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最終更新日:2017年6月19日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その130 現場の声を聞く
交通リスクコンサルタント 小林 實

パイプ役としての管理者

 企業のトップは、自分の経営方針や安全に対する考え方を社員全体に明確に示すことが大切です。トップが先頭に立って事故防止の旗を振ることは、企業全体の安全に対する大きな推進力になることは明らかです。ただし、こうしたトップダウンだけの一方通行になってしまうと、企業全体がしらけたムードになることも考えておかなければなりません。
 では、これを防ぐにはどうするか? トップは、常に現場の雰囲気を探るため、現場が何を考えているのか、何か問題はないのか―と、まず安全管理者から状況を聞き出し、また、自らが現場に足を向ける必要があります。
 一方、現場はどうかといいますと、安全への責任を任せられている安全管理者の方たちは、何とか事故が起きないように…と毎日頭を痛めておられます。現場の管理者の悩みは至るところにあるでしょうが、現場の意見を吸い上げてトップに届けること、つまり仲介役としての役割も重要です。いわゆるボトムアップといいますか、そうした流れを作ることで企業内の風通しがよくなり、さらに全社的な安全活動のレベルアップにつなげることが可能となります。

自主性を高める工夫

 事故を起こしたドライバーは、他責にする傾向が強く、自分のミスを棚上げにする自己責任の欠如が目立つようです。しかし、あの事故は運が悪かったのだ、相手が急に出てきたのが悪い―ということで終わってしまいますと、安全運転をしようという動機が高まりにくいものです。そして、企業のトップや管理者の皆さんが「駄目だ、駄目だ、事故を起こすな」と押さえ込もうとすればするほど、彼らは反発してしまい、安全教育も壁に突き当たることになります。
 こうした責任帰属のあり方を変えることは、決して簡単なことではありません。そこで最近では、「ミラーリング」という手法が注目されています。これは、鏡の向こうにいる自分を客観的に観察することにより、自分の行動を見直そう―というものです。この手法を取り入れることにより、「やっぱり、これはまずいのでないか…」と自ら気づく態度というものが醸成されるでしょう。
 また、現場には、ベテランを含め、人間関係を構築することが苦手な人たちが結構おられます。こういう人たちへの指導や教育は、結構難しいものがありましょう。
 ある企業では、支店対抗の安全コンテストを計画するような際に社員主体で進めさせたところ、お互いに競争心が湧き上がり、それが仲間意識を高め、新たな人間関係が構築されたそうです。また、仲間による連帯意識が高まった結果、事故を起こしてしまった一人の同僚が、会社を辞めて責任をとろうとしたときに、仲間から思いもかけぬ励ましの言葉をもらったことで辞意を翻し、安全運転に徹するようになった―という事例もあるようです。
 これこそ「やらせよう」ではなく、自分の殻を破って「やろう」という自主性を育てる工夫といえるでしょう。こうした自主性を高めることが企業にとって大きな力になることを、トップは認識すべきです。

新人教育の課題

 新人社員が、入社後すぐに社有車を運転する機会も少なくないでしょう。彼らは「免許証を持っていれば、社有車の運転などマイカーと同じだ」と思ってハンドルを握るわけですし、企業側も「免許を持っていれば大丈夫だろう」と、社有車の運転に対してあまり神経質にはならないかもしれません。
 しかし、新人は「何かがあれば会社のイメージダウンにつながる」といった社会的責任があることを十分に認識していません。それに、慣れない仕事によるイライラ運転や残業後の疲労などが重大事故の原因になることもあります。
 そのうえ、若者には意外と自己主張が強い人が多い―ともいわれます。上司の言ったことにとかく反発する者もいますし、表面的には「ハイ、ハイ」といかにも納得したようでも、内心では「そうは言うけど、自分のほうが正しいのだ」と、自分の正当性を譲らない者が少なくありません。
 したがって、若者の行動を変えるためには、なぜそうする必要があるのか、そうすることが自分にとってもメリットがあるのだ―ということを十分に理解させる必要がありましょう。

自分や家族のための安全

 安全を確保することは、企業サイドと従業員サイドのお互いの利害が一致する最大のテーマです。安全というのは、まさに従業員と会社との信頼関係の原点であり、自分のため、家族のため、みんなのために無事故に徹する―というものであって、決して会社のためではないのです。会社側が一方的に「働け、働け、事故を起こすな」とけしかけますと、お互いの利害は対立してしまいます。会社内部からの告発が時折問題となりますが、これこそまさに、利害の対立がもたらした結果だといえるでしょう。
 現場からの意見を吸い上げることは、予想以上にコストと時間がかかります。そのため、どうしてもトップダウンで物事を進めるケースが多くなりますが、企業がこれから将来に向けて「持続性」を高く維持していくためには、ボトムアップというか、組織全員が企業に持続的に参画する―というスタンスが必要です。その一つの手段として、現場からの意見の吸い上げには効果があり、安全管理はまさにそれを具現化する手法といえましょう。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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バックナンバー

第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
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第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
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目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
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第08回
飲酒運転とJカーブ
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ボルボが似合った男
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