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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年10月15日

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交通安全時評

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長年にわたって「自動車王国」として世界に君臨してきたアメリカの自動車メーカーの筆頭、GMも力を失い、日本のトヨタが質量ともに世界一の自動車メーカーになったのはつい先ごろのことですが、いずれにしても、世界的な経済不況等により自動車メーカーの経営環境は厳しい状況にあります。モーターを併用するハイブリッドカーは、その厳しい状況を打開する救世主であり、なかでもトヨタの「プリウス」はそのトップランナーであり、順調に販売台数を伸ばしていましたが、その「プリウス」がリコール対象となり、リコールに至るまでの対応のまずさも手伝って、トヨタ車の安全性に対する信頼が大きく失墜してしまいまし た。

リコール対象となったのは、新型プリウスなどに搭載されているABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の電子制御プログラムの不具合で、氷雪路などでABSが作動し、速度が時速10キロ前後に落ちるとABSは解除され、通常の油圧ブレーキに転換されますが、そのタイミングにわずかなタイムラグが生じ、ブレーキが効かない「空走」が生じ、結果的に制動距離が予測よりも延びてしまうという欠陥です。トヨタの説明によると、時速20キロで走行中に氷雪路でブレーキングすると、0.4秒間ABSが作動し、通常のABSではその後、直ちに通常の油圧ブレーキに転換されますが、今回、リコール対象となった新型プリウス等では、その油圧ブレーキの効きが0.06秒遅れ、制動距離が0.7メートル長くなるということで、ABSの構造的欠陥ではなく、滑らかで静かに止まるために設定した電子制御プログラムが生み出した予想外の不具合だとのことです。

トヨタは当初、こうした現象は、ドライバー個々人のフィーリング(感覚)だと説明していましたが、世論や国土交通省の危惧に抗しきれず、リコールを届け出るというお粗末な対応をしてしまったことが信頼失墜の元凶です。実際、昨年の7月、千葉県松戸市の国道で追突・玉突き事故を起こしたプリウスのドライバーが「ブレーキが効かなかった」と話したこともあり、国交省は8月、トヨタに調査を指示しましたが、トヨタは9月、「車に問題はなかった」と調査結論を示しました。しかし、冬に入ると、滑りやすい路面でブレーキが効き遅れするといった苦情が多く国交省に集まり始め、国交省は改めて調査を求めましたが、回答は「フィーリングの問題」として済まし、その一方で、今年1月からの生産車のABSの電子制御プログラムは修正していたという不信極まりない対処をしていたというのが実態です。2月9日、トヨタ自動車の豊田章男社長は記者会見し、「トヨタは絶対に失敗しない全能な存在とは思っていない。お客様の指摘は必ず改善し、いい加減なごまかしはしない。顧客の安全をまず確保する」と、信頼回復に全力を挙げる姿勢を示しましたが、「雑記子」が改めて言うまでもなく、1度失った信頼を回復するのは簡単なことではありません。全社を挙げて「安全第一」の思想を真に浸透させるとともに、先進的なハイテクにこそ、予期できぬ未知の危険が潜在していることを肝に銘じ、絶えず潜在危険の発見に努めるシステムを構築することが何よりも大切です。

ところで、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)は、少なくとも、現在、生産販売されている乗用車の90%近くにまで装備されているほど普及しています。しかし、北海道警察本部交通部の調査データによると、近年、冬道で発生した「スリップ事故」(人身事故)の大半はABS車によるものであり、なかでも、スリップ事故の大半を占めている「追突」事故の75%ほどがABS車によるという実態にあります。つまり、冬道の氷雪路など、滑りやすい路面でのブレーキングに有効であるはずのABSがスリップ事故防止にさほど役立っていないのではないか、と思われる状況にあり、これらの事故のなかには、ABSの機能特性・操作方法の正しい理解が欠如していた結果の事故が少なくないのが実態です。

氷雪路など、滑りやすい路面でブレーキを強く踏みすぎると、車輪の回転が止まったまま、車輪(タイヤ)が路面を滑走してしまうという「タイヤロック」=「滑走スリップ」が発生しますが、こうなると、制動効果が著しく低減するだけでなく、ハンドルを操作して危険を回避しようとしても、進路修正ができないという危険が生じます。ABSはこの難題を改善する先進装備で、氷雪路などブレーキを強く踏みすぎても、タイヤロックを防ぎ、ブレーキを踏みこんだままでも ハンドルを操作して進路の修正ができるという機能を有しています。したがって、雨で濡れた舗装路面などでは電子制御により最も有効な制動力を発揮しますので、制動距離も短めにして止まることが可能ですが、氷雪路、なかでもアイスバーンといわれる氷結路での制動距離は、むしろ、長めになることのほうが多く、また、速度が時速10キロ前後に落ちるとABSは解除され、通常の油圧ブレーキに転換し、場合によってはタイヤロックすることもあります。したがって、適当な回避スペースがある場合には、スピードがある程度、落ちた段階のABS作動中にブレーキを踏み込んだまま、ハンドルを操作して進路を修正し、危険を回避するという操作が必要になることもあります。さらにまた、ABS作動中は、ブレーキペダルが小刻みに振動(キックバック)しますが、これに負けずしっかりブレーキペダルを踏み続けることが必要です。しかし、この特性を十分に理解し、ある程度のトレーニングを積み重ねておかないと、振動(キックバック)に驚き、思わずブレーキを緩めてしまい、結果的に制動距離が延びてしまうという危険も生じます。

このように、正常なABSでも、いくつかの弱点がありますので、それらの機能特性を正しく理解し、いざ、というときに正しい操作ができるように、日頃から適切な機会を見つけ、正しい操作方法の習熟に努めることが必要です。それ故にこそ、自動車メーカーは、それらを「フィーリングの問題」などとうそぶくのはとんでもない犯罪行為であることを組織の末端まで浸透させるとともに、ユーザーに対し、先進装備の利点のみならず、弱点や機能特性をも積極的に知らしめ、正しい操作技術を習得するための機会を提供するよう努めてほしいものです。
(2010年2月17日)

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