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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年10月15日

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交通安全時評

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8月9日、アメリカ西部ユタ州のシーダーシティ郊外の高速道路で、現地時間午後6時40分ごろ、日本人旅行客14人と現地ツアー会社の日本人運転手(26歳)が乗る小型バスが走行車線を逸脱、中央分離帯の草地に横転し裏返しになって停止し大破、乗客3人が死亡、7人が重体または重傷を負うという事故が発生しました。新聞等の報道によると、ユタ州高速警察隊の当局者は10日に会見し、中央分離帯の草地に突っ込むまでブレーキを踏んだ形跡がなかったこと、軽傷を負った運転手が「事故当時のことは何も覚えていない」と証言していることなどから、「居眠り運転」だった可能性もあるとみて、訴追も視野に入れ慎重に捜査していくとしています。

この事故に限らず、いわゆる「居眠り運転」によるとみられる交通事故は、我が国でもこれまで全国で数多く発生しましたが、特に死亡正面衝突事故の占める割合が全国傾向に比べ2倍ほども高い北海道では、「居眠り運転」によるとみられる交通事故が少なくない―という特徴がありますが、北海道警察(交通企画課)は、「夏休み」や「お盆休み」、「帰省」などで長距離走行する車が多くなり、「居眠り運転」による事故の多発が懸念される時期を前にした8月初旬、「居眠り運転」によるとみられる事故の実態等を新聞等の報道を通じて発表し、ドライバーに警告を発しました。

まず、道警交通企画課が過去3年間、北海道内で発生した死亡交通事故687件(死者732人)を調べたところ、そのおよそ4割、300件(死者330人)が正面衝突事故と車両単独事故であり、その占率は全国平均よりも高いことが判明しました。そこで道警では、この300件の正面衝突と車両単独の死亡事故について詳細に分析したところ、少なくとも112件(死者124人、38%)は、ブレーキ痕がないなどの現場の状況から何らかの形で「居眠り運転」が関与した事故でした。また、死亡正面衝突事故133件中の54件(41%)、死亡単独事故167件中の58件(35%)が「居眠り運転」によるとみられる結果が判明しました。

この結果を受けて道警交通企画課では、トラック協会などにアンケートを依頼し、ドライバー計510人からの回答を得ました。それによると、回答者の90%以上が「運転中に眠気を感じたことがある」と答えたほか、「過去に居眠り運転で事故を起こしたか、起こしそうになった経験がある」と答えた運転者もおよそ30%に達しており、その原因についても過半数が「眠気を我慢して運転を継続したため」と答えているとのことです。さらにまた、眠気を感じたのは正午から午後3時が多く、運転開始から50キロから100キロの地点で眠気を感じた人が多いことも判明しましたので、道警では「長時間の運転は疲労が蓄積しやすく、通常は2時間に1回は必ず眠くなるので、眠気を感じたら無理をせず、必ず休憩をしたり仮眠をとってください」と呼びかけています。

しかし、事故現場にブレーキ痕もなく、事故を起こした運転者が「事故時のことは何も覚えていない」と証言したなどの事故のすべてを「居眠り運転」という範ちゅうで一括してしまうのは早計です。

安全人間工学の「フェーズ理論」(講談社刊・柳田邦男著「続フェイズ3の眼」)によると、人間の注意力には「フェーズゼロ」から「フェーズ4」までの5つのレベルがあり、いわゆる「居眠り」状態時の注意力は、注意力がほとんど働いていない「フェーズ1」のレベルに該当しますが、「フェーズ1」のレベルの注意力は、「居眠り」状態時に特有のものではありません。これまでの人間の「注意力」に関する科学的知見によると、注意(力)には「変動性」とか「持続性」などといわれる特性があり、いつも一定の水準を保っているものではなく、活発、不活発を繰り返し、しかも、そのリズムも一定していない。また、単一の変化しない刺激を明瞭に意識していることができる時間は、せいぜい数秒間にすぎない。したがって、本人は意識しているつもりでも、実際には意識されない瞬間、「注意のとぎれ」、「意識の空白」が必ず生成する―とされています。

特に運転時には、眠気の自覚がまったくなく、眼もしっかり見開いているにもかかわらず、注意力が「フェーズ1」のレベル、つまり、見れども見えず、反応せず―という状態に陥ることが少なくないことが、運転中のドライバーの脳波の変動の検出調査によっても立証されています。また、心身の状態が良好でも、交通状況や運転が単調になれば注意力の水準は確実に低下することも「注意力」の科学的知見によって明らかにされています。2008年3月、病魔に侵され亡くなった日本ハイウェイセーフティ研究所の加藤正明氏は、こうした状態を、まぶたが重くなり睡魔に襲われる「居眠り運転」と区別するため、意識の覚醒度が著しく低下した状態で走行する―という意味を込め、「覚低走行」と命名し、いわゆる「居眠り運転」によるとされた事故は、むしろ、この「覚低走行」によるものが多いこと、また、「覚低走行」は、眠気の自覚症状がまったくない上に、そのほとんどが、せいぜい2秒から3秒以内の瞬間的に生起する現象ですから、本人には気づきにくく、まぶたが重くなり睡魔に襲われる―という明らかな自覚症状がある「居眠り運転」以上に危険な運転であることを指摘していました。

だからこそ、事故現場にブレーキ痕がなく、事故の第一当事者になったドライバーが事故時のことをまったく覚えていない―というような事故の検証に当たっては、単純に「居眠り運転」と決め込むのではなく、「覚低走行」をもしっかり念頭におき、「眠気の自覚はあったか」などをしっかり検証することが重要です。また、ドライバーにも、長時間・長距離運転によって蓄積された疲労や過労、寝不足などによって生じる「居眠り運転」を警戒するだけでなく、交通量が少なく、車の流れもスムーズで、運転が単調になりやすい非市街地などの道路を走行するときに生じやすい「覚低走行」に対する警戒心と知識をしっかり周知することが重要であることを指摘しておきます。
(2010年8月17日)

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