★去る1月4日、警察庁交通局交通企画課は昨年2012年(平成24年)に全国で発生した交通事故の統計数を発表しました。これによると、事故発生件数は前年比2万7,030件減少の66万4,907件(概数)、死傷者数は前年比3万155人減少の82万8,950人(概数)で、いずれも8年連続の減少となり、なかでも、死者数(24時間死者)は前年よりも201人少ない4,411人で、12年連続しての減少を達成しました。しかも、死者数が4,500人を下回ったのは実に1951年(昭和26年)以降61年ぶりのことです。半世紀以上も前の昭和30年以前の道路交通状況と今日のそれを勘案すると、にわかには信じ難いほどの劇的減少ぶりです。さらにまた、過去8年、交通事故の発生件数は確かに減少し続けてきましたが、昨年の66万件余というのは20年余り前の1991年(平成3年)の発生件数とほぼ同様です。しかし、この時の死者数は1万1,105人にのぼっており、この点からしても、昨年を含む近年の死者数が年間4千人台にとどまっているというのは、やはり、驚異的な減少であり、不可解な減少傾向だと言わざるを得ず、それだけに、その要因等の厳密・詳細な解明が必須だと痛感します。
★ともあれ、交通事故件数およびその死者数が減少傾向をたどっていることは大いに望ましいことには違いありません。そこで今回の「雑記」では、参考までに、我が国の交通事故(死者)発生状況は国際的に比較するとどのような状況になっているのか―を、公益財団法人・交通事故総合分析センターが毎年発行している『交通統計』(平成23年版)に掲載されているデータを基に紹介してみようと思います。
★とはいっても、『交通統計』には、残念ながら、「各国の(交通事故)死者数の推移」と「各国の状態別死者数の比較」、そして「各国の年齢層別死者数の比較」というわずか三つのデータしか掲載されておらず、しかも、「各国」といっても欧米主要国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ)と隣国・韓国という数ヶ国のデータに限られていますので、万度な国際比較を紹介できるというわけではありませんが、それでも、我が国の交通事故死者の発生状況を国際的レベルで概要的に理解するにはこと足りると考えますが、まず、「各国の(交通事故)死者数の推移」には、その1として、先に紹介した欧米主要国と韓国、日本の「30日以内死者数」の推移表が掲載されていますが、まず、ここに取り上げられている7ヶ国の2002年から2010年までの死者数の推移をみると、いずれの国においても交通事故死者数は総じて減少傾向をたどっており、交通事故死者数の減少傾向は日本のみならず、少なくとも欧米主要国共通のグローバルな傾向であることが判明します。そして、最新年の2010年の各国の死者数をみると、アメリカが最多で3万2,885人、次いで日本が5,745人、韓国が5,505人、フランスが3,992人、以下ドイツ3,648人、イギリス1,905人、オランダ537人となっており、最多のアメリカでは、年間に、日本の6倍近い3万人以上もが交通事故で死亡していることが判明します。しかし、これはあくまでも、死者数の単純比較の結果にすぎません。そこで、「各国の死者数の推移」の2として掲載されている「人口10万人当たり死者数」をみると、韓国が11.3人で最多、次いでアメリカが10.6人、フランスが6.4人、以下ドイツ4.5人、日本4.5人、オランダ3.2人、イギリス3.1人ということになっており、やはり、アメリカが人口10万人当たりの死者数でも日本の2倍以上の死者数を記録しており、韓国がさらにそれを上回り最多となっていることが判明します。また、「各国の死者数の推移」の3として掲載されている「自動車(原付2種以上)1万台当たり死者数」をみると、やはり、韓国の値が断然高く2.64人、次いでアメリカが1.28人、フランス1.02人、以下ドイツ0.73人、日本0.69人、イギリス0.67人(※2009年)、オランダ0.57人となっており、これらを総合すると、日本の交通事故死者数は、少なくとも欧米主要国に比較して決して多くはない、相応の好成績をとどめているとみることができます。
★しかし、日本の交通事故死者の状況を国際的に比較すると、憂慮すべき問題点があります。『交通統計』には「各国の状態別死者数の比較」が掲載されていますが、これによると、日本の交通事故死者の3分の1以上(34.6% ※2010年)は「歩行中」、つまり、歩行者で、ドイツ、フランス、オランダ、アメリカでは日本の半分以下、10%台にとどまり、イギリスはそれよりも高率ですが、それでも21%余で、日本の高率ぶりが際立っています。ただし、隣国・韓国は日本よりもさらに高率で37.8%となっていますが、日本よりも「車社会」後発国である韓国はさておき、日本の交通事故死者に占める「歩行中」の死者の割合が、いわゆる欧米先進国に比べ異常に高いことは確かで、これが国際的にみた場合の日本の交通事故死の憂慮すべき問題点の第一といえますが、これに加え、日本の交通事故死の憂慮すべき問題点がもう一つあります。
