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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月25日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その143 これからの安全管理
交通リスクコンサルタント 小林 實

組織事故としてとらえる

 リスク管理の面で著名なジェームズ・リーズンがその著書「組織事故」を世に問うたのは1997年のことです。当時、彼はその書のなかで、事故というものを「個人事故」と「組織事故」とに区別しています。
 それまで、「個人事故」というのは即発的エラー、つまり現場での個人の不安全行為によるため、これを犯した個人にその責任を押し付ける―というのが主流でした。日本の企業にあっても、いわゆる「モグラたたき」と称し、事故を起こした本人が処罰の対象となり、企業がその責任を負う―というスタンスはあまりとられていませんでした。
 しかし、時代の推移に合わせるかのように、運輸業などにおける交通事故を「組織事故」としてとらえる風潮が強まりました。なぜなら、安全を軽視することが日常業務の一部として定着することにより、組織(システム)における「安全余裕度」というものが低下し、事故を起こす特定の要因に対して脆弱となる―という背景があるからです。これが、12年前に発足した「運輸安全マネジメント」の基本的な考え方といえましょう。

運輸安全マネジメント制度の導入

 運輸安全マネジメント(通称:安マネ)というのは、国土交通省が平成18年10月に導入した制度です。国交省は当時、事故の要因となったヒューマンエラーの背景にある組織的な安全意識欠如など、運輸業におけるシステム的な課題を、このマネジメントシステムによって修復しようとしたわけです。
 システムの大きな柱は、「Plan(計画する)」「Do(実行する)」「Check(監査する)」「Act(次の目標に向けて行動する)」という、いわゆる「PDCAサイクル」を適切に回すことです。経営のトップから現場の一人ひとりまでが一丸となって安全管理体制を構築し、これが維持・向上されることによって、事故というマイナスの要因を積極的に減らしていく―というわけです。
 口で言うのは簡単ですが、これを着実にやっていくためには縦と横とのつながりを強化する必要があり、運送業のようにどちらかというと現場のドライバーとトップとのつながりが薄いところではかなり苦労されているはずです。

システム導入で課題が明確化

 しかし、運輸安全マネジメントシステムを導入した企業からは、いわゆる「見える化」の効果があった―という声がかなり聞かれます。つまり、PDCAのプロセスを踏むことによって、今まで見えなかったものが階層的に見えるようになった―、つまり、どの階層でどんな課題があるかが明確になったというわけです。
 全体的にみますと、このシステムの評価は高いようです。これには、国交省の担当官による面接指導により有益な評価・助言をもらったという声や、導入後に会社全体の安全に対する取り組み方に変化や改善が見られたという意見も含まれています。しかし一方では、現場の要員にはまだ意識が十分に浸透していないという声もあり、会社トップと現場との温度差はまだあるという実態も聞こえてきています。
 「継続は力なり」とよく言いますが、システムの導入からかなりの年月がたつと、マンネリ化することも考えられます。ことに、十分な成果が見られない場合には再検討といった問題も生じると思います。また、無事故を継続してきたような場合、トップは「もうこのあたりでよかろう…」という気持ちになるかもしれません。しかし、事故という負の遺産を背負うことなく推移していくためには、やはりトップの厳しいスタンスが求められます。
 これからは、このシステムをいかに展開していくのか、ことに水平方向へ展開していくことが重要でしょう。信頼できる結果を常に一貫して得られることが理想なのですが、安定した結果を得るためには、同じことの単なる繰り返しではなく、常に変化に対応していく必要がある―ということをトップは自覚すべきです。

次世代への継承

 道路交通におけるマネジメントでは、道路という公共の場を使うことから、ハード面の対策よりもむしろ訓練や教育、ことに現場のドライバーによるヒヤリハットの共有がかなり重視されています。これは、第三者が介入する交通場面でのハザードは特定が難しく、また、その場面がハザードであるか否かは状況に応じて変わる―という難しさがあるためです。
 とりわけ今の若い世代は、マニュアル通りに作業をすることが仕事なのだと教えられてきており、考える能力があまり磨かれなくなっている―という指摘があります。確かに、近年の思考傾向をみると、いわゆる「形式知」が主流で、「暗黙知」というものが軽視されているように思えます。
 運転行動といった習慣化した作業における問題点は、なかなか自分では気づきにくいものです。そこで、退職したシニアやベテランドライバーが長年の経験で得た安全運転のノウハウ、つまり暗黙知をまとめて文書化し、形式知として次の世代へ継承することも一案でしょう。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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バックナンバー

第146回
運転教育とコーチング
第145回
コーチングについて
第144回
かくれんぼができない子供たち
第143回
これからの安全管理
第142回
「駐車場」というワナ
第141回
脅かされる歩行者空間
第140回
台車事故を考える
第139回
「注意」の落とし穴
第138回
デイサービスと安全管理
第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
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第95回
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第94回
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第93回
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第92回
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第91回
見える化
第90回
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第89回
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第88回
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コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
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第80回
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第79回
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第78回
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第77回
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第75回
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第74回
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第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
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第57回
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第56回
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第55回
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目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
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第52回
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第51回
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第50回
うどん文化と運転
第49回
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第48回
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第47回
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お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
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第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
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第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
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第38回
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第37回
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第36回
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第35回
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第34回
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第33回
40年の功と罪
第32回
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第31回
KYTの落とし穴
第30回
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第29回
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第26回
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第25回
我輩は「ジコ」である
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第23回
感覚の研ぎ澄まし
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若い世代と安全管理
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