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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年10月15日

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交通安全時評

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今年も恒例の春の全国交通安全運動が去る4月6日から15日までの10日間にわたって実施されました。この間、全国で発生した交通事故による死者数は96人で、過去10年間で最少、かつ10年前の半分以下にとどまり、この10年余りにわたって顕著になっている死亡交通事故の減少傾向は依然として継続されているのは大いに幸いなことです。しかし、「子どもと高齢者の交通事故防止」を運動の基本に掲げたにもかかわらず、96人の死者の半分以上が65歳以上の高齢者であるという実態は、半世紀にもわたって継続され、年中行事化している「全国交通安全運動」の実効性を問い直す必要性を示していることも確かでしょう。

ところで、「春の全国交通安全運動」では、それこそ毎年の恒例として警視庁の警視総監が小学校に入学する新一年生と手をつないで横断歩道を渡るセレモニーが行われ、その情景がテレビの全国ニュースで流されますが、それを見るたびに、苦々しく思っていることがあり、今年もまたその苦々しい情景を目にしました。

その情景とは、新一年生と手をつないだ警視総監がもう一方の手を高く上げて横断歩道を横断するという、いわゆる「手上げ横断」の情景です。

「雑記子」の調査によると、今から半世紀ほども前の1963年(昭和38年)の秋の全国交通安全運動の重点推進事項の一つとして、歩行者が横断歩道を渡るときは、必ず手を上げて合図をし、車が止まったことを確かめてから渡り始める、また、運転者は車を止めて歩行者に手を振る―という「手で合図し合う運動」が推奨され、翌年の春の全国交通安全運動では、「横断歩道、人も車も手で合図」というスローガンも掲げられましたが、これが、いわゆる「手上げ横断」の発端です。

こうした運動が推進されるようになった背景には、当時の横断歩道の多くには信号機も少なく、そうした「横断歩道を渡る歩行者のなかには、車の流れを無視してゆうゆうと歩くものがいる。また、横断歩道で停止している車の脇を平気ですりぬけていく運転者も多い。これはいずれも連帯感が欠けているためである」
(読売新聞・S38・10・7社説)といわれるような状況があり、これを正すためには、横断しようとする歩行者が手を上げて「お願いします」と車に合図をおくり、運転者が車を止めて手を振り「どうぞ」と会釈をし、社会的連帯感を育成することが大切であり、その手段として「手で合図し合う運動」、「横断歩道、人も車も手で合図」ということが推進されたのです。

しかし、この「手で合図し合う運動」がいつの間にか変質し、横断歩道や信号機の有無にかかわらず「手を上げたまま横断する」という、趣旨もアクションも当初とはまったく異質の歩行者だけに課せられる「安全な横断の方法」の典型的事例として指導現場に流布し、定着してしまった―というのが、いわゆる「手上げ横断」の実態なのです。

ちなみに、1967年(昭和42年)に当時の文部省体育局監修により日本学校安全会が発行した小学校向けの『交通安全指導資料―第1集』の第2章の指導事例・小学2年生に対する「道をよこぎるとき」という主題の項には、信号機のある交差点、信号機のない交差点ともに、「右折車、左折車のある場合には、手を上げて合図をし、停車したのを確かめてから渡り始める」とあり、また、小学1年生に対する「みちをよこぎるとき」という主題の項の「指導のねらい」には、「右、左をよく確認し自動車に合図をして渡るようにさせる」とあり、当初の「手で合図し合う運動」の趣旨は活かされています。しかし、その「指導上の留意点」には、「手をあげたり、運転者の顔を見るのは、これから渡るという合図である。手をあげただけで安全であると考えないように指導することがたいせつである」と記されているのをみると、すでにこの時点で、歩行者と運転者の意思疎通法、会釈手段としての横断する前の「手上げ」は形骸化し、安全確認もなしに、手を上げたまま横断する―という危険行動に転化していたことをうかがわせます。

そうした実情を考慮した結果かどうかは定かではありませんが、1972年(昭和47年)に出された国家公安委員会告示『交通の方法に関する教則』では、「近くに横断歩道や信号機などの横断施設があるときは、必ずその施設を利用して横断しましょう」とあり、「手上げ」の記述はありません。ただ、「近くに横断歩道や信号機などの横断施設がないところでは、右左の見通しがきくところで、車のとぎれたときを選んで横断しましょう」という記述に続いて、「車がくる道路を横断するときは、手をあげて合図をし、車が止まったのを確かめてから渡りましょう」とされていますが、あくまでも当初の趣旨通り、横断する前の意思表示としての「手上げ」であり、横断中も手を上げたまま渡る―というものではありませんでした。

しかも、その『交通の方法に関する教則』も1978年(昭和53年)に改正され、「手をあげて合図をし、車が止まったのを確かめて・・・」という記述もなくなり、「車が近づいているときは、通り過ぎるまで待ちます」という方法に変更され、「手上げ」の記述はいっさいなくなっています。さらに、1998年(平成10年)9月には、交通安全教育を行う者が効果的かつ適切な指導を行うことができるようにするために基準となる教育内容等を定めた『交通安全教育指針』が国家公安委員会告示として出されましたが、それにも「手上げ横断」の記述はいっさいありません。

にもかかわらず、いまだに多くの指導現場では、当初の趣旨も忘れ去られ、すっかり形骸化した異形の「手上げ横断」を金科玉条のごとく指導し、せっかくの『教則』や『指針』が活かされていない実情のもとで、毎年、春の全国交通安全運動の初日に、警視総監自らがその異形・異端の「手上げ横断」を実践して見せ、それをまた、多くのマスメディアが、あたかも交通安全のシンボルであるがごとく報道する―という実情は、何とも苦々しい限りだと思う次第ですが、いかが・・・。
(2010年4月20日)

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