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2018年8月23日

ホームページの内容を一部リニューアルしました。トップページに掲載されていた「シグナル交通安全雑記」は、交通安全時評内でお読みいただけます。

最終更新日:2018年11月8日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その138 デイサービスと安全管理
交通リスクコンサルタント 小林 實

増えている労災事故

 厚生労働省によりますと、デイサービスを利用する高齢者は年々増加しており、昨年度は全国でおよそ185万人にも達しているということです。デイサービスというのは、広く障害者や児童に対するものも含まれていますが、一般的なのは、老人福祉法に基づく老人施設でのサービスで、「通所介護」とも言われているものです。こうした施設は、高齢者同士であるとか介護士との交流が図れる―というメリットもあり、家にこもりがちな高齢者の孤独感の解消法としても有効です。そのことが、彼らが積極的に出かけていくひとつの動機ともなっています。
 平成28年の労働災害発生状況をみますと、労災事故全体では死傷者数が11万7,910人で、前年と比較して1,599人(1.4%)の増加ですが、このうち社会福祉施設や飲食業などのいわゆる「第三次産業」では1,972人(3.8%)増と、特に増加率が高いことが注目されます。なかでも「社会福祉施設」にあっては8,281人が死傷しており、これは前年と比較して684人(9%)もの増加です。
 この社会福祉施設での労災事故を詳しくみると、「交通事故」によるものは7%と低い割合なのに対し、「無理な動作や転倒」が66%と圧倒的多数を占めています。これは例えば、入浴させるためにお年寄りを介助しようと持ち上げたところ腰を負傷した―とか、脚立を使用して作業中にバランスを崩して落下した―といったケースの受傷事故です。
 こうした社会福祉施設での労災事故は、慢性的な人手不足に伴う労働条件の過酷さですとか、職員の高齢化などが大きく関係しており、特に規模が小さい施設では、事故防止のための対策が脆弱であることが事故の大きな原因となっています。
 ところで、社会福祉施設での労災事故に占める交通事故の割合は、前述の通り7%にすぎないのですが、これはあくまでも介護に従事している人が受傷したケースのみが対象であり、介護を受ける側の被害はカウントされていません。したがってこの7%、約500件の交通事故の背後には、さらに多くの交通事故と死傷者が潜在しているわけですから、こうした施設の関係者は、「送迎」という日常業務に伴うリスク、つまり被介護者を巻き込む交通事故の重大さを認識する必要があるでしょう。社会的なニーズの高まりを受けてデイセンターなどの介護施設はこれからますます増えるでしょうし、それに伴い、車による送迎の際のさらなる安全管理の強化が望まれるところです。

送迎の問題

 デイサービスの大きな特徴として、利用者に対する「ドアツードア」のサービスがあります。施設利用者を自宅まで迎えに行き、施設に到着すると健康チェック、さらに入浴サービスののちに昼食をとり、午後はレクリエーション、さらにおやつの時間を経て夕方に自宅まで送り届ける―というスケジュールとなります。
 送迎の距離は平均17キロだそうですが、50キロ に及ぶケースが1.6%もあることは、運転疲労の影響などを考えると注目すべきでしょう。また、エレベーターのない団地などの住宅では、階段を使っておんぶや抱っこなどで自宅まで送迎する、さらにはベッドにまで運ぶ―というケースもあるようで、職員の肉体的な負担は相当なものです。
 多くの場合、送迎には施設が用意した車両を使用します。車両が足りない場合にはスタッフが普通乗用車で送迎することも認められていますが、送迎用のワゴン車には、車椅子が昇降できることが要求されています。また、多人数を載せる車の場合は、運転手とは別にデイサービス職員が介添として乗務したいものです。
 以前、デイサービスからの帰宅中、乗用車の後部座席に座っていた91歳の女性が、疲れからでしょうか、居眠りを始めました。それに気付いた運転手さんが「寝ないで!」と後ろを振り向いて声をかけた途端、ハンドル操作を誤り電柱に衝突した―という死亡事故がありましたが、職員がちゃんと同乗していれば、この事故は防げたと思われます。送迎は日常業務の一環ですから、万全を期す―という意識を当事者は持つべきでしょう。

送迎時の事故を防止するために…

 そこで、デイサービスの送迎における安全管理のポイントを以下にまとめてみました。

(1) 早めの合図を徹底する

 自宅までの送迎では、周辺の交通事情が問題です。送迎先のお宅の直近まで車を乗り付けるので、そこが見通しの悪い場所であったり、交差点の直近であったりというケースも多いでしょう。停車する場合は、できるだけ早めの合図を出すことに心がけてください。ことに帰宅時は夕方であり、冬場はもう暗くなってきていますから、停車中の安全を確保するために緊急灯などを点灯し、車の存在をはっきり示しましょう。下校時の小学生などにも十分注意して停車、発進することも大切です。

(2) 安全な交差点の選択

 交差点の形状は様々です。ことに片側1車線のような小さな交差点では右折専用レーンがないため、右折にはかなりの危険を伴います。右折待ちの送迎車がトラックに追突されて対向車線に押し出され、反対車線を走行中のトラックと正面衝突した―という大きな事故も実際にありました。もちろん追突したトラックに事故の責任はあるわけですが、こうしたリスクの高い交差点を避け、多少遠回りでも比較的安全な大きな交差点で右折する―という工夫も必要だと思います。

(3) 急ブレーキは禁物

 いざという場面で急ブレーキを踏む必要があったとしても、車椅子を車に固定しているだけでシートベルトはしていないお年寄りもいます。急ブレーキを踏むと車椅子から転落して車内事故につながるおそれもありますから、急ブレーキを踏む必要が生じないよう、常に危険を予測した運転を励行しましょう。

(4) 死角や車体の大きさに注意

 送迎車にはお年寄りが乗り降りするわけですから、できるだけ彼らに負担をかけぬよう停車することをドライバーは心がけておられるはずですが、時として、そのことに気を遣うあまり死角にいた歩行者と接触する―といったケースもあります。
 ワゴン車はサイドミラーの位置が一般の乗用車よりも高く、意外と死角が大きい―という危険な特徴があります。乗車前にミラーの死角部分をチェックしておくこと、そして、運転中は首を動かして目視での確認を怠らないことです。「普段は大きな車を運転しないのに、送迎車は8人乗りや10人乗りと結構大きいので心理的に緊張する」といった声も職員のなかにはあるようです。また、自宅に着いたことでほっとした高齢者が不用意に道路を横断して事故に遭うことにも注意したいものです。

(5) リフターの扱いは慎重に

 送迎車から車いすの利用者を降ろすためにリフターを操作していたところ、車椅子を固定するフックが外れてリフターから転落した―という事故が発生していますので、こうした異常にいち早く気付き、対処できるようにすることも大切です。この事故を交通事故と思わずに届け出を怠ったケースもあるようですが、道路上で車両の運行が原因で人を死傷させた場合、交通事故としての届け出が必要となりますのでご注意ください。

(6) 危険マップを作る

 送迎運転中にドライバーがヒヤッとしたこと、ハッとしたことがあれば、皆でこれを書き留めておき、どうしたらそのヒヤリハットを防げるかを議論するとよいでしょう。また、送迎の際に通るのは大体同じ道筋ですから、どこそこの交差点は右折車両が多くて危ないとか、見えにくい横断歩道がある―といったように、道路の危険箇所を地図に記した「危険マップ」を作ってみてはどうでしょう。これにより、少し遠回りになるものの、道順を変えたほうが安全…ということに気付くかもしれません。これを所内に張るなりして皆で情報を共有すれば、きっと事故防止に役に立つはずです。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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