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企業のトップは、自分の経営方針や安全に対する考え方を社員全体に明確に示すことが大切です。トップが先頭に立って事故防止の旗を振ることは、企業全体の安全に対する大きな推進力になることは明らかです。ただし、こうしたトップダウンだけの一方通行になってしまうと、企業全体がしらけたムードになることも考えておかなければなりません。
では、これを防ぐにはどうするか? トップは、常に現場の雰囲気を探るため、現場が何を考えているのか、何か問題はないのか―と、まず安全管理者から状況を聞き出し、また、自らが現場に足を向ける必要があります。
一方、現場はどうかといいますと、安全への責任を任せられている安全管理者の方たちは、何とか事故が起きないように…と毎日頭を痛めておられます。現場の管理者の悩みは至るところにあるでしょうが、現場の意見を吸い上げてトップに届けること、つまり仲介役としての役割も重要です。いわゆるボトムアップといいますか、そうした流れを作ることで企業内の風通しがよくなり、さらに全社的な安全活動のレベルアップにつなげることが可能となります。
事故を起こしたドライバーは、他責にする傾向が強く、自分のミスを棚上げにする自己責任の欠如が目立つようです。しかし、あの事故は運が悪かったのだ、相手が急に出てきたのが悪い―ということで終わってしまいますと、安全運転をしようという動機が高まりにくいものです。そして、企業のトップや管理者の皆さんが「駄目だ、駄目だ、事故を起こすな」と押さえ込もうとすればするほど、彼らは反発してしまい、安全教育も壁に突き当たることになります。
こうした責任帰属のあり方を変えることは、決して簡単なことではありません。そこで最近では、「ミラーリング」という手法が注目されています。これは、鏡の向こうにいる自分を客観的に観察することにより、自分の行動を見直そう―というものです。この手法を取り入れることにより、「やっぱり、これはまずいのでないか…」と自ら気づく態度というものが醸成されるでしょう。
また、現場には、ベテランを含め、人間関係を構築することが苦手な人たちが結構おられます。こういう人たちへの指導や教育は、結構難しいものがありましょう。
ある企業では、支店対抗の安全コンテストを計画するような際に社員主体で進めさせたところ、お互いに競争心が湧き上がり、それが仲間意識を高め、新たな人間関係が構築されたそうです。また、仲間による連帯意識が高まった結果、事故を起こしてしまった一人の同僚が、会社を辞めて責任をとろうとしたときに、仲間から思いもかけぬ励ましの言葉をもらったことで辞意を翻し、安全運転に徹するようになった―という事例もあるようです。
これこそ「やらせよう」ではなく、自分の殻を破って「やろう」という自主性を育てる工夫といえるでしょう。こうした自主性を高めることが企業にとって大きな力になることを、トップは認識すべきです。
新人社員が、入社後すぐに社有車を運転する機会も少なくないでしょう。彼らは「免許証を持っていれば、社有車の運転などマイカーと同じだ」と思ってハンドルを握るわけですし、企業側も「免許を持っていれば大丈夫だろう」と、社有車の運転に対してあまり神経質にはならないかもしれません。
しかし、新人は「何かがあれば会社のイメージダウンにつながる」といった社会的責任があることを十分に認識していません。それに、慣れない仕事によるイライラ運転や残業後の疲労などが重大事故の原因になることもあります。
そのうえ、若者には意外と自己主張が強い人が多い―ともいわれます。上司の言ったことにとかく反発する者もいますし、表面的には「ハイ、ハイ」といかにも納得したようでも、内心では「そうは言うけど、自分のほうが正しいのだ」と、自分の正当性を譲らない者が少なくありません。
したがって、若者の行動を変えるためには、なぜそうする必要があるのか、そうすることが自分にとってもメリットがあるのだ―ということを十分に理解させる必要がありましょう。
安全を確保することは、企業サイドと従業員サイドのお互いの利害が一致する最大のテーマです。安全というのは、まさに従業員と会社との信頼関係の原点であり、自分のため、家族のため、みんなのために無事故に徹する―というものであって、決して会社のためではないのです。会社側が一方的に「働け、働け、事故を起こすな」とけしかけますと、お互いの利害は対立してしまいます。会社内部からの告発が時折問題となりますが、これこそまさに、利害の対立がもたらした結果だといえるでしょう。
現場からの意見を吸い上げることは、予想以上にコストと時間がかかります。そのため、どうしてもトップダウンで物事を進めるケースが多くなりますが、企業がこれから将来に向けて「持続性」を高く維持していくためには、ボトムアップというか、組織全員が企業に持続的に参画する―というスタンスが必要です。その一つの手段として、現場からの意見の吸い上げには効果があり、安全管理はまさにそれを具現化する手法といえましょう。
(2017年2月)