★奇しくも、前回のこの「雑記」では、昨年の政権交代後、総理大臣になっていた鳩山由紀夫・民主党代表が、沖縄・普天間基地移転問題での迷走と鳩山総理自身や小沢幹事長の不透明な政治資金問題などから支持率が急落し、辞意を表明したことを記しました。周知のように、その後、間もなく、与党民主党の代表は菅直人氏に決まり、総理大臣に就任し、与党民主党に対する支持率もV字回復したものの、菅総理が唐突に消費税率の引き上げ検討を発言、支持率が再び急落するなかで、昨日7月11日に、昨年の政権交代後、初の大型国政選挙として第22回参院選挙が行われました。結果は、周知のように、与党民主党が大敗し、与党は過半数を割り込みました。投票日の翌日の今日、菅直人総理は記者会見で続投の意向を表明しましたが、衆院では与党民主党が過半数を占めているとはいえ、3分の2未満という状況下での政権運営は極めて難しいものになるとみられ、政治の混迷は一層深まり、予断できない情勢になるものと思われます。
★幸いにも、政治情勢が大混迷を続けているにもかかわらず、全国で発生した人身交通事故は、依然として減少傾向をたどっています。しかし、予測できない新たな危険が増大していることがあまり知られていないことが気掛かりです。予測できない新たな危険の増大とは、クルマ(自動車)の質的大変化です。
★クルマは、簡単にいえば、アクセルやブレーキ、ハンドル等を操作してケーブルやレバー、シャフトなどを動かして走る「機械装置」である―というのが、ドライバーの圧倒的多数の常識になっていると思いますが、その常識が、今や完全に覆っているという状況にあるのです。少なくとも、最近のクルマには、コンピューターが搭載され、電子制御化が進んでいることは、ドライバーの多くが承知していることだと思いますが、実際は、電子制御化が進んでいる―というレベルをはるかに超え、一説によると、最新の高級乗用車には100個余りのコンピューターが搭載され、それが制御するプログラム量は1,000万規模にも上り、10年前に比べ10倍から15倍の規模、航空機並みの電子制御が行われ、素人にはその仕組みがほとんどわからない「走るコンピューター」に変質してしまった―というのが実態なのです。
★たとえば、かつて、アクセルペダルは、それに繋がるケーブルを作動させ、空気弁を調整し、エンジンに送る空気の量を調整する純然たる機械装置でした。また、ブレーキペダルも、ケーブルやバネを作動させて油圧を調整し、ブレーキシューの動きを調整する機械装置でした。しかし、電子制御化がすすんだ今のアクセルペダルやブレーキペダルは、燃料効率を最大限に高め、排ガスを最少に抑えたり、的確な制動力に制御したりするための一連のコンピューター・システムに素早く信号を送るスイッチになっているのです。
★クルマが機械装置であったときは、各種の機械部品の耐久性が劣化して故障するまでの時間も推定可能でしたし、素人でも、ある程度の知識を習得し、経験を積めば多少の故障は修理できましたが、「走るコンピューター」に変質した現在のクルマはメーカーや規制当局でも、過去の膨大なデータも役に立たず、故障のパターンも見抜けなくなっており、かつ、半導体やさまざまな化学物質が使用されている電子系統には、偶発的な故障があるほか、コンピューターのソフトには、パソコンを使用する多くの人々が少なからず経験しているのと同様、不具合がつきもので、予期できない誤作動が生じる可能性が否定できません。つい先ごろ問題となった新型プリウスのリコール騒動がその典型といえます。
★すみずみに電子制御化が進んで、「走るコンピューター」に変質したクルマは、確かに、ユーザーに多くの利便性や快適性をもたらしていますが、その裏側には、ユーザーはもちろん、メーカーや規制当局でさえも見抜けない予期できない誤作動による未知の危険が潜んでいることを改めて認識し直すことが、今後の安全運転確保の必須要件になると思います。特に、今後、一層普及していくであろうハイテク・エコカーは、コンピューター、電子制御化なしには機能しないことをゆめゆめ忘れないようにしなければならないと強く思う今日このごろです。(2010年7月12日)