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最終更新日:2017年4月24日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その128 人類は変化を続けている
交通リスクコンサルタント 小林 實

高所平気症の子供が増加

 昔から「高所恐怖症」といって、高いところがどうも苦手…という人は結構います。筆者もその一人ですが、年をとるとともに、その傾向がひどくなっているような気がします。地面に足がついていることが邪魔をするのでしょうか、高いところから下を見ることが苦手で、当然ですが「つり橋」のように揺れが加わるとさらに事態はまずくなります。お相撲さんにも高所恐怖症の人は結構いるようですので、体格とはあまり関係がなさそうです。
最近では高層ビルが増え、しかもガラス張りとなりますと、あまり居心地はよくありません。ただ、窓枠といった手掛かりがあるので、安心感は若干増します。もちろん個人差はあるでしょうが、筆者の場合、面白いことに飛行機やヘリコプターに乗るときには全く高所恐怖症には陥りません。自身が空中にいれば大丈夫という、何とも不思議な現象です。
ところが、最近の幼児のなかには「高所平気症」とでもいいましょうか、高いところが全然平気でまったく意に介さない子供が増えているというのです。これは、幼児が高層住宅から転落する事故が増えてきていることから注目されている事実です。
先日も、テレビでこうした転落事故が報道されていましたが、親が気づかないうちにベランダに出て、柵から身を乗り出して落ちてしまうようです。親の監視不行き届きというミスもありましょうが、そもそも子供が高さに対して恐怖心を抱かないことが問題です。
  統計によりますと、東京消防庁管内で、2005年4月から2010年7月までの約5年間に、マンション住宅から子供(0-12歳)が転落した事故が277件も発生しています。これは年平均50件という高い発生率です。
どうやら、生まれたときからマンションで生活している幼児のなかには、地上より高いところで常時生活しているため、高さに対する感覚が薄れている子供が少なくないようです。目の前に見える高層ビルも自分と同じ高さだという感覚で、地面を見下ろす恐怖心もないまま、ベランダの柵を乗り越えて転落―というケースが多いものと思われます。

幼児期に「奥行き」を知覚

 有名な心理学の古典的実験に「Visual cliff(視覚的断崖)」というものがあります。どのような実験かといいますと、ようやくハイハイができるようになった幼児をテーブルの上でハイハイさせます。テーブルより外側は透明のガラス板とし、下が見えるようにしておきます。ただし、テーブル面も床全体も赤と白のチェック柄にしているため、ガラス板の部分もテーブル面が続いているように見えます。その状況で、母親が幼児に対して「いらっしゃい」と手招きをしても、幼児はテーブル部分より先には進まず、手でガラス板を叩きはするものの、ガラス板の上に進むことは躊躇するのです。
つまり、幼児はこの時期に「奥行き」の知覚を体得していると考えられます。この感覚は4歳児でほぼ大人並みになると言われていますから、高所平気症をなくすためには、幼児期よりも前に外へ連れ出して訓練することが重要でしょう。もちろん、転落事故を防止するためには、幼児を一人にして放置しないことや、母親が監視の目を緩めないことが大切ですが、こうした高所平気症の子供が増えていることは、将来、大人になってからの行動に影響するかもしれません。

怒りっぽい子供

 また、最近、電車のなかなどで幼児に電子玩具を与えている母親をしばしば見かけます。ベビーカーに乗った赤ん坊は玩具の画面を凝視し、動くものに大変興味を抱いているようです。よく観察していますと、自分の意にならないその動きに対し、欲求不満からでしょうか、玩具を激しく叩いたりする荒っぽい行動に出ることがあります。
このような運動暴発を招く電子玩具を幼児期に与えることは問題ではないでしょうか? 現に近年、怒りっぽい子供が増えているように思いますし、こうした衝動性の高さは、大人になってからの性格特性としても由々しい問題です。もちろん、この衝動性が車の運転にも悪影響をおよぼすことは言うまでもありません。
また、画面の激しい動きを追うことに熱中する子供たちの眼は異常なほど激しく動いていますが、発達的に見て、電子玩具よりも幼児に適した本を与えるほうがいいのではないでしょうか? スマホや携帯ゲームがこれだけ普及し、幼児期からそれを使っている現代の若い世代に、近視眼が増えることは間違いないでしょうが…。

帝王切開出産の増加

 最近、人間を取り巻く生活環境の変化が、人間の遺伝子にまで影響をもたらしている―という報告もあります。
これは母親のことなのですが、最近のオーストリアの調査によれば、分娩をする母親の骨盤の幅が十分でないために、帝王切開が必要となるケースが増えているそうです。骨盤が非常に狭い女性の場合、100年も前ですと無事に出産ができなかったわけですが、近年は、産道が狭くても帝王切開で出産できるため、こうした母親の狭い骨盤という遺伝子情報が、その娘たちにも伝えられている可能性がある―というのです。長い目で見て、狭い骨盤という遺伝子が受け継がれていくことになりますと、医学界では大きな問題の一つとなるでしょう。
ある研究によれば、すでに人間の大脳の一部、すなわち記憶をつかさどる部位がすでに縮小し始めているともいわれています。現代は、記憶する機能が十分に働かなくとも、何でもインターネットから情報がとれる時代です。自ら辞書を引くという情報探索機能が失われ、情報を深掘りするという人間の好奇心を失いかねません。
こうした人類の変化が、安全の分野にも悪影響をおよぼしている可能性があることを、わたしたちはもっと危惧すべきではないでしょうか。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
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眼の動きを捉える
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なぜゴリラは見落とされるのか
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