★『交通統計』には「各国の年齢層別死者数の比較」も掲載されていますが、それによると、日本の「30日以内死者数」の51.7%が65歳以上の高齢者で占められています。ちなみに他国をみると、日本以外で最も高齢者の死者占率が高いのが韓国の31.8%、以下、オランダ28.7%、ドイツ24.9%、イギリス19.8%、フランス19.1%、アメリカ16.7%となっており、日本の高率さが突出しています。高齢化が世界各国に先駆けて急速に進行している日本社会の人口構成状況が反映された結果にすぎない―という見方もありはしますが、「歩行中」の死者の割合が高いことと併せてとらえると、近年、我が国の交通事故は着実に減少傾向をたどり、特にその死者数は急激な減少傾向をたどっているとはいえ、我が国の交通事故死には憂慮すべき大きな課題を抱えていることは厳に認識しておくべきでしょう。
★念のため、先にも紹介しましたが、上記に紹介してきた国際比較の統計数は『交通統計』の最新版(平成23年版)に掲載されている2010年のものですが、警察庁交通局が発表している昨年2012年(平成24年)の統計をみてみると、死者数(24時間死者)は4,411人で、12年連続しての減少を達成していますが、そのうち、65歳以上の高齢者は51.3%となっており、その占率は年々上昇する傾向がみられます。また、昨年のデータは今日現在、まだ発表されていませんので一昨年のデータをみると、5,450人の「30日以内死者」のうち、「歩行中」の死者の割合は36.1%を占め、2010年よりも高率になっており、過去10年ほどの推移をみても年々高率化する傾向が顕著に認められます。しかも、弊社が分析集計している最近年の平均値データによれば、「歩行中」の死者の70%近くもが65歳以上の高齢者で占められている―という実態にもあります。したがって、「雑記子」の見解によると、交通事故死者の減少傾向は、もちろん、歓迎すべき状況ではありますが、この減少傾向自体は、欧米主要国でもみられる傾向でもあり、我が国だけの実績というわけでもありませんので、手放しで喜ぶわけにはいかないだけでなく、欧米主要国には見られないほど「歩行中」の死者の割合が段違いに高く、しかも、年々高率化の傾向をたどっているという状況からすると、かつて(2003年)、時の小泉純一郎総理が年頭所信で「今後10年間で全国の交通事故死者数を5,000人以下にし、日本を世界一安全な道路交通の国にすることを目指す」という目標を表明しましたが、5,000人以下という量的目標はともかくも達成しましたが、欧米主要国に比べ歩行者や高齢者の死者の割合が断然高いことからすると、質的な改善は認められず、「世界一安全な道路交通の国」といえる状況には至っていない―と評価せざるを得ません。
★ちなみに、イギリスは、かつて(1994年以前)、西欧主要国のなかでは例外的に、日本以上に「歩行中」の死者の割合が異常に高かったのですが、1987年に、「過去5年間の死傷者の年平均の3分の1の減少を目指す」という目標を掲げ、様々な工夫をした対策を着実に実施した結果、死者数の39%減、重傷者の45%減を達成したばかりでなく、「歩行中」の死者の割合も日本のそれを大きく下回る20%前後にまで減少させる―という見事な成果を得ています。したがって、日本が真に「世界一安全な道路交通の国」だと胸を張るためには、交通事故死者総数の減少化もさることながら、「歩行中」の死者の割合や高齢者の死者の割合の低減化を図る対策が不十分・不備であったことを猛省し、歩行者事故防止対策と高齢者事故防止対策の効果性を高めることが必須課題であると強く思います。
★末尾に、参考として、昨年2012年に全国では飲酒運転によるとされた死亡事故は252件と報告されており、たびたびの罰則強化等にもかかわらず飲酒運転による死亡事故がいまだに絶えないことを懸念する人も少なくないと思いますが、我が国の死亡事故全体に占める飲酒運転死亡事故の割合は数%ほどで、欧米主要国に比較すると、たとえば、アメリカ、カナダでは飲酒運転による死亡事故が40%前後も占めていますし、フランス、ニュージーランド、デンマークなどでは30%前後、オーストラリア、イギリスなどが20%前後となっており、我が国の飲酒運転による死亡事故の割合はかなり低いという状況にある―というのが実態ですから、この国際的比較実態を正確に踏まえ、必要以上に悲観的に騒ぎ立て、罰則強化策だけに走るのではなく、いわゆる「アルコール依存症対策」等を含めた、よりきめ細かで多角的な飲酒運転防止対策を着実に実行していくことこそが必要だと思うものです。(2013年2月13日)