★10月末現在、警察庁がまとめた交通事故の発生状況(概数)によると、全国の人身交通事故件数は627,000件余で、前年同期よりも58,000件以上、8%ほども少なく、また、それによる死傷者は779,000人余で10万人弱、9%ほども少ない―という状況で推移しています。とりわけ、懸案の死者数は10月末現在、4,105人で前年同期よりも562人(12%)も減少しています。
★この状況で推移すると、今年の全国の交通事故は80万件を割り込み、死傷者数も100万人以下となり、そのうちの死者数は5,000人を下回る可能性が濃厚という状況にあります。
★ちなみに、年間の交通事故件数が80万件を割り込み、死傷者数が90万人台というのは1997年以来の11年ぶりのこと、また、死者数5,000人未満というのは半世紀以上も前の1952年昭和27年以来のこととなります。さらにまた、2005年以降の減少傾向が今年も維持され4年連続の減少が実現することとなるほか、2006年度を初年度とする国の第8次交通安全基本計画に掲げた当面目標「本計画の最終年である平成22年(2010年)までに、年間の24時間死者数を5,500人以下にする」を達成するだけでなく、2003年に掲げた国の交通安全の新たな目標=「今後10年間で(2012年までに)年間の交通事故死者数を5,000人以下にし、日本を世界一安全な道路交通の国にすることを目指す」をも早々に達成することになります。そのうえ、第8次交通安全基本計画に掲げた「本計画の最終年である平成22年(2010年)までに、年間の死傷者数を100万人以下にする」というもう一つの当面目標をも最終年を待たずに達成することとなり、誠に喜ばしい限りの成果になることはいうまでもありません。
★ただ、減少しているのは交通事故(死)だけではありません。少なくとも、日本のいわゆる車社会が本格的に始動した1960年昭和35年以降、毎年確実に増え続けてきた全国の自動車保有台数(原付、小型特殊を除く)は、一昨年2006年をピークに減少し、今年はさらに減少することでしょう。また、「自動車走行キロ」、つまり、保有自動車全体の走行距離を示すデータの推移をみても、毎年確実に増え続けてきましたが、2003年をピークに年々減少の傾向に転じています。特に今年は、従前からの年金・医療・介護制度の信頼失墜による将来不安に加えて、年初からの原油の高騰、それにアメリカ発の金融危機による実体経済の急速な悪化による不況などにより、いわゆる車の買い控え、乗り控えが起こり、保有台数や走行キロは確実に減少していると推測され、それが交通事故(死)減少の要因のひとつになっている―と考えられはします。
★しかし、保有台数や走行キロが減ったとはいえ、わずかな減少にすぎず、たとえば、全国の年間の交通事故件数が80万件を割り込んでいた10年余り前の1997年当時よりも多い保有台数や走行キロであるのが実態です。そんななかで、交通事故件数は減り、特に死者数は半分近くも減っているのは、やはり、何とも不可解です。もちろん、何はともあれ、「結果がすべて」ともいえる問題でもありますから、今年の交通事故状況は大いに歓迎すべき状況にあることは確か です。
★しかしなお、あれこれの減少要因は考えられますが、それらも詳細に検証してみると、必ずいくつかの不明・疑問点があることも確かで、結局、なぜ、交通事故(死)が減少しているのか、本当のところ、良くわからない―というのが実相ですから、手放しで喜ぶわけにはいかない―というのがこの『雑記』の正直な心境です。
★さらに、その心境に拍車をかける懸念材料もあります。さまざまな交通安全活動推進の現場である都道府県や市町村、その関係団体の財政は、近年の不況・税収の悪化などに伴って年々縮小し、少なくとも、さまざまな交通安全活動をささえる大切な浄財・財源は目減りする一方であり、かつては相応にあった交通安全活動関係予算はゼロに等しいという自治体も少なくなく、また、増えつつあるほか、関係団体では、運営費を捻出するのがやっとで、肝心の交通安全推進事業が 質・量ともに年々貧弱化している―というのがその懸念材料です。
★世界的規模で進行している金融危機と経済不況のなかで、かつてのような浄財・財源を確保し、いままで以上に工夫を凝らした高度で効果的な交通安全活動を推進していくことは事実上不可能なばかりか、質・量ともに年々貧弱化しつつある交通安全活動と相まって、世界的規模で進行する金融危機と経済不況のなかで、人々の心も荒み、それらが引金となって、なぜか、ともかく、ようやく減少傾向に転じた交通事故が再び増加に転じないようにするためには、どうしたら良いか、いまこそ真摯に考えていく必要があると強く思う日々です。(2008年11月12日)