★去る3月24日、静岡県沼津市にある日本ハイウェイセーフティ研究所所長の加藤正明さんが、闘病中の自宅で亡くなりました。加藤さんは、2006年5月に開設した弊社のこのホームページに2006年6月から毎月一回のシリーズで掲載している交通安全時評「事故が語る安全」と題する論考の執筆者としてなじみの方も少なくないと思いますし、4月現在の今も、「後席シートベルトの着用義務化」と副題した論考を掲載中ですが、これが絶筆となりました。ここで改めて加藤さんの業績のあらましをご紹介してご冥福を祈ることとします。
※2018年現在、「事故が語る安全」のホームページへの掲載は終了しております。
★加藤さんは、1969年、静岡県沼津市に株式会社加藤オート・リペアを設立し、主として東名高速道路での大型車の事故車や故障車のサルベージ業を営むなかで、まずサルベージ作業中の社員の安全確保問題に直面、一般道路とは違う高速道路特有の危険性を痛感、また、事故直後のドライバーのつじつまが合わない矛盾した数々の証言から事故原因の科学的な究明の必要性を痛感し、私設の日本ハイウェイセーフティ研究所を設立し、事故現場の写真撮影や事故直後のドライバーの証言を収録・収集し、つじつまが合わない矛盾した証言のなかにこそ、事故の真相が隠されている―との視点に立ち、「覚低走行」や「大型車の視界特性」など斬新なキーワードを駆使して、矛盾した証言を論理的に解明するなど、主として高速道路の事故とトラック事故の実証的調査研究や安全運転教育の普及に精力的に取り組み、高速道路の事故やトラック事故の実証的研究のパイオニア、第一人者として活躍してきました。
★少なくとも、実際にハンドルを握るドライバーの立場で安全運転を考える場合、全国の交通事故件数や死傷者数が前年対比等で減少したとしても、それはあまり意味がない。好んで危険に身をさらすドライバーはひとりもいないのに、なぜ事故は起きてしまうのか、いかにしたらドライバーを交通事故の危険から救済することが出来るか―それが私の発想の基点であると、30年ほども前になる当初の研究論考集「誰のための安全か」のあとがきに自ら記しています。また、安全運転は、実際に運転席に座り、ハンドルを握って走るドライバーの目線で語れ―というのも加藤さんの持論でした。しかし、事故を起こしたドライバー自身でさえ気づかない、明確に説明できない隠された誘因があり、それを解明するには、事故現場に立ってドライバーの目線で事故に至った思い込みや錯誤等を徹底的に分析することが必要であり、そのためには、「責任の所在論」から脱却することも必要不可欠だ―というのも、あまたの事故現場を目撃し、事故直後、当惑・混乱して立ちすくみ、矛盾した釈明をする多くのドライバーに接してきた事故現場からの警告者・加藤さんが訴え続けてきたことの一つです。
★ちなみに、加藤さんは、いわゆる交通安全関係機関・団体の出身者ではまったくなく、純然たる民間人、一私人として、いわゆる専門家に勝るとも劣らない見識をもって交通事故の原因究明等に取り組んできた人です。その点では、不肖、弊社・この雑記子も同様、まったくの民間の立場で交通事故問題に専従的に取り組んできたもので、そうした縁もあって20数年にわたる交流を続けてきましたが、加藤さんの執念ともいうべき熱意には、いつもただただ驚嘆・敬服するばかりでした。
★というのも、加藤さんは、株式会社加藤オート・リペアを立ち上げる以前から次々に体内結石が生成する原因不明の難病に見舞われ、10回以上もの開腹手術をし、そのためさまざまな術後障害が発症し、不定期かつ頻繁に襲われる激痛と、文字通り苦闘しながら交通事故問題に取り組んできたからです。70歳を超えたばかりの若さで亡くなったのも、その術後障害等が再開腹手術不可という段階まで悪化した結果とのことで、今はただただご冥福を祈るとともに、加藤さんの数々の見識や研究成果が十分に定着しているとは言い難い現状にかんがみ、改めて加藤さんの「発想の基点」の重要性と必要性を一人でも多くのドライバーや関係者に普及・定着させていくために微力ながら一層尽力しようと決意しています。(2008年4月24日)