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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その129 運転の自動化とドライバー
交通リスクコンサルタント 小林 實

車は進化し続けている

 最近の新車に乗りますと、結構戸惑うことがあります。例えば、「L-D-R-P」のシフトレバーが見当たらず、ダイヤルをぐるりと回す方式になっていたり、サイドブレーキのレバーがなく、目立たないところに小さなノブがついていて、これを指で引き上げるごく簡単なものになっていたりします。いずれもブレーキペダルを足で踏んでいるときにしか作動せず安全性は確保されていますが、何でも運転を簡単なものにするという発想には若干抵抗もあります。
 こうした動きに加えて、このところドライバーを支援する装置の開発も急速に進んでおり、市場に出る新車の多くに、こうした装置が組み込まれてきています。これらの装置は主にオプション商品となっていますが、ユーザーの多くが購入するほどの人気になっているそうです。
 現在の運転支援装置は、自動化のレベルでいいますと、加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う「レベル2」に相当する段階です。例えば、前車との距離や速度を計測して一定の距離・速度で追従する「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」や、車線上での自車の位置をカメラやレーダーなどにより自動的に検出して車線を維持する装置など、かなりの進化を遂げています。高速道路で渋滞したような場合には、ドライバーがアクセルとブレーキを踏みかえるといった面倒な作業をシステムに任せることができますから、ドライバーの疲労軽減には極めて有効でしょう。
 また、トラックやバスといった公共性の高い車両には「衝突被害軽減ブレーキシステム」の装着が義務化されるなど、安全運転をバックアップするシステムの普及は着々と進んでいます。
 こうした自動化システムが事故減少に寄与しているとして、2018年以降、自動ブレーキを装着した乗用車(軽自動車も含む)の自動車保険料率を約9%下げる方針のようですし、近年の事故減少を受けて、今年4月には自賠責保険料も7%ほど下がるそうです。
 わが国の自動車がすべて自動運転車に置き換わるのはまだまだ先のことでしょうが、それまでは自動化のレベルの異なる車が混在して走るわけであり、自動化による事故の減少が期待できると同時に、システムの混在を起因とするトラブルの発生にも注目しなければならないでしょう。

権限移譲の問題

 今のところ、部分的な自動運転が可能な場所は高速道路など限定的です。しかも、道交法上、運転の責任はドライバーにあるため、自動運転の状態でもドライバーはかなり緊張してハンドルを握っていると思われます。また、自動から手動に切り替わる状況が比較的頻繁にありますから、その切り替えをドライバーが確認する「監視作業」という新しい課題にも大きな問題はないでしょう。とはいえ、運転する主体がシステム側から人間側に変わる「運転の権限移譲」の問題は、将来クリアしなければならない問題の一つです。
 現段階のように、システム側から人間側への権限移譲が十分に予想されている場合では、人間側も比較的スムーズに対応できるでしょう。しかし、かなり自動化が進化して、人間側がシステムを信頼しきってしまい、権限移譲に対する備えがないような場合には問題が発生します。つまり、システム側がどうしても対応できなくなる危機的状態に陥り、人間側に「では、運転を代わってちょうだい!」と言っても、人間側が「そんなの聞いていないよ!」となってしまうようなケースです。このような緊急事態に陥っても人間側が気づかないで居眠りをしていることもあり得るわけで、「余裕時間」というものが必要になってきます。
 そのため、権限移譲の際には、事前にある程度の余裕時間を持ってドライバー側に告知することが将来義務づけられることも予想されます。例えば、権限を移譲するまでの時間(最低でも5秒程度は必要でしょうか?)を表示して警告する―といった機能です。さらには、ドライバーが完全に運転を掌握するまでの間に「路肩に停車する」などの安全措置をシステム側が取ることも必要かと思われます。

安全が増せばリスクを取りがちに…

 われわれ現代人は、比較的危険の少ない社会のなかで生活しているため、危険というものを強く感じすぎて絶えず警戒心を高めていると、日常生活に支障をきたすことになります。そこで、われわれは危険を感知する能力を下げる―という一種の適応機能を働かせているわけです。言い換えれば、自分の過去の経験から「これくらいなら大丈夫だろう…」という一種の思い込みを持つわけです。この人間の心理を「正常性バイアス」といいます。
 この正常性バイアスにより、事態が危険な方向にゆっくりと変化していても、人間サイドがそれに気づかないこともあります。こうした危険性は、クルマの自動化が進めば進むほど高くなるのではないでしょうか。
 また、カナダのワイルドという学者のいう「リスク・ホメオスタシス」の考え方も、運転の自動化に向けた人間行動のヒントになります。リスク・ホメオスタシスというのは、人間は安全になればなるほど、より危険の方向に進む―、つまりその分だけ余計にリスク行動をとりがちになり、常に一種の均衡状態(ホメオスタシス)にある―という説です。自動運転中にもリスク・ホメオスタシスが働くと考えますと、ぎりぎりの状態でもシステム側に運転を任せ、本人は運転以外の仕事に専念するといった事態も想定できます。
 人の性格が最も顕著にあらわれるのは、その人にとって最も困難な場面に直面したときだといわれています。普段の運転場面では意外に性格的な特徴が出なくとも、事故直前のあわやという場面やパニックに陥った場面でどう対処するかは、その人の性格の特徴に大きく左右されます。
 衝動性が高い攻撃的性格の人は、緊急の場面で自爆的な行動になりやすいといえます。いわば「何とかなる、当たって砕けろ」というパターンです。こうした性格的特徴と自動化との関係はまだ十分検討されていませんが、現在でさえ一般に危険に対する感覚が低下してきていることを考えますと、従来にも増して、広範囲なアナログ的な情報の収集と思考が人間サイドに要求されてくるのではないでしょうか。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
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人類は変化を続けている
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10年後の交通を読む
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