しかし、先の『週刊ポスト』の記事でも紹介されているように、全国の65歳以上の運転免許保有者、つまり、高齢ドライバーの人数は10年前に比べ1.6倍ほど、500万人以上も増加しており、その増加率に比べれば高齢ドライバーによる事故当事者の増加は特段に懸念するほどの問題ではないといえます。少なくとも、高齢ドライバーは、他の年齢層のドライバーに比べ事故を起こしやすい―とは、決していえません。むしろ、65歳以上の「高齢層」のドライバーの免許保有者数当たりの事故発生率は、他の年齢層のドライバーのそれに比較して最も低い―というのが実態です。

すなわち、弊社編集部が公益財団法人交通事故総合分析センターから取り寄せた基礎データを基に、ドライバーの年齢層を、24歳以下の「若年層」、25歳から39歳の「青年層」、40歳から64歳の「壮年層」、そして65歳以上の「高齢層」という4つに区分し、その年齢層ごとの免許保有者数当たりの事故発生率を算出し、過去3年間の平均概数をまとめた資料によると、「若年層」のドライバーは、免許保有者38人につき一人が一年間のうちに交通事故(人身事故)の第一当事者または第二当事者になっている、つまり、「若年層」の事故発生率は38分の1(2.63%)、「青年層」は65分の1(1.54%)、「壮年層」は82分の1(1.22%)、「高齢層」は90分の1(1.11%)となっており、高齢ドライバーの免許保有者数当たりの事故発生率が最も低いという結果になっています。なお、交通事故の第一当事者の発生率に限ってみると、「壮年層」の事故発生率が最も低く144分の1(0.69%)、次いで「高齢層」が128分の1(0.78%)、「青年層」が122分の1(0.82%)、「若年層」が63分の1(1.59%)ということになっていますが、いずれにしても、「高齢ドライバーは他の年齢層のドライバーに比べ事故を引き起こしやすい」という状況にないことは確かです。ただし、これはあくまでも年齢層ごとの免許保有者数当たりの事故発生率を算出・比較した結果であり、必ずしも走行実態を正しく反映したものではありません。

年齢層ごとの事故発生率を正確に把握するためには、年齢層ごとのドライバーの走行実態、つまり、各年齢層のドライバーが年間にどれだけの頻度で運転しているか、その年間の走行距離はどれほどか―といった運転実態をしっかり調査し、少なくとも各年齢層のドライバーの年間の「走行台キロ当たり」の事故発生率を算出・比較することが必要ですが、「雑記子」の知る限り、そうした調査・研究は見当たりません。したがって、「高齢ドライバーは他の年齢層のドライバーに比べ事故を引き起こしやすい」ということを示す科学的根拠は皆無に等しいと言わざるを得ないのです。にもかかわらず、「高齢ドライバーの運転は危険」ということが常識的にまかり通っているのは、「加齢に伴って視力・注意力等の心身機能が低下し、運転に悪影響が出る」ということが唯一の根拠になっていると思います。

しかし、加齢に伴って心身機能が低下することは確かですが、個人差が大きく、高齢ドライバーのすべてが他の年齢層のドライバーに比べ、安全運転の確保に必要な心身機能全般にわたって劣っている―ということにはなりませんし、何よりも心身機能の低下が、果たしてどれほど、実際の交通事故の決定的原因になっているのか、その点が定かでありません。もちろん、高齢ドライバーが当事者となった交通事故の中には加齢に伴う心身機能の低下・衰えが決定的原因になったとみられる事故もありますが、そうしたケースはむしろ少数で、高齢ドライバーによる事故の圧倒的多数は他の年齢層のドライバーによる事故と同じような原因で発生しているのが実態であり、先にも紹介した年齢層ごとの免許保有者数当たりの事故発生率をみても、心身機能・能力が最も充実しているはずの「若年層」や「青年層」の事故発生率の方が「高齢層」のそれよりも格段に高いという状況からしても、加齢に伴う心身機能の低下・衰えをもって「高齢ドライバーは危険!」と決めつけるのは非常な暴論だと思います。

ただ、高齢ドライバーが第一当事者または第二当事者になった交通事故の致死率(弊社編集部では人身事故件数当たりの死亡事故発生率で算出)をみると、「高齢層」では132分の1、つまり、高齢ドライバーが当事者になった人身事故132件につき一件の死亡事故が発生、高齢ドライバーが第一当事者になった事故に限れば、その致死率は116分の1という結果になっており、「若年層」(一当・二当計222分の1、一当173分の1)、「青年層」(一当・二当計234分の1、一当179分の1)、「壮年層」(一当・二当計198分の1、一当165分の1)に比べて致死率が最も高いという状況にあります。ただし、高齢ドライバーによる事故の致死率が他の年齢層のそれよりも高いのは、それこそ、加齢に伴い、特に身体機能が低下しているため、他の年齢層のドライバーによる事故と何ら変わりない場合でも、衝突時のダメージをより強く受けやすいからであり、決して、高齢ドライバーが他の年齢層のドライバーに比べ特別危険な運転をしているからではありません。また、日本社会の急速な高齢化の進行によって、今後益々、高齢ドライバーが増加していくことが明確に予測されますので、交通安全対策上、高齢ドライバーに対する安全対策の重要度が高まることは確かです。そうした高齢ドライバーに対する安全対策を効果的・効率的に実施・推進していくためにも、「高齢ドライバーは、加齢に伴い心身機能が低下・衰えているから危険!」などという非科学的な決めつけの論拠のみでの対応は何としても正していく必要があります。そのためには、特別なプロジェクトチームを早急に結成するなどして、高齢ドライバーの事故発生状況を多角的・科学的観点から調査・分析して、真なる問題点・その実態を把握することが必要不可欠であると強く提言しておきたいと思います。
(2013年10月23日)

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