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最終更新日:2017年7月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その131 タイヤ以外、何に触れても事故である
交通リスクコンサルタント 小林 實

タクシー会社の社長は元銀行マン

 車のタイヤは常に地面と接触しているわけですが、昨年6月、「タイヤ以外、何に触れても事故である」という極めて厳しいタイトルの書籍がダイヤモンド社から出版されました。著者は帝都自動車交通社長の神子田(みこだ)健博氏です。この本のすべてが氏の手によるものではないかもしれませんが、かなりの部分に氏の考え方が強く反映されているように感じられます。
 帝都自動車交通は首都圏にあるタクシー会社で、大和、日本交通、帝都、国際の頭文字から俗に「大日本帝国」と言われる大手タクシー会社の一つに位置しています。これだけ言うと、「なんだ、大手のタクシー会社じゃないか。そういうところだから、こんなに厳しい安全基準がとれるのだな」となってしまいますが、そこには業界をリードする企業として並々ならぬ苦労があるはずです。それを読み解くことで安全管理のヒントが得られるはずですし、そこにこの著書の意義があると思います。
  さて、著者である神子田氏ですが、実は安全とはあまり関係のない銀行マンという異色の経歴を持たれ、帝都自動車交通の母体である電鉄会社の専務を経て、2014年 に帝都自動車交通の社長に就任しておられます。そして、このわずか2年の間に、今までの事故防止対策をレベルアップし、安全性を飛躍的に上げたのです。著書は280ページというかなり分厚い本ですが、この前半部分に、同社の「事故減件運動」をはじめとするきめ細かい対策とその成果が示されています。

客観的な新しい対策

 さて、安全対策に関してはかなりのレベルにある企業の現状に、新たな手を加えることにはかなりの抵抗があるでしょう。今の状況でうまくいっているのだから…という反発もあるはずです。その世界にどっぷりとつかってしまっていると、どうしても発想が固くなるものですが、その点で神子田氏には、銀行マンという異業種におられた―という強みがありました。やはり、外からの目線、違った視点からのもののとらえ方がないとできないこともあるわけです。
 つまり、旧来の思考法にとらわれず、むしろ客観的に新しい対策を講じる―というスタンスがあったのではないでしょうか。さらにいえば、氏が鉄道事業という極めて安全に厳しい業態で安全のノウハウを蓄積されていたことも、大いにプラス要因となったといえるでしょう。例えば、指差呼称、首振り確認などは鉄道における安全の基本中の基本であり、これをタクシードライバーにも徹底させたことはその好例です。

「何に触れても」の導入効果

 現在、都内には法人タクシーが約3万台、個人タクシーが1万5,000台走っています。これだけの台数のタクシーですから、当然交通事故も発生しています。タクシーは、長距離を走るトラックと違い、走行パターンが地域に限定している、連続走行時間が短い―などの理由から、死亡・重傷といった大きな事故は少なく、ほとんどが軽傷事故であることが特徴です。しかも、事故の相手は歩行者・自転車という交通弱者が多く、発生する地点も交差点とその周辺に集中しています。
 このなかにあって、平成10年(1998年)に発生した帝都タクシーの年間の事故件数は844件でした。これを走行距離10万キロ当たりで見ますと0.98件となり、一般車に比べれば極めて低い数字です。しかし、帝都タクシーでは、ここに厳しい基準を設定しました。それは、タクシー側の有責割合が1%でもあれば、有責事故として計上する―というもので、これを「事故減件運動」として約10年間継続しています。
 その結果、平成22年(2010年)には年間の事故発生件数が107件、10万キロ当たりでは0.21件と、格段に改善されました。こうした改善のデータは各ドライバーにも知らされているでしょうから、彼らの「やる気」が高まったことは当然でしょう。
  神子田氏が社長に就任する少し前、この「事故減件運動」を進化させ、平成24年(2012年)から「何に触れても」事故としてカウントする―という、一気にハードルを上げる策に出ました。事故を極端に嫌がるタクシードライバーにとって、このレベルアップには少なからず抵抗があったのではないでしょうか。
 しかし、その一方で、プロ中のプロである彼らには、「やればできるのではないか」という自負もあったに違いありません。カウントされる事故の物差しが変わったことで、当然ながら平成24年度には発生件数428件、10万キロ当たり0.8件まで上昇したわけですが、400件余りの事故のうち300件ほどは、ほんのこすり傷程度の事故だったそうです。こうした事故まで丁寧に報告が上がっている事実からは、現場のドライバーおよび管理者がすべてをオープンにする姿勢、つまり、事故を隠す体質から完全に脱皮していることが強く感じられます。

対策委員会で真の事故原因を追究

 基本動作を確実に励行することは安全管理の基本であり、当然、帝都タクシーにおいてもこのことがキーワードになっています。しかし、これが何らかの理由で破られてしまうこともあり得るわけです。その場合、これをそのままにせず、何とかその存在を突き止めて社内に告知し、さらに共有化して、その行動の再発防止を具現化する―というプロセスが肝心です。
 帝都タクシーでは、事故防止対策委員会で行われる事故当事者からのヒアリングというか、事故報告のやりとりから、こうしたことが明らかにされるそうです。よく言われる「なぜなぜ問答」の方式により、うまく誘導しながら、真の原因というものを追究しているわけです。
 例えば、ある事故の原因が「帰庫を急いだから」という理由だとしましょう。一般には、それ以降の追及はしないで、「では、慌てずに帰りましょう」で終わってしまうのがほとんどです。しかし、帝都タクシーでは、なぜ帰庫を急いだのか、そのときのドライバーの心理にまで踏み込み、新たなヒントを得ているそうです。
 また、ドライバーが道に不案内であったような場合、気持ちとしては「このお客さん、乗せたくないなぁ…」という心理が働き、これが引き金となって思わぬ接触事故を起こすケースがありますが、ドライバーの心理を深掘りにすることで、事故との絡みがわかってくるといいます。こうした事故分析の場では、ドライビングレコーダーのデータなどで客観的な状況を提示しつつ、皆でその事故の真の原因を追究しているそうです。
  いよいよ、2020年の東京オリンピックに向けて世の中が動き始めています。「おもてなし」のセンスはもちろん大切ですが、著書のなかで神子田社長が何度も繰り返して言っておられる「安全・安心こそがブランド力」こそ、まずありきであって、そこに初めて「おもてなし」の心が生まれてくるのではないでしょうか。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
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なぜゴリラは見落とされるのか
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