★去る3月26日、新聞等のメディアでは、今年6月1日から施行される75歳以上の高齢ドライバーが運転免許を更新する際に義務づけられる「認知機能検査」の方法を定めた道路交通法施行規則の改正案が警察庁で公表されたことを報じました。それによると、検査方法は、(1)年月日や曜日、時間を答える「時間の見当識」、(2)16種類のイラストを見て覚えた後、ヒントを手がかりにして思い出して書き記す「手がかり再生」、(3)時計の文字盤に指定された時刻の針を描き込む「時計描画」の3種類で、その検査結果を3区分し、成績が最も低い「第一分類」に該当し、かつ、過去1年以内に所定の交通違反歴がある場合には専門医による「臨時適性検査」が義務づけられ、認知症と診断されたときは免許が取消しになる―というのが大要です。
★警察庁では、そのホームページにこの検査方法等案を4月25日まで掲載し、パブリックコメントを求めた(意見募集した)上で発令実施することとしていますので、この道路交通法施行規則の一部改正の公布は早くても施行日(6月1日)の1ヵ月ほど前になると思われます。道路交通法の一部改正は2年も前に公布されているのに、その細部を定める「施行規則」が施行日の1ヵ月ほど前にならないと決まらないというのは、改正を周知徹底する上でも、また、改正実施に伴うさまざまな準備作業を行う上でも、時間が足りなすぎる駆け込み作業だといわざるを得ません。特に近年の道路交通法の一部改正には、その施行日の間際まで、細部の「施行規則」が定まらないという傾向が多く見られ、広報や実施現場に無用な慌ただしさや混乱をもたらしている実情からしても、是非にも改善すべき問題点であることを指摘しておきたいと思います。
★また、今回の「認知機能検査」は、一昨年の6月に公布された道路交通法の一部改正の法文上で明記されている用語であるにもかかわらず、今になって、「講習予備検査」と言い換えるのが好ましいというような指導通達が警察庁から各県警レベルに出されているようですが、これも釈然としません。「認知機能」という用語につきまとうマイナスイメージを嫌ってのことでしょうが、だとすれば、なおさら、「法」の改正時点で熟慮検討すべきことではなかったのかと思わざるを得ません。
★いうまでもなく、道路交通法は、ほとんどの国民に日常的に関与する最も身近な「生活法」ですから、その一部改正にあたっては、当局の意向のみならず広く多くの国民の意向をも反映した上で実施するという手順が今後益々重要になると思いますが、その点では、近年、ホームページ上でパブリックコメントを求めるという対処をしていることは大いに評価できることですが、そのせっかくの機会も、施行日の1ヵ月ほど前という切羽詰った段階では、どんな貴重な意見が出されても、それを改正に反映させるのは事実上無理なこととなり、パブリックコメントを求めること自体が形式化してしまいます。そんなことにならないように、当局の賢明な熟慮と対処を願って止みません。
★ついでに、もう一つ、去る4月2日の新聞等の報道によると、警察庁は、都道府県公安委員会が道路ごとに定める規制速度の決定方法を見直し、交通実態に応じたきめ細かい基準を本年度中にも新設することとし、一般道路でも安全が確保されれば時速80キロを上限に、法定最高速度60キロを超える規制速度の設定も検討する一方、身近な生活道路では時速30キロ以下の規制速度も検討するとのことです。
★この見直しは、外部有識者らの検討委員会が国家公安委員会に提出した検討報告書の答申に応じたもので、本「雑記子」も基本的に歓迎するものですが、本筋は「規制速度の決定方法を見直し」ではなく、法定最高速度を定めている道路交通法そのものの見直しではないかと思うものです。
★一般道路での法定最高速度を時速60キロと定めた現行の道路交通法が新設されたのは、半世紀ほども前の1960年昭和35年のことで、当時は、幹線国道といえども、その大部分は未舗装で、歩車道の分離も少なく、信号機等の安全施設も極めて不十分でした。それが、今では国道はもとより、都道府県道や市町村道のほとんどが舗装され、歩車道の分離や信号機等の安全施設も普及し、昭和35年当時の道路交通環境とは雲泥の差が生じているのに法定最高速度は旧来のまま―というのが、法定最高速度や規制速度が交通実態に見合っていないことの根本問題であり、現状と将来を見据えた新たな時代にふさわしい新たな道路交通法の創設こそが検討されるべきで、少なくとも、一般道路での法定最高速度は時速60キロと定めた現行の道路交通法を一部改正すべきです。せっかくの外部有識者らの検討委員会の議論がそこまで踏み込んだかどうかは定かではありませんが、結果的に「規制速度の決定方法を見直し」にとどまったのは何とも残念なことだと思わざるを得ません。(2009年4月7日)