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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年12月7日

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交通安全時評

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未曾有の大地震による東日本大震災が発生してから早くも4か月以上を経過しましたが、復旧・復興のめどは、いまだほとんど立っていないばかりか、東京電力・福島第一原発事故による深刻な諸問題が拡大すらしているなか、今度は九州・西日本を中心に台風6号の強風と大雨により各地に甚大・深刻な被害が発生し、日本列島はまさしく、満身創痍の状態に陥っています。そんななか、唯一、女子サッカー「なでしこジャパン」のワールドカップ優勝は、日本に大きな勇気と希望を与えた大快挙でしたが、「なでしこ」たちが我々に教えてくれたのは、何よりも、強靭なチームワークの大切さ―だったと思っています。しかし、日本列島を相次いで襲っている大災害による被害の惨状をみると、政治や行政等統治関係者の「チームワーク」の劣悪さと「危機管理意識・システム」の低劣さだけが目につくのは、何とも情けない限りです。

この際、「そもそも安全など存在しない。常にあるのは危険である」
(日本ヒューマンファクター研究所長・黒田勲)という安全思想を根底とし、「起こり得る可能性があるものは、確率が低くても、現実には必ず起こる」(柳田邦男「想定外か?問われる日本人の想像力」・『文芸春秋』2011・5月号所載)と考え、「究極の安全対策は『想定外を想定する』ことに尽きる」(村串栄一「東京電力、なぜ幹部は逃げ腰なのか」・『文芸春秋』2011・5月号所載)とするのが本物の「危機管理・リスクマネージメント」の基本であることを今一度確認しておきましょう。

自転車の交通ルール順守、その不合理性に目を向けることがまず必要・・・
さて、この「雑記」の本旨の交通安全問題ですが、以下では、前回に引き続き「自転車の交通ルール」に関する諸問題を述べてみます。

前回は、自転車利用者の増加を背景に、歩道を通行する自転車が歩行者に危害を与える事故が増加しているなどの状況を受け、自転車利用者の「ルール順守意識」や「安全意識」の低さが問題視されていますが、自転車利用者の乱脈通行は、「順法意識」や「安全意識」が劣悪なためだけではなく、いわゆる「自転車の交通ルール」が形骸的で乱脈を極め、非現実的で理不尽な代物であることが元凶なのであり、それを抜本的に解決することこそが必要不可欠であることを述べました。

そもそも、「運転免許証」を要しない自転車利用者が「自動車等」(自動車・原付)のドライバーと同様、「車両の運転者」として一括され、道路通行上のさまざまな義務が規定されていること、また、違反者の取締りに当たっても、「運転免許」という国家資格を有している自動車等のドライバーは原則的に行政処分で済むのに対し、自転車利用者はいきなり刑事罰を受ける―という現状は、どう考えても理不尽・不平等と言わざるを得ない―という、いわば、ベーシックな問題に言及しましたが、今回はもっと具体的な通行上のルール等を基に「自転車の交通ルール」の形骸性、非現実性、理不尽性について述べてみます。

まず、自転車の通行区分ですが、少なくとも「運転免許証」を有している人は周知のことでしょうが、歩車道の区分がある道路では、自転車は「車道の左側端通行」が原則になっています。「原則になっている」というのは、自転車の車道通行の危険性を鑑み、1978年(昭和53年)の道路交通法の一部改正によって、一定の条件下で歩道通行を可とした経緯があるためです。一定の条件とは、(1)「普通自転車の歩道通行可」の道路標識・道路標示がある歩道であること、(2)車体の大きさ・構造が一定の基準を満たす「普通自転車」であること、(3)歩道上の指定された部分を通行すること、(4)歩行者の通行を妨げない速度と方法で通行することなどですが、これらはあくまでも、歩道に「普通自転車の歩道通行可」の道路標識・道路標示が表示されている場合に限られますが、現行の道路交通法では、そうした標識・標示がない場合でも、「普通自転車」が歩道を通行できる場合があることも別に規定されています。

その第一は、「普通自転車」の「運転者」が児童・幼児、または70歳以上の者、あるいはまた、車道通行に支障がある身体障害者である場合です。第二には、交通状況に鑑み、自転車通行の安全を確保するため、「普通自転車」が歩道を通行することがやむを得ないと認められるときも、「普通自転車の歩道通行可」の道路標識・道路標示が表示されていない歩道でも通行することができる―と定められています。ちなみに、「安全を確保するため、歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき」とは、車道が道路工事中であるときとか、車道幅員が狭く、自動車等の交通量が多いとき―といったケースが国家公安委員会策定の『交通の方法に関する教則』に例示されていますが、これらをきちんと正しく理解している自転車利用者はほとんどいない―というのが実情でしょう。しかし、自転車利用者の順法意識や安全意識の低さが問題では決してありません。

