★6月9日、警察庁は今年の全国の交通事故死者数が6月6日に2,000人を超えたと発表しました。日付別の統計が残る1970年以降、年間の全国の死者数が2,000人を超えた月日が最も遅かったのは、昨年の5月15日でしたが、今年のそれはさらに22日も遅く、最遅記録を大幅に更新したことになります。
★ちなみに、例年、交通事故死が多発している北海道でも4月末現在の死者数が前年同期比24人減の46人で、過去10年間の4月末の平均死者数(99人)の半数以下のペースとなっており、この状況で推移すると、ほぼ60年ぶりの200人台割れが実現する可能性もあります。
★いずれにしても、長年、わが国の交通安全上の懸案であった交通事故死の減少が激減という状況で実現し、2006年を初年度とする国の第8次の交通安全基本計画に掲げた「2010年までに年間の24時間死者数を5,500人以下にすることを目指す」という当面目標をもクリアする可能性が高まったことを思えば、大いに喜ぶべき状況であることは確かです。
★その上、全国的には昨年までの3年間、連続して人身交通事故の発生件数そのものも減少し、今年もその減少傾向が続いており、この調子でいくと、国の第8次の交通安全基本計画に掲げたもう一つの当面目標、「2010年までに年間の死傷者数を100万人以下にすることを目指す」という目標も達成できそうで、誠に喜ばしい限りです。
★しかし、問題がないわけではありません。なぜ、交通事故死が減少し続けているのか、なぜ、交通事故が減少傾向に転じたのか、その点が不明なことです。確かに、この数年、いわゆる「飲酒運転」や「危険運転致死傷罪」に関する罰則が強化され、また、「自動車運転過失致死傷罪」が新設されたなどで交通事故に対する厳罰化が行われ、たとえば、今年の場合、全国の飲酒運転による死亡事故が大幅に減少したなどの変化が見られます。しかし、飲酒運転による死亡事故はもともと死亡事故全体の10%程度にすぎず、飲酒運転による死亡事故が大幅に減少した―といっても、死亡事故全体の激減に寄与した割合はさほど大きなものではありません。また、交通事故に対する厳罰化も、いわゆる悪質・無謀運転による事故の抑止を意図したものですが、悪質・無謀運転による事故・死亡事故は、もともと事故全体、死亡事故全体のなかでは少数というのが実情ですから、その手の事故や死亡事故の減少が事故全体、死亡事故全体の減少に寄与した度合いもしれています。このように、一般に交通死亡事故や交通事故の減少要因とみられているものを改めて詳細に検証してみると、少なくとも、それらが決定的要因になっているとは考えられない状況のもとで、死亡事故は間違いなく顕著に、劇的に減少し続けており、交通事故そのものも減少傾向に転じているのです。
★さらに言えば、少なくともこの数年、国、都道府県、市町村のいずれもが財政等の悪化により、その交通安全対策関連予算は軒並み毎年削減されているばかりでなく、かつては大半の市町村でみられた交通安全担当の専任者がほとんどいなくなったほか、警察の取締りも実質的には強化拡充されてはおらず、さらには交通安全協会など地域の交通安全団体のほとんどにおいても財務や人員体制が間違いなく弱体化しており、少なくとも、地域住民等に対する交通安全教育や広報活動は年々縮小・減少している、そんな状況のもとで、死亡事故は間違いなく顕著に、劇的に減少し続けており、交通事故そのものも減少傾向に転じているのですから、不可解といわざるを得ないわけです。
★まあ、あえて挙げれば、経済の先行き不透明感、原油・ガソリン価格の高騰、少子化による若年ドライバーの減少などによる車の買い控え、乗り控えによって 車の交通総量が減少していることが事故減少の背景要因になっているかもしれないと考えられますが、それとても、確かな調査データがあるわけではありませ ん。
★にもかかわらず、死亡事故は間違いなく顕著に、劇的に減少し続けており、交通事故そのものも減少傾向に転じているのですから、喜ばしいことには違いありませんが、関係当局者や研究者・マスコミなどがこの不可解な事態の解明に関心をみせていないことが何とも気がかりです。死亡事故の減少をさらに確実に実現していくためにも、交通事故そのものの減少傾向を確実に定着させていくためにも、今、死亡事故は、なぜ、劇的に減少し続けているのか、交通事故は、なぜ、減少に転じたのか―、それをきちんと解明することが必要不可欠と思うからです。(2008年6月11日)