★発生件数690,546件、死者数4,590人、負傷者数852,370人というのが、11月末現在で警察庁がまとめた今年2008年の全国の交通事故発生状況(概数)です。前年同期に比べると、人身交通事故件数は66,156件(8.7%)、死者数は584人(11.3%)、負傷者数も88,802人(9.4%)減少しており、この状況で推移すると、今年の全国の交通事故は80万件を割り込み、死傷者数も100万人以下となり、そのうちの死者数は5,000人余りとなる可能性が濃厚です。
★ちなみに、前回にも述べたことと重複する部分がありますが、年間の交通事故件数が80万件を割り込み、死傷者数が90万人台というのは1997年以来の11年ぶりのこと、また、死者数5,000人余りというのは半世紀以上も前のレベルになります。
★さらにまた、2005年以降の減少傾向が今年も維持され4年連続の減少が実現することとなるほか、2006年度を初年度とする国の第8次交通安全基本計画に掲げた当面目標「本計画の最終年である平成22年(2010年)までに、年間の24時間死者数を5,500人以下にする」を達成することが明らかであるほか、2003年に掲げた国の交通安全の新たな目標=「今後10年間で(2012年までに)年間の交通事故死者数を5,000人以下にし、日本を世界一安全な道路交通の国にすることを目指す」の達成も極めて現実的になった―ということになります。
★そのうえ、第8次交通安全基本計画に掲げた「本計画の最終年である平成22年(2010年)までに、年間の死傷者数を100万人以下にする」というもう一つの当面目標をも最終年を待たずに達成することとなり、誠に喜ばしい限りの成果になることはいうまでもありません。
★しかし、年前半の原油価格高騰や後半のアメリカ発の金融危機による未曾有の不況により車の買い控え・乗り控えなど、交通量の低減による事故減少ということもあったとは思いますが、決定的な要因といえるほどのことではなく、結局、減少要因は不明というのが実態であることを考えると、長年の労苦が報われた結果の成果とは言えないことが残念であり、また、それだけに新年以降の動向が気掛りです。
■交通安全対策の迷走・・・
★折も折、12月4日の新聞各紙の報道によると、警察庁は、酒酔い運転やひき逃げなどの悪質な違反による行政処分で運転免許を取り消されたドライバーが免許を再取得できるようになるまでの「欠格期間」を現行より長くする道路交通法施行令の改正案をまとめ、来年2009年6月に施行するとのことですが、果たして、この改正施行によって、いわゆる悪質違反やそれによる事故がどれだけ抑止できるか、「雑記子」としては疑問を持たざるを得ません。
★なぜなら、現状の、いわゆる悪質違反者のほとんどは、その結果の刑罰が軽いから悪質違反を敢行するのではなく、それらの行為の危険性の認識が根本的に欠如しているから悪質違反を敢行する―というのが本質であり、結果としての刑罰がどんなに重くなっても、危険認識の抜本的改善にはさほど寄与しないと考えられるからです。
★また、いわゆるひき逃げ、なかでも社会的関心が高い飲酒運転によるひき逃げは、一般にいわれるほど計算ずく、つまり、一旦、現場を去り、酔いを醒ましてから出頭すれば、刑罰が軽減できる―との欲得ずくの思慮の結果のものは案外少なく、自分に限ってはあり得ないと思っていた事故という現実に直面したときの、基本的には誰にでも起こり得るパニック心理による逃避行動が少なくない―という現実を考えれば、なおさら、厳罰化だけでは抜本的解決にはならないと思うからにほかなりません。仮に、厳罰化によって、いわゆる悪質違反が減ったとしても、悪質違反やそれによる事故はほんの一握りしかなく、圧倒的多数、ほとんどの事故は、決して悪質とは言いがたい「ちょっとしたミス・不注意」による危険の発見遅れが決定的原因になっており、しかも、その種の事故が増加している現状を考えるとき、その種の事故防止にかかわる安全対策はほとんど見聞きされていません。
★とはいえ、社会全体の高齢化が急速化し、ドライバーも、ベテラン化、高齢化し、ドライバーの大半が中高年で占められるという実情のもと、そうしたドライバー等を対象にした講習会なども、次第にその数を増しつつありますが、その中身は、若年ドライバー等、悪質・無謀運転が心配される層に対するものと、あまり代わり映えがなく、ベテラン、中高年のドライバーに危惧される「ちょっとしたミス・不注意」による事故を防ぐための内容がほとんどない、文字通り十年一日の新味のない建前教育・指導で終わっているというのが多くの実態です。
★百年に一度といわれるほどの未曾有の不況で社会の活況が沈滞しているなか、幸いにも、交通事故は減少しつつある―という今だからこそ、交通事故発生の根本原因にしっかりメスを入れ、科学的合理的な安全対策の開発に本腰を入れ、着実に実現していく―という方向への転換を図るべきでしょう。(2008年12月26日)