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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年9月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その141 脅かされる歩行者空間
交通リスクコンサルタント 小林 實

 今から50年近くまえの昭和45年(1970年)にピークであった交通事故による年間の死者数は、昨年には3,694人とピーク時の22%にまで減少してきています。しかしながら、その死者の4割近くを歩行者が占める―という事実は、日本の交通社会において深刻な問題だといえるでしょう。ことに、近年の高齢社会を反映して高齢歩行者の犠牲が目立っています。東京オリンピックを間近に控え、日本が世界に誇る「安心安全社会」を目指す上でも歩行者空間の安全確保は喫緊の課題ではないでしょうか。

電動アシスト自転車の脅威

 昨年12月に神奈川県川崎市で発生した自転車による加害事故は、新たな一つの問題を提起しました。自転車を運転していたのは20歳の女性、歩行者である被害者は77歳の女性で、加害者の女性は、最近ブームになっている「電動アシスト自転車」を運転しながら、左手にスマホ、右手に飲み物を持ち、両手がふさがっている状態でブレーキが操作できないまま、歩行中の女性と衝突したのです。
 自転車の女性は、スマホをしまうことに神経が集中していたらしく、ぶつかるまで歩行者の存在に気づかなかったそうです。被害者の方は事故の2日後に亡くなり、これを受けて、加害者は重過失致死罪で書類送検されました。実は、被害者の女性も最近まで電動アシスト自転車に乗っていたそうですが、加害者になってしまう危険もあるから…と、夫が説得してやめさせたばかりでした。
 スマホを操作中の自転車事故は年々増加の傾向にあり、この5年間に800件も発生しています。しかし、その多くは自転車が車と衝突するパターンでした。10年ほど前までは、自転車が世代を超えて広く普及しているという理由から、検察もほとんどの事故を起訴猶予にする軽い処置をしてきたようですが、近年、自転車が加害者となるケースが増えていること、さらに悪質な違反が増えていることなどから、厳正に対処する方向にあるようです。
 例えば、ペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とさずに走行して交差点に進入し、横断歩道を渡っていた38歳の女性に衝突、被害者を3日後に死亡させた―という事故でも、加害者は重過失致死罪で起訴されています。
 今回の事故は、加害者の自転車が「電動アシスト自転車」だった―という新たなパターンであることも注目されます。ご存知のように、電動アシスト自転車というのは、お子さんを運ぶママチャリとして、さらには高齢者の力不足を補うということでも大変人気があり、市場に多く出回っています。ただ、普通の自転車よりも重量があるために下り坂で加速しやすいほか、ブレーキを握らず不用意にペダルに片足を乗せると急に発進することがあるため、十分に注意が必要です。また、その重量により、歩行者と衝突したときの被害も大きくなりがちです。今まで歩行者に近い存在として認識されていた自転車が、もはや歩行者の敵に回るという時代になってきているのです。

歩行者と右・左折車の交錯

 自動車と歩行者が衝突する事故の場合、ちょっとしたミスが被害を拡大し、重大事故になりやすい―といった特徴があります。発生場所は、信号のある交差点、ない交差点、単路など多様ですが、なかでも信号のある交差点事故で目立つのは、車が右・左折するときに横断中の歩行者と交錯するパターンです。
 青信号の交差点を右折しようとするドライバーは、対向車に気を配りながらチャンスをうかがい、できるだけ早く右折を完了したい―とする心理が働きがちです。一方、歩行者にしてみれば、歩行者用信号が青であるため安心して横断をしており、右折してくる車への注意は希薄で、ことに高齢者は油断が生じやすいようです。
 数年前には、東京都八王子市の交差点で、登校中の当時11歳の学童が、歩行者用信号が青になったので横断を開始した直後、こちらも青信号で左折しようとしたダンプトラックと交錯して命を奪われてしまった―という大変悲しい事故がありました。このように、歩行者用と車両用の信号が同時に青になる交差点で、歩行者と大型車両が交錯する事故は、かなり高い頻度で発生しており、ことに歩行者が高齢者や子供の場合に起こりやすいようです。
 この事故を起こしたトラックドライバーは、交差点で信号待ちをしている児童の姿を何らかの形で捉えていたはずです。しかしながら、先急ぎの心理状態にあるトラックドライバーの意識は「歩行者がいる」という程度のごく表面的なもので、「登校中の小学生だ、気をつけよう」といったような深い読みはしていなかったのではないでしょうか。しかも、ダンプトラックの運転席は視点が高く、直近の視界が悪いため、重要な対象物が一定の距離までは確認できても、直前では死角に入ってしまい、ドライバーの連続した認知メカニズムから対象物が消えやすいのです。
 「手を上げて、横断歩道を渡ろうよ」というのは一時期はやった標語ですが、同じように「青信号で渡ろうよ」というイメージも、子供たちの頭の中に深く刷り込まれているはずです。そして警察も、信号をきちんと守って渡るように街頭でも指導しています。うちの子は、おまわりさんが言ったことを守ったのに、なぜ轢かれてしまったのか…、これが父兄の割り切れない気持ちでしょう。今後さらに、歩行者用と自動車用の信号が同時に青にならない歩車分離式信号機の設置を進めるべきです。

見るべきものをしっかり見る

 歩行者や自転車、自動車が青信号で同時に進行する交差点で、ドライバー、ことに死角の多いトラックのドライバーは、どのような注意をしなくてはならないでしょうか。まず、交差点に進入する前に、見るべきものをしっかりと見る習慣をつける必要があります。「歩行者がいるな…」といった程度の認知ではなく、「前方にちょっと見えているのは学童の歩行者だ、特に今の時間帯は登校する学童が多いから注意が必要だ」というような深い読みをして、「構え」を作ることが重要です。しかも、この注意を途切れさせることなく持続しないと、意識から対象物が遠のいてしまう危険があります。
 情報のシャワーを一方的に受信することが多い現代社会では「自発性の硬直化」が問題になっていますが、自分で情報を積極的に読み取る―という姿勢を崩さないことが大切です。ドライバーの皆さんには、歩行者の安全な空間を維持することはドライバーの責任である―ということをしっかり自覚し、自動車を運転していただきたいものです。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第146回
運転教育とコーチング
第145回
コーチングについて
第144回
かくれんぼができない子供たち
第143回
これからの安全管理
第142回
「駐車場」というワナ
第141回
脅かされる歩行者空間
第140回
台車事故を考える
第139回
「注意」の落とし穴
第138回
デイサービスと安全管理
第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
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第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
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眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
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第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
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第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
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感電のリスク
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「安全神話」は崩壊したか?
第110回
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