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「残酒」と打とうとして「ざんしゅ」を漢字変換すると、いきなり「斬首」という物騒な変換が出てきて驚きました。そこで、残酒を「のこりざけ」と読めば、手ごろな演歌のテーマにもなる感じです。今回は、体内に残ったお酒、つまり残り酒の影響について考えてみます。
最近、飲酒運転については取り締まりが厳しくなり、さらに厳罰化が功を奏してか、大量飲酒後の運転による事故はあまり目立たなくなりました。しかし、飲酒後の時間が経過してもう大丈夫とハンドルを握り、違反や事故を起こすというケースはむしろ増えている感じがあります。なかでも、休日での飲酒運転がニュースになっています。さらに、翌日までお酒の影響を引きずるケースも見られ、運輸業界では出勤時にドライバーのアルコール検知をするなど神経を使っています。
「酒は百薬の長」といわれるように、古代から人類に愛用されてきました。これは、お酒を全く飲まない人に比べ、適量の酒は死亡のリスクが少ない―といわれている根拠でもあります。厚生労働省のデータによりますと、男性では一日のアルコール平均摂取量が20グラムを超えると逆に死亡のリスクが上がるとされており、ここまでが適量だということでしょう。
ところで、お酒を飲むと、アルコール分が胃や腸の壁を通って直接血管に入っていきます。当然、血液中のアルコールは脳にも到達しますから、大脳の抑制作用もマヒさせることになります。気が大きくなる、朗らかになる、行動が粗雑になるのはそのためです。つまり、運転にとって、アルコールは好ましくない相手になるわけです。
体内のアルコールは、時間とともに分解されていきますが、その分解速度は、男性では平均で1時間当たり8グラム、女性では6グラム程度とされています。飲んだ量と分解に要する時間とはほぼ比例関係にありますから、当然アルコール量が多ければ多いほど、醒めるまでに時間がかかる計算となります。
かつて、道路交通法の酒気帯び運転の基準が、呼気1リットル中のアルコール濃度0.25ミリグラム以上だった頃、ドライバーが実際にどのくらい飲んで運転しているのか実態調査をしたことがあります。全国一斉に、盛り場に近い300か所で約6万台を対象に街頭検問をやった結果、当然のことながら全くお酒を飲まずに運転していたドライバーがほとんどで、全体の97%でした。そして、残りの3%にあたる人が、量はともかく飲酒運転をしていたわけです。数で言うと約1,900人のドライバーになります。
下の図は、飲酒運転をしていた人たちの、そのとき測った飲酒量の分布を示したものですが、大きく二つのグループがあることがわかります。一つは0.25ミリグラム以上の飲酒運転グループ、もう一つは基準に達していない少量の飲酒運転グループです。
全体の約65%は、基準に達していない少量の飲酒運転グループ、つまり、飲みすぎると捕まることがわかっているから、最低の線で「ほんの少しだけ」飲んで運転する人たちです。そして、残りの35%は、警察に捕まることを意識しつつ、ギリギリの線まで飲んで運転するグループです。ごく少数ながら0.5ミリグラムを超える相当な量を飲んでいる人もいましたが、これは飲酒運転しても捕まらない―と考えている確信犯でしょう。
「少しなら大丈夫」という心理は、実は今回問題としている残酒運転にも深く関係していると思われます。例えば、休みの日に昼から自宅でビールや日本酒を飲む方は結構いらっしゃるでしょう。どうせ運転はしないのだから…と、気軽に飲んでしまうわけです。しかし、突然孫たちが訪ねてきて、帰りがけに駅まで送っていく―という事態になる可能性もあります。本人は、まぁ飲んでからずいぶん経っているし、もう大丈夫だろう…ということでハンドルを握ってしまうのでしょうが、結果的に、駅の駐車場で隣のクルマと接触事故を起こしたりするわけです。
先ほど、アルコールの分解能力は1時間当たり8グラムといいました。たくさんあるアルコール商品のなかで、例えばビールのロング缶(500ミリリットル)を飲んだ場合はどうなるかといいますと、アルコール濃度は5%ですから、これに比重の0.8をかけた数値は…
500ミリリットル×0.05(アルコール量)×0.8(比重)=20グラム
となり、この20グラムが純アルコール量になります。アルコール分解量は1時間当たり8グラムですから、完全に分解が完了するまでには2時間半かかる計算になります(ただし、分解速度は個人差が大きいので、それ以上かかる人ももちろんいます)。
当然、飲む量が多くなったり、強いお酒を飲んだりすれば、その分だけ分解に要する時間は長くなってきます。この20グラムに相当するのは、日本酒では約180ミリリットル、ウイスキー(アルコール濃度43%)であればダブル(=60ミリリットル)、ワイン(同12%)では小グラス2杯(=200ミリリットル)となります。焼酎(同25%)だとコップ半分の100ミリリットルです。
平成23年から約1年間にわたって山形県警が行った調査によると、飲酒運転違反をした人の飲酒場所は、自宅が40%、居酒屋22%、スナックなど13%となっており、自宅で飲んだあとの飲酒運転がかなり多かったそうです。つまり、時間がたったから大丈夫だ、もう酔いは醒めている…と判断して運転する人が多い―ともいえ、こうした残酒運転がなくならないことを裏付けています。我が国の死亡事故のうち飲酒運転によるものは5%程度で、これはアメリカの34%、カナダの39%などに比べると低いといえますが、残酒運転のようにアルコールがわずかに残っている場合でも、認知機能が低下したり反応が遅れたりすることをドライバーは決して忘れてはなりません。
前の晩にかなりの飲酒をした場合には、当然、アルコールが抜けるまでには時間がかかります。例えば25%の焼酎をコップ2杯飲んだとしますと、純アルコール量は80gを超え、アルコールの分解完了までには相当な時間を要しますから、下手をすると翌日、残酒運転をすることにもなりかねません。
こうした二日酔いのドライバーに対しては、本人の体調面も含め、アルコール検知を厳しく行うか、朝礼などを対面で行い、お酒のにおいがしないか、足元がふらついていないか、服装が乱れていないか―など、管理者は観察の目を緩めないことが大切です。
(2017年9月)