この一部改正から30年以上も経過しているのに、この間、組織的・計画的・継続的な周知徹底策がほとんど為されてこなかったことこそがその根本要因です。「普通自転車」の歩道通行可の条件規定が複雑多岐にわたり、簡単には理解しにくいものであるにもかかわらずです。さらにまた、緊急避難的な一部改正であるにもかかわらず、そのまま30年以上も放置し、車道や歩道と明確に区別された自転車の通行スペース、たとえば、道路交通法第2条第1項第3号の3に規定されている「自転車道」(車道の部分に縁石線や柵に類するものによって区画された自転車の通行のためのスペース)などを設置してこなかった道路設置者等にも大いなる責任があります。つまり、自転車通行に明確な市民権を認めてこなかったことこそが自転車利用者の順法意識や安全意識の低さの根源なのです。

さらに「自転車の交通ルール」の陳腐さを示す具体的な例を挙げてみましょう。自転車が車道(道路)を横断するとき、付近に「自転車横断帯」が設置されているときは、その「横断帯」によって横断しなければならない―と規定されていますが、ご承知のように、「自転車横断帯」というのは横断歩道に付帯されているものですが、横断歩道のすべてに「自転車横断帯」が付帯されているわけではないのが実情です。そこで、「自転車横断帯」が付帯されていない横断歩道では、自転車利用者のほとんどが横断歩道を自転車に乗ったまま通行している―というのが実情です。しかし、横断歩道は、あくまでも、歩行者が横断するためのスペースですから、「車両」である自転車を運転したままそこを通行するのはルール違反となります。そこで、国家公安委員会策定の『交通の方法に関する教則』では、「自転車横断帯」がないところでも近くに横断歩道があるときは、自転車を押してその横断歩道を渡るようにしましょう―と規定され、実際、小学生等を対象にした「自転車交通安全教室」などの指導現場では、こうした指導が長年繰り返されてきました。

しかし、実際の交通現場では、ほとんどすべての自転車利用者はもちろん制服の警察官ですら自転車に乗ったまま横断歩道を通行している―という実情の下では、自転車を押してその横断歩道を渡るようにしましょう―という指導はまったくの絵空事として、その指導を受けた小学生等の子どもですら、ほとんど実行していないという実態にあり、結局、「自転車の交通ルール」は「交通安全教室」内だけの建前とされ、順法意識を醸成するどころか、ルール順守を軽視する要因にすらなっているのが実態です。

こうした実態を鑑みた結果かどうかは定かではありませんが、2008年(平成20年)には『交通の方法に関する教則』の一部改正が行われ、自転車を押してその横断歩道を渡るようにしましょう―という部分が削除され、「横断歩道は歩行者の横断のための場所ですので、横断中の歩行者がいないなど歩行者の通行を妨げるおそれがない場合を除き、自転車に乗ったまま通行してはいけません」と改訂されました。つまり、簡潔にいえば、横断中の歩行者がいないときや歩行者の通行を妨げるおそれがないときは自転車に乗ったまま通行してもよいですよ―というように変更されたわけです。一歩前進とはいえますが、なぜ、こんなわかりにくい表現にしなければならないのでしょうか・・・。もともと『交通の方法に関する教則』は、道路交通方法の要点をわかりやすく表現して普及する役割を担っているはずのものですが、これではその役割を放棄して、法と実態とのズレをとりあえず取り繕った極めて中途半端な改正である―といっても過言ではありません。

現行の「自転車の交通ルール」の陳腐さは、これ以外にもまだまだありますが、それはまたの機会に譲り、とりあえず今回の「雑記」を次の一文をもって締めましょう。

自転車利用者のみならず、すべての道路通行者の交通ルール順守意識の向上を本気で図ろうとするならば、現行の「自転車の交通ルール」の陳腐さに代表される道路交通法の抜本的問題点を真摯に見直し、小手先の一部改正を繰り返してその場をしのぐのではなく、今後ますます多様化する道路交通の将来を見据え、それに対応できる新たな道路交通法の策定にこそ着手すべきです。半世紀も前に作られ、実情とさまざまなズレや矛盾をきたしている現行の道路交通法の抜本的問題点を解決することなく、「ルール順守」を空念仏のように繰り返している限り、ドライバー、自転車利用者、歩行者の順法意識は決して本物にならない―と危惧するばかりです。
(2011年7月22日)

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